株式市場の急落が金の投資戦略を変えることになるのか
価格に敏感な取引方法は、米株式市場の60年に及ぶ長期の上昇が途絶えた場合、選択肢ではなくなるかもしれません。
2月の株式市場の大きな下げの前には、米国株価は過去60年間でも記録的に長い期間上昇を続けていました。ここで、ブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュが解説しています。
このような状況下でも、先月個人投資家が他の資産からのリスクを分散するための保険としての役割がある金を購入するすることを止めることはありませんでした。
それは、価格の下げで購入し、上げで売却するという取引が、ブリオンボールトでは投資効果高く簡単にできることからでした。
しかし、今回の大きな株価の下げを経験した個人投資家は、これまでの価格に敏感な取引パターンを崩すかもしれません。
それは、現物金地金が歴史的に株式市場の低迷時に損失を抑える保険的役割を果たしてきたことからも、これまでの投資戦略は選択肢ではなくなるかもしれないことからです。
1月に地金を売却した個人投資家数と比較しても、地金の購入者数は、価格が上昇したことからも減少していました。
このパターンはトランプ大統領が就任した2016年末以来、崩れることなく続いていました。
トランプ大統領が選出されるまでは、ブリオンボールトを利用する個人投資家の取引データを基に算出されている金投資家インデックスは、価格と共に84ヶ月中45ヶ月動いていました。(53.6%)
それに対し、トランプ大統領選出以降は、個人投資家のセンチメントは、ドル建て月間平均金価格と逆方向に15ヶ月中13ヶ月動いていたのです。(86.7%)
2018年1月を例にすると、ドル建て金価格は過去2年間で最も速いペースの5.6%上昇していました。そして、金購入者数は前月比9.6%下げ、売却者数が58.9%大きく上昇していたのです。それにより、金投資家インデックスは、12月の2017年の最も高い数値の55.3から下げ、52.7と5か月ぶりの低い水準へと下げていました。
そして、この時期S&P 500種指数は、過去に1958年のみに見られていた10ヶ月連続で価格が上昇する強気市場となっていました。
ブリオンボールトがまとめる金投資家インデックスは、実際に取引されたデータのみを利用し、その月にネットで金を購入した投資家の数と売却した投資家の数のバランスを表しています。
この値が50の場合は、月間の金購入量が売却量を上回る顧客数と金売却量が購入量を上回る顧客数が完璧に一致したことを意味し、この最高値は金価格が史上最高値を記録した2011年9月の71.7で、2017年の最高値としては5月と12月に55.3を付けていました。そして、過去5年間の再低値は、金価格が数年ぶりの低さに下げていた2015年1月の50.5となっていました。
銀投資家インデックスも価格が上昇した1月に下落していました。
月間平均ドル建て価格は、ドルが弱含む中昨年2月以来の速いペースの6.2%上昇していました。
そのために、ブリオンボールトにおける銀の売却者数は61.3%増加し、購入者数は13.6%減少していました。
その結果銀投資家インデックスは、12月の5ヶ月ぶりの高さの53.9から50.8と下げることとなりました。このように50.0に近い数値となったのは、トランプ大統領が選出されて以来4度目となります。
重量にすると、ブリオンボールトの顧客の保有する銀の保管総量は先月末の2017年末から変化なく、700.5トンとなっていました。
顧客の保有する金の保管総量は、1月初めの記録的な保管量の増加分を全て失い、さらに昨年末の史上最高値から123キロ減少し、38.5キロとなっていました。
2月の株価の急落のために、ブリオンボールトにおいて既に取引量が急増しています。今月の需要が金投資家の価格に敏感な投資パターンを崩すことになるのかは、この株価の下げがどれぐらい続くかによるでしょう。
金は株価が下げた際に必ずしも上昇することは保証されていません。実際金融市場が暴落する際は、その損失をカバーするために売却されます。しかしそれが金の保険的役割でもあり、これが可能であるのは、金市場が春節前の中国の消費者の高い需要やマイクロチップなどの工業用需要などの、多様なニーズを満たすことができる高い流動性を持っているからでもあるのです。
過去のデータにおいて株式市場が長く低迷する際に金価格が上昇していることが何度も見られています。そのために、長期的には、中央銀行、ヘッジファンド、資金運用者等の価格に敏感ではない購入者の需要が、金融市場にストレスが高まっている際に増加するのです。