ニュースレター(2021年5月28日)インフレ率上昇の中で長期金利が下げ、金は1900ドルを超える
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1900ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.3%高で4週連続の上昇で、1月初旬以来の高値となっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり27.64ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から0.6%安と下げています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1176ドルと前週LBMA価格から1.9%安と下げています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週金相場は1月初旬以来初めてトロイオンスあたり1900ドルを超える上昇をすることとなりました。この要因は下記のようになります。
-
ビットコインなどの仮想通貨のボラティリティの高さからも金への資金移動。 -
FRB高官がインフレは一時的と繰り返すことで、早期利上げ観測が後退して、長期金利が上げ止まり、ドルが4ヶ月半ぶりの低さとなっていたこと。しかし、インフレ率を示す指標は予想を上回る上昇をしており、実質金利の下げが意識されていること。 -
金へのセンチメントが改善し、金のETFやコメックスの金先物・オプションの残高が安定して増加傾向となったこと。
参考までに金価格とビットコインの価格の推移のチャートをご覧ください。
なお、この間銀とプラチナは、ほぼ金と同様な動きで水曜日に価格を上昇させ、その上げ幅を多少失いながら、LBMA価格ベースでは本日下げているものの、前週終値比ではプラスで週を終える傾向となっています。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、ドルが4ヶ月半ぶり低さで狭い範囲で動く中で、やはり4ヶ月半ぶりの高い水準の前週終値のトロイオンスあたり1881ドル前後を狭い幅で推移していました。
この背景として、週末再び大きく揺れたビットコインからの資金が金へ流入していると分析するアナリストも多く、それはコメックス先物・オプションのネットロングや金ETFの残高が5月に入り増加していることからも見受けられていました。
火曜日金相場は、長期金利が2週間ぶりに1.6%を割る中で、トロイオンスあたり1898ドルで終えていました。
この間株価は、ビットコインの下げも落ち着いていることからも全般上昇し、また同日発表の経済指標の米国新築住宅販売件数や消費者信頼感指数が予想を下回り、シカゴ連銀のエバン総裁もインフレは継続的な上昇をしていないと述べたことも、長期金利を押し下げ、ドルを弱含ませて、金をサポートしていました。
水曜日金相場は、長期金利は一月ぶりの低さへ下げる中で、ロンドン時間早朝に心理的節目のトロイオンスあたり1900ドルを超えて、昼過ぎには一時1912ドルへ上昇後、ドルが4ヶ月半ぶりの低さから上昇する中で1903ドルへ押し戻されていました。
ドルが強含んでいるのは、FRBによる金融緩和政策引き締め(テーパリング)についてクラリダ副議長とデイリー・サンフランシスコ築連銀総裁が「話し合う時期が来る」と前日述べたことが背景となっていた模様です。
しかし、大半のFRB当局者はインフレ率上昇は一時的というスタンスは変えていないことからも長期金利は押さえられていたことからも、金をサポートしていました。
木曜日金相場は長期金利が上昇する中で、トロイオンスあたり1900ドルを割り1898ドルで終えていました。
この背景は、同日発表の米国新規失業保険申請件数が予想を下回りパンデミック以来の低さとなったことや米耐久財受注の予想を上回る上昇によるFRB金融政策正常化観測、また6兆ドルの財政支出を含むバイデン大統領が予算案発表されると伝えられたことからも国債多額発行による需給バランス懸念もあり、金利が一月ぶりの低さから上昇したことからでした。
本日金曜日金相場は、前日の基調を受け継いで多少弱含みながらロンドン時間午前中推移していましたが、昼過ぎに発表された米経済指標後一旦トロイオンスあたり1882ドルへ急落後、上昇して1900ドルにタッチした後にロンドン時間午後4時前に1895ドル前後を推移しています。
これは、本日発表の米個人消費支出が予想を上回り、1992年7月以来の高さとなったことで、FRBによる金融政策変更観測等でコンピュータプログラムの売りが入ったようですが、その後発表された数値が消化される中で、FRBの金融政策を変更するほどではないという観測が広がり米長期金利が1.6%割って下げたことに反応した模様です。
その他の市場のニュ―ス
-
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週18日に、ドルが弱含み長期金利が上昇基調を一服させて実質金利が下げる中で4ヶ月ぶりの高値を付けていたことからも、金は上昇していたものの、他の貴金属は減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、ロングが5週連続で増加し、ショートが3週連続で減少する中で、11.8%増で332トンと1月26日以来の高さへ増加していたこと。そして、建玉は3週連続で上昇し、1月19日以来の高さとなっていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比2.7%減の7,236トンと6週ぶりに減少していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.7%減の13.7トンと3週連続の減少で3月末以来の低さとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比2.2%減で12.5トンと2週連続で下げていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で1.2トン(0.11%)増で1044トンと9週ぶりの高さで4週連続の増加傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で1.57トン(0.31%)増で501トンと6週間ぶりの高さで4週連続の増加の傾向。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で57.7トン(0.32%)増で17,936ンと8週ぶりの高さで2週連続の週間の増加傾向。 -
金銀比価は、今週水曜日金・銀価格が上昇する中で67台を付けた後は68台でと多少の銀割傾向となっていること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、人民元価格が4ヶ月ぶりの高さである中で人民元が対ドル3年ぶりの高さへ強含んでいることからも、今週の平均は9.14と7.57から上げていたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、金が今週4ヶ月ぶりの高さへと上昇する中で、銀とプラチナの取引量は前週から減少していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週金相場は長期金利が1ヶ月月ぶり、ドルが4ヶ月半ぶりの低い水準で推移する中でトロイオンスあたり1900ドルを超えることとなりましたが、来週も引き続き金利及びドルに影響を与える指標やイベントに市場は注目することとなります。
指標としては、来週金曜日に米雇用統計が発表され、その先行指標のADP全国雇用者数と米新規失業保険申請件数は木曜日に発表され、FRBがゼロ金利政策継続の条件としてインフレが2%を継続的に超えることと完全雇用としていることからも重要となります。
その他、火曜日の主要国製造業PMIと米国のISM製造業景況指数、水曜日の米地区連銀経済報告、木曜日の主要国サービス部門PMIなども重要となります。
詳細は主要経済指標(2021年5月31日~6月4日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
-
主要経済指標(2021年5月24日~28日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年5月31日~6月4日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年5月24日)ビットコインのボラティリティが高まる中で金のETFが7ヶ月ぶりに月間で増加へ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、インド変異種の感染者数の増加、ベラルース当局が旅客機を緊急着陸させて反政府ジャーナリストの男性を拘束したこと等が日々大きく伝えられています。
そのような中で、ジョンソン首相の元首席特別顧問ドミニク・カミングズ氏が科学技術、保健ソーシャルケア合同委員会で水曜日に証言した政府批判の内容と、それに対する政府、野党のコメントがほぼトップニュースで日々大きく伝えられています。
カミングス氏の政府批判の内容をまとめると下記のようになります。
-
ジョンソン政権は昨年2月末まで新型コロナウィルス感染の広がりとそれによる被害への危機感がなく、3月初旬に入るべきロックダウンが3週間ほど遅れた。それは、経済に悪影響を起こすロックダウンに入ることを避け、「(新型コロナウィルスに感染することによる)集団免疫」をある一定の時期まで計画していたことから。 -
マット・ハンコック保健相は公の場でも何度も嘘をつき、少なくとも15から20の理由で罷免するべきだった。その一つがCovid-19感染有無のテストをすることなく病院からケアホームへ患者を移したこと。それによってケアホームでの死者が急増した。 -
ボリス・ジョンソン首相は9月に2度目のロックダウンが必要であるという専門家のアドバイスを拒否して経済を優先させ、その後の年末のロックダウンも後手後手に回った。婚約者のキャリー・シモンズ氏に首相官邸の人事にも口を出させている等、首相として不適格。
カミングス氏はジョンソン首相の婚約者のシモンズ氏と反りが合わなかったことは広く伝えられていましたが、ハンコック保健相とジョンソン首相への批判は痛烈なものがありました。
その後、首相官邸、政府、ジョンソン首相、ハンコック保健相は皆、先の批判は事実に基づかないものとコメントしていますが、野党とメディアはテストすることなくケアホームへ患者を移したハンコック保健相の責任を追求しており、またもしカミングス氏が事実と異なる証言をしたのであれば、そのような人物を主席特別顧問としていたジョンソン首相の責任はいかばかりかと野党は批判しています。
英国はパンデミック初期の対応は後手後手に回ったことは明らかですが、ワクチン接種普及に関しては成人人口の60%近くがすでに少なくとも1回の接種を終えるなど、イスラエルに次いで成功を収めていると言えるでしょう。そのようなことからも、5月初旬の地方統一選挙では与党保守党が大方勝利を収めています。
今回のカミングス氏は即座にパンデミックの政府対応の公開調査を行うべきと述べていましたが、政府はあくまでも現在はパンデミックの対応に力を注ぐべきとしており、政府がすでに行うと約束している来春までは行わないとしています。
状況は未だ流動的ですが、英国がなぜ12万5千人を超えるCovid-19の犠牲者を出したかについては、早い段階で政府からは独立した公開調査が行われ、将来に備えるべく対応をすべきではないかという思いを、カミングス氏の証言を聞く中で個人的には強めることとなりました。