ニュースレター(2023年1月20日)金価格はリセッション懸念の安全資産の需要で9ヶ月ぶりの高さへ
私は今週まで日本に入っていますので、ロンドン便りを除くニュースレターをお届けします。
週間市場ウォッチ
今週金曜日午前10時半の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1929ドルと、前週金曜日のLBMA価格のAM価格(午前10時半)から1.3%高と5週連続の週間の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.9%高のトロイオンスあたり23.88ドルと2週連続の週間の上昇となっています。プラチナは本日午前10時半の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのAM価格から3.0%安のトロイオンスあたり1036ドルと2週連続の週間の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムAM価格と比較して、本日午前10時半の弊社チャート上での価格は2.9%安のトロイオンスあたり1741ドルと2週連続の週間の下落となっています。
2022年の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金は昨年4月以来の高値水準へ上昇して終える傾向です。これは、米卸売物価指数はインフレの鈍化を示す中で、FRB高官が引き続き利上げを続けてターミナルレート(政策金利の最終到達点)を5%を超える水準と述べており、米小売売上高や鉱工業生産等の主要経済指標は、すでに経済停滞を示していることからも、近い将来のリセッション懸念からも株価が下げるリスクオフ基調となり、金の安全資産としての需要の伸びが背景となっているようです。
そこで、工業用途の多い銀はLBMA価格では上昇しているものの、終値ベースではプラチナとパラジウム同様に下げて終る傾向となっています。
今週のチャートは、2020年のパンデミックによる価格の上昇時に急増していた金のETFの残高は、2021年と2022年に年間で減少していましたが、今週に入り最大銘柄のSPDRゴールドシェアーが週間の上昇傾向と基調の変化が見られており、すでに3週連続で上昇傾向となっている第2規模のiShareゴールドの残高の推移とともにお見せしましょう。
ちなみに、銀のETFの最大銘柄のiShareシルバーは、今週昨年8月末の週以来の大量の残高の減少を見せて、2週連続の減少となるなど、金とは異なる動きをしています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、ドルと米長期金利が上昇する中で、一時トロイオンスあたり1928ドルと昨年4月以来の高さまで一時上昇した後に、1918ドルまで下げて終えていました。
同日は米国はキング牧師記念日の祝日であったことから経済指標の発表はなく、先のドルの動きは前週の米消費者物価指数が鈍化したことで、FRBの利上げ減速観測の広がりによるドル安長期金利下落の調整であったようです。
火曜日金相場は、ドルインデックスは昨年6月以来の低さへ下げ、米長期金利は昨年12月初旬以来の低さの水準で推移する中で、トロイオンスあたり1907ドルへと下げて終えていました。
ドルインデックスが弱含んでいたのは、同日FTが欧州中央銀行のチーフエコノミストのレーン専務理事の利上げに積極的なコメントを伝えてユーロが強含んだこと、またポンドも同日の失業保険申請件数が前回から減少していたことからも強含んでおり、相対的にドルを下げていた模様です。
また、翌日は日銀の金融政策会合後の政策金利発表があり、昨年末の実質金融引締以降、何らかの金融政策への変更があることへの警戒感は高まっていたこともドルを弱めていたようです。
水曜日金相場は、ドルインデックスが昨年5月以来の低値、長期金利が昨年9月以来の低値を付ける中で、一時トロイオンスあたり1925ドルと再び昨年4月以来の高い水準へ上昇したものの、上げ幅を失って1905ドルへ下げて終えていました。
同日は米卸売物価指数が発表され、インフレ鈍化が見られたことからも、FRBの金融政策の利上げペースが減速する観測からドル安、長期金利下落が起きて、金を押し上げていました。
しかし、その後FRB高官2名が引き続き利上げが必要で、ターミナルレート(政策金利の最終到達点)は5%を上回るべきというタカ派的発言をしたことが伝えられ、リセッション懸念から株価が下げる中で、金もまた利益確定が進んだ模様です。
木曜日金相場はドルインデックスが7ヶ月ぶりの低さ、米10年物国債の利回りが4ヶ月ぶりの低さで引き続き推移する中で、一時トロイオンスあたり1935ドルと再び昨年4月以来の高値をつけて1932ドルで終えていました。
同日は、前日のリセッション懸念によるリスクオフの中での下げから反転し、安全資産の需要が高まっていた模様です。
また、同日は米連邦債務上限に達したことで財務省が特別措置を発動し、6月5日までは資金切れは無いものの、米議会はねじれとなっており、厳しい議会運営の予想からも安全資産の需要が増加したようです。
ちなみに同日は金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が12月末以来減少を続けていたものの、水曜日以来2日連続で増加をさせるなどセンチメントの変化も見られていました。
本日金曜日は、ドルと長期金利が低い水準でありながらも上昇をしている中で、金相場は再び今週の高値で昨年4月以来の高さを更新してトロイオンスあたり1937ドルへ一時上昇した後に、ロンドン時間昼過ぎに1928ドル前後へ戻して推移しています。
本日、欧州株は全般上昇していますが、米国主要株価インデックスは今週軒並み下げており、安全資産としての需要が増している模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週火曜日1月10 日にパウエルFRB議長が金融政策へのコメントを避ける中で貴金属価格が上昇し多際に、銀を除く全ての貴金属でネットで強気ポジションを増加させていたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、13%増の256トンと6週連続で増加して昨年5月初旬の高さとなっていたこと。ロングは7.3%増で5月下旬の高さでショートは0.9%減で昨年4月半ば以来の低さ。建玉は前週から9.4%増で、11月半ば以来の高さ。 -
コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比16%減の3827トンと2週連続の減少。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、ネットロングで1.3%増の37.8トンと3週連続で増加して昨年3月上旬以来の高さ。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートであったものの、3.6%減で2.6トンと3週ぶりの低さ。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.3トン(0.03%)増で912.4トンと、2週ぶりの週間の減少の傾向。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.83トン(0.18%)増で451.6トンと、3週連続で週間の上昇。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で255トン(1.76%)減で14,232トンで、2週連続での週間の減少で、週間の減少量と%は昨年8月末以来の大きさ。 -
金銀比価は、今週79で始まり木曜日に81台へと昨年11月末以来の高さへ上昇して80台へ下げて終える傾向。2022年平均は83.39と前年の71.83からは増加。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。) -
プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、840ドルで始まったものの、本日ほぼ900ドルと昨年7月初旬以来の高さへ上昇して終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。 -
プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、694ドルで始まり若干下げたものの本日706ドルへと上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。 -
上海黄金交易所(SGE)のロンドン金価格との差は、今週人民元建て価格が2020年9月以来の高さへ上昇する中で13.70ドルと昨年12月初旬以来の低さへ下げ、前週の23.14ドルから減少。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。 -
コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は8%減、銀は31%増、プラチナが53%増、パラジウムは66%増。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は前週の鈍化した米消費者物価指数により、FRBの利上げペース減速観測からも金は上昇基調となっていますが、来週以降も主要中央銀行の金融政策へ影響を与える指標が重要となります。
そこで、FRBがインフレ指標として重視する金曜日発表の個人消費支出PCEコア・デフレーターは重要となります。
その他詳細は、主要経済指標(2023年1月23日~27日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週ドル建て金価格が上昇する中で、ポンド建て金価格が史上最高値水準へと上昇していることを伝える、英主要経済サイトの This is Moneyサイトで、弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
ここで、エイドリアンは、ポンド建て金価格のみでなく、日本円を含む他の主要通貨建てにおいても過去12ヶ月に史上最高値をつけていること、そして金の需要の高さは、FRBの金融政策の転換観測、ロシアと中国を筆頭に中央銀行の金購入、中国のゼロコロナ政策緩和による需要増の観測などと背景を解説しています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2023年1月16日~20日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2023年1月23日~27日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
来週はロンドンに戻りますので、今週までお休みさせていただきます。