ニュースレター(2019年3月1日)米中貿易協議への楽天的観測や予想を上回る米第4四半期GDPで金は5週間ぶりの低さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1309.36ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.7%下げています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり15.56ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から2.5%下げています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上で868.66ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.6%上げています。
今週は、米中貿易協議が継続する中で関税引き上げが延期されたこと、米国政府一部閉鎖で発表が遅れていた昨年第4四半期のGDPが予想を上回るものであったことからも、リスクオン基調で株価が上げる中で金は5週間ぶりの低さへ大きく下げることとなりました。
月曜日金相場は、トランプ大統領が対中関税引き上げ延期したことで、人民元が対ドル7か月ぶりの高さへと上昇し、中国株が急騰する中で、トロイオンスあたり1330ドル前後の狭いレンジで推移し、ほぼすべての主要通貨建てでも狭いレンジで動いていました。
しかし、ドル建て金相場は先週10か月ぶりの高さの1326ドルからは1.3%下げていました。
これは、トランプ大統領の関税引き上げ延期も要因ですが、習近平主席が週末に金融システムの発展について述べたことで、政府からの支援観測も広まったことも要因となりました。
火曜日金相場は、パウエル議長の議会証言の内容を消化しながら、前日からは多少下げて、トロイオンスあたり1326ドル前後と狭いレンジで動いていました。
その後行われたパウエル議長の証言は、内容がこれまで以上にハト派もしくはタカ派にとられるものではなかったようで、影響は限定的となりました。
しかし、ポンド建て金相場はポンドが強含んだことから、ひと月ぶりの低さのトロイオンスあたり1000ポンドへと下げていました。同日ポンドを動かしたのは、メイ首相が議会演説で、3月12日までにEUとの合意内容が議会で承認されなかった場合、「合意なき離脱」か「短期間の離脱延期」を議会に問う方針を表明し、合意無き離脱を避ける新たな選択肢が与えられたことが要因となりました。
水曜日金相場は、世界株価が全般下げる中でトロイオンスあたり1319ドルと2月17日以来の低さへと下げていました。
株価が下げているのはインドとパキスタンの軍事対決を警戒していたことからですが、ドルインデックスも同日は96を割って下げていました。
また、ライトハイザー通商代表部代表が、中国による追加購入だけでは通商合意には不十分と述べたことが明らかとなり、米中交渉の先行きへの懸念も高まっていました。
なお、ベトナムで27日と28日金正恩委員長と会談をするトランプ大統領ですが、その元顧問弁護士のコーヘン氏が、連邦議会でクリントン元国務長官陣営のメール流出を大統領本人が把握していたと証言し、ロシアとの関係を裏付ける証拠となる可能性があるとされていました。
木曜日金相場は、トロイオンスあたり1327ドルへ上げた後、1313ドルへとほぼ2週間ぶりの低さへと急落して終えていました。
同日の午前中の上げは、中国の製造及び非製造業PMIデータが予想を下回っていたことで、株価が下げる中で上昇していたところで、トランプ大統領と金正恩委員長のベトナムの会談が合意に至らず予定より早く切り上げられたことがきっかけとなりました。
しかし、同日ロンドン昼過ぎに発表された、米国政府一部機関の閉鎖で遅れていた第4四半期GDPが予想の2.4%を上回る2.6%であったことから、ドルが強含み金は押し下げられることとなりました。また、同日のドル高はカシミールを巡るインドとパキスタン間の緊張も要因とされていました。
なお、前夜のパウエルFRB議長の下院での議会証言では「バランスシート縮小の年内停止」に向け動いていると踏み込んだものの、市場への影響は限定的でした。
本日金曜日の金相場は、ドルが強含み、世界株価が全般上昇する中で今週の下げ基調を受け継ぎ、ロンドン午後5時の段階でトロイオンスあたり1300ドルを割り、5週間ぶりの低さへ下げています。
これは、本日発表された中国製造業PMIが前回と予想を上回り、49.9と経済縮小を示しているものの、その縮小幅が最小となったことからでした。また米個人所得が12月に前月比1%増加していたこと、また個人支出PCEも1.9%とほぼ政府目標の水準であることで、米長期金利が上昇したことからでした。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は昨日も4.1トン減少し、2月は20日に2.1トン増加した以外は減少を続けて784トンまで下げていたこと。 -
ロイター通信が、ベネズエラが先週8トンの金準備を移送したことを独占スクープとして伝えていたこと。これは先週水曜日から金曜日に行われ、ベネズエラ中央銀行総裁が海外出張中に行われたとのこと。この記事は昨年1年間で23トンの金がベネズエラからイスタンブールへ運ばれたとも伝えて、ベネズエラ中央銀行では140トンの金準備が保管されていることになるとのこと。 -
月曜日トランプ大統領が「原油価格が高すぎる」とツィートしたことで、原油価格が下げていたこと。 -
プラチナ相場は、3か月ぶりの高さのトロイオンスあたり860ドルを超えて推移していること。これは、主産地南アフリカ共和国での鉱山ストライキで、需給が引き締まるとの見方、また米中貿易協議継続で中国での自動車や産業用需要需要の高まり観測の広まりから。 -
それに対し、同貴金属グループのパラジウムは、水曜日LBMA価格でトロイオンスあたり1558ドルと史上最高値を付け、8月半ばから80%を超えて上昇していること。これは、ガソリン車の排ガスの触媒としての需要の高まりによる需給のひっ迫が要因。 -
月曜日に世界最大の鉱山会社のカナダのバリック・ゴールドが世界第2位の米国のニューモント・マイニングを180億ドル相当規模の買収を行うことを発表したこと。バリック社は既に先月61億ドルでランドゴールド・リソーシズを買収しており、ニューモント社は世界第4位のゴールドコープを100億ドルで買収する計画。 -
月曜日上海総合指数は、1日当たりの上げ幅としては2015年7月以来の高さの5.6%上昇し、強気市場入りをしていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は米雇用統計が金曜日に発表され、今後のFRBによる利上げや金融政策を予想する上でもこの数値に市場は注目することとなります。
また、水曜日にはその先行指標のADP全国雇用者数、そして米国貿易収支や米地区連銀経済報告、そして木曜日のECBの政策金利発表があり、これらも重要となります。
その他の指標としては、火曜日の中国、ユーロ圏、英国、米国のサービス部門PMIと米国ISM非製造業景況指数と米新築住宅販売件数、金曜日の中国の貿易収支等となります。
ブリオンボールトニュース
月曜日に世界株価が、トランプ大統領が中国製品への関税引き上げ延期を発表したことで上昇したために、金が下げたことを解説する米著名経済サイトのMarketWatchの記事で弊社のリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
ここでエィドリアンは「FRBが2019年に利上げ行うことを市場は信じていましたが、直近の金利予想は来年のこの時期まで利上げはないとしています。そのため、今週のパウエルFRB議長の証言で予想以上のタカ派的コメントが出れば、金は下げることとなるでしょう」とコメントしています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年2月25日~3月1日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年3月4日~8日)来週の予定をまとめています。
ロンドン便り
今週は英国は、3月半ばまでにEUとの離脱協定が成立しなければ、「離脱延期」を議会採決するとしたことで、3月29日に迫る「ハードブレグジット」と呼ばれる合意のない離脱の可能性が薄まったことで、ポンドが強含むなど安ど感が広がっています。
そのような中で、閣僚の一人のクリス・グレイリング運輸相の数々の失態がニュースとなっていますので、お伝えしましょう。
グレイリング氏はメイ首相の最大のサポーターとも見られていますが、このところミスが続いていることから、本日はトップニュースで伝えられていました。
まず、本日伝えられていたニュースは、英国政府は3300万ポンド(約48億円)をユーロトンネル社の訴訟の和解金として支払うことが合意されたとのこと。
これは、運輸省が3月末に合意のない離脱が起きたことに備え、昨年12月に欧州大陸とのトラック運送のための追加のフェリーを確保する契約をしたものの、この契約が秘密裏に行われたとユーロトンネル社が訴えていたとのこと。
また、この契約が行われた一つの会社はSeaborne Freightという会社でしたが、アイルランドの企業の資本が得られなかったとのことで、契約が取り消されたことが既に先月伝えられていましたが、BBCがグレイリング氏の失態としてスクープしていたのは、このSeaborne Freight社が12月末に英国政府と1380万ポンド(約20億円)の契約を交わした際に一隻もフェリーを保有していなかったことからでした。
そして、本日の先のニュースと共に、グレイリング氏が司法長官をしていた際に民営化した刑務所や保護観察サービスによる費用が少なくとも1億7100万ポンド(約252億円)へと増加していることが英国監査局によって指摘されたとも伝えられています。
メイ首相はEU離脱協定案の最終修正のために欧州や国内を飛び回っていることからも、グレイリング氏の失態への対応をする暇もない様子とも皮肉られており、EUからの英国の離脱を今月末に控えて、英国政府内の混乱状態が露呈することとなりました。