金市場ニュース

ニュースレター(2024年3月29日)金価格は手がかりの無い中で再び全ての主要通貨建てで史上最高値を更新

週間市場ウォッチ

今週木曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)はトロイオンスあたり2214ドルと、前週金曜日の同LBMA価格からほぼ2.0%高で、この世界指標で史上最高値を2営業日連続で更新していたこと。この間木曜日のLBMA銀価格(午後12時)は、前週の金曜日の同価格から0.2%安のトロイオンスあたり24.54ドルと下げていました。木曜日のLBMAのPMプラチナ価格(午後2時)は、前週金曜日の同価格から0.4%高のトロイオンスあたり907ドルと若干上昇していました。木曜日のLBMAのPMパラジウム価格(午後2時)は、前週金曜日の同価格から0.2%安でトロイオンスあたり1017ドルと下げていました。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週金相場は、金曜日の欧米のイースター休暇前に全ての主要通貨建てで史上最高値をつけて終えています。

この背景は、やはり主要中央銀行が利下げへと転換したとの観測であるようですが、水曜日にウォラーFRB理事は利下げは急ぐべきではないという講演を行い、CMEのFEDWatchツールでも、木曜日までの年末の政策金利予想は今週若干上昇して4.6%を超える水準で年3回以下にはなっていなことからも、手がかりの無い中での急騰となっています。

そこで、今週のチャートとしては、市場のFRBによる今年年末の金利予想と反転された金価格のチャートをお届けしましょう。ここで、3月20日のFOMC後に利下げ観測が広まり、政策金利予想が若干下げたものの、その後再び金利予想が上昇に転じていること、それにもかかわらず金価格が上昇(反転しているため下落)していることが見られます。

市場のFRBによる年末の政策金利予想とドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

そこで、長期金利は3月半ばの水準へ下げていますが、4%を超える水準であり、ドルインデックスは2月半ばの高さであることからも、通常金と実質金利やドルインデックスとは負の相関関係(一方が上昇すると他方が下げる)ですが、木曜日に正の相関性へ転換する等、これらの相関関係も崩れています。

なお、米国ドル建て、英国ポンド建て、ユーロ建て、日本円建てで、金価格は年初から今週木曜日までに、それぞれ、7.5%、8.1%、10.2%、17.5%上昇しています。

それに対し、工業用途の需要が多い銀、プラチナ、パラジウム価格は、今週も金の動きとは異なり、若干の下げもしくは上げと大きな動きは無く、金銀比価は4週ぶりの高さ(銀が割安)、プラチナは史上最大の金とのディスカウントを記録していました。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日は、前週木曜日に全ての主要通貨建てで史上最高値をつけていた金価格は、金曜日の下げ幅を多少削って、同日トロイオンスあたり2173ドルで終えていました。

これは、前週大きく価格が上昇したことからも、金曜日に多少調整の下げ、そして同日は狭いレンジの動きとなっていました。今週は金曜日にFRB注目のインフレ指標の個人消費支出コア・デフレーターが発表されることからも、何らかのきっかけを待っていたようでした。

なおその間、同日は中国の指標である上海黄金交易所の金価格とロンドン指標との差が再びひと月ぶりの大きさのトロイオンスあたり42ドルまで上昇し、高値でありながらも中国での需要の強さが見られていました。

火曜日金相場は長期金利がロンドン時間午前中に下げたことで、トロイオンスあたり2200ドルへと史上最高値から20ドルほどまで一時上昇したものの、その後予想を上回る米経済指標で、長期金利が上昇に転じて上げ幅を失って2177ドルで終えていました。

本日の米経済指標は、耐久財受注が前回修正値の‐6.9%と予想の1.1%を上回る1.4%で、ケース・シラー米住宅価格指数も6.6%と前回修正値の6.2%を上回り、予想6.7%を若干下げる水準となっていました。

しかし、リッチモンド連銀製造業指数は予想と前回の-5を下回る‐11で、米消費者信頼感指数も104.7と予想の107と前回の106.7を下回っていました。

水曜日金相場は、ドルが上昇しているものの、長期金利は若干下げていたことから、トロイオンスあたり2187ドルと前日終値比上昇して終えていました。

同日の長期金利の下げは、今週行われていた国債入札が好調であったことで、国債価格が上昇し利回りが下げたことが背景となっていました。

そのような中、人民元建て金価格は同日人民元安もありgあたり515元と史上最高値を更新していましたが、ポンド建てでもトロイオンスあたり1739ポンドと史上最高値をつけていました。

木曜日金相場は欧米がイースター休暇に入る前に、米ドルでトロイオンスあたり2235ドルを含む全ての主要通貨で史上最高値をつけていました。

市場は29日発表のFRBが重要視する個人消費支出(PCE)コア・デフレーターを待っていましたが、28日発表の米国第4四半期GDPが3.4%と上方修正され、ミシガン大学消費者態度指数は2021年7月以来の高水準となったことで、米株価指数が史上最高値をつけていました。そのような中、特に金価格を動かす要因が無い中で、月末、四半期末、休暇前のポジション整理もあり上昇をした模様です。

日本円建て金相場は28日gあたり10877円と史上最高値を一時つけていました。

ちなみに、前日27日には、ウォラーFRB理事が講演で、利下げに急ぐ必要はないと述べていましたが、株式市場および金市場への影響は限定的となっていました。

なお、本日金曜日市場注目の米国個人消費支出コア・デフレーターは、前月比0.3%と予想と同水準で、前回修正値の0.5%から下げ、前年同月比でも2.8%と予想と同水準で、前回修正値の2.9%から下げていました。

欧米市場はイースター休暇で閉まっていますが、ドルインデックスは、このニュースを受けて若干下げて推移しています。

なお、英国は月曜日もイースターマンデーの祝日ですが、米国は日本同様市場が開きますので、本日の先のデータと、午後行われるパウエルFRB議長のスピーチの影響などは月曜日を待つこととなります。

過去1週間のドル建て金相場のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に3月19日のデータが発表され、翌日のFOMC後の政策金利発表を待つ中で、金とプラチナで強気ポジションを減少させ、銀とパラジウムで強気ポジションを増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.3%減で490トンと4週ぶりに減少して前週の2022年3月8日以来の高い水準から下げていたこと。価格はこの際0.3%安でトロイオンスあたり2154.90ドルと4週ぶりに下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、3週連続ネットロングで42%増の5882トンと2022年4月19日以来の高さとなっていたこと。価格は2.26%高のトロイオンスあたり24.93ドルと昨年5月初旬以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは1月23日の週以来ネットショートで、56%増の5.9トンと前週の1月末以来の低さから増加していたこと。価格は2.1%安でトロイオンスあたり896ドルと前週の1月末以来の高さから下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートであるものの、2.9%減の31.5トンと1月初旬以来の低さへ下げていたこと。価格は3.5%安でトロイオンスあたり986ドルと前週の1月初旬以来の高さから下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては5.2トン(0.8%)減で830トンと2週ぶりに週間の減少で3月半ばの低さとなっていたこと。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに全く増減が無く387トンと、引き続きパンデミック最中の増加分を失って2020年3月末以来の低さで9週連続の週間の減少であったこと。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで95トン(0.7%)増で13,190トンと2週連続の週間の増加傾向であること。
  • 金銀比価は、今週87台後半で始まり緩やかに上昇して木曜日89台後半と3月上旬以来の高さへ上昇して終えていたこと。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、木曜日1311ドルと再び1990年3月にLBMA価格が公表されて以来の最大の高さとなっていたこと。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは今週100ドルで始まり、水曜日92ドルまで下げた後に、木曜日98で終えていたこと。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週SGEの金価格が火曜日から3日続けて史上最高値を更新する中で、週間の平均が40ドルと3週ぶりの高さで先週の22ドルから上昇していたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇していたこと。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週前週平均比で、金は2%減、銀は9%減、プラチナは29%減、パラジウムは20%減と、金価格は史上最高値を更新するなど価格は上昇したものの、日々の動きは3月初旬ほど大きくなかったこともあり、全般下げていたこと。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は昨年11月24日からも負の相関関係を今週木曜日正の関係として0.075であったこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は昨年11月20日からの負の相関関係を木曜日正の関係として0.14。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に3月1日から転換して木曜日に0.57と今週その関係を弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は欧米がイースター休暇に入る金曜日発表のFRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)コア・デフレーターに、FRBの今後の政策金利を予想する上でも市場は注目していました。来週は同様な目的で金曜日の米雇用統計が重要となり、火曜日のユーロ圏の消費者物価指数と水曜日の卸売物価指数などへも市場は注目することとなります

詳細は主要経済指標(2024年4月1日~5日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、モスクワのコンサートホール襲撃事件関連ニュース、国連安全保障理事会で月曜日にイスラエルとハマスのガザ地区の先頭の即時停戦と人質全員の即時かつ無条件の解放を求める決議案が採択されたこと、先週金曜日にキャサリン妃ががんであることを発表した後の国王を含む各国首脳等の反応等が伝えられています。

そのような中、今週末行われるケンブリッジ大学とオックスフォード大学のボートレースに絡み、テムズ川の水質問題がニュースになっていましたのでお伝えしましょう。

毎年3月末には、ザ・ボート・レース(The Boart Race)と呼ばれる1829年から続いている伝統のレガッタ(8人の漕ぎ手と一人の舵手)レースが行われます。

このレースは、大学対抗のアマチュア選手によるものですが、6月のロイヤルアスコット(競馬レース)、7月のウィンブルドンテニストーナメントのように、英国の風物詩でもあり、テレビ中継はもちろんですが、レースコースのテムズ川周辺には、多くの人々が集まります。

そして、このレースの伝統の一つが勝者チームが、レース後に舵手をテムズ川へ投げ入れるというものがあり、今年はこのコースで高濃度の大腸菌が検出されたために、行わないようにと警告されたことがニュースで伝えられていました。

この検査を行ったリバー・アクションという川の汚染に関してキャンペーンを続けているチャリティー団体によると、地元の公益企業であるテムズ・ウォーターがテムズ川とその支流に放流した汚水が原因であるとのこと。

英国では洪水を防ぐために、暴風雨オーバーフロー管というものが設置されており、大雨が降ると未処理の下水や雨水を沿岸海域や河川に放出するように設計されています。そして、2023年には、環境規制当局のデータによると、この流出量が前年比54%増となっており、イングランドとウェールズの一部の地域ではほぼ毎日流出されていたとのこと。

そこで、水道会社の団体は、2030年までにこの汚水流出に対処するために、イングランドとウェールズの家庭の水道料金を70%値上げする許可を業界規制当局へ求め、6月にその判断が発表されるようですが、その額は多くの家庭では支払いが不可能な水準となります。

長い期間インフラへの投資を行っていなかったこと等が背景のようですが、処理されていない汚水がほぼ日々身近な河川に流されている現状は、改善されなければならないことは確かでしょう。

私の自宅はテムズ川沿いにあり、毎年このレースを楽しみにしていますが、今年は英国の河川の水質問題へ人々の目を向けさせるレースともなりそうです。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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