金市場ニュース

ニュースレター(2019年5月10日)米中貿易協議の行方を見守る中で金上昇

今週からオフィスに戻ってまいりました。そこで、通常通り今週の金市場をまとめたニュースレターをお届けします。

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1286.48ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.6%上げています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.79ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.9%上げています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上で858.38ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.4%上げています。

今週金相場は、米中の貿易協議が終盤に近付く中でその成り行きを市場が観測する中で動くこととなりました。それでは、その動きを日々追ってみましょう。

日本や英国の祝日明け火曜日の金相場は、世界株価が全般下げ、米国株は2%と1月以来の下げ幅となる中で、トロイオンスあたり1286ドルへと一時上昇後に1284ドルで終えていました。

これは、5日トランプ大統領がツィートしたことに続き、米通商代表部のライトハイザー代表も6日に、2000億ドル分の中国製品に対する制裁関税を10日に10%から25%に引き上げると表明したことが要因となりました。

これにより、欧州委員会は経済成長予想を引き下げ、貿易摩擦による悪影響を警告していたことからもユーロが大きく下げたことがドルを相対的に強めてドル建て金相場は一時下げていましたが、ユーロ建て金相場は1146ユーロと、4月末以来の高さへと上昇していました。

なお、先のニュースで安全資産として日本円も強含んだことから、円建て金相場はgあたり4551円まで一時下げていました。

水曜日金相場は、ロンドン午前中にアジアと欧州株が下げる中で、トロイオンスあたり1291ドルと4月14日以来の高さへと上昇していましたが、その後ドルが強含む中で1281ドルへ下げて終えていました。

同日午前中の上昇は、米通商代表部が2千億ドル(約22兆円)分の中国製品に対する制裁関税を10日に現在の10%から25%に引き上げると官報で正式に通知したこと等からも懸念が広がっていたことからですが、その後の下げは、トランプ米大統領がツイッターに「中国の劉鶴副首相らは取引するために訪米する」と投稿し、またトランプ政権のスポークスマンが中国は合意することを望んでいる意思表示を得たと述べたことも伝わり、楽観的観測が広がったことからでした。

なお、同日発表された中国の貿易収支は輸出高が前年比-2.7%と予想の2.3%を大きく下回り、輸入高が予想の-3.6%を上回る4.0%となっていたことも、午前中の金上昇の要因の一つとなりました。

また、イランが同日、昨年5月に米国が核合意から離脱したことへの報復措置として、核合意の履行を一部停止すると宣言したことも、ロンドン午前中の金価格上昇を支えることとなりました。

木曜日金相場は、同日から始まる米中貿易協議の行方を待つ中でトロイオンスあたり1288ドルへと一時上昇していました。

同日も株価は交渉決裂への警戒感からも全般下げており、日本円が安全資産として買われ、円建て金価格はグラムあたり4531円と今年1月24日以来の低さへと下げていました。

また、北朝鮮は同日再び飛翔体を発射しており、イラン情勢と共に地政学リスクが高まっていたことも金をサポートすることとなりました。

本日金曜日は、ロンドン時間早朝にトランプ政権が2000憶ドル相当の中国製品に課す制裁関税を10%から25%へ引き上げ、中国も報復措置を取るとの声明を出したことが伝えられる中で、米国株は5営業日続けて下げていることからも、ロンドン時間午後にトロイオンスあたり1287ドルへと上昇しています。

しかし、トランプ大統領が「中国との交渉は非常に快適に進んでいる」としていることからも、交渉決裂への警戒感は高まっていない模様で、その上げ幅は限られているようです。

なお、本日発表の米消費者物価指数は、市場予想の2.1%を下回る2.0%であったものの、上昇率は前月比0.1%と昨年11月以来の5か月ぶりの伸びとなったことで、FRBによる利上げ無しという観測からもドルが多少ながら弱含んだことも金相場を支えている模様です。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週0.3トン月曜日に増加し、その後昨日まで変更がなく、739.9トンと引き続き昨年10月11日以来の低い水準となっていること。

  • 金銀レシオは、今週も86を超る高水準で推移し、昨日は先週金曜日の26年ぶりの高さの86.66を多少下回る86.65を付けていたこと。

  • 火曜日中国の金準備が6ヶ月連続で増加し、先月は15トン増で1900トンへ達したことが明らかとなっていたこと。

  • 先週末に発表されたコメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週火曜日にFOMCの発表を待つ中で、プラチナを除きすべて強気ポジションを増加させていたこと。

  • コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは2週間ぶりにネットロングで、146%増の32トンとなっていたこと。

  • コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5週間連続でネットショートであったものの、そのポジションは20.2%減の2217トンとなっていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日もネットロングであったもののそのポジションは2週連続で減少し、4%減の33.99トンとなっていたこと。

  • また、コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、6.95%増の30.92トンと、2週連続で増加していたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

本日米国時間午前0時1分からトランプ政権は中国製品に課す制裁関税を10%から25%へと引き上げていますが、本日も継続している米中貿易協議、そして今後の中国の報復措置などに市場は来週も注目することとなります。

その他主要指標としては、火曜日のドイツ消費者物価指数、英国の失業率、ユーロ圏の鉱工業生産、水曜日の中国の小売売上高と鉱工業生産、ドイツとユーロ圏の第一四半期GDP、米国小売売上高とニューヨーク連銀製造業景気指数と鉱工業生産、木曜日の米国住宅着工件数とフィラデルフィア連銀製造業景気指数、金曜日のユーロ圏消費者物価指数と米国ミシガン大学消費者態度指数などとなります。

ブリオンボールトニュース     

今週7日が、元財務大臣であったゴードン・ブラウン氏が英国金準備の56%を20年来の低値の際に売却を告知して20周年を迎えることから、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのこの背景を解説する記事が多くの主要メディアで取り上げられています。

BBC「金:ゴードン・ブラウン氏の売却は20年後も議論を醸し出している

この記事では売却タイミングが最悪だったとし、エィドリアンの「20年ぶりの弱気市場で売却を行った」というコメントと共に、イングランド銀行を含む多くの人々がブラウン氏に忠告をしていたというエィドリアンの指摘も紹介しています。

そして、エィドリアンの当時中央銀行が金を売却した背景の解説を取り上げた上で、この記事では多くの中央銀行が経済や金融の支えとしての金の役割は終わったとして売却をしていたことで、ブラウン氏が売却をする正当な理由はあったとしても、昨年は1967年以来の高い水準で中央銀行が金を購入し今年もその傾向が続いていることを紹介し、「金が過去の資産だ」という理由は正しくなかっただろうと結んでいます。

英国主要日刊紙タイムズ「金は未だ良い投資なのか?」

この記事では、金相場が地政学リスクの高まりで上昇することを紹介し、エィドリアンの「ITバブル崩壊後の2000年~2003年に金投資の価値が証明されたとし、1968年以来5年単位で英国株価が下げた際に96%金は上昇している。」と述べ、「弊社の顧客は現物金地金を利益目的で必ずしも購入しているのではなく、他の資産が下げた際のヘッジとして購入している。」というコメントを取り上げています。

英主要日刊紙ディリーメイル「【現代の最悪の投資】と地金専門家も酷評するゴードン・ブラウン氏の底値で英金準備を売却した悲惨な決定

見出しでも引用されているエィドリアンのコメントですが、この記事では、当時24億ポンドで売却された金地金は、今日は170億ポンドの価値であるとし、エィドリアンの「おそらく、現代において最悪な投資判断であったと言えるブラウン氏の金準備売却は、ITバブルがピークを打ち、多くの西欧の中央銀行がその金準備を売却していた時期でもあった。それ以来、世界金融危機が金融システムの保険として金を保有するメリットを明確に示し、ロシアや中国などの新興国の国々が金準備を急激に増加させている。」というコメントを紹介しています。

英国主要日刊紙ディリーテレグラフ「ゴードン・ブラウン氏が現代で最悪の投資決断をして以来20年:それでは、金売却の最も良い時期は何時なのか?

この記事では、ブラウン氏が1999年に20年来の低値で英国金準備を売却した際の金価格を「ブラウン氏の底値」と一般的に呼んでいるというエィドリアンのコメントを取り上げ、財務省が売却を告知したことで、2か月後の売却時には10%価格が下げたというエィドリアンのコメントも紹介しています。

そして、金の売却方法についてまとめ、①金を個人で保有している場合は、全ての地金商が金を買取る訳ではないこと②小売価格と買取価格の差であるスプレッドに注意すべきこと等売却時の気を付ける点をリストアップし、その中でオンラインの金投資は24時間売買ができることを紹介しています。

英国の主要経済紙CityAM「ゴードン・ブラウン氏が20年前に金準備を売却したのは正しかったのか?」のディベート欄

弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュが「正しくなかった」の論客として取り上げられ、「正しかった」の論客としては、シンクタンクのParlianment StreetのTim Focas氏を取り上げ、当時多くの中央銀行が金準備を売却していたこと、金準備は金融政策の一環で使われるべきだが、政府の金融介入時には値を下げるとし、今日では国が金を持つ必要は無いとして、売却は正しかったというコメントを紹介しています。

それに対しエィドリアンは、労働党の当時の金準備売却は唐突で傲慢で、いまだブラウン氏のチームは20年後価格が5倍となった今も間違いを認めていないと述べ、資産のリバランスはその資産が底値を打っている時ではなく、高い水準の際にすべきだったとし、例としてフランスがブラウン氏が売却後に底値の250ドルから400ドルへと上昇した2004年と、その後価格が650ドルから1000ドルへと上昇した際に20%を売却したことを紹介し、これが落ち着いた慎重で正しい戦略だと述べています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

ロンドン便り

今週からロンドンへ戻ってまいりました。そこで、しばらくお休みしていましたロンドン便りを今週からお届けします。

今週の英国では、ヘンリー王子とメーガン妃の第一子誕生がトップニュースで伝えられています。そこで、ヘンリー王子とメーガン妃の第一子を巡る英国メディアの興奮ぶりを伝える、さまざまなニュースをご紹介しましょう。

まずヘンリー王子夫妻が第一子誕生に関して慣習を破っていることを多くの伝えています。それは、第一子誕生がヘンリー王子夫妻のインスタグラムで行わたこと、同日にはヘンリー王子自身でメディアのインタビューに答えたこと、そして名前は「アーチー・ハリソン・マウントバッテン=ウィンザー」と、「アーチー」と「ハリソン」がそれぞれ王室の伝統的な名前ではないこと、そして夫妻が息子に名誉称号は与えないとしたこと。そして、第一子のお披露目もウィリアム王子のキャサリン妃が出産後病院を出る際に多くの報道陣の前で行ったのとは異なり、私的なものにしたいという希望から、限られた報道陣のみが数日後招待されこと等です。

また番外編としては、ご夫妻と親交のある米俳優のジョージ・クルーニー氏が、メガーン妃が第一子を生んだことからも、メディアに彼女に対して優しく接してほしいと述べたことが伝えられていました。これは、米国のメガーン妃の家族を取材で追っかけるのをやめてほしいということのようですが、英国で一部見られているメガーン妃のへのバッシングも念頭にあるのかもしれません。

そして、BBCのDJのダニー・ベーカー氏がツィートで、男女が服を着たチンパンジーと一緒に立っているモノクロ画像を「王室の赤ちゃんが退院」という説明文を付けて発信したことで、BBCから解雇されたことも伝えられていました。これは、古くは有色人種をサルなどの霊長類に見たてて差別した歴史があることから、例え意図が無いとしてもメガーン妃へ人種差別的コメントと見られたことからでした。

昨年来ブレグジット関連の暗いニュースが続いていましたが、今週はブレグジットはどことやらという英国メディアの熱狂ぶりについてお伝えしました。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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