ニュースレター(2020年4月9日)米長期緩和観測で金は5週ぶりの高値を付け、インフレ期待で多少戻す
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1740ドルと、前週木曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.8%高で2週ぶりの上昇となっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり25.20ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から3.6%高と、やはり2週ぶりの上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1204ドルと前週LBMA価格から0.4%高と2週連続の上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は長期金利とドル高が下げたことで金は5週ぶり、銀は2週ぶり、プラチナは6週ぶりの高さへ一時上昇していましたが、本日一転長期金利とドルが上昇をしていることからも、今週の上げ幅を金と銀は幾分失いつつあり、プラチナは前週終値比下げて推移しています。
まず、長期金利とドルが下げた背景は、週明け長期金利とドルが上昇を一服する中で、水曜日発表のFOMC議事録でFRBは物価の安定と雇用の最大化には程遠いとして金融緩和継続の必要性を明確に唱えていたことが確認され、それを裏付けるように木曜日の米新規失業保険申請件数が予想を上回っていたことからでした。FRBによる金融緩和の二本柱の低金利と資産購入プログラムは、ドルと長期金利の上昇を抑えるものとなります。
しかし、本日長期金利とドルが強含んでいるのは、発表された中国の消費者物価指数と米卸売物価指数が予想を上回り、インフレ懸念が国債売却を進めて利回りを上昇させて、ドルを強含ませたことからでした。インフレ期待は本来インフレヘッジでもある金にとってはサポートとなりますが、これが実質金利低下観測で国債売却に繋がり利回りが上昇した場合は、金利を産まない金にとってはネガティブ要因となります。
下記に金価格と米国債10年物の利回りと市場が予想する期待インフレ率(Break Even Inflation rate)を示すグラフを添付します。ここで、金価格(黄色)金利(緑)がほぼ負の相関関係であることが分かります。また、期待インフレ率(赤)が上昇していることも分かります。
日々の金相場の動きと背景について
イースター休暇明け火曜日金相場は、長期金利とドルが弱含む中で、トロイオンスあたり1745ドルを一時付けるなど、前週終値比0.9%上昇していました。
この背景は、先週金曜日の米雇用統計が予想64.7万人を上回る91.6万人と良好なものであったこと、米政権が4月19日までに全成人をワクチン接種対象とすることを州政府に要請したこと、IMFがワクチンの普及で米英、欧州の経済回復がこれまでの予想よりも早く進むと述べたこと等からも、Stoxx欧州600やS&P500 等の株価指数が史上最高値を付けるなど、世界株価が上昇してリスク資産に資金が流入していることがドルと長期金利の上昇を一服させる背景となっていました。
水曜日金相場は、FOMCの議事録発表を待つ中で、長期金利とドルがほぼ前日と同水準で推移し、トロイオンスあたり10ドルの狭いレンジでの動きで、1736ドルと前日比下げて終えていました。
市場注目のFOMCの議事録では、雇用とインフレ目標が達成できるには暫く掛かるという認識が示されたことで、資産購入プログラムの変更は近い将来無いことが確認されていましたが、市場への影響は限定的なものとなっていました。
木曜日金相場は、長期金利とドルが2週ぶりの水準へ弱含む中でトロイオンスあたり1758ドルと1ヶ月ぶりの高さを付けるなど大きく上昇していました。
これは、前日発表されたFOMC議事録の内容がハト派的であったことが下地となっている中で、同日発表された米新規失業保険申請件数が予想を上回るもので、米経済が早期回復観測が後退したことが要因となりました。
また、同日パウエルFRB議長は、IMFのパネル討論会に参加し、「景気回復は不均一で不完全なままだ」としたことも貴金属をサポートすることとなった模様です。
本日金相場は、長期金利とドルが上昇に転じたことで、トロイオンスあたり1731ドルを一時付けるなど下げることとなりました。
これは、本日発表された中国の消費者物価と米国卸売物価指数が共に予想を上回る高さとなっていたことで、インフレ観測からも米国債が売られたことで利回りが上昇し、ドルが強含んだことからでした。
また、米国でのワクチン接種加速による経済活動正常化期待からダウ工業株30種が本日史上最高値を更新していることからも、リスク資産へと金からの資金の流出も起きている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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ハンガリーの中央銀行が金準備を31.5トンから94.5トンへと3倍にしたと発表したこと。ちなみに、ポーランドの中央銀行は、先月今後数年で現在の229トンの金準備を100トン増加する計画と発表。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週30日に、長期金利が14ヶ月ぶりの高さ、ドルが4ヶ月ぶりの高さへ強含む中で金が3週間ぶり、銀が3ヶ月半ぶりへ下げたものの、プラチナとパラジウムは下げ幅を抑えていたことからも、金と銀は減少し、プラチナとパラジウムは増加していたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、9.9%減で154トンと2週ぶりの減少となっていたこと。建玉は昨年9月末から100万枚を下回っていること。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比7.2%減の3,303トンと6週連続で減少し、引き続き5月19日以来の低さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.85%増の13.6トンと3週連続の増加となっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比4%増で10トンと3週連続の増加となっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で6.8トン(0.25%)減で1026トンと13週連続の下げ傾向。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で1.13トン(0.22%)減で502.8トンで、3週連続の減少の傾向。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で8.25トン(0.05%)減で17,880トンと9週連続の減少傾向であること。 -
金銀比価は、今週69台で安定して推移していたこと。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は7.77と先週の6.39から上昇していたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、この数週間の平均を下回るものであったものの、昨日銀価格が上昇時には取引量は平均を上回る水準へ急増していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
昨日2週ぶりの高さへ上昇し、本日押し戻されている金相場のように、今週も長期金利とドルの動きに反応して動いています。そこで、これらを動かす要因となる経済指標やFRB関係者の発言が注目されます。
そのために、来週は火曜日の米消費者物価指数、水曜日のパウエルFRB議長の発言と米地区連銀経済報告、木曜日の米新規失業保険申請件数等が重要となります。
また、引き続きCovid-19感染関連、そしてワクチンニュースは重要となります。
それでは、詳細は主要経済指標(2021年4月12日~16日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年4月5日~9日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年4月12日~16日)来週の予定をまとめています。 -
金投資需要がパンデミック前の低さへと96%減少
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
本日エリザベス女王の夫であるエジンバラ公フィリップ殿下が99歳でお亡くなりになったことが昼過ぎに伝えられ、このニュースがすべての英国メディアで大きく伝えられています。
エリザベス女王とフィリップ殿下は1947年に結婚され、1952年にエリザベス女王が即位されて以来公私ともに女王を支えてこられました。英国君主の配偶者としては68年と史上最も長い年月とのこと。
2017年に96歳で公務から引退され、今年に入り2月には感染症と心臓の手術で一月ほど入院したものの、先月退院されていました。
ギリシャの王子の息子として生まれたものの、政変で欧州のいくつかの土地で過ごした後に英国に移り住み、英海軍の士官候補生として入隊して第2次世界対戦にも従軍されたとのこと。エリザベス女王が即位されてからは英海軍を離れてエリザベス女王の公務を支えることに専任されていました。
また、フィリップ殿下は世界自然保護基金の初代総長や科学技術産業振興協会の会長等多くの団体の長として活動をされていましたが、ご自身で設立した若者がチャリティー活動や屋外活動を積極的に行うことで得られる「エジンバラ公賞」を設立し、すでに世界で144カ国でこの活動が行われているとのことです。
私の子ども達も中学と高校時代にこの活動に参加しましたが、数日に渡る長距離ウォークや、スポーツを定期的にして、チャリティー活動に参加することで賞を得ることができるという、学校の枠組みを超えた活動に触れるきっかけとなる素晴らしいものでした。
外交の場では、本音を言ってしまう性格でいらしたことから多少問題もあったようですが、女王を長年支え、自分の意見を率直に話すフィリップ殿下を慕う人々は多く、お二人が過ごされれるバッキンガム宮殿やウィンザー城等には本日献花をする人々の波が途絶えていないようです。
心からフィリップ殿下のご冥福をお祈りします。