ロンドン金価格指標の不正操作疑惑について
英国金融監督当局のFCAがロンドンの金価格を調査を進めつつあることが伝えられています。そして、メディアは「不正操作行為」が行なわれていたかどうかを探っています。
ブリオンボールトのリサーチ主任のエィドリアン・アッシュが、ここでこの不正疑惑について、ベネズエラの金準備を利用した金のスワップと共に解説をしています。
ロンドンの金市場の一部が英国の金融監督機関であるFCAによって調べられることとなるようです。それは、ロンドンは世界の指標である金価格(ロンドンフィクシング)と金のリースレート(GOFO)を設定しているためです。そして、世界の指標であれば、監督当局は調べる必要があるのです。
しかし、これは捜査ではありません。そのため、情報源は彼らの名前や情報を提供しなければならないわけではありません。もちろん、「不正操作」に関してもです。そのため、情報源と呼ぶにはふさわしくないかもしれません。
ロイターは、過去3週間の間に、世界の金専門市場の中心であるロンドンの金業界が、監督当局の関心の高まりに対応をしているということをレポートしています。そして、先月のロンドン貴金属市場協会の年次会議では、監督当局によるプレゼンテーションも行なわれました。また、この年次会議中には、KitcoによるFCAのDon Groves氏へのインタビューも行なわれています。
それでは、このニュースが伝える「不正操作疑惑」による影響はどのようなものなのでしょうか。ロンドンの金専門市場においては、金のリースレート(GOFO)は、金を担保にドル(ユーロ)などの資金を借りる時の金利を意味します。そのため、それぞれの銀行が英国銀行協会にそれぞれのロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を伝え、それをまとめて1つのLIBORが決められ、世界の資金の貸し借りの指標金利として使われるように、GOFOもまた、一般に広く公開されることなく、銀行からロンドン貴金属市場協会(LBMA)へ直接伝えられた上で決定されています。
そのため、GOFOには、FCAのような監督当局が質問をする必要があると考慮する理由があります。それは、LIBORのように、GOFOのレートは、市場関係者によって様々な用途で使われているためです。このレートを利用して行なわれる取引額は、LIBORと比較すると少額です。それは、金価格が長期間上昇を続ける中、2003年から金のリース市場が大幅に縮小しているためです。しかし、このレートの不正操作疑惑は更に取り上げられる気配があります。それは、LIBORの不正操作による罰金の総額は50億ドルとなっていることなどからです。
それに対し、金と銀の値決め価格であるロンドン・フィクシングは、今年初めの記事でも説明したように、ロンドンのGold Fixing Ltdの会員の5つの銀行の顧客との取引によって設定される市場価格です。もしくは、市場の参加者がその時点(Spot)で取引できる価格です。一般的に発表されているにもかかわらず、1つの固定した価格ではありません。その代わりに、ロンドンの11のブリオンマーケットメーカーと他の百社以上の金と銀を取引する銀行やブローカーや商社などの買い注文と売り注文の中間値(Mid price)の平均を表しています。(この価格はブリオンボールトのリアルタイムチャートでご覧いただけます。)
この値決め価格(ロンドン・フィクシング)について詳細をお知りになりたければ、Fixing Limitedのサイトをご覧ください。
この「ロンドンの金価格不正操作疑惑」ニュースが主要紙面で取り扱われている間、更に注目すべきことがベネズエラで起こっています。それは、社会主義のこの国で、自国の金準備を担保に資金を得るというニュースを、ベネズエラ国内のメディアが伝えたことです。そして、この際にゴールドマンサックスを利用するということです。
El Banco Central de Venezuela(ベネズエラ中央銀行)は、367トンの金準備の内の45トンを利用し、ゴールドマンサックスと「金のスワップ」をすることを同意したということです。この背景は、世界で14番目の規模の金準備を持つベネズエラですが、外貨準備高が10年来の低水準となり、輸入に必要な10日分にすぎない外貨準備高となっているためとのことです。それは、ベネズエラ中央銀行が、対ドルの自国通貨(ベネズエラ・ボリバル:VEF)の価値を保つために、外為市場で自国通貨を購入し外貨を売却しているためです。ベネズエラ中央銀行は、今年初めにベネズエラ・ボリバル(VEF)と米国ドルの公式固定相場を3分の1に下げました。しかし、ブラックマーケットではその価値は90%近くまで下げています。
そのために、今は亡きウゴ・チャベス元大統領が金準備をロンドンから自国に持ち帰ることを公式に発表した後、この国の中央銀行はロンドン金市場で、金準備の価値を得ようとしています。
ロンドンの監督当局であるFCAは、イングランド銀行の一部です。ベネズエラは、この監督機関に金のスワップレートが不正操作されていると苦情を申し立てたと考える人々もいるかもしれません。しかし、このレートは当事者同士が合意の上で利用しているものです。さらに、詮索好きな人々は、このスワップされたベネズエラの金準備である45トンの金を誰が利用しているのかと想像することでしょう。2013年に金価格が下落する中、多くの小規模の金鉱会社は、産出コストを生み出すために、将来産出分を現在の価格で売却しようとしていることがレポートされています。また、さらに憶測を広げるのであれば、過去12年間に金価格が上昇する中、金準備高を増加させてきた新興国の中央銀行が、これを利用して収益を上げるべき、ロンドンの金リース市場を利用する可能性を探っていると考える人々はいるのかもしれません。