ニュースレター(2018年8月24日)1196.71ドル:ジャクソンホールでのパウエルFRB議長のスピーチでドル安となり金上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1196.71ドルと、前週金曜日のLBMAの金価格のPM価格(午後3時)から1.6%上げています。LBMAのPM価格は先週まで5週続けて今年最低を付けていたことから、6週間ぶりの週間の上げとなります。なお銀価格においては本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.64ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.1%の下げとなっています。
今週は金市場の一週間の動向を市場を動かした要因を中心にまとめてみました。
今週は水曜日発表のFOMC議事録と本日のジャクソンホールシンポジウムでのパウエルFRB議長の発言、そして水曜日と木曜日に行われた米中の次官レベルでの貿易交渉が注目材料とされていました。
本日のジャクソンホールシンポジウムでのパウエルFRB議長のスピーチはロンドン時間午後3時に行われました。ここでは、パウエル議長はインフレが過熱するリスクは見られていないと述べ、引き続き緩やかな利上げが確認されました。
そのため、利上げペースが速まることが無いという判断でドルが下げたことからも、金相場はトロイオンスあたり1200ドルを超えて上昇し、ロンドン時間午後17時すぎに8月13日以来の高さの1207ドルを推移しています。
その他今週の注目材料であったFOMC議事録と米中の次官レベルでの貿易交渉は市場への影響は限定的なものとなりました。
FOMC議事録は、「入手するデータが引き続き現在の経済見通しを支えれば、政策緩和をもう一歩解除するのが近く適切になる可能性が高いことを多くの参加者が示唆した」と9月の利上げが示唆されましたが、これはすでに織り込み済みで市場を動かすことはありませんでした。また、追加関税の発動などによる貿易面での対立はリスクと認識していることも明らかとなりました。
そして、米中の次官レベルでの貿易交渉はほぼ進展がなく、昨日は米中の160億ドル規模の追加関税が予定通り発動され、米国は9月中にも2000億ドル規模の対中制裁の準備を進めるなど、先週は11月の国際会議に合わせて米中首脳会談の開催を模索しているとは伝えられていましたが、米中貿易戦争が落ち着く兆しは見られていません。
なお、今週の市場に影響を与えたものとしては、先に加えて月曜日にトランプ大統領がロイターとのインタビューでドル高と利上げをけん制したこと、そして火曜日のトランプ大統領の元側近の二人の有罪判決から、トランプ大統領の弾劾の可能性が話題となったこととなります。
先は共にドルを下げるニュースとなりましたが、中央銀行の独立性は守られるべきということからも、トランプ大統領のコメントの利上げへの影響は限定的ではないかと市場関係者は見ており、トランプ大統領の弾劾に関しては、昨日トランプ大統領が「もし自分が弾劾されたら市場は崩れる」とFoxニュースとのインタビューで述べて多少ながらドルを弱めましたが、米国政治に詳しい人々も、11月の中間選挙までに弾劾されることはないと見ているようです。
なお、昨日トランプ大統領は南アフリカへの経済制裁の可能性をツィートしたことから、通貨ランドは対ドルで1.9%下げ、南アフリカはプラチナの主な産出国であることからも、プラチナ相場が一時776ドルまで2%ほど下げていました。
しかし本日金相場が上昇していることから、プラチナ相場も一時トロイオンスあたり794ドルまで上昇し、本日午後5時に789ドルと先週金曜日のLBMAのPM価格比では1.3%の上げとなっています。
その他の市場のニュ―ス
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ロシア中銀が金準備を7月に26.1トンと昨年11月以来の規模で増加させていたことを今週ブルームバーグが伝えていたこと。この詳細については「ロシアの金準備が急増」でまとめています。 -
金ETF最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週昨日までで5トン減で767トンと7月23日以来減少を続けていること。 -
水曜日にS&P総合500種が強気相場として3453日となり、過去最長記録を更新したこと。 -
月曜日にギリシャがEUの金融支援(約36兆円)から8年ぶりに自立したこと。 -
月曜日にベネズエラが、インフレの加速からも通過を実質96%切り下げたこと。 -
先週末発表されたコメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週トルコ通貨危機が起こった翌日の火曜日にパラジウムを除くすべての貴金属でネットショートで、そのネットショートポジションを増加(もしくはネットロングを減少)させていたこと。 -
コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットショートポジションは、先週火曜日に5週連続でネットショートで、その規模は240トンと前週から22%増加させて、このフォーマットとなった2006年6月から最大の規模となっていたこと。そして、そのショートポジションは過去10年間の452%と突出しており、ロングポジションが過去10年間の70%であったことからも、金価格の下げに賭けている弱気のポジションであったことが明確となっていたこと。そして、大口投機家ポジションも2001年以来初めてネットショートとなったこと。
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銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも、先週火曜日に5週連続でネットショートで、その規模も61%増の3,139トンとなっていたこと。このショートポジションは13,839トンと2006年6月にこのフォーマットでレポートが発表されてから最大。
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コメックスのプラチナの先物・オプションのネットポジションも先週火曜日に19週連続でネットショートでそのポジションも10.22%増の43トンとなっていたこと。
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先週木曜日に一日で7.3%下げたものの同日中にその下げを取り戻していたパラジウムは、先週火曜日には先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションを57%下げて2.47トンとしていたこと。
ブリオンボールトニュース
今週月曜日のロンドン時間午前中の金価格の上げについてまとめているMarketWatchの記事で弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
ここでエィドリアンは、「金の価格調整の上げは、先週の大きな下げの後は遅すぎるぐらいだ。これは、長期的に金を保有する投資家のバーゲンハンティング的な買いだろう。」というコメントを紹介しています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週英国では、先月マーク・カーニーイングランド銀行総裁や、リアム・フォックス国際貿易大臣が合意のないEUからの離脱(ハードブレグジット)の可能性に言及していましたが、このハードブレグジットに備えるための文書を英国政府が発表し、このニュースが広く伝えられています。
この文書では、ハードブレグジットによって起こる事態について説明し、貿易や金融や医薬品などの25のテーマ別に政府の対応や企業や国民がすべきことについて説明しています。今後80近い文書がまとめられる予定とのこと。
こちらでも説明してきているように、英国のEUからの離脱派来年3月29日午後11時と決まっています。そのためにこの文書では、このデットラインまでに基本の部分で合意が行われない限りは、来年3月29日午後11時以降は関税に関しては英国とEU諸国との間では世界貿易機関(WTO)ルールが適用され、通商では英国とEU間の自由な人とモノの動きは停止し、EU諸国と取引のある企業は関税や安全基準に関わる新たな書面上の手続きが必要となるというような内容となっています。
そして、メイ政権は、ハードブレグジットに備え、英国内の製薬企業に対して6週間分の医薬品の供給を可能とする備蓄を求めています。これは、関税などで新たな手続きが必要となることで、通関手続きを待つ貨物トラックで長蛇の列ができる可能性があり、医薬品の輸入が滞る可能性があるためとのこと。
今回メイ政権が先の書類を発表したのは、最悪の事態に備えるためもありますが、このように背水の陣を敷くことで、EUとの交渉を前進させるためとも解説されています。
一部のメディアでは一般の人々がサンドイッチを買うこともできなくなる食糧不足の「サンドイッチ飢饉」が起こるなどと伝えたことからも、この書類を発表したドミニク・ラーブEU離脱担当相は、EUとの合意形成は最重要の優先事項であること、「サンドイッチ飢饉」に陥るなどという懸念を「突拍子もない意見」と退けています。
いよいよデットラインが見えてくることで、英国民の懸念の高まりは防ぐことはできないとしたならば、今回のような書面を発表して準備を進めることは重要なのでしょう。
その一方でEU離脱交渉の最終合意を巡る国民投票を求める親EUの活動団体にファッションブランドで有名なスーパードライが百万ポンドを寄付したことも先週末に伝えられており、英国のEU離脱の先行き不透明感は今後も暫くは続くようです。