金市場ニュース

ニュースレター(2018年9月21日)米中貿易戦争懸念後退のドル安の上げ幅をリスクオン基調から失う

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1197.25ドルと、前週金曜日のLBMA金価格のPM価格(午後3時)から0.4%下げています。また銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.35ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.99%上げています。

今週金相場は、米中貿易摩擦懸念が後退する中でドルインデックスが下げて上昇していましたが、本日その動きが反転する中で上げ幅を全て失って下げています。それでは、その動きを曜日毎にまとめてみます。

月曜日金相場はドルインデックスが弱含む中、緩やかにトロイオンスあたり1204ドルまで一時上昇することとなりました。ドルが弱含んだのは、トランプ米政権が17日にも中国への制裁関税の第3弾の発動を表明すると報じられていることから、これまで一人勝ちしていたドルも、その影響への懸念からも新興国通貨、株価と共に下落することとなりました。

火曜日中国は、前夜発表のトランプ政権の中国への2000億ドル相当への10%の追加関税が24日に発動されることに対し、600億ドル分の米国製品への追加関税の報復措置を実施すると表明していました。

しかし、米国の追加関税は年内は10%と25%ではなかったことからドルが弱含むこととなり、金相場はトロイオンスあたり1203ドルへと一時上昇していました。

水曜日金相場は、ドルインデックスが3週間ぶりの低さへ下げる中、トロイオンスあたり1206ドルへと上昇することとなりました。

ドルが下げているのは、今週行われているカナダとのNAFTA協議が合意に至らないという観測とされていますが、同日中国が人民元の一段の下落を望まないとの姿勢を示したことも米中の貿易摩擦の激化は避けられると市場の安心感へとつながり、安全資産としてのドル買いを抑えることとなりました。

木曜日金相場は、ドルインデックスが7週間ぶりの低さへ下げる中、トロイオンスあたり1208ドルまで一時上げていました。

同日ドルインデックスが下げていたのは、中国が大半の貿易相手国からの輸入品に課している平均関税率を来月にも引き下げることを計画していると伝えられたことも、これまでの米中貿易戦争への過度な懸念を後退させたことが要因となりました。

なお、先の中国関税引き下げのニュースと本日発表された米新規失業保険申請件数が49年ぶりの低水準でフィラデルフィア連銀製造業景気指数も良好な数値であったことを受けて、S&P総合500種とダウ工業株30種が共に史上最高値を記録していました。

そして、英国ポンドは本日発表の小売売上高が前年比予想の2.3%を上回る3.3%で前回数値も3.5%から3.8%へと引き上げられたことから強含み、ポンド建て金相場はトロイオンスあたり907ポンドと2016年12月25日以来の最低値となっていました。

本日金曜日は、英国のEU離脱のためのメイ首相の提案がEU加盟国首脳から拒絶したことが伝えられる中、ロンドン昼過ぎにメイ首相がEUと英国は「行き詰まった」と述べたことが伝えられたこともあり、英国ポンドが急落してドルを押上げている模様です。

また、昨日史上最高値を付けたダウ工業株30種とS&P500種を含め世界株価やコモディティは上昇しており、リスクオン傾向も金価格を押し下げて、金相場は今週の上げ幅をほぼ失いトロイオンスあたり1200ドルを割って下げています。

その他の市場のニュ―ス


  • 金ETF最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、週間では今週も昨日までで8週連続で下げているものの、その下げ幅は0.3トンと減少し742トン。しかし、7月23日以降増加は全くなし。

  • トルコ通貨危機でトルコリラが急落した8月にトルコの金準備が大幅に減少していたこと。この詳細はトルコ通貨危機でトルコの金準備が激減をご覧ください。

  • コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に9週連続でネットショート。しかし、そのポジションは前週の史上最高値から9.49%減少し222トン。

  • コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも、先週火曜日に9週連続でネットショート。そしてそのポジションは前週の史上最高値から2.5%減の7,198トンと多少減少。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日も4月10日の週以来23週連続でネットショート。しかし、そのポジションはやはり前週の史上最高値から、13.9%減の40.60トンへと減少。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日も貴金属の中で唯一ネットロングポジションで、そのポジションも11.49%増の15.45トン。

来週の主要イベント及び主要経済指標

来週は米国の金融政策を決定するFOMCが火曜日と水曜日に行われ、利上げが行われると予想されていますが、水曜日発表の結果とパウエル議長の記者会見が最も注目されるイベントとなりますが、その他火曜日の日銀金融政策決定会合議事要旨、米国ケース・シラー住宅価格指数、リッチモンド連銀製造業指数、米国消費者信頼感指数、水曜日の米国新築住宅販売件数、木曜日ユーロ圏消費者信頼感、米新規失業保険申請件数、米国第2四半期GDP、米国耐久財受注、金曜日中国Caixin製造業購買担当者景気指数、ドイツ失業率、英国第2四半期GDP、ユーロ圏消費者物価指数、米国個人消費支出、シカゴ購買部協会景気指数、ミシガン大学消費者態度指数となります。

ブリオンボールトニュース

火曜日にドルが弱含み、株価が下げる中金が上昇していることを解説する主要米国経済サイトのMarket Watchの記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。

ここでエィドリアンは、「金はドルとの膠着状態が続いている。」とし、「世界株価の下げやヘッジファンドのショートカバーでもない限り、この価格を押し上げることはなく、米FRBの今月の政策金利発表後の(金利予想)ドットチャートが明らかにならない限り1200ドル前後を推移するだろう。」と述べています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

ロンドン便り

今週英国では昨日まで2日間にわたって開かれていたEU首脳会議の模様が伝えられていましたが、結果的にEU首脳がメイ政権が提案した離脱後のEUとの関係に関する提案を拒絶したことから、本日メイ首相行なった演説に関して大きく伝えられています。

今回のEU首脳会議ではメイ首相がまとめた提案が議論されていました。そして、首脳会議以前にはEUがアイルランド国境問題で姿勢を軟化させたことが関係者の話として伝えられていたこと、また来週行われる英国保守党の党大会を前にメイ首相をサポートするためにもEUが何らかの譲歩を行うことも予想されていたために、昨日のEU側が完璧に拒絶したこと、そして10月に英国からさらなる譲歩があったのみ合意に調印するために臨時首脳会談を11月に開くという表明は、市場としてもショックであった模様です。

今回合意に至らなかった理由は、メイ首相の提案に二つの問題があるためです。その一つはアイルランドの国境問題で、もう一つは離脱後の通商関係です。

ご存知のように北アイルランドは英国に属し、南アイルランドはEUに加盟している独立した国です。そのために、アイルランド島の中に英国とアイルランドの国境が存在します。英国がEU加盟国である際は、この国境で税関や検問が必要ありませんでしたが、英国のEU離脱時に国境管理をどうするかが問題となっているのです。

そしてこの問題を更に困難にしているのは、長い間対立してきた北アイルランドの英国の統治を望むプロテスタント系住民とアイルランドとの統一を求めるカトリック系住民が98年に和平合意を経て融和が進んでいるものの、国境管理が行われることによる対立再燃が懸念されているからです。

そのため、本日メイ首相は英国の分割はあり得ないと述べたように、常に「北アイルランドとアイルランドとの国境にハードボーダー(通関の手続き等)を設けないことが保証されなければならない。そして、それは英国の統一を維持する形で実現される必要がある」と主張してきています。

通商関係は、メイ首相の提案のモノの貿易に限って事実上の単一市場へのアクセスを求めている部分が問題視されているとのこと。これは、保守党内の離脱派からも、英国の主権を侵害している、また国民投票で離脱派が支持した内容とも異なっていると批判されているものでもあります。

アイルランド問題については、メイ首相が代替案を発表するとも伝えられていますが、EU首脳や保守党内からも十分なサポートを得られていないメイ政権のEU離脱交渉の先行きは明るいとは言えず、合意の無い離脱であるハードブレグジットへの懸念はかなり高まったと言えるかもしれません。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

注意事項: ここで発信される全ての記事は、読者の投資判断に役立てるための情報です。しかし、実際の投資にあたっては、読者自身にてリスクを判断ください。ここで取り扱われる情報及びデータは、すでに他の諸事情により、過去のものとなっている場合があり、この情報を利用する際には、必ず他でも確証する必要があることを理解ください。Gold Newsの利用については、利用規約をご覧ください。

SNSで最新情報を入手

Facebook   TwitterYoutube

 

貴金属市場のファンダメンタルズ