ニュースレター(2025年9月5日)金価格史上最高値、米雇用データの減速で利下げ観測が加速
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。
*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
金価格(ドル建て)は、LBMA金曜日価格で前週金曜日から上昇し、金曜日のLBMA価格としては2週連続で史上最高値を記録。銀価格も3週連続で上昇し、2011年以来の高値。プラチナも上昇し、5週連続の上げで金曜日価格で7月18日以来の高さ。パラジウムは4週ぶりの上昇で、金曜日価格としては8月8日以来の高値。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属価格は全般的に上昇し、金は主要通貨建てで取引時間およびLBMA価格ともに史上最高値を記録しました。銀はドル建てで14年ぶりの高値、主要通貨建てでも最高値をつけています。
この背景には、前週からのトランプ大統領による米連邦準備理事会(FRB)のクック理事解任を契機としたFRBの独立性への懸念、財政赤字拡大への懸念による長期金利の急騰、さらに一連の米雇用データが示す労働市場の減速があります。これによりFRBの利下げ観測が一気に進み、金利のつかない貴金属価格を押し上げる中で、経済停滞懸念により株価が下落し、安全資産として金や銀が買われる展開となりました。
そこで、本日のチャートとして、市場の年末の政策金利予想(青)、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの予想(赤の点線)、ドル建て金価格(深緑)を示すものをお届けします。
本日の雇用統計後、市場の年末政策金利予想が昨年10月以来の低水準へ急落したことを受け、金価格が上昇していることが分かります。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金相場は、現物価格の世界指標であるロンドン貴金属市場協会(LBMA)価格において、4月22日に記録した史上最高値(3433ドル/トロイオンス)を更新し、3474ドルを付けました。
背景としては、前週にトランプ大統領がクックFRB理事の解任を表明したことによるFRBの独立性への懸念、さらに前週金曜日の遅くにトランプ大統領の関税政策が違法とする裁判所判断が下されたこと、加えて週末に開催された上海協力機構において中国・インド・ロシアの協力体制が強調され、対米関係への懸念が広がったことなどを背景に、ドル安が進行したためです。
同日、日本円建てでも2営業日連続の最高値を更新し、グラムあたり16,479円を付けました。
また同日、銀は2011年以来の高値となるトロイオンスあたり40.60ドルを付け、ユーロ建て・ポンド建て・円建てのいずれにおいても最高値を記録しました。
火曜日
金価格は前日の上昇を引き継ぎ、4月22日の最高値(3500ドル/トロイオンス)を超えて、一時3513ドルをつけました。
背景には、財政赤字拡大への懸念から主要国の長期金利が上昇したことがあります。米30年債は4.97%(2007年以来)、英30年債は5.72%(1998年以来)、日本の30年債は3.2%と過去最高を記録。株価は下落し、安全資産としての金への需要が高まりました。
さらに銀価格も前日の14年ぶりの高値から上昇し、一時40.85ドル/トロイオンスに。アナリストの中には「今回の金上昇は銀が主導している」と分析する声もあります。米国が輸入依存度64%の銀を「重要鉱物(Critical Metal)」に追加すると8月末に発表したことも上昇要因とされています。
水曜日
金相場は、米雇用データが予想を下回り、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測が広がり、ドルと米長期金利が下落したことを受け、トロイオンスあたり3578ドルと、前日の取引時間内の最高値を2営業日連続で更新しました。
米雇用データでは、雇用動態調査(JOLTS)の求人件数が10カ月ぶりの低水準へと下げました。これを受け、今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ確率は前日の92.7%から96.6%へ上昇し、金相場をサポートしました。
金価格は日本円を含む主要通貨建てで新高値を更新し、日本円建てではグラムあたり17,024円を付けました。
銀価格も引き続き14年ぶりの高値圏にあり、ドル建てでトロイオンスあたり41.46ドル、日本円を含む主要通貨(スイスフランを除く)建てでも最高値を更新しました。
木曜日
金相場は、ロンドン市場午前中に水曜日の最高値(トロイオンス=3578ドル)からの利益確定・調整により3511ドルまで下落しましたが、その後再び上昇し、一時3558ドルまで上昇しました。
午後に発表された米ADP雇用者数は5.4万人と予想(7.5万人)を下回り、新規失業保険申請件数は予想を上回り、前日の雇用データの悪化も相まって、今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の利下げ観測は97.6%まで高まり、ほぼ確実視されていました。
さらに、米司法省がFRBのクック理事に対する刑事捜査を開始したと報じられ、トランプ政権によるFRBへの影響が注目されています。これを受け、米ゴールドマン・サックスは「民間米国債市場の1%が金に流入すれば、条件が同じなら金価格は5000ドル近くまで上昇する可能性」と分析しており、金相場を下支えする要因となっていました。
金曜日(本日)
金相場は、市場注目の米雇用統計が予想を大きく下回り、FRBによる利下げ観測が一気に広がり、ドルと長期金利が下げ、トロイオンスあたり3599ドルと取引時間内の史上最高値を更新しました。
非農業部門の就業者数は2.2万人と予想の8.0万人を大きく下回り、6月分は下方修正で減少に転じ、この就業者の減少は2020年のコロナ禍以来のものでした。失業率は4.3%と前月の4.2%から上昇し、2021年10月以来の高い水準となっていました。
これを受けて、今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の0.25%の利下げ観測は100%、0.5%の利下げは一時16%まで上昇し、年末の政策金利は3.37%と前日から40ベーシスポイント下げ、一気に年内0.25%の利下げが確実視され、そのうちの一回は0.5%の可能性も出ていました。
その他の市場のニュ―ス
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コメックス(COMEX)の貴金属先物・オプションにおける資金運用業者のポジションは、8月26日までの週に発表されたデータ上では、トランプ大統領がクックFRB理事を解任すると発表してFRBの独立性への懸念からも、金価格が上昇していた際に、パラジウムを除き全ての貴金属でネットロングが減少していたこと。
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コメックス金の先物・オプションにおける資金運用業者のネットロングポジションは、4.5%増で460.71トンと増加していたこと。価格は前週比1.3%高のトロイオンスあたり3376.35ドルと7月22日の週以来の高さへ上昇し、建玉は1.7%減と2024年2月27日の週以来の低さとなっていたこと。
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銀のネットロングポジションは18.8%増の5,314トンと増加して7月29日の週以来の高さ。価格は前週比0.9%高の38.42ドルで、7月29日の週以来の高さ。建玉は1.9%減で5月27日の週以来の低さ。
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プラチナのネットポジションは、5月20日からネットロングへ転じ、20.5%増の22.9トンと7月29日の週以来の高さ。価格は前週比0.2%高で1350ドルと、7月29日の週以来の高さ。建玉は減少。
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パラジウムは2022年10月半ばからネットショートが継続。15.1%増で22.9トンと、6月3日の週以来の高さ。価格は前週比3.2%安の1091ドルで、6月24日の週以来の低さ。建玉は減少して6月3日の週以来の低さ。
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最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに4.3トン(0.4%)増の981.97トンと、2022年8月16日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向。
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第2の規模の金ETF、iShares Gold Trustの残高は1.5トン(0.3%)減の457.86トンで、2022年10月31日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向。
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銀ETFの最大銘柄、iShares Silver Trustの残高は79.4トン(0.5%)減の15,230.57トンと8月15日以来の低さで、3週ぶりの週間の減少傾向。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週85台半ばと昨年11月以来の低さで始まり、本日87台前半と前週金曜日以来の高さまで上昇して終える傾向。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2072ドルで始まり、本日2165ドルと6月初旬以来の高さへ上げて終える傾向。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
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プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は279ドルと6月末以来の高さのプレミアムで始まり、本日は260ドルと前週金曜日の以来の低さへ下げて終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、週平均は前週の3.96ドルのプレミアムから、13.27ドルのディスカウントへと昨年12月半ば以来の大きなディスカウントとなっていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は、引き続きトランプ大統領の関税関連コメントやFRB高官の政策金利に関するコメントに市場は注目し、米国の予想を下回る雇用データで大きく動いていました。
来週もトランプ大統領の動きは重要となりますが、その他、米卸売物価指数が水曜日、消費者物価指数が木曜日に発表され、16日と17日のFOMCを前に米インフレがどのようなものかを市場は注目することとなります。
詳細は、主要経済指標(2025年9月8日~12日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが、BBCやファイナンシャル・タイムズ等多くのメディアで伝えられています。また日経新聞では、下記の記事で取り上げられています。日経新聞の購読者は下記のリンクでご覧いただけます。
金が連日の最高値、FRB信認低下と「基軸通貨ドル」の陰り映す
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2025年9月1日~5日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標(2025年9月8日~12日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週の英国では、次のニュースが大きく報じられました。
まず、中国で週末に開催された上海協力機構(SCO)の会合と、戦勝80周年記念式典・軍事パレードです。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記を含む26カ国の首脳が出席したことが大きく伝えられていました。
国内では、先週から報じられている「難民ホテル」に関する議論が続く中、本日は英国労働党の副首相、アンジェラ・レイナー(Angela Rayner)氏の辞任が大きく伝えられています。
そこで、本日のニュースを背景も含めてご紹介しましょう。
レイナー氏辞任の背景
レイナー氏の辞任は、ホブ(Hove)に購入した別荘の印紙税(stamp duty)約4万ポンドを未払いだった件に関する倫理調査の結果、閣僚規範(ministerial code)違反と認定されたことによります。
調査を担当した倫理監視官サー・ローリー・マグナス(Sir Laurie Magnus)は、レイナー氏が専門的な税務アドバイスを求めなかった点を問題視しました。
レイナー氏は、自身の誠実さを訴えつつも、家族への影響や公的批判を考慮して辞任を決断したと述べています。
レイナー氏の経歴と党内での立場
レイナー氏は英国北部出身。16歳で妊娠し学校を中退後、社会福祉の資格を取得し、市議会のケースワーカーとして勤務しました。その後、地域労働組合の代表を経て、2015年に労働党の下院議員に選出。影の内閣で長年主要なポジションを務め、叩き上げの党員として、労働党支持者から厚い支持を受けていました。次期首相候補としても注目されていました。
しかし今回、出身地域や支持層である低所得層の間では、保守党議員が過去に同様の問題を起こした際に批判していたレイナー氏が、自身も別荘の印紙税を正確に支払っていなかったことへの失望と怒りが広がっていました。
政治的影響
レイナー氏は労働者の権利や住宅政策で高く評価されており、党内外からの称賛もあります。一方、保守党や改革党(Reform UK)の党首らは、労働党の信頼性を疑問視する発言をしています。
こうした状況を受け、首相キア・スターマー(Keir Starmer)氏は内閣の大規模な人事刷新を実施。外務大臣であったデイヴィッド・ラミー(David Lammy)氏を新副首相兼法務大臣に任命しました。
今回のレイナー氏の辞任は、支持率が改革党(Reform UK)に22%対29%で追い抜かれている中、労働党リーダーシップにとって重要な試練となっています。党内外での対応次第で、今後の政局に大きな影響を与えると見られています。