金投資傾向はポジティブであるものの低水準となる
2014年の夏は、大規模な金投資家は金保有高を積み増したものの、安全資産としての金需要は見られることはありませんでした。
金投資家の需要は、8月にプラスでしたが、「かろうじて」と言うべきでしょう。ブリオンボールトのリサーチ主任のエィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトが毎月まとめている、金投資家の投資傾向を表す金投資家インデックスの8月数値を解説しています。
地政学リスクは、全くこの結果に影響を与えていません。金の「安全資産」としての需要は、ウクライナ、ガザ、イラクの紛争にもかかわらず、特に見られることはありませんでした。
これは、個人投資家によって実際に取引されたデータにおいて確認できます。ブリオンボールトは、世界最大のオンラインの金と銀市場を提供しており、金投資家インデックスは、ブリオンボールトを利用している人々の投資傾向を数値に表したものです。
そのため、この数値は、今後の投資計画のアンケートを基にしたものではなく、実際にブリオンボールトで行われた金現物取引を基に算出されています。
この数値が50の場合は、月間のネット購入者数とネット売却者数が完璧に一致したことを意味します。そして、過去最高を記録したのは2011年9月で、71.7というものでした。2014年8月は、金投資家インデックは51.7と、2月以来初めて上昇した7月の51.9から下げることとなりました。ちなみに、今年6月の数値は、51.2と過去4年半で最も低い水準となっていました。
また、8月は金投資家の金保有高も、重量で増加し、3ヶ月連続で保有高が増量することとなりました。これは、2013年1月以来、最も長い期間増加を続けた事となります。
しかし、顧客の金の保有高は増加したものの、その量は50キロのみです。そして、ブリオンボールトが提供している保管場所の、ロンドン、チューリッヒ、ニューヨーク、シンガポール、トロント全体の保管総量は、33.1トンと、過去最高を記録しています。ちなみに、顧客による保管量が増加した場所としては、シンガポールが特出していました。
個人投資家が継続して保有高を積み増していることは明らかとなりました。そして、金投資家インデックスが低水準である間、大規模な金投資家が、この傾向を牽引していることも見ることができます。しかし、多くの個人投資家は、金市場から離れ、史上最高値を更新している株式市場へと資金を動かしているようです。
高騰しつつある株式市場への懸念は広がりつつあります。そして、ユーロ圏の投資家は、中央銀行がこの秋に量的緩和を開始するのではないかと憂慮しています。しかし、地政学リスク関連のニュースがメディアの見出しを飾っているにもかかわらず、金の価格と需要は動かされていません。
アルゼンチンの破綻、ガザにおける被害の拡大、イラクのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の勢力拡大は、金投資への要因とはなりませんでした。そして、次のようなデータもまた、今年8月が、いかに金にとっては厳しい月であったかを示しています。
- 金取引レンジが、過去5年間で最も狭い、トロイオンスあたり40ドルほどとなったこと。
- 月間の平均価格1296ドルは、過去12ヶ月の平均金価格の1297.50ドルとほぼ同水準であったこと。
- コメックス金先物・オプションの投機筋の未決済の建玉が、2009年9月以来の過去5年間で最も低い水準へ下げたこと。
- 金ETFの最大銘柄SPDRゴールドシェア(NYSEArca:GLD)の残高も6トン減少し、7月を含む2014年の年初からの増加量を失い、795トンとなったこと。
なぜ、地政学リスクが高まっていることを示す多くのニュースにもかかわらず、金投資が急増しなかったのでしょうか。
歴史的には、金は金融システムの保険という役割を果たします。しかし、地政学リスクの高まりを利用した、投機的取引には使われません。しかし、このような中注目すべきことは、8月のドル建て平均金価格はトロイオンスあたり1285ドルと7月から変化がなかったものの、ユーロ建てにおいては1.6%、ポンド建てにおいては1.8%上昇しているということでしょう。
それでは、これは英国と欧州に近い将来何らかの問題が起こることを示しているのでしょうか。金市場は残念ながら、そのように単純なものではありません。しかし、地政学リスクが金価格と需要を動かさなかった間、長期的に金投資を行う人々は、静かに着実に金の保有量を積みましています。
これらの人々は、金融システムの保険を、金融危機の最中に記録した高値(ドルとポンド建てで2011年、ユーロ建てで2012年)の3分の1の価格で購入しているのです。昨年以来、金価格は横這い状態を続けています。一部の金投資家は、メディアの見出しなどに惑わされること無く、着実に自分の判断で金購入しているということなのでしょう。