ニュースレター(2025年4月4日)トランプ大統領の関税政策発表で世界株価が急落する中で金価格も史上最高値から下落
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、0.50%安でトロイオンスあたり3056ドルと、3週連続で史上最高値を更新後に、3週ぶりの週間の下げとなっています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、8.94%安のトロイオンスあたり31.32ドルと急落し、今年2月初旬の低さへと下げています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から5.26%安でトロイオンスあたり984ドルと3月初旬以来の低さへ下げています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から5.71%安でトロイオンスあたり923ドルと下げ、2月末の水準へと下げています。
今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、水曜日のトランプ大統領が「解放の日」と呼んでいた、関税政策発表を前に、関税による景気後退と高インフレのスタグフレーション懸念からも、金価格は前週同様に史上最高値の更新を続け、他の貴金属も金にサポートされて上昇していました。
発表では予想を上回る厳しい関税となり、貴金属は神経質な動きをした後、世界株価が急落する中で、金は本日昼過ぎまではトロイオンスあたり3120ドル前後を推移し今週の史上最高値からは下げていたものの、堅固な動きとなっていました。しかし、昼過ぎからは大きく下げて、ほぼ10日ぶり低い水準の3020ドル前後を推移しています。
この下げは、金融市場へのショックが起きた2008年の金融危機、2020年のコロナ危機同様に、リスクオフの現金化が起きているための下げであるようですが、それに加えて関税が貴金属に課されるという懸念の上げ幅が削られている可能性もある模様です。
それは、米国は貴金属へ関税を課さないことも今週の関税発表詳細で明らかとなり、トランプ大統領就任以来、関税が貴金属へ課される懸念でニューヨークの先物価格とロンドンの現物価格の差が開くことによる裁定取引が活発化し、地金がロンドンからニューヨークへ大量に移送されることで、品薄となったロンドンのリースレートが上昇し、これらの動き全体が価格を引き上げていた一因とも考えれていたことからでした。
なお、他の貴金属は需要の占める割合が工業用途が高いことから、景気後退の懸念からも、銀はトロイオンスあたり30ドルを割り込む1月末以来の低さで、金銀比価が101を超え、コロナ危機最中の2020年5月以来の高さへと銀の割安が進んでいます。プラチナはほぼ今年の上げ幅を失い、年初1月2日以来の低さのトロイオンスあたり920ドル、パラジウムもトロイオンスあたり916ドルと2月末以来の高さとなっています。
そこで、今週のチャートとしては、本日は弱気相場に近づいているナスダック100指数(青色)、金(黄色)、銀(水色)、また、工業用途の高い銅(オレンジ色)、原油(紫)の年初来のチャートをお届けしましょう。
ここで、ナスダックと原油は年初来の上げ幅を全て失ってさらに下げているのに対し、銀は若干上げ幅を保ち、需給バランスや投機的資金の流入からも今年上昇していた銅は下げながらも上げ幅を10%近く維持し、金においては15%強と未だ年初来の上げ幅を保っていることがご覧いただけます。
今週の金相場について
週明け月曜日金相場は主要通貨建てで史上最高値を更新し、ドル建てではトロイオンスあたり3127ドルと先週末価格から2%近く上昇し、3営業日連続の高値で、四半期ごとの価格の上げ幅としては、1986年の第3四半期以来の大きさの19.4%を記録していました。
これは、前週末にトランプ大統領が輸入関税は全世界の国と地域が対象になると述べ、前週の自身の柔軟に対処する姿勢と異なり、またベッセント米財務長官の一部の国に限られるという直近のコメントとも異なったことで、インフレと景気停滞が共に起こるスタグフレーション観測が広まり、世界株価が急落したことで、安全資産の需要が高まったことが背景となっていました。
米株価指数は四半期ベースでは、S&P500種がこの時点で5.3%の下げて2022年以来の下げ幅で、従来安全資産として強含むドルインデックスも2017年第1四半期以来の下げ幅となる方向となっていました。
また、日本円建て金価格は同日gあたり15000円と心理的節目の水準を超えて上昇していました。
火曜日金相場は、ロンドン時間午前中にトロイオンスあたり3148ドルと史上最高値を更新し、その後上げ幅を削って3115ドルで終えていました。
翌日はトランプ大統領が「解放の日」と呼ぶ関税を発表する日であったことからも、警戒感もあり、これまでの上昇の調整なども入っていました。
しかし、金価格の史上最高値更新回数は、年初からはLBMA価格(ドル建てベース)では、火曜日の段階で通算21回と、年間の最高値更新回数としては、この早い段階で1979年以来最多となっていました。
なお、同日の米ISM製造業景況指数は予想を下回り、雇用動態調査(JOLTS)求人件数も予想を下回ったことで、FRBの利下げ観測が広がり、長期金利が下げていましたが、米株価が同日は上昇に転じていたことも、金の安全資産の需要が多少落ちて価格を多少ながら押し下げることとなりました。
水曜日金相場はトランプ大統領の関税政策の発表を待つ中で、トロイオンスあたり3120ドルを挟んで狭いレンジで推移していました。
また、同日発表されたADP全国雇用者数は15万人と予想の12万人と前回修正値の8.4万人を上回っていました。
発表されたトランプ氏の相互関税は基本一律10%であるものの、国別に異なり、中国へ追加34%(計54%)、EUへ20%、日本へ24%、英国は10%等と、それぞれの国が米国輸入品へ課している関税(とその他の税金)に対応するとのことでしたが、分析によると貿易収支に実際は基づいているとのことです。
そこで、この水準は予想を上回るものであり、発表を受けてドルインデックスは2週ぶりの低さへ下げ、米長期金利は昨年10月半ば以来の低さへと下げていました。
そこで、発表簿金価格は、トロイオンスあたり3106ドルへと下げて下げを即座に取り戻して3142ドルへ上昇する等神経質な動きをした後に、3163ドルへ上昇して終えていました。
木曜日金相場は、ロンドン早朝にトロイオンスあたり3167ドルと史上最高値を更新後、世界株価が急落する中で、3054ドルへ一時下げた後に3113ドルへ下げ幅を削って終えていました。
この背景は、前夜のトランプ大統領の関税政策発表で、予想を上回る関税が課されたことで、世界経済への懸念からも株価が米株価指数筆頭に、コロナ危機以来の1日の下げ幅と急落し、金においても現金化が進むこととなりました。
なお、同日日本円やスイスフランも安全資産として購入されていたことから円高が対ドル進み、一時gあたり14313円と3週間ぶりの低さへ下げて、14638円へと下げ幅を削って終えていました。
ちなみにドルインデックスと長期金利は同日6か月ぶりの低さへ下げていました。
本日金相場は、引き続きトランプ大統領の関税政策、そして中国がこれに対抗して米国輸入品に34%課することを発表し、前日に続いて世界株価が急落する中、ロンドン時間午後に発表された堅固な雇用統計もあり、トロイオンスあたり3025ドルと先週水曜日以来の低さ、今週の最高値の3167ドルから4.6%安と大きく下げて推移しています。
この間米株価指数も前日に続き急落しており、S&P500種は昨日の4.8%安に続き、本日も4.8%安と前日のコロナ危機以来の2営業日続落となり、ナスダック100指数は昨日に続き5.4%安と、直近の高値から20%安である場合の弱気相場に近づいているとのことです。
なお、米雇用統計は、非農業部門雇用者数が22.8万人と前回修正値の11.7万人、予想の13.5万人を上回り、失業率は4.2%と前回と予想の4.1%を上回ってたものの、平均時給は前年同月比3.8%と予想の3.9%前回の4.0%を下回り、良好なものとなっていました。
なお、パウエルFRB議長は本日午後に記者会見をし、トランプ大統領の関税政策は予想を上回る影響をもたらし、失業率上昇、インフレ高、成長減速をもたらすだろうと述べたことが伝えられています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に3月25日までのデータが発表され、トランプ大統領が柔軟な関税政策を検討しているというニュースで下げていた金価格が反発する中で、パラジウム以外の全ての貴金属でネットロングポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5.2%減で599トンと減少していたこと。価格は0.02%安でトロイオンスあたり3025.20ドルと前週の史上最高値から下げて、建玉は5.0%減と2週ぶりに減少して前週の2月半ば以来の高さから下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、7.7%増で7124トンと3週ぶりに減少して、前週の2020年2月末の週以来の高さから下げていたこと。価格は前週比1.9%安で、トロイオンスあたり33.44ドルと前週の昨年10月29日の週以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、76.0%減で5.5トンと前週の2月半ばの週以来の大きさから減っていたこと。価格は前週比1.7%安でトロイオンスあたり984ドルと前週の2月11日の週以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに2.0%減で35.3.0トンと2週連続で減少して2月25日の週以来の低さとなっていたこと。価格は1.4%高でトロイオンスあたり979ドルと4週連続で上昇して、2月18日の週以来の高さとなっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに4.3トン(0.5%)増加して936.24トンと2023年6月6日以来の高さで、4週連続の週間の上昇傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.58トン(0.4%)増で425.64トンと2023年9月25日以来の高さで、前週8週ぶりに週間の減少を記録後、再び週間の上昇傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに91.98トン(0.66%)減で13,852.71トンと3月21日以来の低さで、3週ぶりに週間の減少傾向であること。
- 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週91台半ばで始まり、本日は98代半ばと2020年7月初旬以来の高さで終える傾向であること。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2025ドルで始まり、昨日2152ドルと史上最高値をつけ、本日2038ドルへと下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週15ドルのプレミアムで始まり、週半ばに10ドルのディスカウントへ転換後再びプレミアムとなって、本日17ドルのプレミアムと3月26日以来の高さで終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、本日から月曜日まで中国が休暇となっているため、木曜日までの平均では、人民元建て金価格が昨日まで史上最高値の更新を前週金曜日から続けてgあたり737元へと急騰する中で、13.33ドルのプレミアムと昨年7月半ば以来の高さと、前週の5.76ドルから上昇していたこと。週間の取引量も2020年初頭以来の高さとなっていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は4月1日負の相関関係へ転換し、本日-0.65と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は4月3日から負の相関関係へ転換し、本日-0.11と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は3月13日から負の相関関係で、木曜日までで-0.33と関係を若干弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週金相場は、経済指標よりもトランプ大統領の関税政策に反応して推移しており、来週もこの関連ニュースが重要となりますが、来週は水曜日にFOMC議事録、木曜日に米消費者物価指数と金曜日に米卸売物価指数とミシガン大学消費者態度指数の発表があり、市場はこれらにも注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2025年4月7日~11日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年3月31日~4月4日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年4月7日~11日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年3月31日)トランプ大統領の政策が株価を急落させる中で、金価格は史上最高値を更新し、40年来の四半期上昇率を記録
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国ではトランプ大統領の関税政策、ミャンマーの地震被害、トルコのエルドアン大統領の政敵のイスタンブールの市長の逮捕をきっかえとした抗議デモ、韓国ユン大統領が罷免されて失職したこと、そして世界株価暴落が大きく伝えられています。
そこで、本日はトランプ大統領の関税政策に対する、英国内の反応についてお届けしましょう。
今回発表された関税では、中国がすでに課されている関税に加えると54%と高い中、日本が24%、ユーロ圏は20%である中で、英国には最低水準となる10%の関税が課されることとなりました。
これに対する政府の反応は、冷静かつ慎重な対応を取る姿勢を示しています。パット・マクファデン内閣府担当大臣は、「これらの発表が実際に実行されるかを見極めることが重要であり、過剰に反応すべきではない」と述べています。
英国経済界の反応としては、 英国商工会議所(BCC)は、トランプ大統領の関税計画が「確立された貿易規範を覆し、投資家、企業、消費者にさらなるコストと不確実性をもたらす」と警告しています。また、BCCの貿易政策責任者であるウィリアム・ベイン氏は、英国政府に対し、「報復関税の応酬に巻き込まれないよう」求めています。
そして、主要メディアの論調は下記のようになっています。
- BBCニュース: EUが対抗措置を取ろうとしていると伝えられる中で、スターマ首相は英国の選択肢は米国とEUの二者択一ではないというコメントを伝え、英国と米国の貿易関係は「公正でバランスが取れており、双方に利益をもたらしている」と報じ、関税提案の詳細が十分でなく、今後の交渉次第で変更される可能性がるとも指摘しています。
- ガーディアン紙: リベラル派の論調で知られている主要紙ですが、首相官邸がトランプ大統領の関税を「世界経済の新時代の始まり」と位置付け、世界的な貿易戦争への懸念が高まっていると報じると共に、英国政府が静観している一方で「対応が保守的すぎる」との批判も掲載しています。
- ロイター通信: ビジネスよりの観点から、「グローバル貿易の混乱は、開かれた英国経済にとって大きな脅威だ」とし、英国政府が米国との貿易協定交渉を優先し、企業への影響を最小限に抑えようとしている動きにも焦点を当てています。
本日は英国の株価指数FTSE100種は約5%急落しており、先行き不透明感は高まっていますが、英国政府はトランプ大統領の関税措置に対し、引き続き慎重な姿勢を維持しつつ、国益を守るための対策を模索する姿勢を維持しています。
その背景には、英国はEU離脱後の貿易関係の再構築が進行中で、トランプ大統領との良好な関係を維持したいという意向が強いようです。これは、対抗措置を取ろうとしているEUとは異なる姿勢で、米国との経済的な結びつきが深い日本の反応に近いとも思われます。そのようなことからも、現段階では、英国主要メディアが政府の対応を強く批判するといった報道は見られていません。