ロンドン金値決めの行方
ロンドン金値決めの新方式提案会社によるロンドン貴金属市場協会(LBMA)の会員向けプレゼンテーションが10月24日に行われました。
このセミナーは、チャタムハウス・ルール*で行われたために、情報公開内容が制限されています。そのため、LBMAのサイトで発表されている内容を中心に次のようにまとめてみました。
金値決め新方式選択に至るまでの経緯
まず、なぜ金値決めの新方式が必要となったかについてを振り返ってみましょう。
今年1月に、ドイツ銀行がコモディティ事業の縮小に伴い、金・銀の値決めメンバーから撤退することを発表し、メンバー枠の売却を試みました。しかし、売却先が決まらない中で、5月14日に銀値決めを運営するLondon Silver Market Fixing Limitedが、8月14日で値決めを停止することを発表しました。これは、銀の値決めのメンバーは、ドイツ銀行が撤退した場合、HSBCとのノーヴァ・スコシア2行のみとなり、存続が不可能となったためです。
ちなみに、ドイツ銀行撤退後の現在の金値決めのメンバーは、バークレイズ、HSBC、ソシエテ・ジェネラル、スコシア・モカッタ(カナダのスコティア銀行の傘下)の4行となっています。
そして、銀値決め新方式を決めるためのLBMAのセミナー開催日である6月20日には、英金融行為監視機構(FCA)が、バークレイズの元トレーダーが金値決めの不正操作を行い、顧客に不利益を与えたとして、内部管理の不備から制裁金を科したことが伝えられ、値決め方式の公正性を自負していた業界の人々も、時代の流れの中での新方式の必要性を認めざるを得なくなってきたのでした。
ちなみに、ドイツ銀行が金・銀値決めから撤退した背景には、銀行間取引金利(LIBOR)スキャンダル以来、主要金融指標への世界の規制当局による監視が強化されていること、そして米国における金・銀値決めに絡む訴訟数の増加というものもあったのでした。
そして、7月15日に金値決めも新方式へ移行する方向で、コンサルテーションが始まったことがLBMAから発表され、9月4日に提案の受付が開始され、先週金曜日に提案会社からのプレゼンテーションが行われたのでした。
新方式に求められているもの
LBMAが新方式の提案を受け付けると同時に行われた、現行の金値決めに関する業界関係者が答えたアンケートでは、次のようなことが明らかとなっています。このアンケートは、66のLBMA会員からのものを含む130の回答をまとめたものです。
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83%の取引が金値決めを利用し、69%のアンケート回答者が金値決めを日々利用している。 -
76%は現在の金値決めに満足している。 -
現在の金値決めを改善する場合は、透明性を高め、電子的プラットフォームを利用し、監査機能を持っていることを求めていること。 -
34の回答者は新たな方式に参加する可能性を示した。 -
規制やコンプライアンスによる制限が市場参加を困難としていること。また、信用及び双務決済機能などが市場参加を決定する要因の1つでもあるとのこと。
このようなことから、新方式に求められ、提案に含まれているものは次のようにまとめられます。
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市場をより広く参加しやすいものとすること。 -
オークションの経過が確認でき、後に監査もできる透明性の高いもの。 -
現行のメンバー企業がコンフェレンスコールを電話で行ってとり行う方法から、電子プラットフォーム上で行うものとし、現在のメンバーの議長をコンピューターアルゴリズムに取り替える。(しかし、ここにおける人間によるモニタリングの度合いは提案によって異なっています。)
LBMA主催セミナー
今月24日に行われたセミナーには、ロンドン貴金属協会(LBMA)の会員と、ISDA(国際スワップ・デリバティブ)会員と共に、イングランド銀行と金融行為監督機構(FCA)も出席しました。
ここでプレゼンテーションを行った提案企業は次のようになります。そして、それぞれの会社の提案概要は下記のリンクでご覧いただけます。
銀値決めの新方式は、CME Group(トムソン・ロイター)が8月15日から提供しており、プラチナとパラジウムの値決めは、LMEが12月1日から行うことが今月半ばに発表されています。また、ICEは、世界の金融指標の1つである銀行間取引金利(LIBOR)の運営・管理を行っています。
なお、イングランド銀行は、英国金融行為規制機構(FCA)が、LIBORを対象に設定した基準を、金・銀値決め価格にも広げることを今年8月に推奨していることからも、金・銀値決めも将来的には、FCAが設定した基準に見合うものとしなければならない可能性は高いと考えられています。
今後の流れ
オンラインのアンケートは27日夜に開始され、11月中には結果が発表される予定です。そして、LBMAの助言の下に新方式を提供する企業は、12月に必要なテストを終え、2015年第1四半期の上旬にシステム稼働開始の予定です。
*チャタムハウス・ルールとは、王立国際問題研究所が起源となっている、会議参加者の行為規範であり、このルールが適用されている場合、当該会議で得られた情報は利用できるものの、その情報の発言者やその他の参加者の身元と所属に関しては秘匿とする(明示的にも目次的にも明らかにしない)という義務を負うというルール。