金市場ニュース

価格の下げで2008年9月以来の少ない金売却者数へ

金ETFの残高が減少を続ける中、個人投資家の金購入は急増していました。

もし、この金の個人投資家の傾向から学ぶことがあるとしたら、株式投資や貯蓄をしている人々は注意を向けるべきかもしれません。ここで、ブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュがその解説をしています。

先月の個人投資家の金購入は、価格が下げる中で急増していました。その間、金の売却は10年ぶりの低さともなっていました。

この水準の金売却は2008年8月の事でした。これは、リーマンブラザーズの破綻と共に制御不能なほどに多くの銀行の破綻が続いた、1930年の大恐慌以来の最大の経済危機となった世界金融危機の直前でもありました。

先月7月のこの動きは、金価格が下げたことに誘発されたことは明らかですが、既に金投資を行っている個人投資家にとってその保有量を増加させることに迷いは無いことを改めて示すこととなりました。

弊社顧客は常に金投資の理由として、歴史的に他の資産が下げる時に金は上昇していることからも、金が投資の保険となることが証明されているからと語ります。

そのために、低い金価格は金を長期保有している人々にとっては、投資リスクを軽減する保険を安く購入することができることを意味するのです。先月のドル建て月間平均金価格は、1年ぶりの低さで今年4月の20ヶ月ぶりの高さからは7.2%下げていました。

そこで、この価格の下げに反応し、月間で金の購入よりも売却を上回ったネットの金売却者数は前月から10.8%減となっていました。これは、2008年8月以来の低い水準で、この時のブリオンボールトの顧客規模は現在の5分の1にすぎませんでした。

それに対し、先月ブリオンボールトでネットで金を購入した個人投資家の数は前月から23.5%増加し、購入者数と売却者数の比率は4.4対1と、10年ぶりの大きな差となっていました。

 


 

そのために、ブリオンボールトで実際に行われた売買データから算出された金投資家インデックスは、6月の54.8から56.8へと上昇していました。これはトランプ大統領が就任して以来の最も高い数値で、3ヶ月間の上げ幅としては2012年末以来の急激なもので8.2%でした。

ブリオンボールトの金投資家インデックスは、個人投資家の金現物の投資傾向を表す、世界でも数少ない指標で、24時間取引が行われているブリオンボールトのオンライン市場で取引がされたデータを基に算出され、月間でその金の購入が売却を上回ったネットで購入した投資家の数と売却が購入を上回ったネットで売却をした投資家の数のバランスを表しています。そして、この購入者数と売却者数が完璧に一致した際は50として設定されています。

この数値の最高値は、欧州の債務危機の最中の2011年9月に金価格がドル建てで最高値を付けていた際の71.1で、それは英国の多くの都市で暴動が起こった翌月でもありました。そして、この数値の最低値は50.5で、金価格が数年ぶりの低い値となっていた2014年から2015年の冬でした。それ以来、金投資家インデックスは金価格との強い負の相関性を保っており、トランプ大統領が選出されて以来21ヶ月中の18ヶ月がこの傾向となっています。

ユーロ建て金価格が2016年1月以来の低さへ下げていた7月に、ユーロ圏の金の需要は急増し、ネット購入者数と売却者数の比率は6対1となっていました。

そのために、ブリオンボールトを利用する個人投資家によって保管されている金の総量は月間で339キロ増加し、昨年12月以来の最大の月間増加量となっていました。

そこで、ブリオンボールトで保管されている金地金の総量は史上最高の39トンへと達し、北アメリカで上場されている17の金ETFの最大銘柄4つに次ぐ量となっていました。

既存の顧客の金投資傾向は強いものがありましたが、新規顧客による金投資は、世界の株価が堅調に推移する中で低く抑えられていました。

Googleトレンドで「金を購入」の検索量を確認してみると、6月の11年ぶりの低い数値よりも増加しているものの、6月と7月の数値は過去10年間の平均の3分の1で、2008年から2012年までの期間と比較すると、その半分にも至っていないことが明らかとなっていました。

ブリオンボールトにおける新規顧客による金購入は、4年ぶりの低さを記録した5月からは8.1%増と2ヶ月連続で増加はしていましたが、過去12か月の平均の30.5%減で、過去5年間の平均よりも36.5%減となっていました。

金同様に、先月は月間で銀の売却が購入を上回った顧客数も2010年8月以来の低い水準となっていました。当時の銀投資を行っていた顧客規模は現在の10分の1でしかなかったにもかかわらずです。

そのために、銀投資家インデックスは、銀価格がドル建てで2016年3月以来の低さへと4.9%下げていた先月に、53.7と6月の50.9から大きく上昇し、5ヶ月ぶりの高さとなっていました。

 


 

重量においては、ブリオンボールトの顧客は全体で5トンその保有量を増加させ、月間の増加量としては今年3月以来の多さとなっていました。

そのため、ブリオンボールトで顧客が保管する銀の総量は、新たな記録の727.8トンとなり、ドル建て価格が同様な低水準を推移していた頃から31.8%増となっていました。

ブリオンボールトの顧客は、マクロ経済の視点で必ずしも金を購入しているのではないかもしれません。しかし、彼らは世界最大のオンライン市場の金投資家の傾向を表しています。そして、他の金地金業者も先月需要が高まったことをレポートしています。

米国造幣局は、アメリカンイーグル金貨の販売量は6月から42.9%回復していました。オーストラリアのパースミント(造幣局)は、金の販売量が重量で77.6%増となっていたことも明らかとなっています。

造幣局のように金や金貨を製造し卸売業者や販売代理店へ卸している機関やこれらからのデータは、必ずしも個人投資家の売買傾向を表しているとは言えないかもしれません。しかし、このデータは弊社の金投資家インデックスのデータを支持する内容でもありました。そして、機関投資家の動きが間違っているという弊社の意見にも同意しています。

給料をもらって投資家の資金で投資を行っている人々は、7月の価格の下げで金から遠のいています。金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェア(NYSEArca:GLD)の残高は、先月2.3%減少していました。そして、投機家によるコメックスの金先物・オプションのポジションは、金価格の下げに賭け、そのネットショートポジションは過去12年間で史上最大の記録的なものとなっていたことが、米国の取引市場の規制・監督機関のCFTCのレポートで明らかとなっていました。

この金価格が下げることに賭けた投機的取引は、価格の下げの要因でもあったでしょう。そして、長期保有の目的で金投資を行う人々は、この下げを保険のための金購入の最高の機会と見て喜んだことでしょう。

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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