価格要因が政治的リスク要因を上回り金投資傾向が減少
現物金需要はコメックスの金先物・オプションの需要とは大きく異なるようです。
5年ぶりの長期間続いていた個人投資家による金投資需要は、4月に政治的リスクから金価格が5ヶ月ぶりの高い水準へ上昇する中、利益確定の売却が進み終える事となりました。ここで、ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュが解説しています。
ブリオンボールトの顧客は8ヶ月連続で金保有量を増加させていましたが、先月中旬に金価格が上昇した際に、250キロの金を売却していました。
しかし、顧客の購入量から売却量を差し引いたネット需要は、フランス大統領選の第一回投票の結果で金価格が下落する中戻ってきたことから、4月末には保管総量は37.9トンと、前月比70キロ減となっていました。
これにより、ブリオンボールトの顧客が保管する金の評価額は15億ドル(1360億円相当)と多くの中央銀行の金準備高を上回る額となっています。
新たに金を購入した顧客の数も先月は減少し、金価格が6年ぶりの低さへ下げていた2015年12月以来の低い水準となっていました。
しかしコメックス先物・オプションの資金運用業者は、これとは対象的に、金においてはロングポジションを50%増加させ、銀においては史上最高値まで増加させていました。
このようにヘッジファンドが先月あたかも第3次世界対戦が近いかのようにポジションを取っていたのに対し、現物市場においては価格要因が政治的要因を上回り、個人投資家は利益確定を進めていたのでした。
4月には、シリアを巡る米国とロシアの緊張の高まりに加え、フランス大統領選の第一回投票結果への懸念からも、月半ばには金価格においてドル建て及び英国ポンド建てで昨年10月のドナルド・トランプ氏が大統領に選出される直前の高さへと上昇していました。
また、ユーロ建ての月間平均金価格は、昨年9月以来の高い水準へと上昇していました。
そこで、ブリオンボールトにおける金の保有量を月間で減らした投資家の数は、前月比22%上昇し、月間で金保有量を増加させた投資家の数は前月比20%減少し、2016年1月以来の低さとなっていました。
そのために、4月の金投資家インデックスは、3月の54.2から52.1へと4%近く下げることとなりました。
この数値が50の場合は、月間の金購入量が売却量を上回る顧客数と金売却量が購入量を上回る顧客数が完璧に一致したことを意味します。金投資家インデックスは、統計を始めた2009年10月以来、2010年2月にただ一度だけ50を下回り、過去最高値は、金価格が記録的な高さとなった2011年9月の71.7でした。
金投資家インデックスに対し銀投資家インデックスは、4月に52.1と3月の52.2から多少下げたのみでした。
顧客の銀保有量も、金と比較してもその変化は限定的で、4月中旬に価格が5ヶ月ぶりの高さへ上昇した際に売却が進んだものの、その後の価格の下落で買い戻されたことから、3月の史上最高値の663トンからほぼ変わりませんでした。
なお、ブリオンボールトが、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)と提携して今年3月に新たに始めたプラチナにおいては、その保管量は24キロ増加し、総保管量は171キロで、その評価額は500万ドル(6億円相当)となっていました。
また、新たな顧客による金の購入は、4月に過去12ヶ月の平均から33%減少し、この値は金と銀が6年ぶりの価格の低さを記録した2015年12月以来の低さとなっていました。
ブリオンボールトの顧客は欧米の国々に居住していることから、2016年の地政学的リスクの高まりからも、昨年は2012年以来の新規顧客数を記録していました。
4月のブリオンボールトにおける現物需要の減少は、他の現物市場でも見られており、米国造幣局のレポートによると、先月は9500オンスのイーグル金貨とバッファロー金貨が販売されたとのこと。これは、295キロにすぎず、2016年4月の8%にも至っていませんでした。
また、オーストラリアのパースミントでも、金貨と小規模な投資用金地金の販売量は、5年ぶりの低い水準となっていたとのことです。
それに対し、金の先物・オプションの投機的取引と同様の動きをしていたのは、金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアで、この残高は4月に少ないながらも増加していました。また、銀のETFの最大銘柄iSharesシルバートラストの残高は、ブリオンボールトの顧客同様に、価格上昇時に1年ぶりの低さへと下げたものの、月末までに買い戻されてほぼ変化なく終えています。