ニュースレター(2020年5月8日)ロックダウ解除への期待の中で、米雇用統計悪化、米中対立や財政悪化懸念で金は上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1716.02 ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.77% 上げています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり15.46ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から4.14%上昇しています。そして、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では774.02ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.18%上昇しています。
今週金相場は先週のロックダウン解除の期待や月末の調整による下げ幅を大分取り戻し、週間としては上昇で終える傾向となっています。今週は先週までの悪化する経済指標とロックダウン解除への経済回復への期待の綱引き状態に加え、新たに新型コロナウイルス感染責任問題を巡る米中対立への懸念が入ることとなりました。
また、それに加え世界諸国が実体経済を支えるために導入している経済刺激策ですが、今週米国の債務拡大の懸念による長期金利の上昇でも金相場が動くこととなりました。それでは、今週のその市場の動きを追ってみましょう。
月曜日金相場は、米中関係悪化懸念で株価が下げる中で上昇基調となってはいるものの、安全資産としてドルも買われていることから、堅固な動きでありながら頭を抑えられていました。
米中関係悪化の背景は、日曜日にトランプ大統領が、中国で発生した新型コロナウイルスに関する詳細のレポートを近い将来に発表すると述べ、これはポンペイオ米国務長官が新型コロナウイルスの武漢の研究所が起源である「多数の証拠」があると述べたことに続くものでした。
火曜日金相場は、トロイオンスあたり1700ドルを挟む攻防となっていました。
その動きの背景としては、米中の関係悪化再燃が安全資産の需要を高めているものの、経済活動再開期待はリスクオン基調を高めるものであり、同日原油価格と世界株価が上昇していることも、金の頭を抑えるものでした。
また、精錬会社のMKS Pamp社のレポートによると1705-1710ドルでは産出会社の売りが起きているとのことでした。
水曜日金相場はドルインデックスが4営業日連続で強含み、心理的節目の100を超える中でトロイオンスあたり1700ドルを割り1682ドルと前週金曜日以来の低い水準へと下げていました。
この背景は、同日米ADP全国雇用者数が予想の2000万人を超える2023.6万人と発表されて数値そのものは大恐慌以来の記録的なものであるもののほぼ想定内であったこと、経済再開を期待した株式市場等のリスク資産への資金流入も続いていること、そして米長期金利が4月半ばの水準へ上昇していたこと等から金を押し下げていました。
米長期金利の上昇は、米国政府が国債発行額を政府の新型コロナウイルス対策に必要な資金を調達するために960億ドルへ引き上げることが発表されて、大量の国債発行予定からも売却が進んだことからでした。
木曜日は、同日午後に発表された米新規失業保険申請件数は再び316.9万人と予想を上回る数値で、また前日トランプ大統領が中国が米国商品2000億ドル購入の約束を履行しない場合貿易協定破棄する可能性に言及したことが伝えられ、ロンドン時間午後にドルが弱含む中で金がトロイオンスあたり1720ドルへと1週間ぶりの高さへ大きく上昇をしていました。
なお、同日は前日3週間ぶりの高さへ上昇していた長期金利が下げに転じたことも金上昇の要因となりました。
ちなみに、同日早朝にイングランド銀行が金融政策発表を行い金融政策を据え置いたことで、ポンドは一時対ドル強含んでいましたが、さらなる緩和の準備があると明言していたこと、また今年のGDPが前年比14%減になると予想したことでポンドはその後下げを広げることとなりました。
本日金曜日は、英国が第2次世界対戦終戦75周年記念で祝日の中、昨日の終値からは下げているものの、トロイオンスあたり1710ドルと週としては上昇で終える方向で推移しています。
本日市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は2050万人減と、予想の2200万人減を下回るものでした。これは、1930年題の大恐慌以降の最大の落ち込みで、失業率は14%の予想を上回る14.7%となっていました。
これを受けて、米国株価指数S&Pは上昇していましたが、金相場はトロイオンスあたり10ドル以内の動きをした後に多少下げて落ち着いていました。
なお、本日は今週再燃した米中対立関連ニュースとして、ムニューシン米財務長官とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はが昨夜、中国の劉副首相と電話で会談し、米中貿易交渉の「第1段階の合意」を履行することを確認したと伝えられていましたが、その後トランプ大統領が米中貿易第一段階合意に対し懐疑的で有ることも伝えられており、リスク資産は上昇していますが、ドルは弱含んでいることも金のサポートとはなっているようです。
その他の市場のニュ―ス
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金曜日にワールドゴールドカウンシルによって発表されたレポートによると、世界の金ETFの残高が4月に170トン増と6ヶ月連続で増加し3355トンでその評価額とともに史上最大となっていたこと。 -
月曜日にはスイスがロックダウンの段階解除を始めたことで、操業を縮小していた主要精錬会社の2社、ValcambiとArgor-Haraeusがそれぞれ85%、90%へとその規模を拡張することが伝えられていたこと。そこで、金先物価格とロコ・ロンドン価格の差(プレミアム)がロックダウンが広がった3月にトロイオンスあたり100ドルまで記録的な幅となっていたものの、火曜日昼過ぎには本来の3-4倍であるものの7ドルまで狭まっていたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週28日にFOMCを翌日に控える中で、パラジウムを除く全ての貴金属で増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比2.5%増の572.5トンと増加していたこと。建玉は前週同様に4週連続で100万枚を超えていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比5%増の2,207トンと3週間ぶりに増加したこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比53.5%増で8.2トンと12週ぶりに増加して、3週間で最大の規模であること。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比20.4%減の2.8トンであったこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで7.9トン(0.7%)増で1076トンと引き続き2013年4月末以来の7年ぶりの高さとなっていること。しかし今週は少ないながら水曜日に0.6トン減少し、3月30日から減少無しの記録が途絶えたこと。しかし、7週連続の週間の増加傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間5.21トン(1.23%)増で422トンと過去最大となっていること。また、引き続き4月6日以来減少無し。そして、7週間連続の週間の上昇の傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で0.41%増加して、2週連続の週間で増加傾向であること。 -
金銀比価は今週火曜日に115を付けて銀割安傾向が高まった後に本日は111まで下げていること。 -
今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が35.21と過去4週間で最も低くなっていること。 -
コメックスの取引量は今週木曜日までの週平均量で前週比15%増加し、昨日木曜日に金価格が1.4%上昇した際に3月26日以来の高さとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は欧米諸国のロックダウンの段階解除のニュースに金融市場はリスクオン基調へと動きながらも、新型コロナウイルス感染責任問題を巡る米中対立関連ニュースも注目されていました。
来週も引き続き欧米諸国のロックダウン解除関連ニュースや米中対立関係ニュースは注目されますが、コロナ危機が経済に与えた影響という意味では、経済指標の注目度も高まることとなります。
主要経済指標としては、火曜日の中国の生産者及び消費者物価指数、水曜日の英国の第1四半期GDPと鉱工業生産、米国の卸売物価指数、木曜日のドイツ消費者物価指数、米国の新規失業保険申請件数、金曜日の中国小売売上高と鉱工業生産、ドイツとユーロ圏の第1四半期GDP、米国小売売上高と鉱工業生産とニューヨーク連銀製造業景気指数とミシガン大学消費者態度指数等となります。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2020年5月4日~8日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2020年5月11日~15日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2020年5月4日)米中関係悪化懸念の高まりで、金ETFは残高を数年ぶりの高さへ増加し金銀比価は一月ぶりの高さへ上昇する中で、金相場は堅固に推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。
ロンドン便り
本日英国は通称VEデー(Victory in Europe)という第2次世界対戦欧州戦勝記念日の祝日ですが、今週は英文の市場レポートを日々執筆していてニュースレターの準備が遅れていましたので本日お届けしています。
そこで、日本ではあまり馴染みのないVEデーについて今日はここでご紹介しましょう。
ご存知のように今年で第2次世界大戦後75周年となるために、本来英国の5月一週の祝日は月曜日であるものを金曜日に変更して、国を上げて祝う予定となっていました。過去に50周年記念でもこのように変更されていたようです。
ただ、英国は未だロックダウン下であるために、本日は大きなイベントは行われず、それぞれの自宅で祝う事となっています。
ちなみに5月8日は実際にドイツが無条件降伏を受け入れて、降伏文書に署名した日となります。
本来であれば、多くの人々がストリートパーティを行い、ご近所や友人の人々とこの日を祝うのですが、本日は英国空軍のレッドアローズがロンドン上空を午前11時前に飛行後に2分の黙祷が行われ、午後3時に75年前の本日チャーチル首相が行ったスピーチがBBCで放送され、そして「英国王のスピーチ(The King’s Speech」の映画でも知られているエリザベス女王の父親のジョージ6世が終戦のスピーチを行った午後9時にエリザベス女王のスピーチが放映されるという、控えめな祝賀行事が行われています。
ロックダウン解除への最初のステップが今週日曜日にボリス・ジョンソン首相が発表するようですが、今年のVEデーは人々にとって国が一つとなってCovid-19と戦う最中の一日と記憶に残るものともなりそうです。