ニュースレター(2018年4月13日)1345.26ドル:米中貿易戦争への懸念が後退する中、緊張高まるシリア情勢で金上昇
恐縮ですが私は明日から日本に3週間ほど入ります。そのために、この間ニュースレターは、ロンドン便りを除く簡易版となることをご了承ください。
週間市場ウォッチ
先週お伝えしたように、今月1日よりLBMA金価格の発表時間が翌営業日午前0時となりましたので、今週金曜日のLBMA金価格のPM価格は月曜日の発表となります。そこで、先週同様に金曜日のロンドン時間3時の弊社チャート上のスポット価格で前週比を算出しています。本日のロンドン時間3時の金価格はトロイオンスあたり1345.26ドルで、前週の木曜日のLBMA金価格のPM価格からは1%上昇しています。
月曜日金相場は、週明けアジア時間に株価が上昇する中でトロイオンスあたり1327ドルまで下げていましたが、その後ロンドン昼過ぎにドルが弱含みその下げをほぼ取り戻して1335ドル前後を推移することとなりました。
この下げの動きは週末に米政権幹部が対中の通商政策に関して強硬姿勢を和らげる発言をし、貿易摩擦への懸念がやや後退していたことが要因でした。
ただ、シリア政府軍が先週末に化学兵器攻撃を行った可能性と、それを受けてトランプ大統領がアサド政権とロシアとイランに対して「大きな代償を払うことになる」と強く非難したことが伝えられていたことが、金をサポートすることとなった模様です。
火曜日金相場はトロイオンスあたり1331ドルから1340ドルの狭いレンジでの取引となりました。
同日注目の中国の習近平国家主席の講演では、自動車の関税引き下げや金融市場の開放、知的財産保護を強化する方針などに言及したことから、貿易摩擦の緩和に向けた米中の交渉が進みやすくなるとの期待で世界株価が上昇することとなりました。
そのため、安全資産と見られている米国債や円が下げていたものの、金は堅固な動きをしていました。
水曜日金相場は、トランプ米大統領がシリアへの軍事行動を示唆し、地政学リスクへの警戒感から安全資産への買いでトロイオンスあたり1365ドルまで上昇しましたが、緩やかにその上げ幅を失うこととなりました。
これは、同日発表された米国消費者物価指数が、前年比2.4と一年ぶりの高さとなったことからですが、シリア情勢への懸念は高く、金のサポートとなっていた模様です。
しかし、同日ロンドン時間夕方に発表されたFOMC議事録では、向こう1年間に2%の物価上昇率目標を達成できると出席者が自信を深めた様子がうかがわれ、段階的な利上げを継続する計画もあらためて確認されたことからも、金の頭を抑えた模様です。
木曜日金相場は、ドルインデックスが90を超えて上昇する中、トロイオンスあたり1338ドルへと下げることとなりました。
これは、前日緊迫したシリア情勢が、同日米国時間のサンダース米大統領報道官の「(アサド政権による化学兵器使用疑惑への対応について)トランプ大統領はタイムテーブルを設けていない」や、マティス国防長官の「(ミサイルによる攻撃)は選択肢の一つ」のコメントや、同日のトランプ大統領の緊急性を緩和させるツィートで警戒感が後退したことからでした。
そこで、世界株価が日経は下げたものの上昇し、恐怖指数と呼ばれるボラティリティをはかる指数VIXも今週月曜日の22.54から18.82まで下げていました。
本日金曜日は、ロンドン午前中はトロイオンスあたり1340ドル前後の狭いレンジで取引が行われていましたが、ロンドン昼過ぎにトロイオンスあたり1344ドルへと上昇しています。
本日は、来週17日と18日の日米首脳会談を前に、トランプ政権が環太平洋経済連携協定(TPP)復帰にむけて検討に入ったことが伝えられており、貿易戦争の懸念は既に後退していたものの、日経インデックスは多少ながら上昇して終え、米株式相場は続伸で始まっていました。
しかし、午後に入り米株価が下落しており、週末を控えてシリア情勢やトランプ政権のロシアゲート等への懸念も残っており、リスクアセットが下げる中、金が上昇している模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 金業界のマーケティング団体のワールド・ゴールド・カウンシルが最新の主要国の金準備を火曜日に発表し、2018年4月のデータでは、ロシアがついに中国を抜き6位となっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が、今週木曜日までに5.9トン増加し866トンと、昨年6月以来の高い水準になっていたこと。
- 先週末に発表になった、貿易戦争の懸念で上昇した金相場が調整の下げを見せていた先週火曜日のコメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、全てのメタルで減少していたこと。
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そのうち金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、20.24%減の428トンと、前週の大幅な増加分の158トンから108トンを失っていたこと。
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銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日も8週連続のネットショートとなっていたこと。このネットショートポジションは17%増加し6159トンと、2006年にこのフォーマットでレポートが作成されて以来の最大のネットショートポジション。
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プラチナの先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションもまた、先週92.38%減で0.98トンとほぼそのネットロングポジションを失っていたこと。これは、6週間連続の減少。
ブリオンボールトニュース
米国経済サイトのMarketWatchの「タカ派的FOMC議事録で、金が5営業日ぶりに下げる」の記事で、ブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
ここでエィドリアンは「今週金は、米連銀の利上げペースが速まることに、トランプ大統領の空爆以上に影響を受けている。そのため、金価格は5年間の抵抗線を試しているものの、金融市場の環境が地政学的リスクよりも重要となっている。」とコメントしています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週英国は、シリアのアサド政権による化学兵器使用の疑惑に対する英国政府と主要国の動向関連のニュースがトップニュースとして伝えられています。
昨日は英国政府はシリアのさらなる化学兵器使用を阻む必要があるとの認識で閣僚会議で一致したと伝えられています。そして、昨夜はトランプ大統領と電話会談し、この件に対して「緊密に提携していく」ことで一致したとのこともBBCは伝えています。
それに対し、昨日トランプ大統領は、7日のシリアの反体制派拠点ドゥーマに対するアサド政権の化学兵器を使用した攻撃について、シリアを軍事攻撃するかどうかを「間もなく」決定すると発表していたものの、「シリア攻撃が何時になるとは一度も言っていない」ともツィートし、午後に国家安全保障会議(NSC)を開き対応を協議したものの、情報の分析を継続するため、最終判断を先送りにしたとのこと。
11日水曜日にはメイ首相は事前に議会承認を求めずに米主導の対シリア軍事行動への参加を決める方針だと伝えられていたために、野党労働党のコービン党首は、軍事行動を承認する前に議会で意見を求めるべきと述べ、ニュースでもその正当性について議論されていました。
英国では軍事行動の規模にもよりますが、英海軍の潜水艦や英空軍からのミサイル発射は、議会承認は必要が無くとも首相が決定できるとの。
しかし、近年はブレア政権がイラク戦争に対して議会承認を得たのが初のケースとなり、2013年にキャメロン政権は、シリアへの軍事行動の是非を問う提案を議会で行ったものの、反対多数で否決され軍事行動への参加を断念したという経緯もあります。
12日に行われた世論調査によると、シリアへのミサイル攻撃を支持している有権者は5人に1人で、43%が反対で34%が分からないと答えているとのこと。
化学兵器が使われたことがフランスのマクロン大統領が「証拠」を得ていると話していることからも立証された場合、メイ首相の言う「何らかの措置が行われる必要がある」ということに反対する人は少ないと思いますが、それが何になるのか。
暫くはこの状況に注視したいと思います。