ニュースレター(2024年12月6日)リスクオン基調で金は2週連続の下落
週間市場ウォッチ
金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から0.7%安でトロイオンスあたり2634ドルと2週連続の週間の下げとなっています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から1.4%高のトロイオンスあたり31.12ドルと週間の上昇となっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から0.3%安のトロイオンスあたり937ドルと2週連続の週間の下げとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から1.4%安でトロイオンスあたり969ドルとやはり2週連続の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、トランプ次期大統領の時期政策担当者の指名に注目する中で、フランスやシリアの政治及び地政学リスクの高まりと、FRB高官のコメントと米雇用関係データに注目して動いていました。詳細は下記の日々の動きを参照ください。
今週の特筆すべきことは、トランプ次期大統領が暗号資産推進派のポール・アトキンス氏を指名したことで、すでにトランプ氏が大統領に選出されて、暗号資産の規制緩和観測でビットコインがひと月で42.4%上昇し昨日は取引時間中に10万ドルを突破していたことでした。
また、次期大統領がビジネスよりな政策を行うという観測からもS&P500種は同期間5.4%上昇し、この間6回史上最高値を更新する等とリスクオン状況が続いていることでした。
ちなみに、この間金価格はLBMAのPM価格ベースで0.9%安と、金ETFが先月11月に6か月ぶりに残高を減少させていたことなどからも、リスク資産への資金の流れが見られています。
そこで、本日はビットコインとS&P500種とドル建て金価格の年初来のチャートをお届けしましょう。ビットコイン(青)の年初来の上げ幅は124.6%ですが、金(黄色)とS&P500種(水色)の上げ幅は拮抗しており、金が28.1%でS&P500が28.5%と本日ロンドン時間夕方の段階でなっています。
他の貴金属においては、プラチナとパラジウムが金同様に下げる中で、銀は金と比較しても夏以降上げ幅が限定的で、金銀比価が80を超えて推移していたことからも、年末を前に買戻しが起きている模様で、今週銀のETFが増加に転じると共に、週間の上昇となっています。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、ドルが強含むことで押し下げられ、トロイオンスあたり2622ドルを一時つけたものの、その後下げ幅を削って2641ドルで終えていました。
同日の金相場の動きは、主にフランスの政局不透明間によるユーロ安によるドル高の動きに反応していましたが、この政治リスクやシリアの反政府勢力がアレッポを制圧する中、ロシアとイランの介入などの中東政局による地政学リスクの高まりは安全資産の需要ともなり、下げ幅も限られていました。
火曜日金相場は、前日FRB高官がハト派的発言をしたことで、今月のFOMCでの利下げ観測が広がる中で、米雇用関連データは強いものであったことから、トロイオンスあたり2655ドルまで一時上昇後に、上げ幅を失って2640ドルで終えていました。
前日のFRB高官のコメントは、ウォーラー理事が、経済指標にもよるものの今月のFOMCで追加利下げ支持に傾いていると述べ、ボスティック・アトランタ連銀総裁とウィリアム・ニューヨーク連銀総裁は、インフレが目標に向かって下げる可能性が高く、12月の利下げに言及することはなかったものの追加利下げが正当化されると述べたことが伝えられていました。そこで、CMEのFEDWatchツールでの今月の利下げ予想は発表後の段階では7割をこえていました。
しかし、同日発表の米雇用関係データは、雇用動態調査(JOLTS)求人件数で、774.4万件と予想の747.5万件と前回修正値の737.2万件を上回る強いものであったことで、今月の利下げ観測が若干後退して、金は上げ幅を失うこととなりました。
水曜日金相場は、市場注目の米ADP雇用統計は予想を下回ったものの、パウエル議長は若干タカ派的コメントであったことからも、前日終値から上昇しているものの、上げ幅は抑えられて、トロイオンスあたり2648ドルで終えていました。
ADP雇用統計は前回修正値の18.4万人と予想の15.0万人を下回る14.6万人となっていましたが、パウエル議長は水曜日に景気は極めて良好で、金利を中立的な水準(経済を刺激も抑制もしない水準)に向けて引き下げる際、当局者は慎重にすべきと述べていました。
そこで、FEDWatchツールでは今月の利下げ観測はこの段階では8割弱まで増加していましたが、金曜日の米雇用統計もあり、金相場は動きずらい状況のようです。
木曜日金相場は、ドルが一週間ぶりの低さへ下げ、長期金利は若干上昇する中で、トロイオンスあたり2623ドルまで一時下げて、2628ドルで終えていました。
同日は翌日の米雇用統計を前に、米新規失業保険申請件数がひと月ぶりの高さと予想を上回っていたものの、前日の予想を下回った米ADP雇用者数の発表後、今月のFRBによる利下げ観測が78%と増加していたものが、68%まで下げていることが、金を押し下げた背景となっていた模様です。
また、この間S&P500種は同日も前日の今年56番目の最高値を取引時間中に上回り、ビットコインは、トランプ次期大統領が暗号資産推進派のポール・アトキンス氏を指名したことで、10万ドルを超えて史上最高値をつけていました。そこで、リスクオン基調からも金が押し下げられていた模様です。
本日金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計がまちまちなもので、発表後に神経質な動きをした後にトロイオンスあたり2639ドル前後と前日終値を上回って推移しています。
発表された非農豪部門雇用者数は22.7万人と前回修正値の3.6万人と予想の20.0万人を上回っていました。しかし、失業率は4.2%と予想と同水準で前回を上回っていました。平均時給は前月比で0.4%と前回と予想の0.3%を上回り、前年同月比では4.0%と前回と同じで、予想の.3.9%を上回っていました。
この発表を受けてCMEのFEDWatchツールは、今月の利下げ観測が前日の71.0%から86.9%まで増加していますので、市場の判断はFRBの政策を変えるほど強いものではないということで、金は発表直後下げをほぼ取り戻している模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 10月に中央銀行は総計60トン金準備を増加させ、年初来最大の規模となっていたこと。国別ではインドが27トンと最大で、トルコが17トン、ポーランドが8トン増と続いていたこと。
- 金ETFの残高は11月に全体で29トン(4%)下げて、評価額ベースでは年初から26億ドル増加しているものの、重量ベースでは年初来減少へ転換していたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に11月26日までのデータが発表されて、トランプ次期大統領が次期財務長官に財政規律重視派のスコット・ベッセント氏を指名したことで、前日価格が急落した翌日までに、金とパラジウムはネットロングポジションを増加させ、銀とプラチナではネットロングポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4.1%増で616トンと4週ぶりに増加していたこと。価格は0.04%安でトロイオンスあたり2622ドルへと若干下げていたこと。建玉は12.7%減と5週連続で4月初旬以来の低さへと減少していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、10.3%減で3613トンと3月初旬以来の低さへ下げていたこと。価格は前週比2.3%安で、トロイオンスあたり30.54ドルと下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、9月17日からネットロングで、58.7%減で8.0トンと9月初旬以来の低さへ下げていたこと。価格は前週比3.8%安でトロイオンスあたり933ドルと9月初旬以来の低さへと下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週までに13.5%減で20.4トンと減少していたこと。価格は0.9%安でトロイオンスあたり1021ドルと下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で6.6トン(2.3%)減で871.94トンと11月半ば以来の低さへ減少して、2週間ぶりの減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.32トン(0.08%)減で392.45トンと11月下旬以来の低さで、3週ぶりに週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに66.04トン(0.45%)増で14,775.63トンと11月下旬以来の高さで週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週86台半ばで始まって徐々に上げて本日84台半ばと11月半ば以来の低い水準へ下げて終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1695ドルで始まり、水曜日に1706へ上昇し、本日1700ドルへと下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、月曜日33ドルで始まり、本日39ドルと若干上昇して終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週間のロンドン価格とのディスカウントは11.7ドルと前週の15.4ドルから幅を狭めていたこと。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウント。2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は44%減で6月末以来の低さ、銀は35%減で2月初旬以来の低さ、プラチナは6%減で11月下旬以来の低さ、パラジウムは49%減で4月初旬以来の低さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月13日から負の相関関係で-0.53と週間ではその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は本日負の関係から正の関係へ転換し、0.14と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は11月5日から負の関係で、前週から-0.38とやはり相関関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週金相場は、米国の雇用市場関係データやFRB高官のコメントに注目し、今月の利下げ観測の動きに反応していますが、来週は12月17日と18日のFOMCを前に、FRB高官がコメントを控えるブラックアウト期間に明日から入る中で、水曜日に米消費者物価指数と木曜日に卸売物価指数が発表され、これらデータが重要となります。また、木曜日の欧州中央銀行の金融政策発表へも市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2024年12月9日~13日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年12月2日~6日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年12月9日~13日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年12月2日)フランスが財政赤字問題で「不信任」投票に直面し、ユーロ建て金価格が上昇
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、フランスの混迷を続ける政局、韓国の「非常戒厳令」宣布等の混乱、シリアの内戦激化、今週末英国南西部来襲が予想されるストームについて等が大きく伝えられています。
その様な中、今週ロンドンでは地金業界団体のロンドン貴金属市場協会(LBMA)の第一回目の女性のネットワーキングイベントが火曜日、そして翌日水曜日には年末のセミナーとパーティが行われ、参加してきましたのでその概要をお伝えしましょう。
まず女性を中心としたネットワーキングイベントは、ロンドン市内の女性のメンバーズクラブAll Brightで行われ、男性も参加可能でしたが1割に満たず、60名近い貴金属業界で働く女性が集まりました。ここでは、LBMAのCEOのRuth Crowell氏とプラチナグループのPGM業界で働く女性の会の代表であるMetals FocusのPGMリサーチ取締役のWilma Swarts氏のトークがAll Brightの代表のViviane Paxinos氏の司会によって行われ、それぞれの履歴、彼らにとってのメンターについて話され、業界内の女性のネットワークを強めて、それぞれのキャリアの構築をサポートすることが話され、多くの時間は参加者同士のネットワーキングとなっていました。
翌日のセミナーでは、21世紀の金相場を振り返り、今後25年の市場の傾向や動かす要因となるものについて弊社リサーチダィレクターのエィドリアン・アッシュがパネリストの一人として、スタンダードチャータード銀行のSuki Cooper氏とAngro AmericaのMatthew Turner氏がディスカッションを行いました。ここで、21世紀に金を動かした大きな要因として、エィドリアンは中国を挙げ、Cooper氏は金ETF、そしてTurner氏は中央銀行の金購入とし、今後の市場での注目は、この三つの要因が現在進むde-globalizationによってどのような影響を受けるのか、特にトランプ次期大統領による関税引き上げ、米ドルの世界経済の位置づけ、AIや現在開発されていない利用法が金や他の工業用貴金属で生まれる可能性等も話し合われました。
そして、BASF Metal LtdのToby Green氏が2025年のPGMs市場の展望について講演し、ここでもTrump 2.0(トランプ次期政権)における注意点として、トランプ次期政権の政策で電気自動車への移行が遅れる可能性の中で、環境問題についても化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が遅れる可能性からも、PGMsグループ貴金属にとってはプラスとマイナスの両面が出るだろうとのこと。
そして、LBMAのCEOのCrowell氏が業界団体としてのLBMAの一年を振り返り報告をした後に、地政学リスクに対するストラテジー構築を専門とするFordham Global Foresightの創設者のTina Fordham氏が2025年に向けて世界が面する地政学リスクについて講演しました。この講演で、Fordham氏は世界のGeopolitical Super Cycleの中で、世界が享受していた冷戦後の地政学的安定は大きく変わりつつあるとし、準備が必要であることを強調していました。
LBMAのパーティは国立美術館で行われ、300名近い業界関係者が集まり、親睦を深めていました。そこで、LBMAパーティーの写真を下記に添付します。