コモディティ市況上昇の潮目は変わったのか
丸紅経済研究所代表柴田明夫氏が、コモディティ専門情報サイトのrigoo.netで、先週のコモディティ市場相場急落を受けて、市場背景を解説し、今後の見通しを予想しています。
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前回のリポートで、国際商品市況の全面高の背景を謳った矢先に相場は大崩れとなった。ニューヨーク金(期近)は5月3日の史上最高値1オンス=1577ドルから6日には1462ドルの安値を付けるなど100ドル強暴落した。この間、WTI原油も1バレル115ドル弱から98ドル台まで値を下げた(図表1)。大豆、トウモロコシなども下値を試す展開となった。これを映してロイタージェフリーズ・CRB指数(1967年=100)も370ポイント台から340ポイント台へと急落した。
きっかけは、コモディティ市場に高値警戒感が広がるなかトリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁が大方の予想を裏切り5日、定例理事会でユーロ圏17カ国の政策金利を1.25%で据え置くと発表したことだ。ちなみに、欧州ではPIIGS諸国のソブリン・リスク(国家債務の信用リスク)が高まる一方、ドイツやフランスは堅調な成長を続けるなど破行性が強まるなか、徐々にインフレ圧力が高まりつつある(2月の物価上昇率は前年同期比2.4%と目標の2%を超えた)。このためECBは4月に2年9カ月ぶりに0.25%の利上げを実施。6月にも追加利上げが必至とみられていた。
しかし、今回利上げが見送られることになるとドルが対ユーロで上昇した(図表2)。これにより市場では、ドル高・ユーロ安→金、原油などのコモディティ売り→資源株売り→コモディティの換金売りで節目割り込み→投機マネーのリスク回避姿勢が強まり、商品全体に下値を試す動きへとつながった。米住宅市場の低迷や失業率の高止まり、原油在庫の増加など米景気回復の足取りが重いことも弱材料となった。
こうなると、いつものことながら、商品バブルが弾けたとか商品市況上昇の潮目が変わったとの見方が増えた。本当に上昇の潮目が変わったのだろうか。そんなことはあるまい。むしろ投機マネーにとっては、今回の市況急落によって買い余地が生じたというよう。特に国際情勢を見ると、米国が5月1日、ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことで、国際テロ組織アルカイダ等による報復テロの恐れが強まっている。中東・北アフリカ諸国の反政府デモも鎮静化の兆しが無く、地政学的リスクは一段と高まっている。
引き続き商品市況の押し上げエンジンは需給ファンダメンタルズであることには変わりがない。この点、筆者は以前より「コモディティ価格は上がるべくして上がっている」と主張してきた。すなわち、現在のコモディティ価格の上昇は単なる投機マネーによる一過性の上昇ではなく、根本要因は需給構造の変化であるとみている。新興国の経済成長に伴う急速かつ累積的な需要の拡大により、資源市場で「均衡点価格の変化」が起こっているといえよう。
ところで、ここで改めて市場を揺るがし続ける欧州連合(EU)について触れてみたい。欧州では1952年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立から現在に至る統合の歩みを開始した(図表3)。1999年1月の単一通貨ユーロの導入から12年が経過した。しかし、EUは今、戦後の「拡大と深化」の歴史の中で最大の危機に直面している。
ユーロ危機は、PIIGS問題に象徴されるように、南欧諸国のソブリン・リスクの高まりと言う形でユーロ体制の最も脆弱な部分に顕在化している。2010年以降、EUおよびIMF(国際通貨基金)は危機封じ込めのため、総額7,500億ユーロの緊急融資制度を設け、ギリシャ、アイルランドへの金融支援を行ったものの、2011年4月にはポルトガルも支援を要請するなど、危機の連鎖は止まっていない。南欧諸国のソブリン・リスクを終息させることができなければ、危機はユーロ圏全体の信用不安へと拡大し、新たな世界金融危機をもたらしかねない。その場合、EU体制そのものの存続も脅すことになる。一体何が問題なのか。
現在抱えているユーロ危機は、1)一つのヨーロッパという理念の下、ドイツとフランスを中核に「拡大と深化」を続けるEUの歴史、3)ユーロ圏内部におけるリージョナル・インバランス(域内不均衡)の拡大、3)世界経済のグローバル化に伴うグローバル・インバランス(世界的不均衡)の拡大、という3つの構造問題を映したものであると言えよう(図表3)。この内、①はEU体制を維持補強する構造であるが、②③は内部および外部からEU体制を脅かす要因である。こうした事実認識に立てば、根本的な危機解消は困難であり、それだけにリスク・コントロールのための国際的な協調とスキームが必要である。この間、ドル/ユーロ為替相場は常に変動し、コモディティ市場の波乱要因であり続けよう。
(図表1)

(資料)筆者作成
(図表2)

(資料)筆者作成
(図表3)

(出所)IMF‘International Financial Statistics’,日経新聞社景気資料
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