金市場ニュース

ニュースレター(2019年7月19日)FRB高官のハト派的コメントで再び6年ぶりの高値へ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1440.45ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.3%上げています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり16.33ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から7.9%上げ、今年2月末以来の高さとなっています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では859.56ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から5%上昇しています。

今週金相場は、FRBのパウエル議長、クラリダ副議長、ウィリアムズNY連銀の利下げ観測を高めるコメントやイラン情勢の緊迫、そして米中貿易協議の不透明感などからも6年数か月ぶりの高さへと上昇することとなりましたが、本日のブラードセントルイス連銀総裁のコメントでその上げ幅を戻しています。それでは、一日毎の動きを追ってみましょう。

月曜日は、同日朝発表された中国の小売売上高と鉱工業生産が予想を上回ったことで、中国の第2四半期のGDPは1992年以来の低い伸びではあったものの、金相場はドルインデックスの動きに反応して多少動いていたものの、全般ほぼ横ばいとなっていました。

同日中国の景気に影響を受ける工業用途需要の割合が高い銀相場は1.2%上昇しトロイオンスあたり15.40ドルで終え、またプラチナも1.2%上げの843ドルで終えていました。

火曜日金相場はドルインデックスが上昇する中で、トロイオンスあたり1405ドルまで下げて終えていました。

ドルインデックスが上昇したのは、同日発表されたドイツのZEW景況感調査が悪化していたことでユーロが下げ相対的にドルを押し上げたことに加え、米小売売上高が予想を上回ったことから米長期金利も上昇したことからでした。

しかし、同日のパウエルFRB議長のパリでの講演で「物価停滞が長引く懸念を強めている」と述べ、次回FOMCで利下げに踏み切る考えを改めて示唆したことで、長期金利は多少ながらその上げ幅を失っていました。

その後、中国への追加関税賦課はあり得るとトランプ米大統領が述べたことからも、米長期金利は反落しドルを押し上げていました。

水曜日金相場はロンドン午前中までトロイオンスあたり1400まで下げていたものの昼前に上昇に転じ、その後上昇を続けて1426ドルで終えていました。

この背景はドルインデックスが下げ、米長期金利も2.07%へと下げていたことからですが、それはトランプ大統領が「米中貿易交渉の合意には時間がかかる」と述べて株価が下げていたこと、同日発表された米住宅着工件数が予想を下回ったこと、IMFの年次報告でドルが6-12%過大評価をしているとしたこと、また著名ヘッジファンドマネージャーのレイ・ダリオ氏が同日LinkedInに論文を投稿し、「金をポートフォリオに加え、リスクを軽減させてリターンを上げるべき」としたこと等が要因となりました。

なお、英国ポンドは、与党保守党党首選でほぼ勝利が予想されているボリス・ジョンソン氏が合意無き離脱を行うという懸念に加え総選挙を行うという懸念も加わり、2年ぶりの低さへ下げたことから、ポンド建て金相場はトロイオンス上り1144ポンドと2011年8月以来の高さへと上昇していました。

また、ユーロ建て金相場も、前日のドイツ指標の悪化でユーロが大きく下げていたことからも、トロイオンスあたり1267ユーロと2012年12月以来の高さとなっていました。

木曜日金相場は、同日ロンドン夕方に大きく上昇し、再び2013年4月以来の高さのトロイオンスあたり1452ドル一時付けていました。

また、銀価格は、前日終値から2.4%、前週終値からは7.3%と大きく上昇し、今年2月末の高さまで上げていました。

これは、ロンドン夕方にトランプ米大統領がホルムズ海峡で米艦船がイランのドローンを撃墜したことを明らかにしたことで地政学リスクが高まったこと、また同時期にクラリダ副議長、ウィリアムズNY連銀総裁が「利下げ迅速に」と述べたことでドルが弱含んだことが要因となりました。

これによりポンド建て金相場は、2年来のポンド安からも、2011年9月のみ超えた水準のトロイオンスあたり1156ポンドを付けていました。

本日金相場は、ロンドン時間昼過ぎまでトロイオンスあたり1440ドルと昨日の高値1452ドルからは下げていますが、いまだ2013年4月以来の高さで週間の上げを記録する方向で推移していましたが、セントルイス連銀ブラード総裁のコメントで1426ドルまで急落しています。

このコメントは「今月のFOMCで大幅利上げ不要」と述べたことで、昨日のウィリアムズNY連銀総裁などのコメントで25ベーシスポイント以上の50ベーシスポイントの下げの観測が広まっていたために、急速にその観測が後退しこの動きが起きた模様です。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • 田中貴金属における金売却量が今年前半期に57%増となっていたことが伝えられていたこと。ちなみに、弊社においては今年前半期は金売却量が115%増で購入量が75%増。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、火曜日に-1.2トン、水、木曜日でそれぞれ3.8トン、11.4トン増加し814トンと今年2月1日以来の高さとなっていたこと。また、木曜日まででは週間で14トンの増加と週間での上げを更新する方向で推移していること。

  • 金銀比価は今週は月曜日に92を超えた後に減少し、水曜日に90を割り、昨日は88.64と今年5月末の水準まで下げてきたこと。

  • 週末発表されたコメックスデータによると、先週火曜日は翌日のパウエルFRB議長の議会証言でタカ派的コメントが出る懸念が広まり、金が1週間ぶりの低さへ下げる中、コメックスのパラジウムを除きすべての貴金属で強気ポジションを削っていたこと。

  • コメックスの金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に7週ぶりに強気ポジションを削り、9.96%減の675トンであったこと。

  • しかし、この建玉は3週間続けて100万枚を超えており、これは2006年にこのフォーマットでレポートが発表されて初めてのこと。

  • コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4週連続のネットロングだったものの、そのポジションを2週連続で減少させ、28.9%減の2405トンとしていたこと。

  • コメックスプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、7週連続でネットショートで、そのポジションを1.5%増加させて24.3トンとしていたこと。

  • コメックスパラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、8週連続で増加し、11.8%増の43.8トンと、今年2月26日以来の高さとなっていたこと。

  • 中国の香港や上海黄金交易所の金現物の需要が下げていること。この背景は金相場が香港ドル建てで2013年来の高さになっていること、また上海交易所では株価のボラティリティの高さで分散投資の需要はあり、マージン取引の金商品の需要は現物が下げているのとは対照的に伸びていること。

 

来週の主要イベント及び主要経済指標

 昨夜は米国がイランの小型無人機を撃墜したと共に、クラリダFRB副議長とウィリアムズNY連銀総裁が「景気悪化の最初のサインが出た時点で、速やかに利下げすべきだ」と述べる等金融緩和に前向きな姿勢を示したことで金相場が大きく上昇しました。

そこで、来週もイラン情勢と月末のFOMCでの利下げ観測に絡む指標は注目されることとなります。また、木曜日のECBの金融政策発表は、ここで金融緩和もしくは示唆されることとなると、市場は動くこととなりますので重要となります。そして、トランプ政権の米中貿易協議関連ニュースも重要となります。

そのため、注目主要指標は、火曜日の米国中古住宅販売件数とリッチモンド連銀製造業景気指数、水曜日のドイツとユーロ圏と米国のMarkit製造業と米国新築住宅販売件数、木曜日の米国耐久財受注、そして金曜日の米国第2四半期GDP、個人消費支出(PCE)価格指数と個人消費支出等となります。

ブリオンボールトニュース   

今週大きく動いた金相場を伝える主要紙で弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。

英国主要日刊紙ガーディアン「英国債務増、金価格は6年ぶりの高さへ

昨夜遅くにポンド建て金相場はトロイオンスあたり1156ポンドと、8年ぶりの高さへ上昇していた金価格を伝える英主要日刊紙のガーディアンの記事でエィドリアンは「債務の増加と金利の引き下げと、英国のEU離脱の混乱は英国ポンドを大きく押し下げ、ポンド建て金価格を急騰させている。この水準へ金価格が上げたのは、2011年の夏に金融危機後ユーロ危機も発生し、英国では全国規模で暴動が起きていた。」と述べています。

英国主要日刊紙テレブラフの「投資家の安全資産需要の高まりで金が6年ぶりの高さへ

ここでもエィドリアンの先のコメントが取り上げられています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

ロンドン便り

今週英国では与党保守党党首選が終盤となっていることもあり、それぞれの立候補者へのインタビューが日々メディアで取り上げられていますが。それに加えて先週に続き、北アイルランドで行われている全英オープンゴルフ、リバプールで行われているネットボールワールドカップ等とスポーツ関連のニュースが続いています。

 

なお、先週お伝えしたクリケットワールドカップは、イングランドチームが初優勝を果たし、月曜日の新聞の一面とスポーツ欄が掲載される最後の紙面はクリケット一色となっていましたので、事後談としてここでお伝えしましょう。

 

イングランドとニュージーランドの決勝戦はまさに接戦で、ワールドカップの試合としては始めてスーパーオーバーという延長に持ち込まれました。しかも、この延長も同点であったことから、結果的に野球のホームランに近い、高い得点の打撃をどちらのチームが多く打ったかでイングランドが勝ちを決めたのでした。

 

このスーパーオーバーは、ウィンブルドンの男子決勝でもフェデラ選手とジョコビッチ選手が5セットのウィンブルドンでも初めて行われたタイブレークをしていた時間帯であったために、多くの人々がテレビの画面を2つに区切って両方の試合を観戦したり、テレビとスマホ等のデバイスを使って、二つのスポーツを追っていました。

 

ウィンブルドンの男子決勝にはウィリアム王子とキャサリン妃が招待されていましたが、クリケットワールドカップ決勝はクリケットの大ファンとのことで、来週で退任するメイ首相が観戦していましたが、優勝が決まった後にVIP席で観戦していた人々と踊っているところも伝えられていました。

 

EU離脱を決めた国民投票から、英国内は離脱派と残留派で、そしてそれを支持する高齢者と若者、地方と都市部などで2分化されてしまっているところがあります。ところが、このワールドカップではアイルランドやバルバドス出身の選手や、また英国生まれであっても祖先をパキスタン等の国とする選手などの多国籍のチームを、英国が一つとなって応援し優勝したことは、多様性を認める寛容な英国の素晴らしい一面を映し出しているようで嬉しくも思いました。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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