金市場ニュース

ニュースレター(2022年7月22日)欧州中銀の予想を上回る利上げでドルが弱含み金は5週ぶりに週間の上昇

週間市場ウォッチ

今週水曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1736.03ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.8%高と、5週ぶりの週間の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.8%高でトロイオンスあたり18.80ドルと7週ぶりの上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格からほぼ3.6%高のトロイオンスあたり881ドルとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は3.0%高のトロイオンスあたり1921ドルとなっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属は全般週間の上昇で終える傾向となっています。これは、この数週間続いていたドルの一人勝ち状況に変化が現れたことが背景となっています。

ドル高を引き起こしていたのは、FRBと他の主要中央銀行との政策金利引き上げに対する姿勢が異なっていたことが要因となっていました。それは、FRBは6月の段階で1.75%へ金利を引き上げながら、7月の0.75%の引き上げを良しとしているのに対し、日銀は引き続き-0.1%と政策金利を据え置いて量的緩和を継続することを発表しており、イングランド銀行は2021年12月から5会合連続0.25%の利上げをしていますが、未だ1.25%にとどまっており、欧州中央銀行(ECB)は先月現行のゼロ金利から11年ぶりに今月0.25%の利上げを行うことを発表していました。

それが、今週木曜日にECBが0.5%と予想を上回る利上げをしたのに対し、FRBの利上げ予想が40年来の高インフレからも1%とまでタカ派的に傾いていたものの、昨今の経済指標などで0.75%の観測が高まったことで、行き過ぎたドル高に調整が入っている模様です。

そして、FRBがより早い金利引き上げをする観測で米長期金利は11年ぶりの高さへ6月半ばに上昇していましたが、今週発表された経済データが悪化していることで、安全資産の国債が買われることで利回りが2ヶ月ぶりの低さへ下げていることも、金利を産まない貴金属にとってサポートとなっています。

本日のチャートとしては主要国政策金利の今年に入っての推移をお届けしましょう。

主要中央銀行の政策金利の推移 ブリオンボールト作成

日々の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は20年来の高さとなっていたドルが弱含んだことで、ロンドン時間に金と銀は上昇していましたが、その後ドルが強含んだことで上げ幅を共に失って終えていました。

ドルが弱含んだ背景は来週のFOMCの1%の利上げ観測が、前週末に伝えられたFRB高官のよりハト派的コメント、ミシガン大学消費者信頼感指数のインフレ期待のデータが下げていたことからでした。

なお、前週末発表の最新のデータで、コメックスの金、銀、プラチナのネットポジションが大きく弱気に傾いていたことからも、ショートカバーの可能性をアナリストが言及していました。

火曜日金相場はドルインデックスが再び下げに転じたものの、長期金利が3%を超えて上昇する中で動きが取れない状況となり、トロイオンスあたり1710ドル前後の狭い範囲で動いていました。

ドルインデックスの下げは、FRBによる1%の利上げ観測が後退していたこと、そして今週木曜日のECBによる利上げが0.25%の事前予想から0.5%の予想も出ていることでユーロがひと月ぶりの強さとなっていることも要因となっていました。

水曜日金相場は、ドルインデックスが多少ながら上昇し、米長期金利が3%を超える水準で推移する中で、トロイオンスあたり1700ドルを割って、1695ドルと一年ぶりの低さで終えていました。

ドル高に関しては、市場注目の欧州中央銀行の政策金利発表でより大きな利上げ観測はあったものの、混迷を高めるイタリア政局とロシアからの天然ガス供給への懸念などからも、ユーロ売りが起きたことが背景となりました。

また長期金利の上昇は、翌日保守後再開される予定のロシアから天然ガス輸送のためのノルドストリーム1が何らかの理由で再開されなかった場合、ユーロ圏が景気後退に陥る懸念が広がっていることが要因とされていました。

そのような中、米株価指数はインフレが底を打ったという観測とFRBの今月の利上げが0.75%で1%ではない観測の広がりで、3営業日連続で上昇していたことで、ドル高、長期金利上昇とともに、金の頭を抑えていました。

木曜日金相場は、欧州中央銀行(ECB)が政策金利を予想の0.25%を上回る0.5%引き上げたことでユーロが強含み、ドルが押し下げられたことで上げ基調となり、トロイオンスあたり1710ドルへと今週の下げ幅を取り戻して上昇することとなりました。

ちなみに金相場は、ECBの発表を待つ中で、1700ドルのサポートラインも破られたことで1681ドルへと2年ぶりの低さへと一時下げていました。

しかし、ECBによる予想を上回る利上げがきっかけとなり、積み上がっているショートポジションにおいてストップロスも起きたようで上げ幅を広げることとなりました。

なお、同日ロシアからの天然ガスを運ぶノルドストリーム1の保守後の再開は予定通りに行われて、欧州天然ガス価格は下げていましたが、イタリアのドラギ首相は同日辞任するなど、イタリア政局が混乱しており、ユーロは対ドル上げ幅を削って終えることとなりました。

そのような中で、同日発表された米新規失業保険申請件数とフィラデルフィア連銀製造業景気指数は悪化しており、米株価指数は全般下げて推移し、長期金利は2営業日ぶりに3%を割って推移していたことは金のサポートとなっていました。

本日金相場は、前日の上げ基調を受け継ぎ、ロンドン時間午後に一時トロイオンスあたり1739ドルまで上げた後、1729ドルまで下げていますが、前週終値比上げで5週ぶりの週間の上昇水準で推移しています。

今週ほぼ直接的に影響を受けていたドルインデックスは本日も前日に続き下げており、米長期金利も2営業日連続の下げで2ヶ月ぶりの低さで2.8%を割っていることが金を押し上げている模様です。

この背景は、本日発表された欧米の製造業及びサービス部門のPMIが予想を下回り、ドイツの製造業及びサービス部門、ユーロ圏の製造業、そして米国のサービス部門と総合PMIは50を下回る、いわゆる経済活動が縮小したことを意味し、米国においては2020年6月以来のことであることで景気後退への懸念が広がり、国債が買われ利回りが下げているようです。

この間米株価指数は、ナスダックが写真・動画共有アプリのスナップが決算が予想を下回ったことから下落し、他の主要SNS会社のアルファベットとメタプラットフォームも下げていることから下げています。しかし、今週主要米株価指数は上昇で終える傾向となっています。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週12日火曜日に、米消費者物価指数発表前にFRBによる速いペースの利上げ観測が広がり、また欧州のエネルギー危機への懸念でドルが強含む中で、パラジウムを除く貴金属価格が前週に続き下げる中でパラジウムを除く貴金属は弱気ポジションを増加させていたこと。

  • コメックス金の先物・オプションのネットポジションは90%減の8.5トンと2019年4月29日の週以来の低さへと減少していたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比2.3%安。建玉においては、前週比8.2%増。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、2週連続でネットショートで19.7%増の1,546トンと、2019年6月4日の週以来の高さとなっていたこと。この間LBMA銀価格は4.9%安と2020年7月以来の低さ。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、5週連続のネットショートで、そのポジションは26%増の29.5トン。LBMA PMプラチナ価格は2%安で2020年7月半ば依頼の低さ。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは16週連続でネットショートで、33%減の5トンであったこと。この間LBMA PM価格は11.9%高。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに8.4トン(0.8%)減で1006トンと1月20日以来の低さで、5週連続の週間の減少傾向であること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.3トン(0.26%)減で503トンと、3月2日の週以来の低さで、8週連続の残高減少傾向であること。

  •  銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに310トン(2.0%)減の15,567トンと、11週連続の減少傾向となっていること。

  • 金銀比価は、今週91台半ばで始まり、昨日92を超えて2020年7月以来の高さとなった後に92を割る水準へ下げていること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週も前週に続き831から857の間で推移していること。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。

  • プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1000ドルを超える水準で始まり、火曜日と水曜日に1000を割ったものの、その後1000ドルを超えて本日1023前後を推移していること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。

  • 上海黄金交易所(SGE)の週平均は、前週の7.31ドルのプレミアムから今週は7.82ドルと7ヶ月ぶりの高さへ上昇。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。

  • コメックスの先物・オプションの取引量は、昨日価格が大きく動く以外はレンジ内であったことからも、金が23%減の2週ぶりの低さ、銀が22%減で7週ぶりの低さ、プラチナが15%減で7週ぶりの低さ、パラジウムが38%減で12週ぶりの低さと、全般下げていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は木曜日発表された欧州中央銀行の政策金利に市場は注目していましたが、来週は水曜日にFOMCの政策金利が発表され、重要イベントとなります。

その他、中央銀行の政策に影響を与えるとされる、水曜日の米耐久財受注、木曜日のドイツ消費者物価指数、米国第2四半期GDP、金曜日のユーロ圏消費者物価指数、米国の個人消費支出関連データへ市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2022年7月25日~29日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

ブリオンボールトは5月20日から大英図書館で始まる「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。

http://bl.uk/events/gold

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では先週もお伝えした、ボリス・ジョンソン首相の後任を決める保守党党首選、観測史上最高気温となった異例の熱波などに関して大きく伝えられています。

保守党の後任候補は、スナク前財務相とトラス外相に絞られ、一月あまりの選挙戦後の9月5日に保守党党員による選挙結果が発表されます。

そこで、本日は日本でも伝えられていた英国では珍しい猛暑についてお伝えしましょう。

通常英国の7月の平均気温は21.17度とかなり低いものとなっています。そのために、普通の家庭においては自宅にエアコンをつけていません。

それが、今週月曜日と火曜日は30度を超え、火曜日は英国中東部のリンカンシャー州のコニングスビーで40.3度、また他の33か所の観測地点でも3年前に記録した最高の38.7度を超える観測史上最高気温を付けていました。

そのために、英国では各地で火災が急増し、ロンドン市場は重大事態宣言を出していました。

また、鉄道は線路に熱による歪みや空中ケーブルが故障し、ロンドンから北へ向かうキングス・クロス発の便は火曜日に全て休止し、ロンドン北のルートン空港は滑走路の一部が熱で溶けたことで、同日全ての便がキャンセルとなっていました。

木曜日からロンドンで気温が25度へと下げており、過去30年の平均気温よりは高いですが、交通網もほぼ普及しています。

今週欧州各国でも同様な熱波が来襲していたことで、フランスでは過去30年以上で最大規模の山火事、ポルトガルでは熱波に関連した死者が先週以降1000人を超えているとのこと。

温暖化の影響とされている熱波の来襲は英国においても頻度が増えています。ロシアのウクライナ侵攻でロシアからの天然ガスや原油に頼ることなく、再生可能エネルギーへと転換する動きが欧州において高まっていますが、英国の次期総理候補は二人とも、経済に悪影響を与えない限り、COP26での宣言を守ると述べています。

記録的な猛暑の中で、英国、そして欧州のエネルギー政策への興味が人々にとってもより高まる週となりました。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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