ニュースレター(2019年10月18日)米指標悪化と英国とEUの離脱協定案合意で金は上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1490.70ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.8%上げとなっています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり17.43ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から1% 下げています。また、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では885.73ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.3%と下げています。
今週は、週前半は米中貿易協議で部分合意ができるのかについて不透明感が残る中で企業決算が良好で株価が上昇しリスクオンで金相場は下げたものの、その後経済指標の悪化と英国のEU離脱の離脱協定案がEUと英国で合意されたことで、相対的にドルが弱含み金は上昇することとなりました。それでは、日々の動きを追ってみましょう。
月曜日金相場は、米中貿易協議の部分合意について、「中国が継続協議を求めている」とブルームバーグがロンドン時間午前中に伝えたことから、株価が下げてドルが下げる中で、金が先週後半の1%の下げを多少戻し、トロイオンスあたり1497ドルまで一時上昇し、1491ドルで終えていました。
この午後の動きは、ムニューシン財務長官が、貿易で基本合意に達していると述べたことが伝えられたこともあり、利益確定の売りと共に押し戻されることとなりました。
火曜日金相場は、欧米株価が全般上昇する中で、トロイオンスあたり1481ドルまで一時下げるなど、大きく下げることとなりました。
この株価の上昇は、同日発表された米国企業JPモルガンやジョンソン・エンド・ジョンソン等の決算が良好で大幅に上昇していることでリスク資産へ資金が流れたことからでした。
しかし、米中協議については「中国は米国との部分的合意に含まれる米国産農産物を購入する前に米国の過去の対中制裁関税を元に戻すことを望んでいる」と伝えられていたことから、この懸念などが金のサポートとはなっていたようでした。
なお、英国のEU離脱協議では、バルニエEU主席交渉官が今週合意の可能性に言及し、その後EU総務理事会の官僚間の議論で合意が近づいているとも報道されてポンドが対主要通貨で5か月ぶりの高さへ強含んでいました。
水曜日金相場は、ドルが弱含む中でトロイオンスあたり1493ドルへと一時上昇していました。
この背景は、同日発表された米国小売売上高が前月比‐0.3%と、市場予想の+0.2%に反して悪化したことがきっかけとなり、その後米中貿易協議では、WSJ紙が一部の中国政府高官が農産物購入額や期間について異議を唱えていると伝え、トランプ大統領も正式部分合意は来月のチリで行われるAPECとなるだろうと述べたこと等からでした。
木曜日金相場は、ドルインデックスが12週ぶりの低さへと下げる中で、トロイオンスあたり1497ドルへと上昇後に1492ドルで終えていました。
この背景には、前日大きく下げた米小売売上高に続き、同日発表された米国鉱工業生産とフィラデルフィア連銀製造業景気指数等が予想を下回ったことが要因となりました。
また、同日米中貿易協議関連で、中国がこれまで課されたすべての関税を撤廃しない限りは部分合意はないと述べたこと、米国が米国駐在の中国外交官に、米政府や地方自治体当局者と会う際に面会申告を義務付けたことも伝えられ、米中貿易戦争の長期化懸念も出ていました。
そして同日EUと英国が離脱案合意したことで、ポンドとユーロが対ドル上昇したことがドルを大きく押し下げる要因ともなりました。
本日金相場は、ドルインデックスが7月以来の低い水準の週の終値となる方向で推移する中で、トロイオンスあたり1491ドル前後の狭いレンジで取引されています。
本日は中国の予想を下回るGDPデータのニュースで始まりました。それは、前年比6.0%と1990年代初頭以来の低い水準となり、世界景気減速の懸念からもドイツや日本などを除く世界株価全般が下げていました。
しかしながら、昨日EUと英国が合意した英国のEU離脱をめぐる新たな離脱協定案が明日英国議会で審議採決されること、そして可決見通しは五分五分であることからも、為替市場や株価市場も含めて動きが取りづらい状況の模様です。
その他の市場のニュ―ス
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パラジウムが金曜日に1783ドルを超え、再び史上最高値を付けたこと。パラジウムは10年間で975%増。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに3.6トン減少し、918トンと、先週に続き2週連続の下げとなっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで2.92トン(0.83%)増の354トンと、引き続き史上最高値を更新していること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに1.05%下げていること。 -
金銀比価は今週は84.59から85.82の間を推移していること。 -
また、今週の上海黄金交易所(SGE)のロンドン価格との差のプレミアムは、5ドル台を推移しており、通常の9ドルからほぼ半減していること。なお、このプレミアムは中国国内の需要が高まると上昇し、需要が後退すると下がるもの。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は中国とECBが政策金利を発表され、先月緩和を行ったECBが今月末で任期終了となるドラギ総裁によってさらなる緩和を行うのかに注目が集まります。
また、その他経済指標では、木曜日のドイツとユーロ圏と米国のMarkit 製造業及びサービス業PM、米国の耐久財受注、金曜日の米穀ロイター・ミシガン大学消費者信頼感指数等となります。
なお、今週ポンドとユーロの対ドル為替レートを動かし、金相場も結果的に動かした、英国のEU離脱の離脱案が昨日英国とEUで合意されましたが、この議会での採決が明日土曜日に行われる予定で、この結果も重要となります。
また、米中貿易協議関連ニュースは引き続き市場の注目材料となります。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年10月14日~18日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年10月21日~25日)来週の予定をまとめています。 -
【金投資家インデックス】地金取引が82%増の中、銀投資が史上最高を記録
ロンドン便り
今週英国では、世界の株価市場や為替市場も動かすこととなった、英国とEUの離脱協定案合意をめぐるニュースが日々トップニュースとして多くの時間を割いて伝えられていました。
そこで本日は、この離脱協定案として変更合意された箇所とこの協定案が明日可決される可能性について伝えられている内容をまとめてお届けしましょう。
これまでの離脱協定案で問題となっていた箇所
ジョンソン首相を含む離脱派にとってバックストップ条項と呼ばれる、英国領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理を、代替の管理体制が見つかるまで、英国がEU関税同盟にとどまるということを取り決めている箇所が受け入れがたいものとなっていました。
それは、このバックストップが起動している間、英国は独自に他国と通商協定を結べず、EUの規則と関税に縛られる上に、代替案にEUが合意をしない場合は、永続的にEUの規則に縛られることとなるからでした。
このような、かなり無理のある条項が当初合意された背景には、1998年まで30年続いていた3600人以上の死者を出した、北アイルランドが英国領であることを望む「ユニオニスト」と南北アイルランドの併合を望む「ナショナリスト」の闘争があり、北アイルランドとアイルランドの国境を開放し続けることは1998年に結ばれたベルファスト合意でも重要な位置づけであったことからでした。
合意された離脱協定案で変更された概要
今回の合意ではバックストップは除かれ、英国全体がEUの関税同盟から離脱し、英国は他国と通商協定を結べることとなります。そのために、関税の境界線は北アイルランドとアイルランドの間に作られるものの、実際の税関検査は北アイルランドとアイルランド間で円滑な物品の動きを続けるために、グレートブリテン島とアイルランド島の間に引かれるというものです。
そこで、物品の規制については北アイルランドは英国のルールではなく、EU単一市場のものに従うこととなりますが、一定の期間を経て、北アイルランドの代表は4年毎にEU規制を適用続けるか北アイルランド議会で決定する権利を持つというものです。
離脱協定案可決の可能性
離脱協定案の承認に必要な英国下院の過半数は320票。ジョンソン首相の与党保守党の議席は287議席。現在保守党政権に閣外協力している北アイルランドの民主統一党は10議席あるものの、現段階では北アイルランドが英国とは異なるルールが適用されることからも反対を表明しています。
そこで、元保守党でジョンソン首相に先月合意なきブレグジットを回避する採決で逆らって投票したために、追放されて無所属となった23人の議員の支持を取り付ける必要があるとのこと。
それに加え、残留を望み2度目の国民投票を求めている自由民主党の議員19人はすべて反対することは確実視されているために、労働党や無所属議員の支持を受けないと十分な票には達しない模様です。
明日の議会のスケジュールは、9時半に下院でジョンソン首相が今回EUと合意した離脱協定案について説明し、質問を受けた上で、同日議論し採決される詳細の内容が決まり、離脱協定案の採決は午後半ばから夜になる模様です。
これまで何度もEU離脱の鍵となる採決が行われてきましたが、いよいよ明日の採決は英国の将来を決める最も重要なものになると思われます。3年の年月を経て英国は離脱をすることができるのか、しっかりその結果を見守りたいと思います。