ニュースレター(2025年5月30日)貿易戦争の先行きが不透明な中で金価格は4ヶ月ぶりに月間の下げへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格と比較すると、2.1%安でトロイオンスあたり3272ドルと週間の下げで、前週の金曜日のLBMA PM価格では史上最高値から下げています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格と比較して0.2%安のトロイオンスあたり33.04ドルとやはり下げています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のこの価格から1.2%安でトロイオンスあたり1071ドルと前週の一年ぶりの高さから下げています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のこの価格から2.6%安でトロイオンスあたり966ドルと週間の下落となっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週の貴金属相場は、前週に大きく上昇していた反動もあり、全体として週間ベースでは下落傾向となりました。ドル建て金相場は、月間ベースで0.9%安と4カ月ぶりに下落を記録。一方で、銀は0.3%高、プラチナは10.1%高、パラジウムも0.3%高と、それぞれ月間では上昇しています。
年初来の上昇率を見てみると、金相場は引き続き堅調で、23.7%高と他の貴金属を大きく上回っています。これに続くのが今週の大きな上げ幅からもプラチナで、16.3%高、次いで銀が12.4%高、パラジウムは4.9%高となっています。
プラチナの前週からの大幅な価格の上昇に関しては、「プラチナ需給レポート:プラチナの供給不足は価格を1200ドルへ押し上げる可能性がある」のレポートをご覧ください。
金の上昇背景には、トランプ前大統領の貿易政策に対する不透明感から、安全資産としての需要が高まっていることが挙げられます。また、格付け会社ムーディーズによる米国債の格下げも、米国の債務規模に対する懸念を強め、同様に安全資産需要を後押ししている模様です。
ただし、こうした年初来の上昇基調にも一服感が見られ、今週および今月の金相場の下落は、その調整局面と考えられます。
そこで本日は、1月2日の貴金属価格(LBMA価格)を基準値=0として、各貴金属の上昇幅を指数で示すチャートをお届けします。
今週の金相場について
英国の祝日明けとなった火曜日の金相場は、米株価が4営業日ぶりに反発し、ドルが強含む中で、一時トロイオンスあたり3299ドルまで下落。前週金曜日の上げ幅をほぼ失い、最終的に3308ドルまで戻してロンドン時間を終えました。
この動きの背景には、米国と欧州連合(EU)が通商交渉を加速させたことに加え、前週トランプ大統領が6月1日から導入予定としていた50%の関税を7月9日まで延期したことがありました。また、同日に発表された米消費者信頼感指数が予想を上回ったこと、日本の長期金利が数十年ぶりの高水準から下落したことも影響しました。日本当局が債務計画の調整を検討しているとの報道が、金利低下の要因となっていました。
一方、同日の上海黄金交易所(SGE)の金価格は3営業日連続で下落し、ロンドン価格との差が3月半ば以来初めてディスカウントとなりました。これは、年初から金価格上昇を牽引していた中国の需要が後退している可能性を示していました。
水曜日は、米株価がエヌビディアの決算発表を前に警戒感からもやや下落する中、金価格はロンドン時間昼前に一時3326ドルまで上昇しました。しかし、ロンドン時間の夕方に発表されたFOMC議事録の内容を受けて下落し、最終的に3259ドルと前日終値を下回って終了しました。
議事録では「不透明感の中で慎重なアプローチが適切」とされ、ほぼ想定内の内容ではあったものの、利下げ観測をやや後退させるものと判断されたようでした。
木曜日の金相場は、発表された米経済指標が経済停滞を示唆し、FRBによる利下げ観測が若干進む中、ドルと長期金利がともに下落。これにより、金価格は一時3330ドルまで上昇し、最終的に3315ドルで終了しました。
同日に発表された米第1四半期GDPは前期比年率で0.2%減と、速報値(0.3%減)からは上方修正されたものの、依然として経済の縮小を示唆する内容でした。また、新規失業保険申請件数が市場予想を上回ったことも、年末のFRBの金利予想を若干押し下げ、金相場を支える要因となったようです。
さらに、同日午前中には米国際貿易裁判所がトランプ政権による一部関税の差し止めを命じ、前日発表されたエヌビディアの好決算と相まって、米株価は全般的に上昇していました。
本日金曜日の金相場は、トランプ大統領が中国との貿易戦争再開の可能性を示唆したことを受け、米株価が下落する中、金価格は一時3292ドルまで下げ、週間・月間ともに下落基調で推移しています。
トランプ大統領はSNS上で「中国が米国との合意を完全に破っている」と投稿。また、前日に米国際貿易裁判所が関税の差し止めを命じた件について、米連邦巡回区控訴裁判所がその命令を一時的に停止する判断を下したことで、市場には貿易政策に対する先行き不安が広がっています。
その結果、主要米株価指数は1%を超える下落となり、金市場でも週末を前にポジション調整が進んでいる模様です。なお、本日発表されたFRBが注目するインフレ指標である米個人消費支出(PCE)コア・デフレーターは、市場予想の2.2%を下回り、前年同月比2.1%の上昇となっていました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に5月20日までのデータが発表され、市場の注目が米中の貿易戦争停戦から、ムーディズの米国債格下げもあり、米国の債務規模へと注目が移る中で、全ての貴金属価格が上昇していた際に、全ての貴金属で強気ポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、7.0%増で368.93トンと8週ぶりに増加して、前週の2024年2月下旬以来の低さからは増加していたこと。価格は1.0%高でトロイオンスあたり3261ドルと前週の4月半ばの低値から上昇し、建玉は3.4%増とやはり前週の4月初旬以来の低さから増加していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、7.3%増で4751トンと2週ぶりに増加して前週の4月22日の週以来の低さから増加していたこと。価格は前週比1.5%安で、トロイオンスあたり32.50ドルと4月半ば以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、前週5月20日からネットロングへ転換し、前週火曜日までに9.7トンとなり、前週の4月22日の週以来のネットショートからは大きく動いていたこと。価格は前週比3.5%高でトロイオンスあたり1025ドルと、昨年10月末以来の高さとなっていたこと。建玉も2月半ば以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに27.1%減で28.1トンと2月半ば以来の低さへ下げていたこと。価格は4.8%高でトロイオンスあたり996ドルと2月初旬以来の高さとなっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに7.70トン(0.80%)増加して930.20トンと5月14日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに2.93トン(0.67%)減で431.81トンと4月16日以来の低さで、3週連続の週間の下落傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに86.25トン(0.61%)増で14,303.75トンと1月21日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向であること。
- 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週100台前半で始まり、木曜日に98台前半と4月初旬以来の低さへ下げて、本日99台半ばまで上昇して終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2218ドルで始まり、木曜日に2199ドルと5月半ば以来の低さへ下げて、本日2217ドルへと上昇して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週96ドルのプレミアムで始まり、水曜日に109ドルと2023年6月以来の高さへ上昇して、本日104ドルへと若干下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムであったものの、週平均は17.26ドルと4月初旬以来の低さへと、前週の23.38ドルから下げていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
今週の主要イベント及び主要経済指標。
今週貴金属市場は、引き続きトランプ大統領の関税関連コメントに注目しながら、水曜日の米連邦公開市場委員会の議事要旨や金曜日のFRBがインフレ指標として注目する個人消費支出コア・デフレーターなども、今後のFRBの政策金利の動向を読むためにも需要視されていました。
来週もトランプ大統領の関税関連コメントへは注目が行きますが、米雇用関連データが多く発表され、火曜日の雇用動向調査(JOLTS)求人件数、水曜日のADP雇用統計、金曜日の雇用統計が重要となります。また、木曜日の欧州中央銀行政策金利も注目されることとなります。
詳細は主要経済指標(2025年6月2日~6日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年5月26日~30日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年6月2日~6日)来週の予定をまとめています。
- プラチナ需給レポート:プラチナの供給不足は価格を1200ドルへ押し上げる可能性がある
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国では、以下のような国内外の重要なニュースが大きく報じられています。
- イスラエルによる封鎖が続くガザ地区での深刻な食料不足と、イスラエルおよびガザ地区の武装組織ハマスとの間での停戦を巡る動き
- ウクライナ戦争に関して主要国が模索する停戦に向けた外交的動き
- チャールズ国王によるカナダ公式訪問
- リバプール・フットボールクラブのプレミアリーグ優勝を祝うパレードで、元英国海兵隊員が車で群衆に突入し79人が負傷した事件とその裁判の開始
こうした中、前週、年金受給者への冬季燃料手当(Winter Fuel Payment)を巡ってスターマー政権が方針の見直しを表明したことが、与野党を巻き込む大きな議論となり、各種メディアで広く報じられています。
スターマー政権は、就任直後の予算発表で、冬季燃料手当の支給対象を年金クレジット(Pension Credit)受給者に限定する方針を示しました。この変更により、従来約1,080万人が対象だった支給者数が約150万人にまで減少し、年間最大で300ポンド(約6万円弱)の補助が打ち切られる形となりました。
この決定は、労働党内部を含め、労働組合や慈善団体からも強い反発を招きました。50人以上の労働党議員が反対または棄権の姿勢を示し、政府に対して再考を促す動きが広まりました。
政府はこの政策を財政再建の一環として正当化しましたが、導入前に影響評価(インパクトアセスメント)を実施していなかったことが明らかになり、批判がさらに強まりました。
野党の保守党、リフォームUK、自由民主党、スコットランド国民党はいずれもこの削減に強く反対しており、保守党とリフォームUKは、政権を奪還、もしくは政権に就いた際には冬季燃料手当を復活させると公約しています。
また、今月行われた地方選挙で現政権は大きく議席を失ったことも影響し、政府は前週、方針を一部修正し、冬季燃料手当の支給対象を再び拡大することを検討していると発表しました。具体的には、高所得の年金受給者からの税収を通じて支給にかかる費用を回収する新たな仕組みが議論されています。
しかしこの案にも課題があり、高所得者からの税収回収が想定通りに進まない可能性や、支給拡大による財政負担の増加が懸念されています。
政府は、今後の財政状況や社会的影響を慎重に検討した上で、2025年秋の予算案において最終的な決定を下す見通しです。この問題は、財政健全化と社会的公正の両立という、政府にとって重要な政策判断のひとつとなっています。