ニュースレター(2019年6月7日)米経済指標の悪化でFRB金利引き下げ観測が広がり金は年初来の高さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1340.74ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から3.5%上昇しています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.91ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から2.97%上げています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では809.12ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.3%上げています。
今週は米雇用統計が先行指標と共に予想を大きく下回り、主要中央銀行関係者のコメントからも、更なる金利引き下げ観測が広がり、金相場を2月以来の高さへと押し上げることとなりました。それでは、日々のニュースと動きについてお伝えしましょう。
月曜日金相場は、ドルインデックスが0.1%下げ、米長期金利が21か月ぶりの低さの2.1%へと下げる中で、1.5%上げのトロイオンスあたり1325ドルまで上昇して終えていました。
これは、週末に米中摩擦が、貿易から安全保障へと広がる中で、安全資産としての金が買われていたからでした。
まず貿易面では、中国は6月1日から米国の政策への対抗策として米国製品600億ドル分に追加関税を最大25%へ引き上げたと共に、先週金曜日には、中国企業の利益を損ねる外国の企業や組織をリスト化すると発表していました。
そして、土曜日に米物流大手フェデックスをファーウェイへの荷物を無断で米国へ転送したことで、捜査することを決めたと中国メディアが伝えていました。
また安全保障では、先週土曜日にヤナハン米国防長官代行がインド太平洋地域で拡張主義的な動きを続ける中国をけん制すると、中国人民解放軍幹部は米国による台湾への接近を批判したことも両国間の緊張を高めることとなりました。
火曜日金相場は、株価が全般反発する中でトロイオンスあたり1320ドルと1329ドルの間を推移していました。
株価の上昇は同日パウエルFRB議長が利下げの可能性にも触れたこと、またメキシコの外相がトランプ政権の関税を8割がた避けることが交渉で可能であろうと述べたこと等が好感されたことからでした。
水曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1343ドルと3か月半ぶりの高さへと一時上昇していました。
金価格の上昇は、同日発表の米雇用統計の先行指標と見られているADP全国雇用者数が前月から2万7000人の増加にとどまり、市場予想の17万3000人を大きく下回ったことから、米経済への懸念から、そしてFRBによる金利引き下げ観測も広がりドルが弱含んだこと等からでした。
その後、トランプ政権がメキシコ関税に関して「メキシコが3つの条件を満たせば関税は課さない」と述べたことから、株価が上昇する中で、金は上げ幅を若干失うこととなりました。
また、同日発表の米国地区連銀経済報告(ベージュブック)が予想よりも米国経済先行きを楽観視していることも明らかとなり、金利引き下げ観測が後退しドルが強含む中で金は押し戻されることとなりました。
木曜日金相場は、ドルインデックスが若干下げる中で、トロイオンスあたり1339ドルへと一時上げ、前日の2月半ば以来の高値からは下げているものの、緩やかに上昇することとなりました。
この背景は、同日注目の欧州中央銀行の金融政策発表では、政策金利は少なくとも2020年前半まで据え置くと、従来の今年末までから先送りしたものの、内容は期待ほどハト派でなかったことから、ユーロが上昇していることから相対的にドルが下げることとなりました。
しかしながら、同日トランプ大統領が、中国製品に対する追加関税を課すかどうかについては「(今月末の)G20サミット後に決める」と述べたと伝わったこと、そして前日には中国に対して「少なくともさらに3000億ドルの関税を課せる」と話していたことから、米中協議を巡る警戒感を誘うことになりました。
本日金曜日は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数が予想の185,000人を大きく下回る75,000人であったことから、金相場は一時年初来の高値のトロイオンスあたり1348ドル、昨年4月以来の高さへ達した後に、ロンドン時間午後5時には1342ドル前後を推移しています。
なお、米国失業率は、予想と前回同様の3.6%で、平均時給は前年比3.1%前回と予想の3.2%を下回っていました。平均時給は前月比も予想の0.3%を下回る前回同様0.2%でした。
また、本日トランプ政権は中国製品への追加関税を部分的に1週間遅らせることを発表し、そして、本日中国人民銀行総裁もまた貿易戦争が悪化した場合、政策予余地は十分にあると金融緩和政策を示唆したことからも、世界株価は上昇しています。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週月曜日に16.4トンと一日の増加量としては、2016年7月以来の高さを記録したこと。その後水曜日に2.1トン減少し、木曜日までに14.3トンの週間の上げとなっていること。 -
金銀レシオは今週も昨日まで88を超える26年来の高い水準でしたが、水曜日は90.14と再び1993年3月末以来の高さへと上昇していたこと。 -
先週末に発表されたコメックス貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週火曜日に米中貿易戦争の激化と欧州議会選挙でポピュリスト政党が躍進したことへの懸念が広がる中で、金とパラジウムはネットロングが増加し、銀とプラチナはネットショートが増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のポジションは5週連続でネットロングで、そのポジションは前週比36%増で103トンとなっていたこと。 -
コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に9週連続でネットショートで、そのポジションは26.5%増の6,072トンと2018年10月9日以来の高さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に13週ぶりにネットショートで、15.75トンとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に10.83%増の28.55トンへと増加していたこと。 -
米国投資銀行のモーガンスタンレーはトランプ政権が25%の追加関税を新たに3000億ドルの中国製品に課し、中国が対抗した場合、景気後退が9か月以内に始まるとしていること。 -
また、JP モーガンは別に後半期に米国で景気後退が起こる可能性をひと月前の25%から40%へ引き上げたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週の経済指標では、主要国の消費者物価指数が注目されますが、曜日ごとに月曜日の中国の貿易収支、日本の第1四半期GDP、英国鉱工業生産、火曜日の英国失業率及び失業保険申請件数、米国の卸売物価指数、水曜日の中国の消費者及び生産者物価指数、米国消費者物価指数、木曜日のドイツの消費者物価指数、ユーロ圏の鉱工業生産、金曜日の中国と米国の小売売上高及び鉱工業生産、そして米国のミシガン大消費者信頼感指数等となります。
また、市場は今週末の福岡で行われるG20で米中首脳会談が行われるのか等、貿易協議関連ニュースや、昨日協議の前進が伝えられている米国とメキシコの移民及び貿易協議の行方も重要となります。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年6月3日~7日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年6月7日~14日)来週の予定をまとめています。 -
【金投資家インデックス】一般投資家の金購入は株価の下げの中でも進まず
ロンドン便り
今週6日は第2次大戦のノルマンディー上陸作戦から75周年ということで、記念する式典の数々が行われていたのでご紹介しましょう。
ご存知のようにノーマンディー上陸作戦はナチスドイツ占領下のフランスへの侵攻作戦で、200万人近い兵士がドーバー海峡を渡ってノルマンディーへと上陸したことから、現在に至るまでの歴史上最大規模の上陸作戦とされています。
記念式典は、まず5日に英国南西部のポーツマスで行われ、英国を公式訪問していたトランプ大統領を含みエリザベス女王、メイ首相、マクロン仏大統領、モリソン豪首相、トルドー加首相と連合軍の国々の首脳と共に、敗戦国ドイツのメルケル首相も、この作戦を戦った退役軍人やその家族と共に出席しました。
そして、翌6日には対岸のノルマンディー海岸でも同様に各国首脳が、やはり退役軍人とその家族と共に参加して記念式典が行われました。
「D-ディ」と呼ばれる作戦決行日1944年6月6日には、156,000人の連合軍兵士がノルマンディーの海岸に上陸し、その日1日で4,400人の連合軍兵士が戦死したとのこと。それに加え、ドイツの戦死者は同日4000人から9000人。そして、フランスの民間人も数1千人が無くなったとのことです。
今回の式典に参加した退役軍人の方達は多くは90代ですが、300人の方々はポーツマス港からノルマンディーでの式典に参加するためにクルーズ船で向い、ノルマンディー作戦でパラシュート部隊だった二人の退役軍人の方々は、今回75周年を記念に、タンデムでスカイダイビングをされたことも伝えられていました。
数年前に他界した私の義理の伯父もノルマンディー上陸作戦でパラシュート部隊であったことからも、彼を思いこのニュースを聞いていました。
貿易戦争や一国主義などと心が冷えるニュースが多い中で、各国首脳が再度過去を振り返り平和を共に誓ったことが、形ばかりで終わらないことを祈りたいと思います。