プラチナの需給
貴金属ディーリングにおいて世界でも第一人者のスタンダードバンク東京支店長池水雄一氏が、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で、プラチナの需給関係について解説しています。金(ゴールド)と比較されることの多いプラチナ市場について、その基本を2週にわたりお届けします。
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今週からはプラチナの話を少し書いてみましょう。ゴールドよりも安くなったプラチナに個人的には注目しています。プラチナがいったいどういうメタルなの か、その需給の構造、そして過去から現在までの価格の動き、その背景、そして今後の見通しなどを数回にわたって書きたいと思います。
GFMSの「Platinum & Palladium Survey2012」によるとプラチナの供給は全体で248トンです。ちなみにゴールドは4486トンです。単純な供給量を比べるとプラチナはゴールド の18分の1です。鉱山生産だけを取って比べるとプラチナの199トンに対してゴールドは2818トンとこれでも14分の1にとどまっています。単純に希 少価値ということを考えただけでも、世の中にゴールドの18分の1しか存在しないという圧倒的に希少価値の高いプラチナがゴールドよりも安いという現在の 価格状況はやはり普通ではないと考えるべきでしょうね
供給面での最大の特徴はやはり南アが占めるその生産量の割合です。2011年の鉱山生産全体で199トン、そのうち南アが147トンと約74%を占めま す。プラチナの生産においては南アはまさにガリバー的な存在であるといえます。我々日本人にとっては南アといえばゴールドのイメージが強いですが、現在南アのゴールドの生産量は198トンで世界で5位に甘んじています。1960年台から1970年台にかけて南アは一国で1000トン以上ものゴールドを掘っ ていた圧倒的な産金国でしたが、このところは減少の一途をたどっています。しかしプラチナにおいてはほとんどほかでは掘れないという事情ももあり、現在に至るまで南アは圧倒的な生産量を保っています。
金の生産国は世界中に分布していますが、プラチナは非常に限られて、偏在しており、南ア周辺、ロシアと北米の一部を除いて鉱脈自体の存在が確認されていません。プラチナは20億年前にさかのぼり巨大な隕石が地球に衝突して誕生したといわれており、隕石の落ちたところ以外には存在していないのですね。ですから、これからもたとえば日本や中国で新しいプラチナの鉱床が発見される可能性はほぼないに等しいといっていいでしょう。それだけにプラチナマーケットに おける南アの重要性はゴールドマーケットにおけるそれよりもはるかに重いものだといえることができます。
生産者別のプラチナ生産量が以下の表です。トップ3は南アの生産者であり、4位のノリリスクニッケルはロシアで世界一のニッケルの生産者でその副産物と してプラチナとパラジウムを生産しており、パラジウムは世界一の生産量です。5位はまた南アの会社です。南アのトップ3だけで世界のプラチナの6割以上を掘っていることになります。プラチナの供給において南アというのは非常に重要な位置を占めており、この国の鉱山を巡る労使の問題が大きくプラチナ相場に影 響を与えるのはやはりそれが世界のプラチナ供給不安に直結するからなのです。
供給における約20%にあたる約48トンがスクラップからの回収です。約30トンが自動車の排ガス触媒のスクラップからの回収。残りの約18トンが宝飾 品の回収からのもの。自動車は主にディーゼル車のもので、メインは欧州になります。欧州経済危機の結果のディーゼル車の需要の減退は何年か先のスクラップ の回収が減る可能性として考えられますが、それはまだ先の話になるでしょう。宝飾のスクラップは日本からも非常に多く海外のRefineryへの輸出がな されています。それでも回収ものの供給におけるマーケットシェアはわずか2割程度にすぎません。プラチナの供給の要はやはり南アだといえるでしょう。
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