2016年プラチナ需給と2017年の需給見通し
ロンドンでは今週5月15日からプラチナウィークが開催されており、多くのリサーチ会社がプラチナの2016年の需給レポートを発表している。
そして、今年は興味深いことに、それらのリサーチ会社の2017年の需給バランスのデータが異なっているので、それぞれ簡単に下記のようにまとめてみよう。
1. Metals Focus
英国貴金属コンサルタント会社のMetals Focusの2016年のプラチナ需給レポートによると、供給の主要となる産出量とリサイクル量の変化は次の通り。
産出量は2%減の193トン(6.20 Moz)。そのために、2006年をピークに産出量は15.6トン減少しているとのこと。これは、全世界のの産出量の70%を占める南アフリカが、通貨ランド安で費用高となり生産量が落ちていることから。
リサイクルは5%増の56.8トン。ちなみに2015年は5年来の低さで9%減少していたとのこと。
それに対し需要においては、自動車関連の需要(排ガス浄化装置の触媒)は、2%増加し103.8トン。これは欧州における需要が6%、中国における需要が13%増加したことから、他の地域の需要減をカバーしたことから。欧州においてはドイツが2009年以来の高い需要を見せていたとのこと。
宝飾品需要は、2016年に5%減と、4年ぶりの低さへ下げていた。これは、経済停滞などの影響で中国の14%減が大きな要因。そのため、2015年の8%減を上回る下げ幅となった。しかし他の地域では6%増となっていた。日本においては高い喜平デザインの需要で年間需要は増加となった。
工業用需要は、4%増の53.7トン(1.73Moz)。そして、これはガラス需要が28%増となったことに牽引されていた。ちなみに2015年は前年比50%増。それに対し、石油精製の触媒の需要は、16%減となっていた。そして、電気電子機器関係の需要の8%減。
投資需要は、14%減の19.6トン(629koz)。しかし、2015年に次ぐ高水準。そして、この要因は日本の個人投資家のバーゲンハンティング的需要が大きく減少したことから。そして、金とプラチナ価格の逆転現象が必ずしも一時的ではなく、構造的と考えられつつあることも要因。
これにより市場のバランスは、2年連続でほぼ均等となっていたが、2016年には多少ながらも0.7トン(22koz)の供給過多となっていた。そのため、地上に現存する在庫は、2016年末に273トン(8.79Moz)となり、13ヶ月の製造需要をカバーする量となった。
2017年の見通し
プラチナ産出量は2017年も1%減少を予想。リサイクルは、自動車触媒のリサイクル増から4%増を予想。
自動車産業の需要は、4年ぶりの減少で2%減が予想。その減少分の75%は欧州における需要の減少。宝飾品の需要は1%増を予想。主要消費国の中国の需要減少はスローダウンし、2%減。そのような中、日本の需要も減少すると予想しているが、北米とインドの需要は増加を予想。工業用需要は、化学と石油業界に牽引されて3%増を維持。ガラス需要は、3年連続の高い需要の後、2017年に下落すると予想。
現物投資需要は、長引く金価格との逆転現象が日本の個人投資家の興味を失わさせていることから半減。
そのため、現物供給過多状態は継続し、9.8トン(315koz)となり、2017年末には地上に現存の在庫は283トン(9.1Moz)となることを予想。これは、14ヶ月分の需要をカバーできる量。
2. ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(データ提供SFA)
プラチナ業界の市場開発団体のワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルがSFAのデータを元にまとめたレポートの要約は次の通り。
2016年の供給量は、産出量6,055kozとリサイクルの1,865kozで、7,920。需要は、自動車業界の3,435koz、宝飾品2,565koz、工業用の1,775koz、投資の505koz。そのために、市場バランスは-360kozではあるものの、地上在庫量を考慮すると1950koz。
2017年の年間供給量は2%減の7,730kozを予想。そのうち産出量は1.5%減の5,970koz。リサイクルは、6%減の1,760koz。これは、2016年の大量の中国の宝飾品のリサイクルが20%減の500kozとなることが予想されていることから。自動車業界からのリサイクルは2%上昇し1,255koz。
それに対し需要は、自動車産業においては2017年の年間需要は3,405kozで2016年の3,435kozから少なからず増加。欧州とインドでの小型のディーゼル車のシェアは下がると予想されているものの、中型と大型のディーゼル車の需要は継続すると予想。
宝飾品需要は、2017年に2,530kozと1%減を予想。これは、中国と日本の需要減少が、インドや他の地域の需要増を上回ることから。
工業用需要は9%減の1,610koz。これは、石油業界の著しい需要減少でネット需要が100koz(-55%)となることが予想されていることから。また、ガラスと電子機器と化学業界の需要もそれぞれ、-35koz、-10koz、-10kozと減少を予想。
投資需要は、250kozと昨年来の需要の水準を維持。これは、プラチナETFの継続的な需要増や米イーグルコインが1月に20koz販売されるなど良いスタートを切ったことからも、日本円安による日本の投資家のプラチナ地金需要の減少をカバーすると予想。
地上の在庫については、2017年が65koz供給不足となることが予想されていることから、年末の地上在庫は1,885kozを予想。
ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルがまとめたデータのプラチナの需要と供給の推移のチャートは次の通り。
かつては、プラチナ業界でも最も注目されていた年間需給レポートを出していた英国精錬大手企業。この貴金属精製部門は、貴金属リサイクルのアサヒホールディングスに2014年売却された。
同社が発表した2016年の需給詳細と2017年の見通しのデータは下記の通り。
このように、先の異なる会社のリサーチにおける供給と需要のデータが異なることが明らかとなっている。
それは、Metals Focusのリサーチにおいては、著しい供給不足となったのは2014年のみで、2016年にプラチナが供給過多であったこと、そして2017年に9.8トンの供給過多を予想しており、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルにおいては、供給不足が2013年来続いており、2017年もまた少ないながらも65koz(2トン)の供給不足となることが予想されている。それに対し、Johnson Mattheyのデータにおいては、昨年まで5年間供給不足が続いたものの、2017年は供給過多302koz(9.4トン)となることが予想されている。