金市場ニュース

2月の急落相場の分析

スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で、今月金価格が急落した背景と今後の相場の行方について解説しています。

思わぬ急落相場となった2013年2月後半でした。どうしてこんなに下げたのか、そしてその結果今後どうなりそうなのか。今週はゴールドに焦点をあてて考えてみましょう。

今年最大の下げとなった二週間(2/11-2/22)でした。年初から続いた1650-1700ドルのレンジを下にブレイクする売りの材料とされたのは以下のとおり。

・発表された2012年第4四半期でのF13レポートで、ソロスファンドを始めとする大手ファンドのGold ETFの売りがはっきりしたこと。

・FOMC議事録で一部の理事が現在の月850億ドルの資産買い取りをスローダウンしてしかるべきという意見を表明しており、Bernanke議長の金融緩和路線に対する不協和音が目立って来ていること。

これらを材料として始まった売りがレンジの下限であった1650ドルを突き崩すと、これまでロングを維持してきたファンド勢が一斉に売りだし、その後は 売りが売りを呼ぶ展開となり、週半ば20日には1600ドルを割り込みました。1600ドルを割ったことによって、損失確定のストップ売りが次々と発動されて、一挙に昨年の5月から8月の相場低迷期のレベル(1550ドル)近くまで下げました。

「Comexの投資家ポジション」

まだ1600ドルを割り込む前の2月19日時点でのCFTCからの先物ポジション内訳が発表になりましたが、この時点で500トンから400トンへ急減、その後20日21日とさらなる売りで下げが加速したことを考えると、Comexの投資家ロングポジションはさらに減少しているものと思われます。これは歴史的にみても非常に少ないレベルであり、おそらくもはやゴールドをロングしていたほとんどのファンドがマーケットからゲットアウトしたものと思われます。

そして、ゲットアウト、つまりロングしていた分を売ってスクエアー(ポジションがない状態)に持っていくだけではなく、今回の数字をよく観察してみると、もはやロングの売り戻し以上に新規ショートの方が増えているということです。前週に比べて先物のロングは22トンの減少であるのに比べてショートは72トン増加しています。Figure2のチャートを見れば、投資家のロングポジション(Speculative longs)は急激に少なくなり、投資家のショートポジション(Speculative shorts)が急激に増えており、その合計である投資家ポジション(Net speculative length)は300トンロング近くまで減っているというのがよくわかります。特にこの下げはもはや新たなショートが主導していると言ってよいでしょ う。これは逆にいうと必ずいつか買い戻すポジションができているということでもあります。潜在的な強気要因と考えることができます。

ロングの売り戻しであれ新たなショートであれ先物の売りがこの下げを主導していますが、一方実需はというと旧正月があけた中国を中心にアジアでの買いが 非常に活発です。もはや現物がたりなくなっています。先物が売られ、現物が買われることで、各地での現物のロコ・ロンドンに対する現物プレミアムは上昇しています。SGE(Shanghai Gold Exchange)では、なんとプレミアムが20ドル以上に急上昇しており、中国の買いに現物の供給が間に合っていないようです。

先物の圧倒的な売りの量で実需の買いは飲み込まれていますが、これはよくあるパターンです。先物の売りが一巡すると今度は実需の買いがじわじわと効いてくるのがいつものパターンです。週末にきてとりあえずの安値は1550ドルで確認。ファンドのポジションがニュートラルからショートになっていることを考えると何らかのきっかけがあった時の上昇の力は大きいものと考えます。ちょうど昨年の5月から8月のような相場の低迷期がありましたが、長引けば数ヶ月そうなる可能性がありますが、財政の崖問題での歳出の強制削減が3月1日には、はや第一回目の期限が来ることを考えると今度は上値波乱があるのではないでしょうか。

ただ気になるのがETFの動き。2月初旬のSPDRの残高は1355トンであったのが26日現在では1272トンと83トンもの減少になっており、これはおそらくETF史上始まって以来のペースでの残高減少です。もちろん2600トンという全体の規模を考えるとまだまだ端数ではありますが、これまでGold ETFが誕生してから今に至る過去10年間は、その残高はほぼ増加か横ばいが続いていただけに、この減少ペースが一過的なものなのか気になるところです。

「今後の相場の行方は?」

今後の注目点としてはやはり金融緩和の行方がどうなるか、ですね。26日、27日のバーナンキ議長の上院および下院での金融政策および経済情勢についての議会証言があります。議長がどういう現在どういう考え方をしているのか、を再度確認する機会になります。財政面では3月1日の強制歳出削減、3月下旬に は暫定予算期限、5月中旬の債務上限上積み期限とアメリカの財政の崖問題が続きます。バーナンキ議長はこれらの問題の根本的な解決となる税制赤字の削減策を政府に促す可能性が高いですね。議長自身は失業率がすくなくとも6.5%くらいまでの改善を見せない限り金融緩和は続けていくという考えであり、この考えは変わらないものと思われます。

そのため今後ここからさらに大きく下げるというのは考えづらく、下値があっても昨年一年を通じてのゴールドの下値であった1520ドル近辺が、とりあえずの大底と考えます。ただし上値も重たくなっており、1520-1650ドルくらいのレンジしばらくは推移する可能性が高いと思います。ちょうど昨年の5月から8月のように。上値波乱の材料はファンドのショートポジションであり、アジアの実需の現物買いがマーケットを支えるでしょう。ファンド筋の先物の売 りが押しましになればあとはじわじわ戻すしかないでしょう。ただしFRBのタカ派が押し切る形での金融緩和のスローダウンや、Gold ETFの売りが本格的に加速した場合は下値トライの可能性がでてくるかもしれません。おそらくこのレポートがみなさんの目に触れるころにはバーナンキ議長の議会証言が行われており、もう何らかの動きがゴールドマーケットにも出ているかもしれませんね。

以上

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池水雄一氏は、貴金属ディーリングの世界でも第一人者。上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏のディーラー名)レポートも掲載。

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