金市場ニュース

ニュースレター(2022年1月7日)タカ派的FOMC議事録で金は1800ドルを割る

新年あけましておめでとうございます。本年も弊社ニュースレターの購読ありがとうございます。2022年最初のニュースレターをお届けします。

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1791ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.6%安と、LBMA価格(PM)ベースでは3週ぶりの低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり22.22ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から3.75%安とLBMA価格ベースでやはり3週ぶりの低さとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では959ドルと0.3%安となっています。

今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要

今週貴金属市場は、米中央銀行FRBの今後の金融政策への観測で金融市場が揺れる中で、年末の上昇分をほぼ失うこととなりました。

そこで、今週発表された前月FOMCの議事録でどのようなことがサプライズであったのかについて解説します。

FOMC後の声明とパウエルFRB議長の記者会見で明らかとなっていたこと。


  • 11月の前回FOMCで決めたテーパリングの終了時期を当初想定より3カ月早めて今年3月とした。

  • FOMC参加者18人がそれぞれ中期の経済・政策見通し(SEP)を提示し、22年にゼロ金利を解除し、計3回利上げするとの予想が中央値となり、前回9月の予想(0.5回)から引き締めを急ぐ姿勢に傾いた。

そして、今週発表されたFOMC議事録で明らかとなったことは下記のようになります。


  • 利上げ開始に必要な最大雇用は比較的早く達成可能(当初予想は6月開始、しかし量的緩和縮小終了の3月の可能性も考えられることとなった。)

  • 従来想定より早期に早いベースでの利上げの可能性(当初の年3回予想から4回の観測も広がる。)

  • 利上げ開始後しばらくして保有資産の縮小も(つまりは満期となった国債を再購入しない。)

  • 資産縮小は前回の正常時より速く(前回の引き締めサイクルは2年以上であったが、6ヶ月ほどの短期間の可能性も。)

そのために、この内容はかなりタカ派であり、下記の「日々の金相場の動きと背景について」の中で説明していますが、今週のFRBメンバーの発言がこの観測を更に固めることともなっています。

利上げ観測と量的緩和縮小及び資産圧縮観測は、国債の需給バランスなどからも国債価格を下げて利回りを上昇させ、金利を産まない貴金属にとっては向かい風となります。

そこで、今週のチャートは、再度近年の金と2年国債と10年国債利回りの推移を用意しました。直近での金利上昇観測で2年物国債利回りが10年国債利回りよりも速いペースで昨年暮れから上昇していることがご覧いただけます。

金と米2年、10年物国債利回りの推移 出典元 セントルイス連銀

日々の金相場の動きと背景について

年明け月曜日3日は英国が祝日の中で、金相場は長期金利が11月末以来の高さへ12ベーシスポイント上昇したことで、トロイオンスあたり1800ドルまで押し下げられて、1804ドルで終えていました。この長期金利の動きはFRBによる利上げ観測が背景と分析されていました。

翌火曜日も長期金利が引き続き4ベーシスポイント高と1.7%を割る高い水準で推移していたことから、ロンドン時間昼過ぎに再び1800ドルを割る水準へと一時押し下げられた後に発表された米国指標が予想を下回ったことからも、多少長期金利が下げて1813ドルまで戻して終えていました。

同日発表の経済指標とは、ISM製造業景況指数で58.7と前回61.1及び予想60.0を下回っていました。

また、米テクノロジー株が同日記録的な高い水準から下げていたことも、金のサポートとなっていました。

しかし、この間日本円は対ドル2017年以来の低さとなっていたために、同日gあたり6778円と前年終値からも0.2%ほど上昇していました。ちなみに、2021年にドル建てで前年終値比4.47%下げていた金は、円建てでは10.73%上昇して終えていました。

水曜日金相場は、ロンドン午後に発表された米雇用統計の先行指標のADP全国雇用者数が予想を大きく上回ったことを受けて、トロイオンスあたり1829ドルまで一時上昇後、予想以上のタカ派的なFOMC議事録の発表後下げて1809ドルで終えていました。

同日発表のADP全国雇用者数は80.7万人と、予想の40万人、前回修正値の50.5万人を大きく上回るものとなりました。そこで、今週大きく上昇していた長期金利が多少上げる中で、雇用者数増加が給与インフレ観測を進めて、金を押し上げているとも分析されていました。

FOMC議事録では、インフレ懸念と雇用状況改善からも、利上げペースを予想の年3回から年4回のペースで、早ければ3月にも行う可能性があること、量的緩和縮小も遺産購入を今年3月に終えた後に前回2年かけた期間をより短くということも話されたことが明らかとなり、市場にとってはサプライズととなりました。

木曜日金相場は、前夜のFOMC議事録後の下げ基調を受け継ぎ、トロイオンスあたり1792ドルへと、前日の高値1829ドルから2%を超えて下げていますた。

同日米長期金利は、昨年3月以来の高さの年率1.7%へと上昇していたことからも、金の頭を押さえることとなりました。

本日金曜日、市場注目の米雇用統計は、非農業部門雇用者数は19.9万人と、予想の40万人、前回修正値の24.9万人を下回り、失業率は3.9%と前回4.2%と予想4.1%を下回って改善していました。

なお、労働参加率は61.9%と、予想61.7%と前回61.8%を多少ながら上回り、 平均時給は、前月比0.6%と、前年比4.7%と共に予想の0.4%と4.2%を上回っていました。

この発表後金相場は、トロイオンスあたり1794~1983ドルの間で神経質に動き、ロンドン夕方に1790ドル前後を推移しています。

この内容が、雇用者数減に対して失業率改善、しかし給与インフレ傾向は見えることからも、FRBの金融政策を変えるものであるかを市場は判断しかねているようですが、長期金利は本日も5ペーシスポイント上昇し、2020年1月以来の高さとなっていることは、金の頭を押さえるようです。

なお、FRBの早期の利上げと量的緩和縮小に関して、前夜にタカ派として知られているセントルイス地区連銀のブラード総裁が講演で、利上げと資産圧縮の同時進行の可能性に触れ、ハト派として知られるサンフランシスコ地区連銀のディリー総裁は、資産圧縮は利上げ後と発言しながらも、インフレが貧困層を中心に負担となることから、年内に2回から3回の利上げをすべきと述べたことも長期金利を引き上げている模様です。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、年末29日までの週で全ての貴金属で強気ポジションが増加していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、17%増の308トンで、3週ぶりの高い水準で、2021年平均の280トンを超えていたこと。建玉においては、65万枚と6週連続で減少し、年平均の66.8万枚も下回る。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、59%増で2,753トンと2週ぶりの高さ。しかし年平均の4384トンを下回って2021年を終えていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、4週連続のネットショートであったものの、61%減の5.9トンと2週ぶりの低さ。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションも16週連続でネットショートであったものの、18.7%減の7.8トンとやはり2週ぶりの低さ。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日まで週間で3.2トン(0.3%)増で979トンで、2週連続の週間の増加傾向。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで1.1トン(0.22%)増で492トンと6週ぶりの週間の増加傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに548トン(3.32%)減で16,504トンと、2週連続の週間の下げの傾向であること。

  • 金銀比価は、今週タカ派的FOMC議事録発表前に78台まで下げたものの、その後80後半へと上昇していること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、本日820と6営業日ぶりの低さとなっていること。2021年平均が708.82で5年平均は564.76。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対して今週プレミアムで、4.24ドルと前週の7.62から下げていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。

  • コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、今週全てで前週比増加し、週平均は金と銀で11月末以来の高さ。プラチナは前週休暇の水準のみを上回る低いレベル。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は水曜日のFOMC議事録でより速いペースの利上げと量的緩和縮小の可能性が示唆されたことから、貴金属価格は下げていますが、来週火曜日には米上院の承認に向けた公聴会へパウエル議長が臨むことからここでの議長の見解、そして翌水曜日には、これらの金融政策変更の要因の一つである数十年ぶりの高さとなっている米国の消費者物価指数の最新データが発表され、市場は注目することとなります。

その他詳細に関しては、主要経済指標(2022年1月10日~14日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

英国の新年は引き続き新型コロナウィルス関連のニュースがトップで伝えられています。そこで、日本とはかなり異なる状況に対して、やはりかなり他の諸国とは異なる対応をしている英国についてご紹介しましょう。

英国の一日の感染者数は、オミクロン型の広がりで今週4日には休暇中の数値も含まれているようですが、20万人を超えてパンデミック以来最高値を更新しています。しかし、死亡者数は日々200人から300人を超える水準で、昨年1月の2000人近い数値には至っていません。

そこで、英国政府はこのような状況下でも、マスク着用の義務付けと在宅勤務推奨以外の厳しい規制は導入していません。それどころか、英国内の新型コロナウィルス感染が十分に広がっていることからも、本日からイングランドへ戻ってくるワクチン接種を終えている人々と18歳以下の人々は入国前のテストは必要なく、入国後の2日目に受けるPCRテスト(9日からは、より簡易のラテラルフローテスト)の結果を待つ間の自己隔離も必要がないと規制が緩和されています。

しかし、医療機関は全体の4%(3.6万人)のスタッフが新型コロナウィルスに感染して自己隔離をすることで人員不足となっており、今週英国全体で137ある国民保健サービス(NHS)の病院の24の病院が非常事態宣言を出して、通常の医療行為が困難になっているとのこと。

本日は、そのために200人の英国軍の兵士が人員不足の病院のサポートに入ることも伝えられています。

ボリス・ジョンソン首相は、「あくまでも国を封鎖せずにオミクロンの波を乗り切る」事が可能と述べていますが、看護師団体や緊急医療の責任者はこの政策に危機感を募らせているとインタビューで答えていました。

ワクチン接種を進めることで国民保健サービスを守れると信じ、規制強化することなく経済を守ろうとしている英国政府の選択がどのような結果を出すことになるのか。この数ヶ月には明らかになるように思います。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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