ニュースレター(2018年5月11日)1324.10ドル:米国のイランとの核合意離脱、イランとイスラエル間の緊張の高まり、米消費者物価指数の悪化等で金は上昇
今週火曜日にロンドンオフィスに戻りました。そこで、今週から通常通りニュースレターをお届けいたします。
週間市場ウォッチ
今週金曜日のロンドン時間3時の弊社チャート上のスポット価格はトロイオンスあたり1324.10ドルと、前週金曜日のLBMA金価格のPM価格から1.1%上昇しています。
週明け月曜日は、英国が祝日の中取引薄でもあり、狭いレンジでの取引となっていました。
火曜日金相場は、ドルインデックスが93を超えて今年最高の水準へ上昇する中、トロイオンスあたり1306ドルへと一時下げていたものの、その後1313ドルへと同日の始値のレベルへ戻していました。
同日はロンドン時間午後7時にトランプ大統領がイランの核合意から離脱するかを発表すると伝えられていたことから、その警戒感からも、ドルが強含み米長期金利が上昇してトロイオンスあたり1306ドルほどまで下げていました。その後、トランプ大統領が予想通りイランとの核合意から離脱することを発表し、限定的ではあるものの安全資産の買いもあり、トロイオンスあたり1316ドルほどまで上昇して終えていました。
水曜日金相場は米長期金利が3%を2週間ぶりに超え、ドルインデックスは前日よりも下げているものの93を超える中、トロイオンスあたリ1313ドル辺りを推移するなど、安産資産の需要などで堅固な動きを見せていました。
これは、前日のトランプ政権のイランとの核合意離脱発表が背景となっていた模様で、通常米長期金利とドルインデックスが上昇する際は金を押し下げるところが、ほぼレンジ内での動きとなっていました。
木曜日金相場は、ドルインデックスと米長期金利が下げる中、トロイオンスあたり1321ドルと4月末以来の高さへと上昇していました。
これは、同日発表された米消費者物価指数が予想を下回ったことから、FRBの金利引き上げペースが進む観測が後退したことからでした。
また、イランがイスラエルの占領地にミサイルを撃ち込んだ報復として、イスラエルがシリアのイラン軍施設を攻撃したことが伝えられていたことから、イランとイスラエル間の緊張の高まりつつあることも、金をサポートしていた模様です。
なお、本日発表されたイングランド銀行の政策金利発表では予想通り政策金利は0.5%に据え置かれて、ポンドが弱含みポンド建て金相場はトロイオンス977ポンドと、今年1月半ば以来の高さへと大きく上昇することとなりました。
本日金曜日金相場は、ドルインデックスが弱含む中トロイオンスあたり1325ドルまで上昇後に前日の終値の1321ドルへと戻しています。
この動きは、昨日の米消費者物価の伸び悩みを背景に利上げ加速観測を後退させていることからですが、株価も上昇していることからも、その上げ幅は限定されている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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米国のイランとの核合意離脱のニュースを受けて、原油価格が供給量が下がることが懸念されて、バレルあたり71ドルを超え、3年半ぶりの高い水準まで上昇していたこと。 -
火曜日に金正恩委員長が7日から8日に中国を訪れて習近平国家主席と会談したことが伝えられていたこと。これは6月上旬までに開く米朝首脳会談を前に牽制の思惑とのこと。その後木曜日に米中首脳会談が6月12日にシンガポールで行われることが伝えられていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週水曜日に1.2トン減少し862トンと一月ぶりの低さへと下げていたこと。 -
先週末に発表された、FOMC前に利上げペースが速まる観測で価格が下げていた先週火曜日のコメックス貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、全ての貴金属で減少(もしくはネットショートが増加)していたこと。 -
金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは先週火曜日に54.54%減の161トンと昨年7月18日以来の低い水準となっていたこと。またこの下げ幅は%としては、2015年末以来の大きなものだったこと。 -
銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に-3628トンと、先週火曜日に再びネットショートとなっていたこと。これにより、先々週に一週のみネットロングとなったものの、それ以前の10週連続のネットショートの傾向を引き継いでいたこと。 -
プラチナの先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日も4週連続でネットショートで、17トンとそのショートポジションを昨年7月11日以来の高さへと増加させていたこと。 -
パラジウムの先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションも27トンと7.26%減少させていたこと。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
先週金曜日にロンドンへ戻ってまいりました。今回は3週間ほど留守にしていましたので、英国のニュースから少し離れていましたので、私が留守にしていた際に英国内では大きなスキャンダルとなり、メイ政権の主要閣僚であるラッド内務相の辞任も引き起こし、今週もこの関連のニュースが見られる「ウィンドラッシュ・スキャンダル」について本日はお伝えいたしましょう。
「ウィンドラッシュ」とは、第2次世界大戦後に英国の戦後復興のためにカリブ海地域の英国領から移住して来た人々が乗っていた船「エンパイヤ・ウィンドラッシュ号」に由来しています。そして、このように移民をしてきた人々の子供たちが「ウィンドラッシュ世代」と呼ばれていますが、彼らは在留資格を証明する書類を持たないために、社会保障を受けられないという不利益を被り、場合によっては国外追放されることもあるという問題に対する政府の対応が今回は問題となったのです。
当時入国した子供たちは、パスポートやビザ等の公的書類がないまま入国していたとのことですが、それに加えて、2010年に現メイ首相が内務相であった際に、内務省が入国カードなどを記録を残さずに処分していたとのこと。
その後、昨年暮れからウィンドラッシュ世代が国外追放の警告を受けたり、NHS(英国国民医療サービス)を全額負担なくして利用できない、また違法滞在とみなされて職を失うなどの問題が英主要紙などで取り上げられ、カリブ海地域の国々の外交官が、英国政府にこの問題に真摯に対応することを求められていたにもかかわらず、その対応が今年4月16日にメイ首相とラッド内相が議会で謝罪するまで後手後手となっていたとのも問題を大きくしていました。
その後、ウィンドラッシュスキャンダルの要因でもある内務省の違法移民を国外追放する目標数値について、ラッド内務相がその存在を否定したものの、実際にその目標値があったことが4月29日に明らかとなり、その数時間後にラッド内務相は辞任したのでした。その後任には、国務相としては初の人種的マイノリティーのアジア系でイスラム教徒のサジド・ジャビド地方自治相が任命されています。
英国のEU離脱の一つの要因ともなった移民問題への政府の対応が、このスキャンダルの根幹部分にも見られることとなりました。移民を受け入れることで発展してきた英国が、EUが拡大するに連れてEU内の経済格差から、社会保障の整った英国への移民が増え続けていることなどが、英国の人々を反移民へと動かしている部分が無きにしも非ずです。
しかし、正当に英国に住む権利のある人々を違法移民の国外追放の目標数値達成のために利用しようとしていたのであれば、メイ政権の今後は危ぶまれても当然でしょう。今後もこのスキャンダルに関しては追ってお伝えしていこうと思います。