金市場ニュース

ニュースレター(2021年6月4日)早期テーパリング懸念で2週ぶりの低さへ下げた金価格は、予想を下回る雇用統計で上げに転換

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1891ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.4%安で4週ぶりの下落となっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり27.37ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から0.9%安と下げています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1163ドルと前週LBMA価格から0.6%安と下げています。

今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要

今週貴金属相場は週間で全般下げることとなりました。この要因は下記のようになります。


  • 主要経済指標が経済回復を示唆していたこと。

  • FRB高官が金融緩和縮小を検討する時期とコメントしたこと。

  • 先の理由でFRBによる早期金融緩和政策変更(テーパリング)観測が広がり、長期金利とドルが上昇したこと。

  • 中国の需要が減少したことを示す中国黄金交易所(SGE)価格がロンドン価格を下回った(ディスカウント)ことで、金へのセンチメントが多少悪化したこと。

  • 金のRSI(相対力指数)がこのところ買われすぎの状態を示していたことも売りを進めたこと。

その後、市場注目の米雇用統計が発表されて予想を下回ったことで、FRBの金融緩和政策の近い将来の変更は無いという観測で長期金利とドルが下げたこと、そして同時にインフレ懸念、それによる実質金利の下げへの懸念は根強いものもあり、貴金属は再び上昇に転じることとなりました。

金と実質金利がほぼ負の相関関係であることは下記のチャートでご覧いただけます。

金と実質金利の推移 出典元 セントルイス連銀

日々の金相場の動きと背景について

英国祝日明け火曜日金相場はロンドン早朝にトロイオンスあたり1916ドルまで上昇したものの、昼過ぎに20ドルほど上下して1900を割って終えていました。

同日は主要国の製造業PMIが発表され、また米国のISM製造業景況指数も発表され、ほぼ全て予想を上回っていたことで、FRBの金融緩和政策の早期変更観測で金は下げることとなりましたが、その後ドルは弱含み長期金利も昼過ぎに多少下げたことから金が上昇に転じていました。これは、今週米地区連銀経済報告が翌日、そして木曜日はADP全国雇用者数、金曜日は米雇用統計と重要データが続くことから、これらを待つスタンスとなっていたようです。

水曜日英国夕方に発表される米地区連銀経済報告を待つ中で緩やかに上昇し、発表後も大きな動きはなくトロイオンスあたり1907ドルで終えていました。

この間世界株価は全般上昇し、ドルは強含んでいるものの数日ぶりの高さに過ぎず、長期金利も1.6%を割って下げていることが、金をサポートしていました。

木曜日金相場は、心理的節目のトロイオンスあたり1900ドルを割って、一時1856ドルと2週間ぶりの低値を付けた後に前日終値比1.9%安の1871ドルで終えていました。

この背景は同日発表の米国ADP全国雇用者数と新規失業保険申請件数とサービス部門PMIが予想を超えて経済回復を示唆したこと、そしてハーカー・フィラデルフィア連銀総裁が金融緩和政策縮小の検討を考える時期に来ているという見方を示したこと、また前日の米地区連銀経済報告も経済回復と物価上昇に触れていたことも新ためて認識されたことが要因となっていました。

そこで、FRBによる金融緩和政策縮小(テーパリング)観測で株価は全般下げ、ドルインデックスが90を超えて強含み、長期金利も1.6%を超えて上昇したことで金は押し下げられることとなりました。

また、前日より中国の黄金交易所(SGE)のロンドン金価格との差が1月初旬以来初めてディスカウント(中国の金需要の低下を示す)で、同日は25ドルと12月以来の大きさとなっており、これも金のセンチメントを下げていました。

ちなみに、この背景は中国における不正資金洗浄法関連の規制が貴金属市場へも入ることがきっかけとなったとも一部アナリストはコメントしていました。

本日金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は55.9万人と前回26.6万人(修正値27.8万人)を上回りましたが、予想の65万人は下回り、金は発表後トロイオンスあたり10ドルを超えて上昇していました。なお、失業率は、5.8%と前回の6.1%と予想の5.9%も下回っていました。

この背景は、発表後にFRBが金融政策を変更をするほどの良好な指標ではないという判断で、長期金利とドルが下げたことからでした。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • ロシアは政府系ファンド「国民福祉基金」のドル保有をゼロにし、ユーロと人民元、金に振り向ける計画と伝えられたこと

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週25日に、長期金利が下げる中で金価格がトロイオンスあたり1900ドルへと上昇する中で、金を除き全ての貴金属で減少していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、ロングポジションが6週連続で増加し、ショートポジションが4週連続で減少する中で、18.7%増で395トンと1月5日以来の高さへ増加していたこと。しかし、建玉は3週ぶりに減少していたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比2.7%減の7,044トンと2週連続で減少していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.3%減の13.67トンと4週連続の減少で3月末以来の低さとなっていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比14.9%減で10.6トンと3週連続で下げて4月6日以来の低さとなっていたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で1.5トン(0.1%)減で1042トンと4週ぶりの週間の減少傾向であること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で1.3トン(0.25%)増で502トンと8週間ぶりの高さで5週連続の増加の傾向。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で53.3トン(0.3%)増で17,990トンと2ヶ月ぶりの高さで3週連続の週間の増加傾向。

  • 金銀比価は、今週祝日明け火曜日に67を付けたものの、貴金属全般価格を下げる中で68を超えて多少の銀割傾向となっていること。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対し1月初旬以来初めてディスカウントを付けて(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)週間でマイナス12を記録したこと。

  • コメックスの金、銀、プラチナの取引量は、木曜日貴金属価格が大きく下げる中で全て上昇していたものの、週間取引量は金が下げ、銀とプラチナは前週を上回ってそれぞれ4月末と3月末以来の高さとなっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

来週の主要イベント及び指標は、水曜日の中国の消費物価指数、木曜日のECB政策金利発表、米国の消費者物価指数と新規失業保険申請件数等となります。

また、引き続きFRB高官のコメントは長期金利とドルを動かす可能性がありますので注目されることとなります。

それでは、詳細については主要経済指標(2021年6月7日~11日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週は弊社で毎月まとめている金投資家インデックスが発表され、日英メディアで取り上げられています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、今週行われているG7保健相会合、そして本日始まったG7財務相会合、また火曜日新型コロナウィルスによる死者がゼロだったことなどが伝えられています。

そのような中で、ここでも5月にお伝えした、海外渡航可能な国のリストに今週見直しが入り大きく伝えられているので、簡単にご紹介しましょう。

まず、英国政府は新型コロナの感染者数などから、渡航先を緑、黄色、赤の3つのカテゴリーに分けていました。この中でほぼ制限なく渡航できるのは緑のカテゴリーのみで、黄色と赤のカテゴリーの国は、基本渡航はすべきではないとなっています。

そして、今回の見直しでは5月初旬にオーストラリアやニュージーランドを含む13カ国及び地域が緑のカテゴリーでしたが、英国から簡単に訪問でき人気のある南欧の国で唯一このカテゴリーであったポルトガルが、来週火曜日から黄色のカテゴリーへ引き下げられ、緑のカテゴリーに追加される国もまったくなかったことから、航空、旅行関連業界が一斉に政府批判を行っていることが伝えられています。ちなみに、日本は未だ黄色のカテゴリーとなっています。

この背景は欧州でもインド変異種が広がっており、更にその変異種も見つかっているようで、6月21日のロックダウン解除の最終段階を迎えるためにも政府はより慎重にならざるを得ないということのようです。

南欧の国々は英国から飛行機で2~3時間で、費用も国内旅行よりも安く行けることが多く、そして英国よりも暖かな気候が地理的にもほぼ確実であることからも人気があります。

そのようなことからも、英国の海外旅行の8割は欧州で、トップ10のうち5カ国はスペイン、フランス、イタリア、ポルトガル、ギリシャと南欧の国々となっています。また、2019年の英国外国旅行者数は年間で7,247万人と全人口6,680万人を超えていたことからも、人々の海外旅行の頻度も分かることでしょう。

そこで、今まで気軽にできていた海外旅行ができないのは、パンデミックの最中ならまだしも、ワクチン接種を済ませた英国の人々にとって納得するのは困難でもあるようです。

また、南欧の国々は観光業への依存度が高く、ワクチン接種普及に成功を収めている英国からの観光客が今年夏に訪れることを期待していたことからも、南欧政府関係者もこの判断に落胆を隠せないようです。

いまだ、ワクチン接種の普及が遅れ感染者数が増え続けている国々も多い中で、個人的には世界の国々でワクチン接種普及が進まない限りは、この状況は大きく変わらないと覚悟せざるを得ないと思っているところです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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