金市場ニュース

ニュースレター(2022年1月21日)長期金利が高止まりする中で、インフレ、ウクライナ情勢懸念からも金価格は2ヶ月ぶりの高さへ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1840ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1%高と、2週連続の上昇で昨日達した2ヶ月ぶりの高さの水準となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり24.35ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から5.41%高とLBMA価格ベースで、やはり2週連続の上昇で、2ヶ月ぶりの高さとなります。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1046ドルで6.8%高と昨日達した2が月ぶりの高さとなっています。

今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要

今週貴金属相場は全般大きく上昇することとなりました。この背景は下記のようになります。


  • FRBによる早期の速いペースの利上げは価格に織り込まれる中で、原油価格が7年ぶりの高さ、英国消費者物価が30年ぶりの高さであることも明らかとなり、長期に渡る高インフレが意識された金が上昇したこと。

  • 銀とプラチナはこの動きに釣られるなかで、市場規模が金よりも小さいこれらの貴金属の価格がさらなる上昇をしたこと。

  • 株価が長期金利上昇でハイテク企業関連株の先行き不安から下げたことが、貴金属をサポートしたこと。

  • ウクライナ情勢で、バイデン大統領が水曜日にロシアの侵攻はほぼ確実であると述べて、地政学リスクが一気に高まっていること。

先のような理由で、金銀比価は本日75台と11月半ば以来の低さとなっており、銀の金に対する割安傾向が解消され、プラチナと金の差を表すプラチナディスカウントは、トロイオンスあたり800ドルを割り、やはり2ヶ月ぶりの低さとなっています。

今週のチャートとしては、今週市場を動かすきっかけとなった長期金利の上昇の引き金となった、市場によるFRBの金利引き上げ予想をデータとして見ることができるCMEのFedWatch

のデータを基に作成したものを添付します。

このチャートでは、今年初めに発表されたFOMCの議事録発表後に利上げ4回(ピンク色)を予想する確率が大きく上昇したことが分かりますが、それ以降5回(赤色)の利上げ予想の確率がより上昇して今週すでに4回を超えていることが分かります。

また、高PER(株価収益率)のハイテク企業が多く含まれるナスダック株価指数がこの利上げ予想回数の多いものの確率が高まるとともに下げていることもご覧いただけます。

FRBの2022年利上げ予想の確率とナスダック株価指数の推移 出典元 CME FedWatchデータからブリオンボールトが作成

日々の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は、米国市場がキング牧師記念日の祝日で閉まり薄商いである中で、前週長期金利の上昇にも関わらず、前週終値を上回るトロイオンスあたり1820ドルで終えていました。

これは、すでにFRBによる金融緩和縮小及び利上げが価格に織り込まれていること、そして、3年ぶりの高さへ上昇している原油などからもインフレ懸念が背景となりました。

火曜日金相場は、米長期金利が2年ぶりの高さへ上昇する中でドルも3営業日連続で強含み、トロイオンスあたり1813ドルへと押し下げられて終えていました。

この長期金利の上昇は、すでに織り込まれている3月のFOMCにおける0.25%の利上げに加え、先週FOMCメンバーが来週のFOMCを前にコメントを述べることを控えるブラックアウト期間を前に、数々なタカ派的コメントを出していたことから、それに反応していると分析されていました。

そこで、世界株式市場も全般割高感が増しているハイテク銘柄を中心に売りが出て下げることで、ドルが買われて強含んでいた模様です。

しかし、原油価格は7年ぶりの高さを同日付け、発表されたニューヨーク連銀製造業景気指数は、予想の25.7、前回31.9を大きく下回る-0.7であったことも株式市場のセンチメントを悪化させていましたが、これによるインフレやリスク資産への懸念からも、長期金利の上昇にも関わらず金のサポートともなっていました。

水曜日金相場は、長期金利とドルが高止まりながらも多少下げる中で、トロイオンスあたり1841ドルと2ヶ月ぶりの高さで終えていました。

この背景は、長期金利が昨日2年ぶりの高さへ急騰していたことで一服し、ドルも弱含んでいたこと、金の1830~1835ドルにあったレジスタンスを超えたこと、英国の消費者物価指数が5.4%と30年来の高さであったこと、原油は同日も上昇して2014年以来の高さとインフレ懸念を拡げていること、それに加えて米国時間バイデン大統領がロシアのウクライナ侵攻を想定していると述べたことによる、地政学リスクも意識されることとなりました。

木曜日金相場は、長期金利が高い水準ながら多少下げる中でドルも弱含み、トロイオンスあたり1847ドルまで上昇後、1838ドルで終えていました。

同日発表された米新規失業保険申請件数は3ヶ月ぶりの高さで、オミクロン型による影響が見られることとなりましたが、フィラデルフィア連銀製造業指数が予想を上回る結果で、この影響は限定的となっていました。

本日金曜日は、米株価が6営業日続落で始まる中で、長期国債が購入されて利回りが下げる中で、金相場は長期金利に反応する形で1830ドルから1843ドルのレンジで動いています。

本日の株式市場は、FRBによる速いペースの利上げ観測で長期金利が今週2年ぶりの高さに上昇したことで、ハイテク企業の株価が下げていますが、本日は予想を下回る決算結果後ネットフリックス社が急落して、更にハイテク企業関連株のセンチメントが悪化している模様です。

ちなみに、今週市場を動かしたウクライナ情勢は本日米露外相会談が行われて、大きな進展はなかったものの話し合いが継続していることで市場の緊張感は多少緩和された模様です。

なお、本日ロンドン時間午後に多少下げ基調へと転換しているのは、米10年物実質金利がマイナス0.5%と昨年3月以来の高さへ上昇していることが要因の模様です。この背景は、FRBによる早期、速いペースの利上げ観測の広がりが、長期金利を上昇させていたように、将来のインフレ観測を下げていることからの模様です。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週11日火曜日までの週で、パラジウム以外は強気ポジションを減少させていたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、7.5%減の273トンと2週連続で減少して2021年平均の280トンを割っていたこと。建玉においては、7週ぶりに増加して70万枚弱と、昨年平均の66.8万枚を上回っていたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、18%増で2,782トンと前週の4週ぶりの高さから下げていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、6週連続のネットショートで、86%増の5.6トンと増加していたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは18週連続でネットショートで、1.5%減の7.8トンとなっていたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの週間で4.6トン(0.5%)増で980トンと、週間の増加傾向であること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までの週間で1トン(0.2%)増で492.5トンと、週間で増加傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに27トン(0.17%)減で16,416トンと、4週連続の週間の下げの傾向であること。

  • 金銀比価は、79台で始まり75台まで下げて終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週850弱から始まり、790台で終える傾向。2021年平均は708.82で5年平均は564.76。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対して今週プレミアムで、人民元が対ドル強含む中で、週間の平均が5.99と前週の5.33ドルから上昇し、2週ぶりの高さとなっていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。

  • コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、今週平均で価格が2ヶ月ぶりの高さへと上昇する中で、金、銀、プラチナの週平均は全て上昇し、金と銀は2ヶ月ぶりの高さで、プラチナは4ヶ月ぶりの高さとなっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

来週はFOMCが火曜日と水曜日に行われ、水曜日の政策金利発表が重要イベントとなります。今月のFOMCでの政策変更は予想されていおらず、3月の25ベーシスポイントの利上げが織り込まれていますが、声明の経済やインフレ関連コメントなどは将来の金融政策予想で重要となります。

その他、週初めの主要国のPMI、木曜日の米国耐久財受注や新規失業保険申請件数や第4四半期GDP、金曜日の米国個人消費支出PCEデフレーターは、インフレ関連データとして注目となります。

詳細は主要経済指標(2022年1月24日~28日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、先週に続き首相官邸パーティ問題で批判が高まるジョンソン首相と与党保守党内の動き、そしてコロナ規制が今週大半解除されたこと、英国消費者物価数が30年来の高さになったこと等が大きく伝えられています。

そこで、今週解除されたコロナ規制について簡単にお伝えしましょう。

英国のコロナ対策は英国全土の大枠と、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの地域別でタイミングなどが決められる詳細のものがあります。

今週水曜日に発表されたのは、イングランドの変更で、ジョンソン首相によってイングランドで実施されている新型コロナウィルス関連規制の大半を解除すると発表されていました。

これらの規制は12月初旬にオミクロン型感染拡大に対応するために導入されましたが、感染者数がピークを打ったということが理由とされていました。その規制解除の詳細は下記のようになります。


  • 段階的に公共交通機関や学校などでのマスク着用義務を廃止。

  • ナイトクラブ入店時のワクチン接種証明の提示を無くす。

  • 在宅勤務推奨も打ち切る。

しかし、新型コロナウィルス感染時の自主規制については3月24日に期限を迎える現行の規制について見直し、更新しない可能性にも触れていました。

ちなみに、感染者数がピークを打ったことはほぼ間違いないのですが、英国全土の感染者数は本日で9万5千人を超えており、7日間の移動平均がほぼその水準となっています。また、死亡者数は本日で288人で、7日間の移動平均は266人と、より厳しい規制に入ろうとしている日本を大幅に上回っていることは確かです。

しかし、最高20万人を超える感染者数を見ている人々にとっては、ピークアウトしたことは朗報であり、英国は3回のワクチン接種も進んでいることから、またオミクロン型が他の変異株と比較しても致死率の低さからも、重症化する割合が低いことも今回の規制緩和の背景にあるようです。

しかし、1月26日に規制の期限が来る中で、いち早く今週規制緩和の発表に入った背景には、首相官邸のパーティー問題で与党内でも首相への批判が高まっていたことからも人々の注意を外らす目的、また与党内に多いコロナ規制反対派のサポートを得るためとの政治記者の分析も聞こえています。

ロンソン市内の公共交通機関利用時のマスク着用は、ロンドン市長が継続することを発表していますが、コロナ規制すらも政権運営のの材料に使われたのであれば、ジョンソン首相のモラルの低さ、そして党内のサポートへの危機感の高さを表すものであり、この政権の先行きを懸念せざるをえないということでしょう。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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