金相場を叩きつけるドル高
ドル高によって金相場は押し下げられています。それでは、10月の金相場の先行きはどのようなものなのでしょうか。ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュはここで解説しています。
長期的にドルが上げると、金が下がるというのが、為替レートが変動を始めた1973年以降に、貴金属投資家が学んだことでした。
そして、現在2014年後半に、スイスの投資銀行UBSのチーフエコノミストのGeorge Magnus氏は、「ブレトンウッズ体制以降の3度目のドル高が訪れているようです。」と述べています。しかし、この分析は、彼の短期の動きから長期の予想を行うというアドバイス同様に耳を傾けるべきではないでしょう。
まず、Magnus氏は正しいのかを検証してみましょう。チャートが示すように、金相場の今後の方向性は、ドル・インデックスの動きよりも確かなものではありません。しかし、昨今のドル・インデックスは、2011年春の最低水準を経て、1980年代初旬の「最強のドル高」とは、とても比べることはできないものです。ところが、現在と当時の背景は、次のように似通うものがあります。
- コモディティが長期の強気市場を経て供給過剰であること。
- 消費者物価指数がディスインフレを示していること。
- 欧州経済が競争力を失い、弱体化していること。
- 新興国が多額の債務を抱えていること。
- 米国の金融政策で金利引き上げが行われたこと。(もしくは、この時期が近いこと。)
米国連邦準備制度理事会が「長期に渡り」異例の超低金利政策を継続すると明言しているものの、米国ドル以外の資産を保有する米国投資家にとっては、2014年の第3四半期は、心地良いものではなかったことでしょう
米国投資家にとっての金相場は、9月のみでもロンドンPM Fix金価格で5.8%下げ、第3四半期の終わりに、2014年の最低水準へと下げています。その間、銀相場は8月の終わりから12%以上下げ、2010年5月以来の低い水準へと下落しています。
しかしそれに対し、ユーロ建て金相場は過去12ヶ月で最高の水準に近づいています。また、ポンド建ては、今週火曜日のGDPの上方修正を受けて下げたものの、年初から3%上昇しています。
そのため、金相場の昨今の下げは、ドル建てに限っているもので、相対的なものであるのです。そして、10月にドル建てと他の通貨建ての金相場の動きは更に広がる可能性があります。
その要因の一つは、今週行われた欧州中央銀行の金融政策会議でした。ドラギ欧州中央銀行総裁は、さらなる量的緩和を行うことを示唆していましたが、新たなものは発表されませんでした。しかし、最新のユーロ圏の消費者物価指数は、年間0.3%の上昇と低迷していることからも、今後何らかの手立ては行われることでしょう。
そして、10月末には、米国連邦準備制度理事会が、欧州中銀とは異り、量的緩和縮小の一環として、資産購入プログラムの最後の150億ドルを終了する予定でいます。これにより、インフレーションと国内総生産(GDP)の上昇が予測され、「長期に渡る」異例の超低金利を終了せざるを得ない状況となると予想されています。
また、本日は米国雇用統計が発表されます。そして、月半ばには、欧州連合(EU)司法裁判所による、欧州中央銀行(ECB)の国債買い入れ策「アウトライト・マネタリー・トランザクションズ(OMT)」の合憲性をめぐる判断が下ります。
ドラギ欧州中央銀行総裁は、まだこの方策でユーロ圏の弱体化した経済下にある国々の債券を購入していません。しかし、もし裁判所が違法であると判断した場合は、ギリシャやスペインなどの経済不安を持つ国々で混乱が起こり、ユーロを更に押し下げる可能性があります。
アナリストは為替市場でユーロの下げを予想し、ユーロのショートポジションが拡大しています。バークレイズ銀行は、今週EUR/USDの12ヶ月先の予想を1.25ドルから1.10ドルへと下げています。もしこの予想が当たるのであれば、ドル・インデックスを過去10年で最も高い90へと押し上げます。その2004年当時の金相場は、トロイオンスあたり400ドルを推移していました。そのため、単純な分析を行うとすれば、先物オプション市場の動きに関わらず、ユーロが下げればドルが上昇し、金相場は押し下げられるということになります。
「金が上げ、ドルが下げる」傾向は、2002年から2008年まで明らかでした。そのために、多くのヘッジファンドは、この傾向に添って取引きを行いました。当時米国ドルは為替市場で対主要通貨30%下げましたが、金はその間ドル建てで160%上昇したのです。しかし、金融危機時にはこの関係は途絶え、ドル高とともに金も上昇し続けたのでした。
多くのトレーダーは過去の傾向に基づき、2014年が終わりに近づく中、米国ドルが対ユーロ、円、ポンドや他の通貨で上昇し、ドル建て金相場が下げるという、ポジションをとることでしょう。
しかし、ここで気をつけるべきことがあります。それは、1974年以来、金とドルは30%の間、同じ方向に動いているのです。例えば、米国ドルが上昇する際には、金相場も上昇することが過去40年間に21%あり、この場合は米国ドルが下げた時よりもより大きな幅上昇しています。そして、金相場が米国ドルが上昇しているにもかかわらず上げている場合、ドル建て金相場は前年比平均24%上昇し、米国ドルが下げている時は、平均18%上昇しています。
もちろん、金融危機時には、投資家は米国ドルと金を同時に購入する傾向がありますが、これが必ずしも常に行わるわけでもありません。しかし、金相場が急騰した危機としては、1979年のロシアのアフガニスタン侵攻、2008年のリーマン・ショック、2010年のユーロ危機などが上げられます。
当時、米国ドルが上げるとともに金が上昇し、米国外の投資家がその通貨を危機から守るために奔放したことは、2014年後半の現在、すでに遠く懐かしいものかもしれません。実際に金融市場は、今年は現段階までは大きな問題を避けてきています。これは、投資銀行のアナリストが今週ファイナンシャルタイムスに、今年の記録的な世界の吸収合併の案件数を見る中で「地政学的リスクや金融リスクに関して、昨今のように市場が反応をしないことは見たことはありません。」とコメントしたように。
しかし、このように市場に緊張感が失われている時のために、金の投資は存在するのです。為替市場ストラテジストが、「どのようなニュースも米国ドルにとっては良いニュースのようだ」と語っているような時にこそ、備えるべきなのです。例え、米国ドルの先行き予想がどのようなものであろうと。