金市場ニュース

ニュースレター(2024年5月24日)金価格は史上最高値をつけた後にタカ派的FOMC議事録要旨で下落

週間市場ウォッチ

今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2339ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から2.6%安で2週ぶりに下落し、前週のLBMA価格での史上最高値の2402ドルから下げています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から3.1%高のトロイオンスあたり30.59ドルと3週連続の上昇で、LBMA価格では2013年2月以来の高さとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から3.5%安のトロイオンスあたり1027ドルと3週ぶりの下落で前週のLBMA価格での2023年5月以来の高さから下げていたこと。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から2.15%安でトロイオンスあたり989ドルと2週連続の週間の下げとなっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属は前週末から月曜日にかけて金はドル建てと日本円建てとスイスフラン建てで史上最高値、銀とプラチナはドル建てで11年ぶりの高値(日本円では銀は史上最高値、プラチナは14年ぶり)と上昇していたことからも、週間では下げを記録(LBMA価格ベースでは銀は週間の上昇)する方向となっています。

金は5月15日発表の米消費者物価指数が鈍化していたことで、FRBによる近い将来の利下げ観測で上昇へと転じていましたが、今週水曜日のFOMC議事録で、FRB高官はインフレが根強いからも利下げを急いていないことが確認されて、その上昇分が剥がれた形となっています。

なお、銀は金が今年史上最高値の更新を続ける等、強い動きをしていたものの、多少出遅れていましたが、5月半ばからの上げ幅は大きく5月初旬から本日まででドル建てで19%高と急騰しています。そこで、金銀比価は水曜日には75.50まで下げて、本日76を超えて推移していますが、これは2022年12月以来の低い水準で、銀割安が解消されていることとなります。

そこで、今週は金銀比価の推移のチャートをお届けしましょう。なお、この銀価格の動きの背景に4月中国の投機的取引等が金を動かしたように、中国の先物市場での銀の取引量は今週前週の倍以上の増加となっていることからも可能性があり、中国の動きも今後重要となりそうです。ちなみに、金銀比価の昨年の平均は83.27でした。

工業用途が6割以上というプラチナと8割以上のパラジウムは、中銀の利下げ観測と共に、世界経済や中国の景気などに影響を受けることから、パラジウムに関しては上げ幅も限られていたものの、共に前週半ばからの上げ幅をほぼ失って推移しています。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日金相場は、ロンドン時間早朝に、ドル建て、スイスフラン建てと日本円建てで金価格は史上最高値のトロイオンスあたり2449ドル、2226スイスフラン、gあたり12264円をつけ、その後ロンドン昼過ぎに上げ幅をほぼ失っていましたが、ロンドン時間夕方に2426ドル(2208スイスフラン、12201円)まで上昇して終えていました。

早朝の上昇は、前週の上げ基調を受け継ぎ、また週末にイランの大統領のヘリコプターが墜落して死亡したことを受け、地政学リスクの高まりもあるとも分析され、中国市場での取引高の急騰、またコメックスの先物・オプションのショートポジションが前週5週ぶりの高さでもあったことで、ショートスクイーズともされていました。

火曜日金相場はロンドン午後にトロイオンスあたり2433ドルまで上昇後に2422ドルまで下げて終えていました。

これは、すでに史上最高値の水準であることから下げたところで買いが入るものの、ある一定の水準で利益確定の売却が入っていた模様です。

また、同日米連邦準備理事会(FRB)のウォラー理事が追加利上げはないと述べたものの、利下げには数か月分の良い物価指数をみる必要があると慎重な見方を示したことからも、翌日のFOMCの議事録発表を前に警戒感もあった模様です。

水曜日金相場は、FOMC議事録の発表を待つ中、警戒感からもドルと米長期金利が若干上昇し、金価格はトロイオンスあたり2390ドルまで下げて推移していましたが、FOMC議事録がタカ派的であったことから、2382ドルまで下げて終えていました。

FOMCの議事録では、より長期に高水準での政策金利維持が望ましいとメンバーが同意していたことが明らかとなり、FRBによる利下げ観測が一気に後退して、今月半ばの米消費者物価指数が鈍化していたことで年内2回以上の利下げ観測が広がっていましたが、一気に年内一回の利下げ予想へと下げていました。

また、同日はどスナク英首相が7月4日の総選挙を発表し、同日発表された4月の消費者物価指数が前年同月比2.3%へと下げていたものの、細かな内容は未だ根強いインフレであったことが示されていたことで、イングランド銀行による利下げ観測がこれまでの来月から先送り観測となったことで、ポンドは対ドル強含み、ポンド建て金相場はトロイオンスあたり1877ポンドへと下げ幅を広げていました。

木曜日金相場は、前日に続きドルと長期金利が上昇して、米消費者物価指数(CPI)が鈍化していたことでFRB利下げ観測が広がる前5月14日の水準へ上昇する中、CPI発表前の水準からも下げてトロイオンスあたり2332ドルへと下げていました。

これは、前夜発表のFOMC議事録の要旨がタカ派的内容であったこと、また、同日発表の新規失業保険申請件数も予想を下回り、米製造業及びサービス部門のPMIも予想を上回るなど、経済の堅固さもあり、先の観測を進めていました。

そこで、CMEのFEDWatchツールの年末金利予想は本日5月1日以来初めて5%を超えていました。

本日金曜日金相場は、前日の終値から若干上昇してトロイオンスあたり2337ドル前後を推移しています。

これは、前日上昇していたドルと長期金利が多少ながら下げたことに反応している模様ですが、頭は重たい動きです。

それは、本日発表された米耐久受注とミシガン大学消費者態度指数が予想を上回り、米経済の底強さを示していたこと、またミシガン大学が発表した消費者のインフレ予想は前回の3.5%から下げていたものの、3.3%と引き続き高いものであることが背景にある模様です。

一か月のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 今週ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、4月にインドの中央銀行が6トン金順を増加させ年初からの金準備増加量が24トンで総量を828トンとしていたこと。
  • WGCによるとイラクの中銀はは2月に3トン金準備を増加させ、2022年の34トン、2023年の12トンと増加を続けており、総量は146トンとのこと。
  • WGCによるとカザフスタンの中央銀行も4月に6トン金準備を増加させ、年初から22トン増で総量を137トンとしていたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に5月14日のデータが発表され、米国の消費者物価発表前に、まちまちな米卸売物価指数が発表されて価格が上昇する中、パラジウムを除く全ての貴金属でネットロングポジションが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、6%増の538トンと減少し、価格はこの際1.5%高でトロイオンスあたり2354ドル。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、19%増の6473トンと2週連続で増加していたこと。価格は4.3%高のトロイオンスあたり28.43ドルと2週連続で上昇してLBMAの火曜日価格で2021年5月以来の高さとなっていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、2週連続でネットロングで29トンと2023年6月以来の高さへ強気ポジションを増加させていたこと。価格は4.1%高でトロイオンスあたり1015ドルとLBMA価格の火曜日価格で2023年6月以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、0.5%増の36.9トンと3月上旬以来の高さへ再び増加していたこと。価格は0.6%安でトロイオンスあたり971ドルへ下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては5.18トン(0.62%)減で833.36トンと5月16日以来の低さで、2週ぶりの週間の減少の傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.53トン(0.14%)減で381.46トンと週間の減少傾向で、5月13日以来の低さであること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで89.54トン(0.69%)増で13,140.33トンと、3週ぶりの週間の増加傾向であること。
  • 金銀比価は、今週76台後半で始まり水曜日に75台後半と昨年末以来の低さまで下げて、本日76台半ばまで戻して終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1362ドルで始まり、本日1315ドルと3月末以来の低さへ下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、月曜日に63で始まり、週半ばで下げたものの、本日ほぼ50ドルへ戻して終える傾向。引き続き2017年9月以来の高さの水準。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が28.93ドルと人民元建て金価格が史上最高値をつけていたことからも、前週の3週ぶりの高さの30.11ドルから下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は28%高で史上最高値をつけた4月12日の週以来の高さで、銀も31%増でやはり4月12日の週以来の高さ、プラチナは1%減で前週の5週ぶりの高さから若干下げ、パラジウムは50%増で昨年11月末以来の高さ。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は5月14日から負の相関関係へ転換し-0.65と関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は5月15日から負の関係で本日は-0.65と関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は5月15日から正の相関関係で木曜日に0.83と今週その関係を強めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週市場は水曜日のFOMC議事録発表を待ち、その結果で大きく動いていましたが、来週はFRBがインフレ指標として注目する個人消費支出PCEコア・デフレーターが金曜日に発表され、重要となります。

その他、木曜日には米第1四半期GDPが木曜日に発表され、金曜日のユーロ圏消費者物価指数へも市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2024年5月27日~31日)ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、水曜日にスナク英首相が7月4日に総選挙を行うことを発表したことから、このニュースがトップで伝えられていますが、その他、英ポストオフィスのスキャンダル関連公聴会での元同社社長のインタビューの様子、そして英国で1970年代以降に起きた汚染された血液による感染スキャンダルの公的調査報告書が発表され、スナク英首相が謝罪し、その補償関連のニュースも大きく伝えられています。

そこで、本日は英国議会保守党議員も驚いたという、スナク首相による突然の総選挙発表についてお伝えしましょう。

英国では5年ごとに総選挙が行われることになっているため、2025年1月までに総選挙は行われなくてはならず、5月の統一地方選挙と共に行わなかったことから、実施は秋以降と予想されていました。

総選挙が発表された水曜日は英国の4月の消費者物価指数が、前年同月比2.3%と前月の3.2%から下げ、イングランド銀行の目標の2%に近づいていたことが確認されていました。しかし、予想の2.1%は上回っており、コアは3.9%と未だ粘り強いインフレも意識されていました。

しかし、スナク首相はインフレが、直近の最高値の11%から大きく下げてほぼ目標に近づいたことや第一四半期の実質GDPが2期続いたマイナス成長からプラスに転換した同政権の経済政策の成功、そして違法難民問題ではルワンダに強制輸送する法律も成立させた実績を、首相官邸前で行った総選挙の発表で強調していました。

しかし、この発表は保守党政権内でもかなり突然決まったようで、前日まではその気配は全くなく、インフレ数値が発表された早朝から同日夕方に発表が行われるまでに、ニュースでも総選挙の発表があるという憶測が観測として伝えられ始め、一部保守党議員は保守党幹部からの連絡が入っていない中で、ニュースレポーターにその詳細を確認していたとも伝えられていました。

政治記者の分析では、インフレ数値は良かったものの、イングランド銀行が利下げをすぐに行うほどのものではなく、秋まで待つ意味がなくなったこと、また経済指標も待つことで悪化する可能性もあること、そしてルワンダへの違法難民の輸送も国内外の司法機関から停止命令が入る可能性もあるとのことで、必ずしもスナク政権が望む秋ごろに実施できない可能性もあった模様です。

なお、最新の世論調査では未だにスナク首相率いる保守党の支持率はスターマ労働党首の労働党を25ポイントほど(YouGov)下回っており、議席を失う可能性の高さからか、昨日までの段階で保守党現職議員の275議員のうち72議員はすでに今回の総選挙では立候補しないことを表明して、今後も増えるとの予想もあるようです。

5月の統一地方選挙の結果から総選挙結果を予想すると、保守党の重鎮でキャメロン内閣から現在に至るまで内閣の要職を務めているマイケル・ゴーブ議員や財務大臣のジェレミー・ハント議員ですらも議席を失う可能性もあるようで、保守党は厳しい戦いとなりそうです。

14年の保守党政権を経て、有権者の保守党への不満は強いようで、労働党政権になることはほぼ確実のようですが、労働党が過半数を取ることになるのかが焦点となりそうです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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