金市場ニュース

ニュースレター(2020年3月27日)主要諸国と中央銀行の景気刺激策で現金化が落ち着き金は大幅に上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1622.27ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から8.6%上昇し、2週間ぶりの高さとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.37ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から13.8%上昇し、先週の11日年ぶりの低さとなった下げ幅をほぼ取り戻しています。そして、プラチナも本日午後3時の弊社チャート上では742.29ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から20.9%と先週の18年ぶりの低値からの下げ幅をほぼ取り戻しています。

今週金相場は、世界株価が先週までの下げから反転し昨日まで3日連続で上昇し、本日はその基調を維持できず下げていますが、米S&P500種株価指標は11年ぶりの週間の上げ幅を見せる等の動きで、現金化の売却が一服して他の貴金属価格と同様に上昇することとなりました。

なお、今週大きな上昇を見せた株価指数は、2月の高値からは25%下げとなっており、ボラティリティの高さを示すVIXは10営業日連続で60を超えています。(昨年の平均は18.7。)

今週も金市場がコロナウイルス危機からも大きく動いていますので、通常の日々の動きを追うのではなく、その背景となった要因や金市場でこれまでに無い現象も起きていましたので合わせて解説させていただきます。

まず今週も金融市場を動かした、主要中央銀行及び主要国のコロナウイルス対策の景気刺激策について下記にまとめます。

まず、月曜日は米連邦準備制度理事会(FRB)が無制限の量的緩和策を導入すると発表し、米国議会ははトランプ政権の2兆ドル(約220兆円)規模の景気対策を25日に上院、本日下院で可決しています。

ちなみに先のFRBの動きは先週の5000億ドルの国債や2000億ドルの住宅ローン担保証券(MBS)購入の量的緩和の上限を撤廃し無制限とするものでした。

そして、今週水曜日には欧州中央銀行(ECB)が先週導入した7500億ユーロ(約90兆6000億円)規模の新型コロナウイルス対策緊急プログラムにおいて、債券購入に伴う制限の大半を撤廃し、同日から債券購入をしています。

更に木曜日、G20の首脳はテレビ会議を開き、世界経済に5兆ドル(約550兆円)を投入すると表明し、新型コロナウイルスのパンデミックと経済への打撃を克服するために、欧州債務危機時のドラギECB総裁のように、「Whatever it takes(何でもやる)」という覚悟を確認していました。

先の主要中央銀行及び主要国の過去にない水準の景気刺激策からも、世界株価指数は3営業日連続で大きな上昇を見せたことで先週までの現金化「Cash out」の動きが一段落し、安全資産への逃避で一人勝ちしていたドルも売却され、ドルインデックスも今週3年ぶりの高さの102を超える高さから100を割る水準まで下げていることも、ドル建てコモディティである金相場を押し上げることとなりました。

なお、今週ポンド建て金相場は史上最高値を更新し、年初からは20%の上昇となっていました。これは、ポンドが対主要通貨下げていることが背景となりますが、その要因はジョンソン政権がEU離脱後の年末まで続く移行期間を貿易協議で合意がなくても延長することはないと述べていること、更には今月発表された政府予算案がコロナウイルス対策も含めて財政拡張を行っていること等が要因とされています。

ドル建て金相場も今週LBMAのPM価格ベースで、2008年の世界金融危機以来の週間の上げを見せる事となり、月曜日には1日でトロイオンスあたり49.51ドル上昇していましたが、これは、40年ぶりの1日の上げ幅でもありました。

ちなみに、過去最高は1980年1月18日のアフガニスタンへのソ連侵攻、そしてイランアメリカ大使館人質事件の直前のものとなります。

なお、今週世界の金市場では下記の問題が起きていました。


  • 今週火曜日に専門市場の価格スプレッドがトロイオンスあたり20ドルから50ドルへと広がる。(通常は0.40ドル)

  • 同日コメックスの価格とロコ・ロンドンの価格の差が100ドル近く乖離。

先の問題は共に、新型コロナウイルス感染拡大のためにイタリア国境に近いスイスの主要精錬所の4社中3社が操業停止を行ったこと、そしてチューリッヒやニューヨークへの輸送が、移動の制限や航空会社が便数を減らしていることなどで簡単に行えないことで、十分な現物地金の供給が滞たこと、またその懸念が背景となっていました。

そこで、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)は、今週火曜日に現物地金の供給に問題は無いと声明を出し、同日再びコメックスを運営しているCMEと協力をするという声明も発表していました。そして、翌水曜日には、CMEと協力してコメックスのデリバリーを本来の100オンスのみから、LBMAのグッドデリバリーバー(400オンスと1kg)も可能とすることを発表していました。

なお、本日は世界第7の金産出国である南アフリカのロックダウンの影響を受けて、Rand Refineryも操業縮小すること、そして同国から他国への輸送が困難となっていることが伝えられていましたので、再度LBMAはこのような環境下でも他国の金鉱からの供給が十分であるという声明を発表しています。

このように、主要諸国及び中央銀行の過去にない水準の景気刺激策、産出や移動制限による供給の問題などからも、昨日ゴールドマン・サックスが12ヶ月先の金相場をトロイオンスあたり1800ドルと予想するなど、金価格へ強気であるアナリストは多くなっています。

 

その他の市場のニュ―ス


  • 米国新規失業保険申請件数は、328万300件と前週から11.6倍増と、過去最大の1982年10月の69万件も大幅に上回っていたこと。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週17日にその週初めにFRBと日銀が緊急利下げと量的緩和を行ったにもかかわらず株価が下げる中で、現金化の動きで貴金属価格も大きく下げる中で全ての貴金属で減少していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比31%減の552トンと3週連続で昨年11月の低さへ減少したこと。このロングポジションは30%下げ、30%を超える週間の下げ幅は2007年の3月と7月に2度のみ起きた大幅なもの。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比20%減の3,571トンへと4週連続で下げて7月2日以来の低さへ減少していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比14.15%減で18.3トンと7週連続で減少して8月27日以来の低さへと下げていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比74.7%減の2.8トンと11週連続で下げて2018年8月21日の低さとなっていたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、木曜日までで週間で45.4トン増加し、今週4日連続増加して954トンと3月10日の水準へ戻したこと。この規模の週間の増加は、2011年8月の欧州債務危機以来のこと。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.86トン(0.75%)増で384トンへと増加し、ほぼ先週の下げ幅を戻したこと。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で1.76%増加していたこと。この残高は営業日連続の増加となっていること。

  • 金銀比価は今週も100を超えていたものの、先週の123からは下げて112まで下げ、銀の割安が多少改善していること。

  • 今週上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週平均が-8.87と少なくとも昨年8月以来最も低い数値となっていること。

  • コメックスの取引量は今週木曜日までの週平均量で前週比4%減少していたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

来週も新型コロナウイルス感染拡大関連、またその主要国および中央銀行の対応関連ニュースで市場は動くこととなりますが、来週は従来市場注目の米雇用統計も発表されます。

しかしながら、今週の米新規失業保険申請件数が前週を11.6倍上回り史上最高となる等、多くの州がロックダウンとなっている事が反映される数値となっていますので、来週の経済指標の数値もかなりこれまでのものと大きく異なる数値になる可能性が高いと予想されます。

そのような中でも、金曜日の米雇用統計外で注目されるのは、月曜日のドイツの消費者物価指数、火曜日の日本の失業率と鉱工業生産、中国の製造業PMI、英国の第4半期GDP、ドイツの失業者数と失業率、ユーロ圏の消費者物価指数、米国のケースシラー住宅価格指数とシカゴ購買部協会景気指数と消費者信頼感指数、水曜日の中国Caixin製造業PMI、ドイツとユーロ圏と英国と米国の製造業PMI、米国ADP全国雇用者数とISM製造業景況指数、木曜日の米国貿易収支と新規失業保険申請件数、金曜日の中国のCaixinサービス部門PMI、ドイツとユーロ圏と英国と米国のサービス部門PMI、米国ISM非製造業景況指数等となります。

ブリオンボールトニュース

日本貴金属マーケット協会(JBMA)のYouTubeチャンネルで、ロンドン現地報告というレポートに参加させていただきました。

 

今回はロンドンからのレポートは2部方式で、前編はコロナウイルス危機の中のロンドンの話が中心でポンド建て金価格に触れ、後編は金相場と金市場、そして弊社のお客様の動きを中心に話をさせていただいています。

後編は明日公表になりますので、またこちらでご紹介します。

よろしければ、JBMAのYouTubeチャンネルを登録いただければ、JBMAが定期的に発信している金市場についてのレポートをご覧いただけますので是非。

また、今週火曜日にコメックス金先物価格と金現物価格に、トロイオンスあたり100ドル乖離が起きたことなどもあり、弊社リサーチ・ダイレクターのエィドリアンのコメントが主要メディアで取り上げられています。

MarketWatch「コロナウイルスによる金供給元閉鎖で金の価格乖離が生まれる」

ここでエィドリアンは、「ロンドンは世界の貴金属取引の中心で、世界の金産出量の10ヶ月分、銀においては15ヶ月分が貯蔵されている。」と述べ、「現在は世界の取引場所にこの在庫が簡単に届かない状況となっている。そのために、月曜日の英国のロックダウンの発表でニューヨーク決済の価格が翌日火曜日に100ドルのプレミアムとなり、コメックストレーダーを驚かせていた。」と続けています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。

 ロンドン便り

今週英国政府は月曜日にロックダウン(自宅待機)の勧告を出しましたが、引き続き新型コロナウイルス感染拡大関連ニュースが日々トップニュースで伝えられています。

英国ではコロナウイルス感染検査は症状が出ない限りは、検査キットが十分に無いことからも行われませんので、陽性のケース数はあまり現状を表してい無いように思いますが、死者数は本日181人増の759人と世界で7番目に多い数となっています。

また、日本でも伝えられているように、ボリス・ジョンソン首相とマット・ハンコック保健大臣も症状が出ていたために検査をしたところ、陽性であることが分かったとのことです。ただ、ふたりともとても軽い症状のため、引き続き自宅から仕事を継続しているとのことです。

そのような中で、昨夜は英国の国民健康保険サービス(NHS)で働く人々に感謝の気持ちを表そうということで、英国中の人々が午後8時に自宅前やバルコニーなどから一斉に拍手を送るというキャンペーンが行われました。そして同時に、観光名所の観覧車のロンドンアイやウェンブリースタジアムやロンドンで最も高いビルのシャード等がNHSを表す青い色に点灯され、ピカデリーサークスの街頭ビジョンもNHSへの感謝のメッセージが表示されていました。

また、政府がNHSのサポートとして、何らかの持病があり自宅から出れない人々へ薬や生活必需品を届けるための25万人のボランティアは私も登録しましたが、数日でその倍の人数が集まるなど、感染などからの危険を顧みず働いているNHSの人々への感謝の気持と協力を希望する気持ちは英国の方々の中では強く、辛いニュースの多い中で心が暖かくなるものがあります。

英国の自宅待機期間は少なくとも3週間となっていますが、このような時だからこそ、家族と一緒に過ごせる時間を大切にし、日々在宅で離れていながら共に働いている同僚を想い、ご近所の方々を気遣って声をかけながら、自分にできることをして健康に日々過ごしたいと思います。

日本の皆さんも、一時はクラスター対策が功を奏したものの、再び感染が広がる傾向が見られているとも聞いていますので、くれぐれもお気をつけください。

最近英国でお互いに掛け合う言葉「Keep well and stay safe.(お大事にそして安全にお過ごしください)」をロンドンから送ります。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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