ニュースレター(2021年3月26日)高止まりする長期金利とドルで金相場はレンジ内にとどまる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1731ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.2%安で2週ぶりの下落となっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり25.01ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から4.45%安と、やはり2週連ぶりの下げとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1164ドルと前週LBMA価格から0.7%安と2週連続の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は、長期金利とドルが高止まりする中で金相場は比較的狭いレンジで動き、結果的に2週間ぶりの下げとなりました。
長期金利が高止まりしているのは、ここ数週間の背景であるワクチン接種普及による経済の早期回復や追加経済対策によるインフレや大量国債発行による需給のバランスへの懸念等ですが、それに加えて今週予定されていた2年物、5年物、7年物国債の入札も要因となっていました。そして、実際昨日の7年物国債入札は平均を下回る需要であり、金利を高めるものとなりました。
また、ドルが強含んでいるのは、欧州の新型コロナウィルス感染広がりによる経済活動再開遅延懸念からユーロが弱含みドルが相対的に上昇していた事も要因となっていました。
なお、この間銀相場は金に比べて下げ幅を広げて、金銀比価が木曜日には69と2ヶ月ぶりの高さ(銀割安)となっていました。これは、中国政府がコロナ禍で実施されていた景気刺激策を縮小する観測が広がり、工業用途需要が6割と高い銀が押し下げられていることが背景である模様です。
プラチナ相場は、今週の下げ幅は限定的でしたが、金と銀とは異なり2週連続の下げとなっていました。しかし、年初からは工業用途需要の高まり観測で上昇していたことからも、未だ10%高で堅固さを見せています。ちなみに金は年初から8.8%安で銀は5.3%安となっています。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は、ロンドン時間早朝に貴金属価格は大きく下げて始まりました。これは、週末にトルコの中央銀行総裁が更迭され、トルコリラが大きく下げることで、新興国通貨全般への懸念が高まったことが背景となりました。
その後、金価格は下げ幅を削ってトロイオンスあたり1737ドルで終えていました。
なお、金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシャアと第2規模のiShareゴールドは先週金曜日に共に資金流出を止めて残高をそれぞれ2週と2ヶ月ぶりに増加させてセンチメントが多少変化し、コメックスの金先物・オプションの強気ポジションも前週7週ぶりに増加していました。
火曜日金相場はドルが2週間ぶりの高さに強含む中でトロイオンスあたり1727ドルへ下げて終えていました。
この背景は、同日ドイツが来月初めの復活祭期間中にロックダウンを強化することを発表したことでユーロが対ドル弱含んだこと、そして今週米国2年債(火曜日)、5年債(水曜日)、7年債(木曜日)の入札が予定されていたために、前回7年債の入札不振で金利が上昇した懸念もあったようです。
水曜日金相場は、長期金利が高止まりではあるものの多少下げていたことからも、トロイオンスあたり1735ドルへ一時上げるなど上昇していました。
これは、同日の米国債5年物の入札が順調に行われたことが好感されたことからですが、ドルインデックスは多少強含んでいたことからも上げ幅は限られていました。
なお、前日行われたパウエルFRB議長とイエレン財務長官の下院の議会証言はほぼ想定内で市場への大きな影響はなく、同日の上院での証言もほぼ同様のコメントで市場への影響は限定的となりました。
木曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎに長期金利とドルの動きに反応する形でトロイオンスあたり20ドルほど大きく動きましたが、その後前日比下げて1728ドルで終えていました。
これは、パウエルFRB議長が早朝のラジオのインタビューで、国債等の資産購入について「大幅な進展が見られたら購入額を徐々に縮小する」と述べたことで量的緩和縮小観測が広がったこと、またバイデン大統領が就任100日のワクチン接種目標を2億回と1億回から引き上げたことで早期の経済回復観測も広がり、そして同日行われた米7年物国債入札が平均以下の需要であったことで、長期金利が上昇し、ドルが強含んだことが背景となりました。
本日金曜日は、ドルが弱含んでいることから、長期金利が多少上昇する中で、トロイオンスあたり1732ドルへと上昇しています。
ドルが弱含んでいるのは、前日のバイデン大統領のワクチン接種目標を倍増させたことで、早期経済回復観測が広がっていること、またFRBが昨日新型コロナのまん延で大手銀行に課していた株主還元制限を6月末で解除すると発表したことで、経済正常化観測でリスクオンとなりドルが売られていることが背景のようです。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日16日、FOMCの結果が発表される前に、銀を除く全ての貴金属で増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、31%増で171トンと5週間ぶりの増加となっていたこと。建玉は昨年9月末から100万枚を下回っていること。
- コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比6.4%減の4,030トンと引き続き8月11日以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.34%増の13.4トンと13週間ぶりに増加していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比60%増で7トンと6週ぶりの大きさとなっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で8.8トン(0.8%)減で1043トンと11週連続の下げの傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で増減なしで507トンで、先週に続き週間の増加の可能性もあること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週は週間で245トン(1.34%)減で18,057トンと7週連続の減少傾向であること。
- 金銀比価は、今週67から昨日までに69まで上昇し本日は68台と2ヶ月ぶりの銀割安傾向であったこと。
- 上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は8.81と先週の9.04から人民元が対ドル弱含み下げていたこと。
- コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、昨日価格が大きく動いていたこともあり増加し、週間でも増加していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は金曜日から欧米は感謝祭の4連休に入りますが、金曜日に米雇用統計は発表され、その先行指標の水曜日のADP全国雇用者数、木曜日の新規失業保険申請件数とともに重要指標となります。
また、木曜日には中国、ユーロ圏、英国、米国の製造業PMIも発表され、市場は注目することとなります。
そして、今週は落ち着いている長期金利の動きも引き続き重要となります。
詳しくは主要経済指標(2021年3月29日~4月2日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2021年3月22日~26日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2021年3月29日~4月2日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2021年3月22日)トルコ中銀総裁更迭の混乱懸念で金価格下落
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では昨年3月の第一ロックダウンから3月24日が一周年であることからも、この一年を振り返るニュースや、全国的に行われたCovid-19で無くなった方々の追悼イベント等が多く伝えられていました。
そのような中、主要紙では世界で5番目に多い10万人を超える死者数を出した英国政府対応を検証する記事が掲載されていましたので、それらを簡単にまとめてみましょう。
まず、英国医療責任者クリス・ウィッティ氏と主席科学顧問のパトリック・ヴァランス氏は一周年の3月24日に行われた記者会見で下記の2つを反省すべき点として上げていました。
- ロックダウン開始の遅延
- 感染状況を掴むための欧州と英国内でのテストが十分でなかった
ボリス・ジョンソン首相は、無症状の人々による感染拡大は想定外であったことを認めたものの、新たな感染症で対応はどのような政府にとっても困難なものであったとした上で、独立機関による政府対応の検証を行うと述べていました。
その他、英国の死者数が他の主要国を大きく上回っていた理由として主要紙が上げていたものは、先に加えて下記のようなものでした。
- Covid-19により致死率が高まる肥満や糖尿病である国民の割合の高さ
- 26000人以上というケアホームでの死亡者数の高さ
- より感染率と致死率の高い英国の変異種
- テスト体制が十分でなかったに加えて、テストで陽性となった場合の自己隔離が徹底されていなかった
ワクチン接種普及の速さでジョンソン政権はCovid-19対応批判を多少かわしてはいますが、独立機関による検証をしっかり行い、将来へ備えることはぜひ行ってもらいたいものです。