金市場ニュース

ニュースレター(2025年11月14日)利下げ観測後退で金価格は週間の上げ幅を削る

週間市場ウォッチ

今週金曜日のLBMA貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。

貴金属価格の週間の変動率 出典元 ブリオンボールト

*金は午後3 時の弊社チャート価格、銀は午後12 時、プラチナとパラジウムは午後2 時の価格。

**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。

  • :ドル建て価格は3週ぶりの週間の上昇で、金曜日価格では2週ぶりの高値。
  • :週間で上昇し、金曜日価格では1017日の最高値以来の高値。
  • プラチナ4週連続の週間の下落で、金曜日価格では919日以来の低値。
  • パラジウム2週連続の週間の下落で、金曜日価格では1003日以来の低値。

貴金属市場の動向(週間)

貴金属相場は、木曜日午前中まで米政府機関の一部閉鎖が解除されるとの観測もあり上昇基調でした。その後、実際にトランプ大統領がつなぎ予算に署名し米政府機関の閉鎖が解除されたものの、米AI株を筆頭に米株価が下げるという急激なリスクオフの動きから現金化が進み、昨日は下げることとなりました。本日は、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測は、連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーのタカ派的コメントが今週続いたことで後退し、上げ幅をさらに削ることとなりました。

 

AIを含むテクノロジー関連株の上げ幅は過去5年を見ても急激で、今週多少見せた高値感による懸念は強いものがあるようです。そこで今週は、AI株のNvidia(エヌビディア)、テクノロジー株のPalantir(パランティア)、そして金と銀の過去5年間の上げ幅のチャートをお届けしましょう。金と銀がこの間倍増する中で、エヌビディアとパランティアは1000%前後の上昇を遂げています。

 

過去5年間のエヌビディア、パランティア、金、銀の上昇率 出典元 グーグルファイナンス

今週の貴金属相場の動き(日次)

月曜日

金・銀相場は月曜日、トロイオンスあたり金が4,133ドル、銀が50.74ドルまで急騰し、それぞれ2週ぶり・3週ぶりの高値をつけました。

この背景には、先週金曜日に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数が史上最低水準に近い数値となったことや、米政府機関の閉鎖により主要経済指標の発表が遅れ、現状が見えにくくなっている中で市場が安全資産を求めていることがあります。さらに、週末に行われた米上院での協議が進展し、政府閉鎖が回避される可能性が高まったことで、市場が改めて閉鎖による経済への影響に注目したことも要因であったようです。

 

火曜日

金相場は前日の上昇基調を引き継ぎ、ロンドン時間午前中にトロイオンスあたり4,148ドルまで上昇。その後、4,132ドルまで戻してロンドン時間を終えていました。
午後の下げは、前日の2%超の上昇を受けた利益確定売りなどによる調整でした。

 

水曜日

金相場はトロイオンスあたり4,206ドルを一時つけ、1021日以来の高値。銀相場も53.66ドルと、1017日以来の高値を記録しました。

その結果、金銀比価は78台後半まで低下し、20247月以来の低水準となっていました。これにより、今年見られていた銀の割安感は大分解消されていました。

上昇の背景には、ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁による「商業銀行の流動性需要を満たすため『十分な準備金水準を維持する』目的で、資産購入を段階的に再開する時期が近づいている」との発言があります。より緩和的な政策への転換観測が金相場を支えることとなりました。

さらに、アトランタ連銀のラファエル・ボスティック総裁が、任期満了となる来年2月で退任すると発表。これにより、トランプ政権による新たな金融政策メンバーの指名枠が増えることから、よりハト派的な政策転換への観測も相場を支えていました。

 

木曜日

金価格はトロイオンスあたり4,244ドル、銀価格は54.39ドルと前日の高値を更新した後、上げ幅を削って金は100ドル、銀は2.36ドル一時急落していました。

高値更新は、前日のNY時間には、米連邦政府機関の一部閉鎖を終わらせるつなぎ予算が成立。これにより「米政府がFRBに圧力をかけ、緩和的な政策を促すのでは」という観測が広がり、ドルが2週間ぶりの安値圏へと弱含んだことが、貴金属相場を押し上げた背景と見られます。その後の急落は、米株価が高値圏にあったAI関連株を中心に急落したことで、貴金属もまた現金化からも大きく下げることとなりました。

なお、FEDWatchツールによる来月の利下げ観測は現在ほぼ五分五分。1か月前には「95.5%の確率で利下げが行われる」と見られていましたが、後退していました。

これは、政府機関の閉鎖が解かれたとはいえ、主要経済指標の発表スケジュールが通常運転に戻るまで時間を要することから、FOMCメンバーが慎重となるという観測を反映したものと考えられます。また、数名のメンバーが「インフレ目標の達成が最優先」とし、利下げに慎重なコメントを発していることも、観測の変化に影響していたようです。

 

金曜日

金価格はロンドン時間午前中に前日の下げ幅を削り、トロイオンスあたり4,211ドルまで上昇。その後、4,033ドルまで一時下げ、4,082ドル前後へ戻して推移しています。

この動きの背景には、本日カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、そして今週FOMCメンバー数人が今後の利下げに慎重な姿勢を示したことがあるようです。そのためドルは若干強含み、米長期金利は本日、ひと月ぶりの高さへ上昇しています。

そこで、FEDWatchツールによると、金利据え置きは本日、若干利下げを上回るものとなっています。

 


その他の市場のニュ―ス

  • ステーブルコイン大手テザー・ホールディングが、HSBC出身の世界有数の貴金属トレーダー2人を採用し、貴金属市場へ参入するとブルームバーグが報じたこと。

  • フランス第3位銀行のソシエテ・ジェネラルが、ドイツ銀行や三井物産に続き、今年貴金属取引に復帰するとのこと。

  • コメックス(COMEX)のデータは、米政府期間が一部閉鎖されていることから発表されていないこと。コメックスの取引量においては、貴金属全般が、木曜日まで上昇基調となり、全ての貴金属の取引量が前週比増加。金においては1024日までの週以来の高い水準へ上げ、銀も1017日までの週以来の高い水準。プラチナは、1031日までの週以来の高さ。パラジウムは、1017日までの週以来の高い水準へ増加。

  • ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに6.87トン(0.66%)増で1048.93トンと、1023日以来の高さへ増加し、2週連続の週間の増加傾向。

  • ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週84.65トン(0.56%)増の15,173.28トンで、113日以来の高さで、3週ぶりの週間の増加傾向。

  • 金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週81台半ばで始まり、木曜日に78台半ばと7月以来の低さまで下げ、本日は79台へ戻して終える傾向。2024年平均は84.752023年は83.275年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。

  • 金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2500ドルで始まり、木曜日に2607ドルと1021日の史上最高値以来の高さへ上昇し、本日若干戻して2601ドルであること。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。

  • プラチナとパラジウムの価格差は、26日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は170ドルと1030日以来の高さで始まり、金曜日に140ドルと1021日以来の低さへ下げていたこと。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。

  • 上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、1028日以来継続的にプレミアムであったものの、1113日にディスカウントへ転換し、週間の平均は、前週の11.27ドルのプレミアムと81日までの週以来の高さから、1.14ドルのディスカウントと1017日の週以来の大きなディスカウントとなっていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は水曜日にトランプ大統領が米議会で合意したつなぎ予算に署名し、その期待で上昇していた株価が下げたことで、貴金属は現金化からも価格を下げるなど、米政局に市場は反応していました。そこで、米政府機関閉鎖が解除されたものの、経済指標の発表は引き続き遅延することが予想されています。

 

そのために、しばらくは引き続き米民間発表のデータに依存することとなりますが、水曜日のFOMC議事録は発表が予定されており重要となります。その他、月曜日のニューヨーク連銀製造業景気指数、水曜日の英国とユーロ圏の消費者物価指数、金曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、米ミシガン大学消費者態度指数などへも市場は注目することとなります。

 

主要経済指標の発表スケジュールの詳細は、主要経済指標(20251117日~21日)ご覧ください。

 

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。

ロンドン便り

今週の英国では、BBCがドキュメンタリー番組でトランプ大統領の演説内容を誤解を招く形で編集していた問題を巡り、同大統領の強い反応とBBCの対応が大きく報じられています。このほか、今月末に予定される英国政府の秋季予算案への観測、前週末に行われた第一次世界大戦終戦記念日の公式行事「リメンバランス・デー」、そして本日のチャールズ国王の誕生日もニュースの話題となっています。

問題となったのは、BBCの旗艦番組「パノラマ」が昨年10月、米大統領選直前に放送したドキュメンタリー「Trump: A Second Chance?(トランプ:2度目のチャンスか?)」の内容です。同番組は、202116日の米議会議事堂襲撃事件当日のトランプ大統領の演説を一部編集した形で紹介しており、その編集が「大統領が暴力を扇動したかのような印象を与える」との批判が、放送から一年を経て改めて問題視されました。

きっかけとなったのは、元BBC編集基準委員会アドバイザーの Michael Prescott 氏が内部メモで、「編集が誤解を招く構成になっていた」「視聴者を誤導した可能性がある」と指摘したことです。このメモが外部に漏えいし報道されたことで、公的な関心が一気に高まりました。

トランプ大統領側は、番組が「大統領が暴動を呼びかけたかのように見せた」と主張し、番組の撤回、公式な謝罪、最低約10億ドル(約100億円超)の補償を求め、本日までの回答をBBCに要求しています。いずれも応じなければ法的措置を取る構えを示しています。

これに対しBBCは本日、「誤判断(error of judgement)があった」として謝罪し、番組の再放送中止を決定しました。また、責任を取る形でBBC幹部が前週末に辞任しています。ただし、金銭的な賠償には応じない方針を示しています。

英国政府では、リサ・ナンディ文化相がインタビューで「BBCは重要な公共放送機関だが、編集ミスを認めたうえで改善が必要」とコメント。各メディアも、BBCの誤りを指摘しながらも、トランプ大統領の反応は過剰ではないかとの論調が目立ちます。

BBCは視聴者の受信料を財源とする公共放送であるため、その客観性・中立性については常に厳しい目が向けられています。今回の問題で、公共放送の責務の重さと、編集判断のあり方が改めて問われる形となりました。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者であると共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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