ニュースレター(2021年9月24日)中国恒大集団債務問題、FOMCを経て、リスクオン基調で金は上げ幅を戻す
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1743ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.7%安と3週連続の下げで、引き続き8月初めのフラッシュ・クラッシュ後の水準と6週ぶりの低さとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり22.66ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から1.5%安とやはり3週連続の下げで今週月曜日に達したフラッシュ・クラッシュ以来の低さとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では974ドルと2.2%高で2週ぶりの週間の上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週市場は水曜日に発表されるFOMCの結果とパウエルFRB議長の記者会見での量的緩和縮小及び今後の利上げペースについて示唆されるかに注目をしていました。
しかし、その間中国の恒大集団の債務問題への懸念が広がり、週前半にリスクオフの基調から安全資産と見られている金が上昇する中で、工業用途需要が6割以上で中国経済に影響を受ける銀とプラチナがそれぞれ11ヶ月、10ヶ月ぶりの低さへ下げるなど異なるる動きをしていました。
しかし、恒大集団の債務問題は中国中央銀行が市場に流動性を供給したことが伝えられて警戒感が和らぐ中で、銀とプラチナは下げ幅を削って上昇していました。
その後市場注目のFOMCとパウエル議長の記者会見で、量的緩和縮小が11月にも始まる可能性、メンバー内の利上げ予想とパウエル氏の発言で利上げが2022年末とこれまでの予想より前倒しの可能性が明らかとなったものの、予想を上回るタカ派的内容ではなかったことで、株価が全般続伸してリスクオフ基調で金は押し下げられ、銀はより金に近い動きをするために上げ幅を削り、プラチナも多少下げることとなりました。
本日は、中国の仮想通貨の決済や取引情報提供等関連サービスの全面的禁止の発表で、ドルと主要国債が買われて金利上昇もあり、貴金属は一旦下げたもののその下げ幅を取り戻して推移しています。
今週のチャートは、異なる動きをしていた銀とプラチナ価格のチャートを下記に添付します。
銀価格のチャート
プラチナ価格のチャート
金の動きは下記の日々の金相場の動きと背景についての後をご覧ください。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、長期金利が下げてドルも上げ幅を削る中で、トロイオンスあたり1765ドルと上昇して終えていました。
長期金利の上昇は、同日中国の不動産大手の中国恒大集団の経営不安が中国の金融や不動産市場の混乱へと波及する懸念を背景に世界株価が下げていたことから、安全資産として米国債が購入されていることが背景となっていました。
火曜日金相場は、前日揺らいだ世界株式市場が落ち着きを取り戻す中で、トロイオンスあたり1774ドルと前日終値から0.6%上昇して終えていました。
これは、今週懸念が高まっていた中国恒大集団の経営不安に関して、サウスチャイナ・モーニング・ポストや他の主要紙で中国政府は直接支援はしなくとも何らかの措置を行うと伝えていたことで懸念が和らいだことからでした。
水曜日金相場は、市場注目のFOMCの結果とパウエルFRB議長の記者会見後神経質に動くこととなりました。
まず、FOMCの結果では、市場予想通り政策金利と量的緩和は前回一致で据え置いたものの、「資産購入ペース減速は近く正当化される」と緩和縮小の11月の可能性を示唆し、利上げに関してはメンバーが示す利上げ見通しは22年末が18人中9人と前回から2名増え、23年末も前回13人から17人へと増加し、前回の2023年から2022年へと前倒しされていたことが明らかとなっていました。
まず、この結果を受けて長期金利が下げてドルが弱含んでいたので、一時トロイオンスあたり1787ドルへと上昇したものの、その30分後のパウエルFRB議長の記者会見の内容が、2022年末の利上げの可能性を示唆するなどよりタカ派的であったこと、また株式市場が強く上昇したことでリスクオン基調に押されて1767ドルへ下げて終えていました。
この株式市場へ影響を与えていたのは、今週金融市場を揺るがしていた中国恒大集団が23日期日が来る社債の利払いを実施すると発表し、また、中国人民銀行が流動性供給を実施したとも伝えられていたこと、またパウエル議長も米国市場への影響は少ないとしていたことからでした。
木曜日金相場は、米長期金利が1.435%と7月初旬以来の高さへ上昇する中で、一時トロイオンスあたり1742ドルと、8月11日ぶりの低さへと下げていました。
この金利の上昇は、同日イングランド銀行が政策金利発表時に近い将来の利上げが示唆したことで英長期金利が上昇し、また前日のFOMCの結果が予想を超えるタカ派的内容ではなかったこと、中国の恒大集団への警戒感が和らぐ中でリスクオフが進み、株価が2営業日連続で上昇することとで、米国を含む主要国債券が売られたことからでした。
しかし、英国ポンドが対ドル強含み、安全資産需要が減少して売られて、ドルインデックスは下げていました。
そこで、金は金利上昇とリスクオフの株価上昇の動きで、ドルが下げる中でも押し下げられることとなりました。
本日金曜日金相場は、前日上げた金利が下げてロンドン午前中上昇したものの、ドルが強含み金利が再び上昇へ転じたことでその上げ幅を失って一時トロイオンスあたり1740ドルと前日終値を割って下げた後に、ロンドン夕方に1752ドルまで戻しています。
これは、本日中国中央銀行の人民銀行が中国における仮想通貨の全面禁止することが伝えられたことで、ビットコイン等の仮想通貨が全面安となる中で、株価が下げてドルと国債が安全資産として買われていた模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に米消費者物価指数が予想を下回り、プラチナグループの貴金属価格が大きく下げていた際に、金を除き全ての貴金属でネットロングが減少していたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、4.6%増の271トンと増加していたこと。しかし5年平均を28%下回る水準。建玉は3週連続で減少していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比21.4%減の2,189トンと3週ぶりに減少していたこと。この水準は5年平均を49%下回るもの。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、7週連続でネットショートで、130%増の25トンと3週連続でネットショートを増加させて、2019年6月以来の大きさ。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは2018年8月以来初めてネットショートで、このレポートが発表された2006年以来最大規模の2.7トンとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で9トン(0.9%)減少し993トンと、2020年4月8日以来の低さで、週間で前週6週ぶりに増加した後、再び減少の傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、週間で1.4トン(0.3%)増で500トンと、7月1日以来の高さで4週連続の週間の増加傾向となっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で64.8トン(0.4%)増で、17,005トンと2週ぶりに週間で増加傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週月曜日に78台と銀の割安傾向となったものの、昨日77台へと戻していること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、週間平均は9.59ドルと前週の5.65ドルから上げていたこと。月曜日と火曜日が中国の祝日で、この間恒大集団関連懸念が高まっていたこと等も背景の模様。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、今週プラチナ価格が月曜日に10ヶ月ぶりの低さを付けて、その後大きく上昇する中で、週間平均が前週を71%上回り、直近の月間平均の倍以上と増加する中で、金と銀は前週から下げ、金は直近の月間平均の水準で、銀は下回っていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はFOMC、日銀、イングランド銀行の政策金利が発表され、水曜日のFOMC後のパウエルFRB議長の記者会見で市場は動きましたが、来週も引き続き中央銀行の金融政策に絡むイベントと指標が重要となります。
それは、火曜日の日銀金融政策決定会合議事要旨、米国リッチモンド連銀製造業指数、木曜日の中国の製造豪PMI、米国の新規失業保険申請件数と第2四半期GDPとGDP個人消費とコアPCE、金曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、ユーロ圏消費者物価指数、米国個人消費支出と個人所得とミシガン大消費者態度指数とISM製造業景況指数等となります。
詳細は主要経済指標(2021年9月27日~10月3日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年9月20日~24日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年9月27日~10月3日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、天然ガス価格高騰を受けて、エネルギー小売会社が今月すでに6社破綻したこと、またこの価格高騰で、米肥料大手会社が英工場の操業を後日英国政府の介入で再開したものの一時停止していたことによる、炭酸ガス供給不足による食品供給への支障が伝えられていました。
パンデミック後のロジスティックや需要と供給のバランスの崩れなどもあるようですが、本日は他の業界でも伝えられている大型車のドライバー不足から、ガソリンスタンドへのガソリン輸送が怠り、スタンドが休業をせざるを得なくなっていることについてもトップニュースで伝えられています。
そのような中で、今週月曜日と火曜日はロンドン貴金属市場協会(LBMA)とロンドン・プラチナム・パラジウム市場(LPPM)共同の年次会議がオンラインで行われていましたので、その模様をお伝えしましょう。
本来この年次会議は昨年延期となったリスボンで世界の業界関係者が集まって行われる予定でしたが、パンデミックのためにオンラインへと変更になっていました。
この2日間のプログラムは下記のようになります。
セッション1 開会挨拶と世界のマクロエコノミクスの見通し
セッション2 貴金属投資の見通し
セッション3 プラチナグループ金属:2021年以降の予想
セッション4 世界の鉱山業界が直面する問題点について
セッション5 責任のある調達、サステナビリティ、ESGの将来
先のセッションでは多くの興味深い議論が行われましたが、セッション1では、参加者がインフレーションにおいて議論を戦わせ、興味深かったのでご紹介しましょう。
パネルはブラックロックのPhilipp Hildebrand氏、BISのJoachim Nagel氏、Gresham CollegeのAvinash Persaud氏が、CNNのRichart Quest氏がモデレーターとして参加していました。
まず、世界のマクロエコノミクスの見通しを語る中で、インフレが鍵であろうとパネルは合意し、Hildebrand氏は中央銀行がターゲットを高く設定するとし、3%の可能性に言及していました。
それに対し、BISのNagel氏はインフレは一過性としながらも、「一過性(Transitory)」は今年の単語とし、インフレが永久に続く可能性がある中で、意図的に曖昧さを作り出す良い言い回しだとも述べていました。
しかし、Gresham CollegeのPersaud氏は、一過性では無いと一喝し、カーボンネットゼロはゲームチェンジャーで、1970年代のインフレのきっかけとなったオイルショックのように、生産コストが上昇するとしていました。
また、どのセッションを通じてもESG(環境、社会、ガバナンス)が取り上げられ、会議のまとめのウェビナーのパネリストであったスタンダードチャータードのSuki Cooper氏は、「一過性」という言葉が今年の言葉であるとしたら、「ESGが会議の言葉」とも言えるかもしれないと述べていました。
なお、参加者によって毎年年次会議で予想される次年度年次会議時(10月)の価格は下記のようになっています。
貴金属
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2022年年次会議時の価格
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2021年年次会議時の価格
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金
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1969ドル
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1756ドル
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銀
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26.76ドル
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23.00ドル
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プラチナ
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1345ドル
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931ドル
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パラジウム
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今年と同水準
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1953ドル
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また、月曜日の夜には対面でのネットワークレセプションも行われ、ロンドン在住の業界関係者50名を超える人々が集まり、一年以上ぶりの再会を祝い、ロンドン金融街の高層ビルの最上階からの夜景を楽しみながら、夜遅くまで歓談が続いていました。