ニュースレター(2021年8月27日)ジャクソンホールのパウエル議長の講演後、金は3週ぶりの高さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1800ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.22%高と3週連続で上昇しています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり23.59ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から1.66%高と3週ぶりの週間の上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1000ドルとと2.46%上昇し、前週の大幅な下げを4割ほど戻しています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週市場は、本日のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演を待っていましたが、その内容が量的緩和縮小を年末までに開始するべきとしたものの、利上げと直接繋がるものではないとし、事前予想よりハト派的との判断で、金、銀、プラチナすべてが週間で上昇し、金と銀においては8月の大きな下げ幅をほぼ取り戻して3週ぶりの高さで終える傾向となっています。
なお、貴金属の上値が押さえられている一つの要因として、ETFからの資金の継続的な流出が見られています。そこで、本日は金ETFの最大銘柄スパイダーゴールドシェア(GLD)と第2規模のiShareゴールド(IAU)の残高の推移と金価格の推移のチャートを下記に添付します。
ここで、昨年8月に金価格は2075ドルと最高値を付けた後、スパイダーゴールドシェアの残高は9月に最大規模となって以来減少を続けて20%を超えて減少し、iShareゴールドは6%残高を失っていることがご覧いただけます。
ちなみに、銀ETFの最大銘柄のiShareシルバーの残高は、今年1月末にSNSのレディットサイトで銀のショートスクイーズ(空売り勢の損失覚悟の買い戻し)を起こすために購入することが呼びかけられた際に急増して史上最高値を付けた後、21%減少しています。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、実質金利が上昇し、株価やコモディティも上昇するリスクオン基調の中で、8月5日以来のトロイオンスあたり1800ドルを超える水準へ上昇することとなりました。
この背景は、本来逆相関の実質金利が上昇していたことからも、8月初旬の急落の調整やその際に増加していたショートポジションのカバーや、コロナウィルスデルタ変異種の拡大などで、すでに価格に織り込まれているFRBによる早期量的緩和縮小観測が後退していたことからでした。
火曜日金相場は、ドルインデックスと長期金利は多少上げながらもほぼ横ばいで推移する中で、前日の基調を受け継いで一時1809ドルを付けるまで上昇したものの、その後上げ幅を失って1801ドルで終えていました。
この間、米株価指数は史上最高値をつける基調で3営業日連続で上昇し、原油や銅などのコモディティも上げて、リスクオン基調となっていました。
これは、前日米当局がファイザー社のワクチンを正式承認したことで、米国でのワクチン普及が進むという観測が株価を押し上げ、結果的に金の頭を押さえることとなったようです。
水曜日金相場は、ドルと長期金利が上昇する中で、トロイオンスあたり1791ドルへと前日終値比0.5%下げて終えていました。
これは、直近のレジスタンスの1830ドルを超えなかったことで、ジャクソンホール会議前に利益確定の売りで1800ドルを割ったことで、売りが売りを呼ぶ形となったようです。
木曜日金相場は、ドルと長期金利が多少上昇する中で、トロイオンスあたり1793ドルへと上昇して終えていました。
この背景は、同日カブール空港周辺で自爆攻撃があり少なくとも10人が犠牲となったことが伝えられたことで、地政学リスクが意識されて安全資産としてドル、米国債、金が買われてたことからでした。
しかし、同日FRBメンバー数人のタカ派的コメントが伝えられたことからも、上げ幅を削って終えていました。
その内容は、カンザスシティー地区連銀のエスター・ジョージ総裁が金融政策変更の条件としてパウエル議長が掲げてきた「さらなる著しい進展」が満たされたと判断すると明言したこと。そして、セントルイス連銀のジェームス・ブラード総裁が、量的緩和の縮小プログラムを来年3月までに終わらせるべきとし、ダラス連銀のロバート・カプラン総裁がかねてから唱えていた「テーパリングを9月FOMCで発表。10月には開始」をデルタ変異種感染拡大の中でも見解に変化はないとしてこと等でした。
金曜日金相場は、同日ロンドン時間午後3時からのジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演を待つ中で小幅な動きでしたが、その後神経質な動きをした後に、ロンドン夕方にトロイオンスあたり1814ドルを超える水準で、前日比1.2%上昇し、ほぼ8月の下落分を取り戻し3週間ぶりの高さへ上昇して終える傾向です。
ジャクソンホールでのパウエル氏の講演では、雇用回復や新型コロナウイルスの感染再拡大の影響を見極め、年内に大規模な金融緩和の修正に踏み切る姿勢を示しましたが、利上げについては量的緩和縮小とは異なり急ぐ必要はないとしたことからも、ドルと長期金利が下げ、金を押し上げることとなった模様です。
ちなみに、本日発表された米個人消費支出(PCE)は前年同月比3.6%と高い水準となっていましたが、パウエル議長はインフレは一時的なものというスタンスを講演でも繰り返していました。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週17日市場が翌日発表のFOMC議事録を待つ中でまちまちで、金はネットロングを増加させ、プラチナはネットショートを減少させていたものの、銀とパラジウムは、ネットロングを減少させていたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、52%増の241.5トンと増加し、前週の52%減少という大幅な動きの調整傾向であったこと。また、建玉は4週ぶりに増加していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比18%減の1518トンと2週連続の減少で、米中貿易戦争時の2019年6月18日以来の低い水準となっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、3週連続でネットショートであったものの40%減の8トンとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比6%減で8.6トンと減少していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で9.9トン(1.0%)減少し1002トンと、昨年4月9日以来の低さで、週間では4週連続の減少傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、3週連続の週間の減少後に、木曜日までに全く動きがないこと。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で128トン(0.75%)減で16,979トンと11月30日以来の低さで、2週連続の週間の下げの傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週ロンドン時間早朝には80で始まったものの、週後半に75台へ下げて(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72)終える傾向であること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)ではあるものの、週間平均は3.91ドルと前週の6.08ドルから下げていたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、今週金と銀が週間の平均では前週を上回っているものの、プラチナは下回っていたこと。しかし、金は7月平均を42%下回る低い水準で、銀は33%上回り、プラチナは12%下回る等、まちまちであること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週の重要イベント及び指標は、前月良好な数字で早期の量的緩和観測が広がり貴金属市場が大きく下げた米雇用統計が金曜日に発表され、その先行指標のADP全国雇用者数が水曜日に発表されて、市場は注目することとなります。
その他、火曜日に中国の製造業PMI、ユーロ圏の消費者物価指数、米国のシカゴ購買部協会景気指数、水曜日の中国のCaixin製造業PMI、ドイツ、ユーロ圏、英国、米国の製造業PMI、そして米国ISM製造業景況指数、木曜日の新規失業保険申請件数、金曜日の中国Caixinサービス部門PMI、ドイツ、ユーロ圏、英国、米国サービス部門PMI、米国ISM非製造業PMI等となります。
詳細は、主要経済指標(2021年8月30日~9月3日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
弊社グループ企業のオンラインウィスキー投資サービス会社のウィスキー・インベスト・ダイレクトが日経マネーの最新号の次世代オルタナティブ投資最前線の実物資産取引の最新事情で取り上げられました。
ここで、ウィスキー・インベスト・ダィレクトを熟成中のウイスキー原酒をオンライン市場で投資できるサービスを提供と紹介し、日本人顧客数が前年比(6月末時点)で30%増加し、顧客全体が保有するウイスキーの量も29%増加していること、そして、モルトウイスキーの投資資産としての年平均成長率は9.1%(2015年10月から2021年7月までの期間)であったと紹介しています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年8月23日~27日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年8月30日~9月3日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年8月23日)ジャクソンホール前に実質金利と株価が上昇する中で金が「意外にも」1800ドルを超える
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週も前週に引き続きアフガニスタン関連ニュースがトップで伝えられていますが、24日に開会したパラリンピックについても大きく伝えられています。
そのような中で、日本よりも高い新型コロナウィルス感染者数でありながら、関連規制がほぼすべて解除されている英国で、先週大規模イベントの新型コロナウィルス感染リスクの調査結果を公表していましたのでお伝えしましょう。
英国政府は、過去数ヶ月でウィンブルドンやF1シリーズの英国グランプリ等主要イベントを新型コロナウィルス感染リスク調査対象テストイベントとして開催し、調査対象の37のイベントについて、開催中の会場外の地域感染率との差などから結果を発表していました。
その結果、30万人ほどが観戦したウィンブルドンでの感染者数は881人に過ぎなかった等、感染率はほぼ同水準かそれを下回ったことが明らかとなり、ダウデン文化・スポーツ相は「大規模なスポーツ・文化イベントを安全に再実施できることが示された」と述べていました。
しかし、ダウデン氏は、このためにはワクチン接種の普及は不可欠であること、それが再び全面再開する最も確実な方法とも指摘しています。
そのような中で、このテストイベントの一つであったEuro 2020(欧州選手権)のイングランド対イタリアの決勝戦では、当時のこの地域の感染者数が2,295人である中で、3,404人多い感染者数が記録されていたことも明らかとなっています。
これは、切符を保有していないファンが会場近くに詰めかけていたことが理由として、特別な例と判断されたようです。
そこで、英国では今週末は翌月曜日が祝日の3連休であることからも、野外音楽フェスティバル等多くのイベントが開催されますが、予定度通り、ワクチン2回接種終了、もしくはCovid-19のテストが陰性であったことを証明をすることで通常の規模の参加者数で開催が可能となっています。
ちなみに、本日の英国の感染者数はWorldometerサイトによると38,046人で、日本の24,976人を上回り、死者は100人とやはり日本の60人を上回っています。
しかしながら、Our World in Dataによると26日までに少なくとも1回のワクチン接種が行われれた人口あたりのワクチン普及率は英国が70%に対し、日本が55%とのこと。
英国は、ワクチン接種普及率が高いことに加え、ピーク時に感染者数が6万人を超えて死者も2千人に近づいたこともあり、これらの高い数値に耐性があると共に、国民保険サービスの病床も十分に余裕があることからも、規制解除継続が可能であるかと推測します。
このように異なる状況下ではありますが、日本においても、よりワクチン接種普及が進み、一日も早い緊急事態宣言解除、そして日常に近い生活へ戻れることを祈っています。