英国は「ブレグジット懸念は全くない」と金投資傾向が語る
英国投資家はブレグジットへの懸念を全く持っていないのでしょうか。
ブレグジットまでひと月を切る中、英国からの金投資が激減していたことからも、英国投資家は3月29日の英国のEU離脱に対して強い懸念を未だ持っていないことが明らかとなりました。ここで、ブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュがこのデータを解説しています。
そうでなければ、先月の12年ぶりの英国の金投資家の需要の低さはどのように説明することができるのでしょうか。
ブリオンボールトは、一般投資家に世界最大のオンライン貴金属現物市場を提供しています。そして、英国の顧客は16億ドル(約1840億円相当)の金地金をロンドン、ニューヨーク、シンガポール、トロント、チューリッヒで保管している世界の顧客の半数を占めています。
この規模は世界の多くの中央銀行の金準備を上回り、世界の111の金を裏付けとする上場投資信託(ETF)の12を除きその残高の規模を上回っています。
それでは、この市場で一般投資家は金投資にどのような傾向を見せているのでしょうか。
1日あたりの数値を見ると、先月英国における新規顧客数は、英国での世界金融危機の始まりとみられる2007年夏のノーザンロックの取り付け騒ぎ以来の低いものとなっていました。
英国がEUからの離脱を決めた2016年6月と比較すると、この際英国からの新規顧客数は、金融危機以降の緊縮財政もあり発生した2011年夏のイギリス暴動以来の高さへと急増していましたが、先月の1日あたりの新規顧客数は、当時の値からは82.1%減となっていました。
英国の一般投資家がブレグジットに懸念を抱いていない上に、世界の株価が上昇を続けていたことも、金融システムの保険的役割の金を必要としなかった理由でもあるのでしょう。また、金価格が上昇していたことも、新規顧客にとっては重荷となっていたのでしょう。
先月ポンド建て金価格は1.3%上昇し、2016年10月以来の1015ポンドという高い月間平均価格を付けていました。
しかし、ドル建て金価格においても、5か月連続で前月比2.2%と10か月ぶりの高さのトロイオンスあたり1320ドルへと上昇し、ユーロ建てにおいては、2.8%上昇して22か月ぶりの高さの1163ユーロを付けていました。
そのために、英国の新規顧客数は、先月過去12か月の平均からは30.8%減となっていたのです。その間、経済指標が景気後退を示しているドイツからの新規顧客数は、過去12か月の平均を11.4%上回り、16週連続で「黄色ベスト運動」が行われているフランスからの新規顧客は65.9%上回っていました。
ブリオンボールトの世界の顧客においては、先月一か月の間に購入が売却を上回ったネット購入者数は、1月の3か月ぶりの高さから9.3%減少したものの、ネット売却者数も前月の12か月ぶりの高さから6.0%下げていました。
そのために、ブリオンボールトの市場で実際に取引がされた数値を基に算出されている金投資家インデックスは、1月の52.6から52.2へと小幅な下げを記録していました。この数値が50の場合は、その月のネットの購入者数とネット売却者数が完璧に一致したことを意味しています。
銀価格もまた2月に上昇しドル建てで1.4%高と、昨年6月以来で最も高い月間平均価格のトロイオンスあたり$15.81となっていました。
そこで、先月の銀のネット購入者数は1月の3か月ぶりの高さから9.1%減少したものの、売却者数はさらに下げて前月の12か月ぶりの高さから19.9%減少して、月間平均銀価格がトロイオンスあたり15.81ドルと前月比1.4%上昇していたにもかかわらず、前年11月以来の低さとなっていました。
そこで、銀投資家インデックスは2月に51.0と1月の50.5を上回っていました。
重量にすると、顧客が保有する銀の量は1月の史上最高値から変化なく753トンとなっていました。
しかし、顧客が保有する金の量は3か月連続で減少し、2月のみで151キログラム減で、昨年11月の史上最高値からは0.4トン減の38.8トンとなっていました。
2月に金を売却した顧客の4人に1人は、金を2017年もしくは2018年のドル建て価格が平均4.4%下回っていた頃に購入していました。
そして、2017年から2018年の最低価格で計算すると、先月の平均価格はドル建てとポンド建ての顧客にとっては10.6%の利益をもたらし、ユーロ建ての顧客にとっては13.2%の利益をもたらしたことになります。
人々は将来への不安があると金に投資を行います。そのため、英国の人々は未だブレグジットへの懸念を高めていないということなのでしょう。
金価格がポンド建てで史上最高値を付けた2011年の夏や、6時間でポンド建て価格が22%上昇したEUからの英国の離脱を決めた国民投票の結果が明らかとなった2016年6月の強い金投資への需要は未だ見ることはありません。
つまりは、英国の貯蓄家と投資家が、それが正しいか正しくないかは別としても、英国の今後について不安を感じてい無いということを示していると言わざるを得ないでしょう。