ニュースレター(2021年10月1日)長期金利とドルが上昇する中、インフレ懸念とリスクオフ基調で金は堅調に推移
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1755ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.52%高と3週ぶりの上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり22.10ドルと、週中ばの昨年7月以来の低さの21.42ドルからは下げ幅を一部取り戻しているものの、前週のLBMA価格(午後12時)から2.2%安と4週連続の下げとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では976ドルと0.74%高で2週連続の週間の上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は、米長期金利の上昇とそれに伴うドルインデックスの上げに大きく押し下げられることとなりましたが、週後半にそれぞれ高い水準ではあるものの、上げ基調が弱まったこと、また株価が下げてリスクオフ基調も入ったことで、金は週間で上昇して終える傾向となっています。
今週の長期金利の上昇の要因は、1)今週のパウエルFRB議長の議会証言でインフレは供給上の制約が要因で正常化するまでに長期化する可能性に言及し、早期利上げ観測の広がり、2)それを裏付ける欧州のエネルギー価格高騰、3)FRBによる早期量的緩和縮小が国債の需給バランスへの懸念を広げ、4)今週の国債入札結果が芳しくなかったこと、5)Covid-19感染者数減少、恒大集団懸念後退による安全資産需要の減少等でした。
下記に、金と米長期金利(10年物国債利回り)とインフレ期待値(ブレーク・イーブン・インフレ率)のチャートを添付します。ここで見られるように、長期金利は今週7月以来の高さへ上昇していましたが、金利を産まない金は金利上昇時には機会費用が高まり下げる傾向があることがご覧いただけます。またインフレ期待値も多少ながら上昇していることもご覧いただけます。
インフレ上昇はインフレヘッジと見られている金のサポートになりますが、インフレ期待が利上げ観測を広げて金利を押し上げると金の頭を抑えるという傾向もあります。
それに対し、金よりも市場規模が小さいためにボラティリティが大きく、しかも金のような安全資産としての需要が限定的な銀は前週終値比下げています。
また、プラチナも安全資産的需要はありませんが、前週すでに10ヶ月ぶりの低さへ下げていたことからも前週終値比では多少上昇して終える傾向です。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は長期金利が3ヶ月ぶりの高さへ上昇し、ロンドン時間午前中の上昇分を失ってトロイオンスあたり1751ドルで終えることとなりました。
同日はインフレヘッジの役割としての金が意識されて、長期金利上昇にも関わらず堅調に推移していました。
火曜日金相場は、米長期金利が6月下旬以来の高さに上昇する中で、トロイオンスあたり1735ドルと前日から0.9%下げることとなりました。
水曜日金相場は、銀相場がトロイオンスあたり22ドルを割り、前日終値比4%安で21.57ドルと昨年7月半ばの低さへと大きく下げる動きに釣られて押し下げられましたがが、その下げ幅は0.4%と限定的なものとなりました。
そこで、金銀比価は80と、2020年10月以来の高さ(銀割安傾向)となっていました。
ちなみに銀の動きはコメックスの先物市場で、22ドルを割ったことで売りが売りを呼んでいたと分析されていました。
なお、同日の貴金属価格の下げのきっかけは、前日上昇した長期金利がその水準を維持する中で、ドルインデックスが94を超えて昨年9月以来の水準へと上昇していたことが背景となりました。
同日は、ECB主催のパネルディスカッションが行われ、パウエルFRB議長がインフレは一過性と継続唱えながらも、前日の議会証言同様に、この期間が長期化する可能性にも言及していることで、インフレ懸念が広がり、金融緩和縮小、利上げ観測を広げ、米国の債務上限の進展の無さ等もドルを動かしていました。
木曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎにトロイオンスあたり40ドルほど上昇して一時1764ドルを付けた後に1753ドルで終えていました。
この背景は、長期金利とドルインデックスは、前日のそれぞれ7月以来と昨年9月以来の高い水準で維持されている中で、世界株価が下げていることへ反応をしていました。
株価の下げは、FRBによる量的緩和縮小開始、サプライチェーン毀損による価格高騰、そして同日が期限の米政府機関の一部閉鎖を避けるための連邦予算合意への懸念等が要因となっていました。
また、同日発表の新規失業保険申請件数が3週連続で増加していたこともセンチメントを悪化させていました。そして、同日は月末、四半期末であり、今月3%を超えて下げている金のポジション調整も入ることとなりました。
本日金相場は、前日の上げ幅をほぼ維持し、トロイオンスあたり1757ドルと多少ながら上昇してロンドン時間夕方に推移しています。
本日は第3四半期の初日ですが、今週1年ぶりの高さへ上昇したドルが若干下げ、3ヶ月ぶりの高さとなった米長期金利も一服していることで、金も動意薄となっている模様です。
この間、世界株価は前日の下げからまちまちの動きをしており、必ずしもリスクオンで無いことも金をサーポートしている模様です。
なお、米国連邦政府の債務上限問題は解決しておらず、この問題が解決しない限りは、今月18日には政府資金が底をつき債務不履行に陥る恐れがあるとイエレン財務長官は今週警告したことも株価の頭を押さえている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日にFOMCを前に中国の恒大集団債務問題で株価市場が揺らいでいた際に、プラチナを除き全ての貴金属でネットロングが減少していたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、52%減の129トンと、2019年5月28日以来の低さへ減少していたこと。これは、ショートポジションが20%増加し、ロングポジションが23%減少していたことから。建玉は4週連続で減少していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比95%減の140トンと2週連続で減少し、2019年6月11日以来の水準へ下げていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、8週連続でネットショートだったものの、17%減の21トンと3週ぶりにネットショートを2019年6月以来の大きさから減少させていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは2週連続のネットショートで、93%増の5.3トンとこのレポートが発表された2006年以来最大規模となっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で3.5トン(0.35%)減少し990トンと、2020年4月8日以来の低さで、週間で2週連続の減少傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、週間で1.37トン(0.27%)増で498トンと9月10日以来の低さで、5週ぶりの週間の減少傾向となっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で122トン(0.7%)増で、17,089トンと2週連続の週間で増加傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週月曜日に水曜日に80台と11月30日以来の銀の割安傾向となったものの、本日は79を割る水準へ戻していること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、週間平均は10.10ドルと5月14日の週以来の高さとなっていたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、水曜日に金と銀が金利とドル上昇で大きく下げ、良く木曜日月末と四半期末で今週大きく下げていた価格が上昇する中で、週間では前週比それぞれ19%と31%と上昇する中で、プラチナは48%減少し、直近の週平均を大きく下回っていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は米雇用統計が発表され、これが重要イベントとなりますが、その他米国の債務上限適用停止法案の上院での議決関連、また民主党の税制・支出法案の議会での動き等も注目されることとなります。
その他、火曜日の主要諸国のサービス部門PMI、米国のISM非製造業景況指数、水曜日の米雇用統計の先行指標と見られているADP雇用者数、木曜日の米新規失業保険申請件数、金曜日の中国Caixinサービス部門PMI等も重要となります。
詳細は主要経済指標(2021年10月4日~8日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年9月27日~10月3日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年10月4日~8日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年9月27日)米長期金利が上昇する中、恒大集団債務問題懸念は中国の需要を増加させ、金価格は堅調に推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、野党労働党の年次大会の模様、パンデミックによる移動制限などからも英政府によって行われていた給与肩代わり制度が昨日終了したこと、大型トラックのドライバー不足によるガソリンスタンドへのガソリン供給が滞り、長蛇の列ができているニュースが連日伝えられていました。
そのような中で、パンデミックで一年半延期を経て公開された人気スパイ映画「007」関連ニュースも多く伝えられているのでご紹介しましょう。
本日伝えられているのは、昨日の公開日にすでに450万ポンドから500万ポンド(6億7700万円から7億5200万円)の収益を英国とアイルランドで上げたとのこと。過去の例と比べると、2015年の「007スペクター」を13%上回り、2012年の「007スカイフォール」を26%下回るとのこと。
そして、この映画は772の映画館で上映され、2019年のスター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明けの映画館数を26上回る過去最高の数とのこと。
なお、この映画の主役ジェームズ・ボンドを演じるダニエル・クレイグ氏は、この映画を最後に降板する事になっていますが、先週英国海軍は彼へ名誉中佐に任命したとも伝えられていました。これは、ジェームズ・ボンドは作中で海軍中佐という設定であるからとのこと。
パンデミックのために数回公開日を延期せざるを得なかった映画ですが、この公開がパンデミック後の日常が戻ったことを告げるものであったと後日振り返って言えることを祈りたいと思います。