金市場ニュース

ニュースレター(2025年5月23日)米国債格下げと貿易戦争懸念で金(ゴールド)急騰、金曜の基準価格で最高値更新

週間市場ウォッチ

今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格と比較すると、5.0%高でトロイオンスあたり3341ドルと週間の上昇で、金曜日のLBMA PM価格では史上最高値となります。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格と比較して3.0%高のトロイオンスあたり33.11ドルと上昇しています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のこの価格から10.1%高でトロイオンスあたり1085ドルと一年ぶりの高さへと上昇しています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のこの価格から3.3%高でトロイオンスあたり995ドルと週間の上昇となっています。

の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週の貴金属相場は大きく上昇しました。そのきっかけは格付け会社ムーディーズによる米国債の格下げで、これを受けて、米国の債務と財政赤字に対する懸念が再燃したことからでした。

さらに本日、トランプ大統領が、アップル社が米国外で製造するiPhoneに対して25%の関税を課す可能性を示唆し、加えてEUからの輸入品に対しても最大50%の関税をかける可能性に言及したことで、市場はリスク回避(リスクオフ)の動きを強め、金などの安全資産が買われ、相場はさらに上昇しています。

こうした背景の中、プラチナ価格は1年ぶりの高値を記録しています。 これは、今週発表されたプラチナ需給レポートにおいて、2023年と2024年に続いて2025年も供給不足が予想されていることや、中国が1年ぶりに大量の輸入を行っていることなどが材料視されたようです。

そこで今週は、2014年から今年の予想を含むプラチナの需給バランスを示すチャートをお届けします。このチャートからは、昨年の供給不足が992キロオンスという大規模なものであったこと、そして本年も若干緩和されるものの、966キロオンスと引き続き深刻な供給不足が見込まれていることが読み取れます。

2014年からの年間のプラチナの需要と供給のバランス 出典元 プラチナム・インベスト・カウンシル

今週の金相場について

週明け月曜日の金相場は、格付け会社ムーディーズが前週金曜日に米国債の格下げを発表した影響を受け、米国債価格が下落して金利が上昇、株価も全般に下落したことから、金市場が開くと同時に一時トロイオンスあたり3,249ドルまで上昇しました。その後は3,222ドルまで戻して取引を終えました。

今回の格下げの背景には、米国の財政赤字の拡大傾向への懸念があります。特に、前週発表された予算案では、トランプ政権が財源を伴わない減税方針を示しており、今後さらに約4兆ドルの財政赤字拡大につながる可能性があると見られています。米国の財政赤字は、ここ2年間でGDP比6%を超えており、これは戦時を除けば異例の高水準です。

参考として、格付け会社S&Pが2011年8月5日に米国債を格下げした際には、S&P500種株価指数が6.6%下落し、金価格は1,700ドルと過去最高値を記録しました。一方、フィッチが2023年8月1日に格下げを行った際には株価は下落したものの急落には至らず、金価格もわずかな上昇にとどまりました。

火曜日の金相場はロンドン時間午後に上昇へ転じ、トロイオンスあたり3,296ドルと前週月曜日以来の高値を記録しました。これは、今週の米国の予算交渉が難航し、財政赤字への懸念が再燃。これにより長期金利が上昇し、米株式市場ではダウ工業株30種平均が4営業日ぶりに反落するなど、リスクオン基調が後退したことが背景となりました。

ムーディーズの格下げ自体の影響は限定的で、長期金利は前日に一時上昇したものの、その後ほぼ元の水準に戻っていました。しかし、同日には香港の年金基金が米国債の調整売却を迫られる可能性が指摘され、今後も同様の動きが出る懸念が残っていました。

また、同日は金とともに銀価格も上昇し、トロイオンスあたり33.11ドルと1週間ぶりの高値を記録。プラチナとパラジウムもそれぞれ1,000ドルを超え、それぞれ約1年ぶりと6ヶ月ぶりの高値をつけました。ロンドンで開催された「プラチナ・ウィーク」で発表された需給レポートにおいて、引き続き供給不足と投資需要の高まりが確認されたことも、価格上昇の一因とされています。

水曜日の金相場は、長期金利の上昇にもかかわらず、トロイオンスあたり3,319ドルまで一時上昇し、最終的に3,320ドルで取引を終えました。この日は欧米の主要株価指数のうち、英FTSE100、独DAX、米ナスダックがわずかに上昇した一方で、他は全般に下落していました。

長期金利の上昇は、同日実施された160億ドル規模の米20年債の入札が不調だったこと、加えてトランプ政権の大型減税(恒久的なものを含む)による、財政悪化への警戒感が高まったことが要因と見られました。これを受けて、米10年債の利回りは9ベーシスポイント上昇して3ヶ月ぶりの高水準に達し、30年債の利回りは再び5%を超えて19ヶ月ぶりの水準に上昇しました。

また、プラチナとパラジウムも引き続き上昇し、トロイオンスあたり1,000ドルを超えてそれぞれ1年ぶり、6ヶ月ぶりの高値を更新しました。背景には、中国が先月、1年ぶりとなる大規模なプラチナ輸入を実施したというニュースがあった模様です。

本日金曜日の金相場は、トランプ大統領がApple製品やEUへの関税方針を発表したことでドルが1ヶ月ぶりの安値に下落、株価も下げ、米国債が安全資産として買われて利回りが下落する中、金も安全資産需要の高まりを受けてトロイオンスあたり3,364ドルへ上昇し、ロンドン時間夕方にはこの水準前後で推移しています。これは5月8日以来の高値であり、午後3時のLBMA金価格では最高値を更新しました。

トランプ大統領の発表によると、米国内で製造されていないAppleのiPhoneには最低25%の関税が課され、EUに対しては貿易交渉に進展がなければ6月1日から50%の関税を課す方針とのことです。

その後、スコット・ベッセント財務長官が「米国は今後2~3週間のうちにいくつかの大型貿易協定を締結する可能性がある」と発言したことで、株価は一部反発しましたが、5月12日に発表された米中貿易戦争の「90日間の休戦」によるリスクオンムードは、再びリスクオフへと急速に転換した様子です。

一週間のドル建て金価格の推移 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に5月13日までのデータが発表され、中国と米国がお互いの追加関税を90日間引き下げて貿易戦争が休止することが伝えられた翌日に、プラチナを除く全ての貴金属価格が下げていた際に、全ての貴金属で強気ポジションが削られていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.3%減で344.86トンと8週連続で減少し、2024年2月下旬以来の低さへ下げていたこと。価格は4.8%安でトロイオンスあたり3227ドルと4月半ばの低値まで下げ、建玉は7.8%減と4月初旬以来の低さへ下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、5.9%減で4426トンと2週連続で減少して4月22日の週以来の低さへと下げていたこと。価格は前週比0.2%安で、トロイオンスあたり32.98ドルと2週ぶりの低さへ下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、4月8日からネットショートへ転換し、前週火曜日までに52.9%増で5.7トンと、2週連続で増加して4月22日の週以来の大きさとなっていたこと。価格は前週比0.7%高でトロイオンスあたり990ドルと若干ながら上昇し、3月18日の週以来の高さとなっていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに1.5%増で38.6トンと増加していたこと。価格は1.1%安でトロイオンスあたり950ドルと下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに5.2トン(0.6%)増加して923.89トンと5月15日以来の高さで、5週ぶりの週間の増加傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに3.46トン(0.79%)減で435.06トンと4月21日以来の低さで、2週連続の週間の下落傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに217.77トン(1.56%)増で14,132.67トンと4月30日以来の高さで週間の増加傾向であること。この週間の増加量は3月28日までの週以来の大きさ。
  • 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週99台半ばで始まり、水曜日に月初旬以来の高さの101台前半まで上昇後に、本日100台半ばまで戻して終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2244ドルとで始まり、水曜日に2265ドルと5月初旬以来の高さに上昇後に、本日2241ドルへと下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週26ドルのプレミアムで始まり、本日85ドルへと2024年6月18日以来の高さへ上昇して終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムであったものの、週平均は23.38ドルと4月半ば以来の低さへと、前週の33.55ドルから下げていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は5月8日から負の相関関係へ転換し-0.31と前週よりは関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は4月3日から負の相関関係へ転換し、-0.60と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は5月14日から負の相関関係へ転換し、木曜日までで‐0.54と前週から関係を強めていたこと。

今週の主要イベント及び主要経済指標

今週貴金属相場は、先週金曜日のムーディーズによる米国債格下げによって、米国の債務規模と財政赤字に注目が入り、米国債、米株式、米ドル等米関連商品が売られて、全般上昇することとなりました。

来週は、水曜日にFOMC議事要旨、金曜日にはFRBがインフレデータとして注目する個人消費支出PCEコア・デフレーターが発表され、市場は注目しますが、その他火曜日の米耐久財受注、木曜日の米GDP、金曜日のミシガン大学消費者態度指数等も市場を動かす可能性があり、重要となります。

詳細は主要経済指標(2025年5月26日~30日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

弊社ウェブサイトでもお知らせしておりましたが、創設者であり会長のポール・タスティンが、先週木曜日に不慮のバイク事故により逝去いたしました。

先週のニュースレターでは、私自身、突然の出来事に気持ちの整理がつかず、この場でのご報告を控えさせていただいておりました。

ポールは2005年に弊社サービスを立ち上げて以来、「より安価で安全な金投資を個人投資家に提供する」という理念のもと、会社の基盤を築いてまいりました。また、金投資の有益性を広める語り部として、また、それを現実のものとするロビイストとしても活動し、英国の年金制度に金現物投資が加えられるといった実績も残しております。

そして何よりも、豊富な知識に裏打ちされた独自の視点を持ちながらも、異なる意見を持つ人々との議論を惜しまず、若手スタッフから業界のトップに至るまで、誰に対しても隔たりなく接するその真摯な姿勢により、社員のみならず、関係各社や業界を超えて多くの方々から慕われておりました。

経営の第一線からは約10年前に退き、近年は「ウイスキー・インベスト・ダイレクト」など、新たな投資分野の可能性を模索しておりました。

なお、ブリオンボールトの経営体制に変更はなく、今後もポールの理念を受け継ぎ、弊社社員一同で引き続き皆様に安心してご利用いただける貴金属投資サービスを提供してまいります。

改めまして、生前のご厚情に心より御礼申し上げます。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週の英国では、引き続きウクライナ戦争の停戦協議や、イスラエルによるガザ地区への攻撃激化に対する国際的批判、イスラエル大使館職員のワシントンでの殺害事件、トランプ前大統領による対EU関税の引き上げ予告(6月1日より50%)、そして英国とEUが国境手続き簡素化に合意したことなどが大きく報じられています。

そのような中、今週ロンドンには世界のプラチナ業界関係者が集まり、「プラチナウィーク2025」が開催されましたので、ここで報告させていただきます。

【19日(月):Women in PGMsブレックファーストミーティング】

プラチナ業界で活躍する女性によるネットワーキングイベントが行われ、WPIC(World Platinum Investment Council)、英国王立造幣局、WisdomTreeより代表者が登壇。プラチナは2023年以降供給不足にあり、金に比べて割安な点から今後の上昇余地が大きいとの見解が示されました。また、工業用途が中心ながらも、投資需要が年々拡大しており、今後は投資商品としての認知向上が重要との指摘がありました。

【同日午後:需給レポート発表会】

毎年恒例の需給レポート発表を兼ねたネットワーキングイベントが開催され、業界関係者が一堂に会しました。今回の需給レポートの内容については、来週のご報告で詳しくお伝えする予定です。

【20日(火):LPPMセミナー】

ロンドン・プラチナム・パラジウム・マーケット(LPPM)主催のセミナーは二部構成で行われました。

第一部では、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのアナリストによるPGMの市場分析、続いてプラチナム・ギルド・インターナショナルより世界のジュエリー市場動向の紹介がありました。供給不足による価格上昇傾向と、今後の水素経済・中国での宝飾需要拡大に期待が集まっている点が印象的でした。

第二部では、業界団体IPAが欧州を中心に規制機関との関係強化を図っている現状、またジョンソン・マッセイよりPGMがクリティカル・マテリアルとして注目されている背景と今後の用途拡大の重要性について説明がありました。

セミナー後のカクテルパーティは例年ギルドホールで行われてきましたが、今年はフリーメイソンズ・ホールでの開催となりました。当日の写真もあわせて共有させていただきます。

今後のプラチナ市場動向や関連する業界トピックについても、引き続き情報をお届けしてまいります。ご関心のある点がございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。

プラチナウィークセミナー写真 出典元 ブリオンボールト

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

注意事項: ここで発信される全ての記事は、読者の投資判断に役立てるための情報です。しかし、実際の投資にあたっては、読者自身にてリスクを判断ください。ここで取り扱われる情報及びデータは、すでに他の諸事情により、過去のものとなっている場合があり、この情報を利用する際には、必ず他でも確証する必要があることを理解ください。Gold Newsの利用については、利用規約をご覧ください。

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