ニュースレター(2025年3月7日)金価格はトランプ政権の政策懸念で週間の上昇へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、3.34%高でトロイオンスあたり2929ドルとほぼ前週の週間の下げ幅としては昨年11月半ば以来の大幅なものを取り戻しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、4.38%高のトロイオンスあたり32.50ドルと2週ぶりの上昇で、やはり前週の下げ幅を8割取り戻しています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から2.42%高でトロイオンスあたり965ドルと2週ぶりの上昇で前週の下げ幅の7割を戻しています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から2.50%高でトロイオンスあたり940ドルと2週ぶりの上昇となっています。
今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、前週の価格の調整の下げ幅を金はほぼ取り戻し、銀は8割がた、プラチナは7割、パラジウムは3割弱ですが、上昇することとなりました。
これは、トランプ政権による関税政策で経済が停滞することへの懸念、またウクライナや中東政策への懸念で安全資産の需要が高まっていることが背景の模様です。
しかし、年初金価格の上昇をサポートしていた、ニューヨークの金先物とロンドンの現物価格の差は、金現物がニューヨークへ十分に移動したこともあり、一時50ドルへと広がっていたものが5ドル前後へ狭まり、ロンドンの金現物の短期リースレートも5%を超えていたものから0.8%ほどへと下げていることからも、この特殊な状況は改善されている模様です。
そこで、本日のチャートはニューヨーク金先物価格(水色)、ロンドン金現物価格(緑)、ロンドンの金現物の1か月のリースレート(赤)をお届けしましょう。
なお、金に比べて工業用途需要が高い銀、プラチナ、パラジウムの価格の戻りが弱いのは、安全資産の需要が銀以外はほぼ無いこと、経済停滞の懸念はこれら工業用需要減少観測を広げるものであるからの模様です。
今週の金相場について
週明け月曜日金相場は前週の急落から反転し、トロイオンスあたり2891ドルまで上昇して終えていました。
これは、金曜日のトランプ大統領とウクライナ大統領のホワイトハウスでの記者会見時の口論で、ウクライナ戦争終結に関して何の合意に至らなかったことを受けて、欧州首脳がロンドンでサミットを行いウクライナへのサポートを確約したものの、地政学リスクの高まりへの懸念による安全資産の需要が背景となっていました。
また、翌日からトランプ大統領はカナダとメキシコへ25%の関税、中国へは追加10%の関税を課すと述べていたことも、経済への懸念を高めて資産ヘッジとしての需要を高めていました。
火曜日金相場は、トランプ政権のウクライナ戦争及び関税政策の発表を受けて、トロイオンスあたり2927ドルへと一時上昇後に2914ドル戻して終えていました。
これは、トランプ大統領がウクライナへの武器供与を一時停止し、カナダとメキシコへの25%の関税と中国への追加10%の関税を発効したことで、経済への悪影響の懸念からも世界株価が大きく下げ、安全資産としての需要が高まることとなりました。
同時に経済停滞への懸念でFRBの利下げ予想も年内3回の観測が広がり、ドルが下げて長期金利が下げていることも、金を押し上げることとなりました。
水曜金相場は、引き続きドルが昨年11月の水準へ下げ、長期金利は若干上昇したものの12月初旬の水準であったことからも、トロイオンスあたり2929ドルへ上昇して2916ドルへ戻して終えていました。
この背景は、引き続きトランプ政権の関税政策、また同日発表の経済指標はまちまちであったものの、ADP全国雇用者数が予想を下回る水準であったこと、そして米財務長官スコット・ベッセント氏が「ホワイトハウスは金利を引き下げる方針だ」と今週発言したことを受けて、米政策金利が下がる観測が広がっていたからでした。
この間欧州国債は、ドイツを筆頭に国防とインフラへの支出を増加させるという観測から暴落する中、ユーロは対ドル強含んでいることで、ユーロ建て金相場は2月初旬の低さまで下げていました。
同日発表の米地区連銀経済報告(ベージュブック)は、1月初旬以降の経済活動は若干増加したとしてあるものの関税懸念が広がっていること、個人消費が減速しているとも明記されていましたが、市場への影響は限定的でした。
木曜日金相場は、ロンドン時間午前中にトロイオンスあたり2900ドルを割る水準まで一時下げたものの、その後上昇して2904ドルで終えていました。
この背景は、同日発表の米新規失業保険申請件数は減少しており、昨日のADP全国雇用者数が予想を下回って減少していたものとは、異なるものとなっていたことのようですが、今後人員削減数が2009年以来の大きさになるとも伝えられており、労働市場の悪化、またトランプ大統領の関税による経済停滞の懸念は高まっていたことからも、下げ幅を削った模様です。
なお、欧州中央銀行は同日昨年6月以降6回目の利下げを行っており、利下げ局面が意識されることとはなった模様です。
そのような中、欧州主要国が軍備を整えることで経済が活性化する観測を背景に今週対ドル4%ほど強含んでいるユーロのために、ユーロ建て金価格は1月末以来の低さへと下げていました。
本日金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計はほぼ予想の水準であったことで、発表後トロイオンスあたり25ドル上下する等と神経質な動きをしたものの、ほぼ発表前の2921ドル前後へ戻し、その後2906ドルまで下げて推移しています。
非農業部門雇用者数は、15.1万人と前回修正値の12.5万人を上回り、予想の16.0万人をしたまわっていました。失業率は4.1%と予想と前回の4.0%から上昇し、平均時給は前月比0.3%と予想と同水準で前回の0.5%から下げて、前年同月比では4.0%と前回と予想の4.1%から下げていました。
そこで、この指標発表後は大きく上下したものの、労働環境は大きく悪化していないという判断で、発表前の水準へ戻していました。
しかし、パウエル議長が経済は問題ないと述べたことが伝えられ、ドルと長期金利が下げ幅を削って上昇し、株価が戻す中で金は上げ幅を多少失っている模様です。
また、トランプ大統領がカナダとメキシコの関税に関しても自動車業界への影響もあり、大部分延期されたことも市場のセンチメントを改善させている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 中国の中銀の人民銀行が、1月に続き2月も5トン金準備を増加させ、総量を2290トンとしていたこと。
- ポーランド中銀は2月に29トン増加させ、2019年6月以来最大の月間増加量で、総量を480トンとしていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に2月25日までのデータが発表されて、前週金価格の調整が始まっていた火曜日までの一週間に、全ての貴金属で強気ポジションを前週比減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、3.8%減で604.5トンと5週連続で減少して、前年末以来の低さへ下げていたこと。価格は0.2%高でトロイオンスあたり2933ドルと火曜日のLBMA価格においては3週連続で新高値を付け、建玉は11.3%減と1月半ば以来の低さへ下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、16.3%減で5131トンと一月末以来の低さへと減少していたこと。価格は前週比1.0%高で、トロイオンスあたり32.15ドルと、前週の11月5日の週以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、58.7%減で12.6トンと1月末以来の低さへ下げていたこと。価格は前週比1.3%安でトロイオンスあたり969ドルと3週間連続で1月末以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに42.8%増で31.6トンと増加して1月21日の週以来の高さとなっていたこと。価格は4.3%安でトロイオンスあたり937ドルと3週連続で下げて1月7日の週以来の低さとなっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに5.7トン(0.6%)増加して898.64トンと、前々週に40トン強増加してコロナ危機時に2020年3月以来の週間の増加後に前週全く変化がなかった後に週間の減少傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに6.55トン(1.6%)増で417.86トンと2023年9月中旬以来の大きさで、6週連続の増加傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに129.22トン(1.0%)減で13,508.77トンと昨年7月半ば以来の低さへ下げて、週間の減少傾向であること。
- 金銀比価は、今週91台後半ばで始まり、火曜日に92を下回る水準まで上昇したものの、本日は89台半ばに下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1916ドルで始まり、火曜日に1951ドルと2月25日の1974ドルの史上最高値以来の高さへ上昇後、1945ドルへ下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週19ドルのプレミアムで始まり、本日26ドルへ上昇して終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、今週の平均は火曜日と水曜日にディスカウントに転じたもののその後プレミアムとなり、2.19ドルのプレミアムと前週の1.18ドルから上昇して、2月21日の週以来の高さとなっていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までに週間で、金は13%減で2週連続で1月第一週以来の低さへ減少し、銀は26%減で1月半ば以来の低さへ減少し、プラチナは11.8%増で昨年12月半ばの週来の高さへ増加し、パラジウムは56%減で1月末の週以来の低さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は1月21日から負の相関関係で本日-0.22と週間ではその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は1月23日から負の関係で、本日-0.35と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は1月21日から正の関係で、木曜日までで0.06と週半ばで関係を強めていたものの、再び前週の水準へ関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週金相場はトランプ政権の関税政策による経済停滞への懸念から、本日発表の米雇用統計を待つ中で前週の調整の下げを削って上昇することとなりました。
来週は水曜日に米消費者物価指数、木曜日に卸売物価指数が発表されて市場は注目することとなりますが、引き続きトランプ政権の動きは重要となります。
詳細は主要経済指標(2025年3月10日~14日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年3月3日~7日今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年3月10日~14日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年3月3日)地政学リスクの高まりで防衛関連株が上昇し、トランプ大統領の暗号資産のコメントで急騰したビットコイン上げ幅を削る中、金価格は上昇
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国では、ウクライナ支援に向けた欧州諸国の取り組みが大きく報じられています。また、ユーロスターの運航がパリ郊外で発見された第二次世界大戦時の不発弾の影響で中止されたことや、終戦80周年記念式典の詳細、さらに本日、ロシアのスパイとして活動していたブルガリア人3名が有罪判決を受けたニュースなども注目されています。
今週は、英国における終戦80周年記念行事について詳しくお伝えします。
VEデー(欧州における戦勝記念日)は、1945年5月8日にナチス・ドイツが無条件降伏したことを記念する日です。一方、VJデー(対日戦勝記念日)は、1945年8月15日に日本が降伏したことを記念する日です。
今年はこれらの出来事から80周年を迎え、英国では大規模な記念行事が行われます。
VEデー80周年記念行事(5月5日~8日)
記念行事は5月5日のバンクホリデー(祝日)から4日間にわたって開催されます。
- 5月5日(月)
- ロンドン・ホワイトホールでの公式記念式典
- 戦没者慰霊碑「Cenotaph」にユニオンジャックを掲揚し、追悼の場とする
- バッキンガム宮殿への軍事行進と歴史的軍用機による編隊飛行
- 軍艦HMSベルファスト上でのストリートパーティー
- 5月6日(火)
- 陶製ポピーのインスタレーションがロンドン塔に再び展示
- 英国内の歴史的建造物のライトアップ
- 5月7日(水)
- ウェストミンスター宮殿で「VEデー記念コンサート」を開催
- 5月8日(木) VEデー80周年当日
- ウェストミンスター寺院での追悼・感謝の礼拝
- ホースガーズ・パレードで1万人規模の記念コンサート
VJデー80周年記念行事(8月15日)
- ナショナル・メモリアル・アーボレータム(National Memorial Arboretum)で記念礼拝を実施。
記念行事に加えて、以下のような取り組みも行われます。
- 「Letters to Loved Ones」プロジェクト
家族の戦時中の手紙を発掘し、戦争の記憶を次世代に伝える活動。 - アート・文化プログラム
アーツ・カウンシル・イングランドと地域が協力し、創造的な記念イベントを展開。ナショナル・ロッタリー基金が助成金制度を設け、地域行事を支援。 - 教育プログラム
第二次世界大戦に関する教育資料を学校や青年団体に提供。王立英国軍団(RBL)が地域コミュニティと連携し、記念活動を普及。
これらの記念行事は、第二次世界大戦の歴史を振り返り、戦争世代の犠牲と勇気を次世代に伝えることを目的としています。
数十年前にロンドンに移住した際、VJデーには心苦しい思いを抱いていました。しかし、私たちの先人である、英国に永住した日本人の方々が英国との和解のために多くの努力をしてくださり、私たちはその努力を引き継ぎ、継続しています。
現在、ウクライナ戦争や中東の紛争が続く中、戦争の悲惨さを改めて学び、平和の重要性を考える機会がより求められているのでしょう。