トルコ通貨危機でトルコの金準備が激減
トルコの民間銀行が通貨リラの急落時の流動性を確保するために、45億ドル(5053億円)相当の金が引き出されたことが伝えられています。
毎週トルコ中央銀行が公表しているレポートによると、中央銀行の金準備は、6月15日以降に1550万トロイオンス(約482トン)へと減少し、トルコの金準備の約5分の1に当たる量が引き出されたとのこと。
これは、ブルームバーグの記事によると8月13日にトルコ中央銀行がリラ建て預金準備率を250ベーシスポイント引き下げ、中核的な外貨建て債務に対する預金準備率を期間3年までを対象に400ベーシスポイント引き下げたことがきっかけとなったとし、33億ドル相当の金準備がこの日に引き出されたとのことです。
トルコの民間銀行が預金準備を外貨もしくは金で保有できる制度(ROM:reserve option mechanism)はトルコ独自のもので、今年3月末までで民間銀行は364トンの金を中央銀行に預けていたことがワールドゴールドカウンシルがまとめる、トルコが世界21位である世界の中央銀行の金準備リストの注釈で明らかとなっています。
これは金がトルコの暮らしに古くから根付いていることからですが、それは古くはトルコ西部にあったとされる古代リディア王国は世界で初めて金貨を使用し、現在も金の加工、消費、リサイクル活動は、トルコ経済に大きく貢献しています。そして、トルコの金消費は世界の消費者需要の約6%と世界第4位で、年平均で181トンの規模となっています。さらに、トルコの家庭の「枕の下」に蓄えられている少なくとも3,500トンとされ、この金をトルコ政府は金融システムの中で活用する取り組みを2011年に始め、ROMもその一環であったのです。
ROMはトルコ中央銀行によってトルコ経済を守るために開発され、為替レートの変動を抑えることが一つの目的でもありました。そのために、8月にリラが急落した際に、ROMのメカニズムを使い大量の金準備の引き出しが行われたということなのでしょう。
8月のトルコリラ急落の背景をまとめると、まず直接のきっかけはトルコでクーデター未遂関与の疑いで2016年10月以来身柄を拘束されている米国のアンドリュー・ブランソン神父の釈放を米国政府が要求したものの受け入れられず、トランプ大統領がトルコからの輸入関税についてアルミニウムを20%、鉄鋼を50%に引き上げることを承認したことからでした。この発表を受けて8月10日にはトルコリラ売りが加速して、対ドル7.20リラと一時20%近く下落していました。
それに加え、今年6月25日の大統領選でエルドアン氏が再選したことで、大統領の独裁政治や中央銀行への介入の懸念からトルコ経済への不信感が高まり、トルコリラは既に下げる中で年初からの下げ幅は40%となっていました。
その後、トルコ中銀は9月13日に行われた金融政策決定会合で、主要な政策金利である1週間物レポ金利を6.25%引き上げ年24%と、市場の予想3~4%を上回る利上げを行い、トルコリラは対ドル6リラ前後まで急騰し通貨下落の一時的な歯止めとはなっていました。
しかし、8月のトルコの消費者物価指数は17.9%と引き続き高い水準であるにもかかわらず、エルドラン大統領の反利上げの姿勢は変わらず、それに加えて米国との関係修復の兆しが見られないことからも、19日ロンドン時間午後3時の段階でもトルコリラは対ドル6.25と、8月13日の7.20を超えるリラ安ではないものの低い水準で推移しています。
なお、トルコ通貨危機は、アルゼンチンペソ、南アフリカランド、インドルピー等の新興国のさらなる通貨安をも引き起こしましたが、新興国通貨の下げは米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを進めていることも要因となっています。
それはFRBによる今後の利上げにより新興国通貨売りとドル買いの動きが加速することが予想されていること。そして新興国におけるドル等の外貨建て債務の規模からも、新興国通貨が下げることによる債務増加も新興国経済懸念の材料ともなり、新興国市場からの資金の逃避も背景となっています。
国際金融協会金融協会(IIF)によると、新興国市場の株式と債券に対する資金フローは今年6月に240億ドルの流出超となっていました。四半期ベースでは、第2四半期の新興国向け投資は110億ドルとかろうじて流入超でしたが、1180億ドルの流入超だった第1四半期の10分の1まで落ち込んでいました。
リーマン・ショック以降主要国の大規模緩和が続くなか、新興国には大量のマネーが流入していました。しかし、経済が好調な米国が2015年末から7回に及ぶ利上げを実施したことで、緩和マネーは米国に向け逆流を始め、さらにトランプ大統領の予測不能な政策運営が市場の不安をあおり、この流れに拍車をかけているとみられています。