ニュースレター(2022年7月15日)40年来の高インフレが大幅利上げ観測を広げ20年来のドル高で金は10ヶ月ぶりの低値へ
週間市場ウォッチ
今週水曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1707ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.8%安と、5週連続の下げで昨年8月以来の低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.0%安でトロイオンスあたり18.43ドルと7週連続の下げで2020年7月以来の低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格からほぼ3.0%安のトロイオンスあたり853ドルと2020年11月以来の低さへ下落しています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は9.9%安のトロイオンスあたり1863ドルと3週ぶりの下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、ほぼ全般20年ぶりのドル高の動きに影響を受けて、金が10ヶ月ぶり、銀が2年ぶり、プラチナは1年8ヶ月ぶり、パラジウムはほぼひと月ぶりの低さと、下げ幅を広げることとなりました。
このドル高は、主要中央銀行の金融政策及びその違いなどによって起こっています。米中央銀行のFRBは高インフレに対するためにより早いペースの利上げをする準備があると高官が述べているのに対し、日銀は金融緩和を継続することを明言し24年来の円安水準となっており、欧州中銀は7月から利上げを開始するとしていますが、その幅は0.25%とFRBの0.75%もしくは1%には至らず、今週ユーロは対ドル等価近くへと下落しています。
そこで、それぞれの通貨建ての金価格を昨年末比を見てみると、対ドル下げ幅の大きい通貨ほどその通貨建て価格の上げ幅が大きくなっていることが分かります。
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年末からのそれぞれの通貨建ての%変化 |
通貨の年末からの%変化 |
ドル建て金価格 |
-5.75% |
12.57%* |
ポンド建て金価格 |
7.49% |
-12.3% |
ユーロ建て金価格 |
5.61% |
-11.3% |
円建て金価格 |
12.53% |
-17% |
*ドルインデックス
なお、銀とプラチナとパラジウムの今週の下げは、下記の要因などで世界景気後退、それによる工業用途需要の高いコモディティ需要が大幅に減少する観測が背景となっている模様です。
- 高インフレによる中央銀行の速いペースの金利の引き上げ
- ウクライナ戦争による欧州のエネルギー供給不足
- 中国のオミクロン変異種感染拡大の移動制限
そこで、銅は7.2%、原油(WTI原油が6.4%)とロシアによるウクライナ侵攻以来初めてバレルあたり95ドルを割るなど、工業用途の高いコモディティが今週軒並み価格を下げています。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金価格は前週4週連続で下落して9ヶ月ぶりの低値を付けていた終値を維持できずトロイオンスあたり1733ドルで終えていました。
これは、早いペースの利上げ観測による20年来のドル高によるものでした。
火曜日金相場は、ドルが引き続き20年来の高値を更新続ける中で、トロイオンスあたり1725ドルと、引き続き2021年9月末以来の低値水準で、前日終値からも下げて終えていました。
同日のドル高は、翌日発表の米消費者物価指数が40年来の高値の前年比8.8%と予想されており、FRBが7月も0.75%の利上げを行い、引き続き早いペースの利上げ観測であること、また今週メインテナンスで約2週間停止しているロシアからドイツへの天然ガス輸送のためのノルドストリーム1の復旧遅延による欧州のエネルギー懸念、そしてユーロ圏内の国々の経済状況が異なることによる欧州中銀の利上げがFRBに劣る観測からのユーロ安がドルを相対的に引き上げていました。
また、米国債2年物と10年物の利回りが逆転している状況も2007年以来の幅となったことも近い将来の景気後退が示唆されているされ、中国のオミクロン変異種感染拡大もあり、株価が下げていることもドルが買われている背景となっていました。
水曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数が発表され、予想を上回るもので発表直後に神経質に動いた後に、トロイオンスあたり1732ドルで終えていました。
米消費者物価指数は前年同月比9.1%と41年ぶりの高い伸びで、予想の8.8%も上回っていたことから、ドルが20年来の最高値を更新して強含んだことから、一時1707ドルまで売られたものの、その後ドルがその上げ幅を多少失うとともに、金も下げ幅を取り戻していました。
高インフレは市場は織り込んでいる中で、ドル高で大きく押し下げられていた金は、インフレヘッジの役割からも下げ幅を取り戻しつつあるようです。
木曜日金相場は、ドルが20年来の高値を維持し、米長期金利が多少ながら上昇する中で、トロイオンスあたり1700ドルを一時割って2021年8月以来の低さをつけたものの、1711ドルまで戻して終えていました。
同日は前日の米消費者物価指数が40年来の高さとなったこと、そして同日発表の米卸売物価指数も予想の10.7%を上回る前年同月比11.3%であったことからも、7月のFOMCで1%と、0.75%の利上げを超える金利引き上げをする観測が一気に広がっていることでドルが買われ、また急激な利上げで景気後退が起こる可能性からも長短金利が逆転して株価が全般下げるなど、市場センチメントが全般悪化していた模様です。
なお同日は、FRBのタカ派として知られるウ
金曜日金相場は、ドルと長期金利が高止まりする中で、トロイオンスあたり1700ドルのサポートラインを巡る攻防戦となっています。
本日発表された経済指標は、強弱あるものの、ミシガン大学消費者態度指数の中の将来のインフレを予想する数値が前回よりも下げたことやシティグループの決算で予想を上回る収益などが好感されて株価が5営業日連続の下げから反発しています。
しかしながら、金へのセンチメントは、金のETFが6月半ばから全く増加していないなど、悪化していることからも、底値を探る動きとなっている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週5日火曜日に、FRBによる速いペースの利上げ観測と欧州のエネルギー危機への懸念でドルが強含む中で、パラジウムを除く貴金属価格が大きく下げる中でパラジウムを除く貴金属は弱気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションのネットポジションは42.5%減の83トンと2019年5月21日の週以来の低さへと減少していたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比2.6%安。建玉においては、前週比3.1%増。
- コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、5週ぶりにネットショートへ転換して1,292トンと、2021年9月21日の週以来の高さとなっていたこと。この間LBMA銀価格は6.6%安と2020年7月以来の低さ。
- コメックスのプラチナ先物・オプションは、4週連続のネットショートで、そのポジションは49%増の23.5トン。LBMA PMプラチナ価格は6.1%安。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは15週連続でネットショートで、11%減の7.4トンであったこと。この間LBMA PM価格は1.2%高。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに6.4トン(0.6%)減で1017トンと2月10日の週以来の低さで、4週連続の週間の減少傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.68トン(0.13%)減で507トンと、3月9日の週以来の低さで、7週連続の残高減少傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに158トン(0.98%)減の15,945トンと、10週連続の減少傾向となっていること。
- 金銀比価は、今週90台半ばで始まり、昨日から93と2020年7月以来の高さとなっていること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、前週の2ヶ月ぶりの高さの900超えから下げて、今週800ドル台半ばで推移していること。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1200ドル台と2ヶ月ぶりの高さで始まり、本日1014ドルまで下げていること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。
- 上海黄金交易所(SGE)の週平均は、前週の4.30ドルのプレミアムから今週は7.31ドルと昨年末の週の高さへ上昇。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの取引量は、価格が全般下げる中で金とパラジウムがそれぞれ4ヶ月と2ヶ月ぶりの高さへ増加し、銀とプラチナは共に5月末の水準へ下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は市場注目の米消費者物価指数が予想を大きく上回ったことで、FRBによるより急激な利上げ観測と景気後退懸念で、株価とコモディティが下げて20年来のドル高で金は大きく押し下げられていますが、来週も主要中央銀行の金融政策とそれに影響を与える指標が重要となります。
そこで、火曜日のユーロ圏の消費者物価指数、水曜日の英国消費者物価指数、木曜日の日銀と欧州中央銀行の金融政策発表などとなります。
詳細は主要経済指標(2022年7月18日~22日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
ブリオンボールトは5月20日から大英図書館で始まる「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2022年7月11日~15日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2022年7月18日~22日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーニュース(2022年7月11日)FRB利上げ観測でドル急騰で金ETFは縮小、コメックの強気ポジションは3年ぶりの低さへ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、引き続きウクライナにおける戦争、欧州におけるエネルギー問題、そしてスポーツはUEFA欧州女子選手権、全英オープンなどが伝えられていますが、やはりニュースのトップはジョンソン首相の後任を巡る保守党党首戦であり、日々大きく伝えられています。
そこで、今週は次期首相候補について簡単に紹介しましょう。
まず、11日までに出馬を表明したのは、スナク前財務相、モーダント通商政策担当閣外相、トラス外務・英連邦・開発相、バデノック前閣外相、トゥゲンドハット下院外交委員長、ブレイバーマン法務長官、ザハウィ財務相、ハント元外相、ジャビド前保健相、シャップス運輸相、レマン外務政務次官の11名。
その後、11日に首相選出方法が発表されて、立候補のために20名の保守党議員の推薦人が必要とされたことで、ジャビド前保健相、シャップス運輸相、レマン外務政務次官が立候補を撤回し、12日までに8人での選挙戦が始まっていました。
そして13日に第一回の投票が行われ、30人の推薦人を獲得できなかったザハウィ財務相、ハント元外相が脱落し、本日の二回目の投票では最下位となったブレイバーマン法務長官が脱落しています。
18日に3回目、19日4回目、20日に5回目、そして21日に候補者は二人に絞られ、一月ほど選挙戦が行われ9月5日に保守党党員による最終投票で首相が決まることになります。
木曜日の二回目の投票では、一回目同様にスナク前財務相が一位、モーダント通商政策担当閣外相がニ位、トラス外務・英連邦・開発相が三位、バデノック前閣外相が四位となっており、五位のトゥゲンドハット下院外交委員長は二回目の投票で票数を減らしていますので、ほぼ上位4人に絞り込まれるようです。
ちなみに、先の4人の上位候補者のうち男性はスナク前財務相のみで、何事にも賭けが好きな英国人の掛け率で見ると、党員投票で強いと見られているモーダント通商政策担当閣外相が58%の確率と、スナク前財務相の23%、トラスト外務相の24%を大きく上回っています。
スナク前財務相とトラス外務相以外は、あまり馴染みのない政治家でもあり、本日から行われるテレビ討論がそれぞれの政策について知る機会となることを期待しています。