金投資家インデックス: 欧米の投資傾向がアジア化へ
個人投資家の金と銀の投資傾向が、貴金属相場が過去6年間の再低値を記録する中、11月に強気基調に転換していました。
個人投資家の金・銀投資傾向が、アジアの投資家の傾向ように価格に敏感であることが、先月の金・銀投資家インデックスで明らかとなりました。ここで、ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュが解説しています。
今月米連邦準備制度理事会で、長く先延ばされてきたゼロレートからの「利上げ」の決定が行われるという観測が広がっていた11月に、過去6年間で再低値へと下落した貴金属価格を、欧米の投資家は買い時と見たようです。これは、10月の売却の傾向からの転換となりました。
この傾向をブリオンボールトの最新の金・銀投資家インデックスの数値が明らかにしました。このインデックスは、それぞれの月の、ブリオンボールトにおける、ネット購入者数とネット売却者数のバランスを表すものです。ブリオンボールトは、世界でも最大の、毎週4500の取引を成立させるオンラインの金・銀現物市場を提供しています。
全世界の5万8000人を超えるブリオンボールトのユーザーの内89%が西欧と北米に居住するため、欧米の投資家の投資傾向を表す金・銀投資家インデックスが共に、先月はアジアの投資家の価格に敏感な投資傾向と同様の傾向を見せていることを明らかにしました。、
ブリオンボールトで実際に行われた取引からのみ算出されているこの数値では、10月の過去5年間で最も低い水準となった51.1から大きく上昇し、11月に53.8となっていました。これは、過去2年間で最も高い水準となった7月に迫る高い水準です。
そして、2013年4月の金相場の急落時に次ぐ速さで、月間平均金価格が6.3%下げる中、金投資家インデックスは、今年の2月以来の速いスピードで上昇していました。
この数値が50である場合は、その月のネット購入者数とネット売却者数が完璧に一致したことを意味します。
銀投資家インデックスは、10月の過去最低の水準の47.8から、11月に過去2年半で最も速いペースで上昇し、54.6となりました。これは、11月にネットで銀を購入したユーザー数が51%増と、過去12ヶ月の平均と同等の水準となり、売却者数は、10月に2015年の最高水準に達した後に、11月は2010年9月以来の最低水準へと下げたことからです。
この傾向は、機関投資家がこの過去6年間で最低値をつけた時期に、貴金属を売却もしくは空売りをしていた傾向とは、全く異なるものであることを際立たせたのでした。
ブリオンボールトにおいては、価格の上昇で売り、下げたところで買う個人投資家もいる中で、長期保有の投資家は、低値で着実に現物保有の量を増加させていました。
その結果、ブリオンボールトの顧客は、11月に金の保有量を0.2%増加させ、過去最高を更新し34.4トンとし、過去12ヶ月で10ヶ月金保有量を増加させています。
また、銀の保有量は8ヶ月連続で増加し、0.7%増の539トンとなり、これは前年比10.5%増となります。
本来長期に渡り貴金属を購入するというのは、欧米よりも、アジアで一般的に行われている投資方法です。その最も典型的な国がインドであり、昨今は中国となっています。そして、金と銀の投資は、西欧や北米の投資家の中では、未だこれらの国々ほど一般的とは言えないでしょう。
しかし、2007年から2012年の金融危機を経て、ニューヨーク・タイムズが問いかけた質問「中央銀行が存在する場合、誰が金を必要とするか」に対し、「全ての人」と答えたように、金・銀現物の魅力は、欧米諸国でも継続して広がっているのです。
人工的に作り出すことができない、そのためにバブルも存在しない、現物地金の所有権を持っていても、その価格リスクは発生します。しかし、希少性が高く、世界のどこでも取引が可能な金・銀現物を所有することで、資産を破綻からのリスクから守ることができることからも、将来的に個人投資家のみならず、機関投資家もその傾向へと転換することになるでしょう。
米連邦準備制度理事会が、12月にゼロレートから利上げを行うであろうという観測は更に広がりつつあります。 これにより金利を生み出さない地金を保有することによる、預金に対する機会費用が上昇することとなります。しかし、ブリオンボールトの顧客は、価格が上昇する際に買わず、下げで買って、地道に保有量を増加させています。
この傾向は、2013年の金・銀相場の急落時に始まったことが先のチャートから見ることができます。そして、今月の金投資家インデックスの58.6は、2011年後半に金価格が最高値を記録して以来の高い水準です。
2015年に異なる点は、ブリオンボールトのユーザーが、その保有量を継続的に増加させているところです。それに対し、2013年の価格の急落時には、保有量は減少していました。それは、10年前に金を購入していた大規模な顧客が、利益確定を行っていたためであり、当時4月から6月末の間に、33トンの総保有量が3.6%減少していたのです。
多くのアナリストや機関投資家(資産運用者)は、米連邦準備制度理事会によるゼロレートからの利上げは、金と銀相場に痛手を与えるであろうと予想しています。
確かに、今月の米国のゼロレートからの金利引き上げの決定は、米連邦準備制度理事会にとっては、その信認を損なわないためにも重要なものです。それは、米連邦準備制度理事会が9月に利上げを躊躇したことによって、その信頼性を揺らげるものとなったからです。
しかし、今回利上げをしたとしても、昨今の低いインフレ率より低い金利となることからも、今後どれだけの期間をかけて、7年間続いたゼロレートを、緩やかに引き上げるのかが問われることとなり、市場の注目はそこに移行することとなることでしょう。
多くの欧米の投資家は、既にこの利上げを待つことに疲れてしまっているのです。そして、アジアの金・銀投資家が示してきたように、過去の経験から、自国通貨の価値が維持されることが信じられないことからも、貴金属投資の魅力が更に増しているのです。