ニュースレター(2019年2月8日)貿易協議と米政府機関一部閉鎖への懸念の高まりと主要諸国の経済成長率の下方修正で金は下げ幅を取り戻す
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1314.34ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.3% 下げています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり15.77ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.3%上げています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上で799.74ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から3%下げています。
今週は米中貿易協議への楽観的観測からリスクオンとなっていた市場が、木曜日に米中首脳会談が貿易協議の期限である3月1日までに行われないことが伝えられ、また欧州主要国の経済成長率も下方修正されたこともあり、世界株価が下げる中で金は上昇基調に転じていました。それでは、今週の動きを一日毎に追ってみましょう。
月曜日金相場は、金消費世界一位の中国が春節の休暇で一週間休場となる中、先週の8か月ぶりの高さからトロイオンスあたり15ドルほど一時下げた後に1312ドルで終えていました。
これは、先週金曜日の米雇用統計が良好であったことから、2週間下げていたドルインデックスが上昇していることが要因でした。
トランプ政権は先月、民主主義的な手続きをへていないとしてマドゥロ氏を正式な大統領として承認せず、野党指導者のグアイド氏を支援する方針を打ち出していましたが、英国、スペイン、フランス、ドイツも同日支援を表明していました。そして、トランプ大統領は前日日曜日に米主要メディアのインタビューで、ベネズエラへの軍事行動は「選択肢だ」と答え、ロシアは「破壊的な介入だ」と警告していました。
火曜日金相場は、同日夕方のトランプ大統領による一般教書演説を待つ中、ドルインデックスが上昇し、トロイオンスあたり1314ドルを挟む狭いレンジで動いていました。
この間世界株価は全般上昇しており、ロンドンのFTSE100種総合株価指数は6日連続で上昇するなど、リスクオン基調が強まりつつありました。
なお、トランプ大統領の一般教書演説は今月ベトナムで開催されることととなった北朝鮮と米国の首脳会談以外に新たなニュースはなく、市場への影響は限定的でした。
水曜日金相場は、ドルインデックスが2週間ぶりの高さを維持する中で、ニューヨーク時間に利益確定が進んだ模様で下げ、トロイオンスあたり1306ドルと一週間半ぶりの低さで終えていました。
なお、同日夜のパウエル議長の講演では、米経済について簡潔ながら肯定的な発言をしたものの、経済や金融政策への具体的な言及はなかったとのことで、市場への影響はありませんでした。
木曜日金相場は、世界株価が全般下げる中で、前日の下げ幅を削りながら、トロイオンスあたり1310ドルで終えていました。
世界株価の下げは、3月1日までに首脳会談が行われないことが伝えられ、米中の貿易協議の行方に懸念が広がっていること。そして、米国政府機関一部閉鎖もメキシコとの国境の壁の予算を巡り、トランプ大統領と議会が合意に至る兆しが見られないことも要因と伝えられていました。
同日注目のイングランド銀行の政策金利発表では、予想通り政策金利は0.75%、資産購入プログラムも4350億ポンドへと全会一致で据え置かれましたが、今後のGDP予想をEU離脱をめぐる不透明感が企業の投資抑制につながると予想して、2019年は前回の1.7%から1.2%へと大きく下げたこともあり、ポンドが下げ、ポンド建て金相場が今週の高値のトロイオンスあたり1016ポンドへと一時上昇していました。
また、ユーロ圏においては今週発表のドイツの鉱工業生産等の経済指標が悪化していたことからDAX株式指数が大幅続落しており、欧州委員会が同日ユーロ圏の2019年の実質経済成長率を前回から大幅に下方修正したことで市場のセンチメントを悪化し、ユーロが下げてユーロ建て金価格は一時2017年4月末以来の高水準の1157ユーロまで上昇していました。
さらに、フランスがイタリアに駐在する大使を召還したことが伝えられ、懸念を高めていました。これは、イタリアのディマイオ副首相がフランスの「黄色ベスト」運動の代表者と会談したことへの対向措置とのこと。
本日金曜日の金相場は、世界株価が全般下げる中、前日の水準を切り上げてトロイオンスあたり1314ドル前後を推移しています。
これは、前日再燃した米中貿易協議、米政府機関一部閉鎖への懸念と、欧州諸国の2019年の経済成長率が下方修正される中、本日はオーストリラリアの中央銀行も成長率を下げたことから豪州ドルが下げるなど懸念が広がっている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで14.1トン減少し803トンと先月半ばの水準まで下げていたこと。 -
イエレン前FRB議長が昨夜CNBCのインタビューで、「もし、世界経済の成長が継続して低迷すれば、次のFRBの動きが利下げである可能性がある。」と述べたこと。 -
原油が米国のベネズエラ制裁やロシアと米国間の緊張の高まりもあり月曜日に2か月ぶりの高さへと上昇していたこと。 -
アブダビの投資会社のNoor Capitalが先週金曜日に3トンのベネズエラの金準備を1月21日に購入したことを認め、米国の経済制裁からも、今後はその計画が無いとも追加説明したとのこと。 -
BBCが欧米の外交筋からの情報として、トルコが金準備をベネズエラから購入するべきではないと警告を受けたことも伝えていたこと。 -
そして、先週米国がロシアに1987年に締結されたINF離脱を通告したことに対し、先週末にロシアも土曜日にプーチン大統領が対抗措置として条約の履行停止を宣言し、ミサイル開発を進める方針とのこと。 -
金を裏付けとするETFは全体でその残高を先月70トン以上増加させ、昨年の総増加量とほぼ同水準となっていたとコメルツバンクが伝えていたこと。 -
年末に米政府機関一部が35日間と記録的な長さ閉鎖していたことから発表が遅れていたコメックスの金先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週金曜日から発表が始まり、金曜日と火曜日に遅れた分を取り戻すまで週2回発表されること。その数値によると、12月24日と31日は共に貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションが増加していたことが確認できたこと。 -
月曜日パウエル議長がトランプ大統領と前夜夕食を共にし経済に関して協議したとFRBが声明を発表し、この夕食会にはクラリダFRB副議長とムニューシン財務長官も同席したとのこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は政治的イベントとしては、来週水曜日の英国議会での離脱案の採決、また金曜日までに政府機関の再閉鎖を回避するためにメキシコ国境の壁建設の予算を含む法案を可決するための協議、そして昨日は3月1日までに米中貿易協議の首脳会議が行われないと伝えられていましたが、この関連ニュースも注目されることとなります。
その他主要経済指標では、月曜日の英国第4四半期GDP、鉱工業生産、火曜日の英国消費者物価指数、ユーロ圏鉱工業生産、米国消費者物価指数、水曜日の中国貿易収支、日本の第4四半期GDP、ドイツおよびユーロ圏の第4四半期GDP、米国卸売物価指数と小売売上高、金曜日の中国の生産者及び消費者物価指数、英国小売売上高、米国のニューヨーク連銀製造業景気指数、鉱工業生産、ミシガン大消費者信頼感指数となります。
ブリオンボールトニュース
今週は弊社が毎月まとめている個人投資家の金投資傾向を示す金投資家インデックスが発表され、主要メディアで取り上げられています。
日経Quickニュース「金は上昇、海運指数2年半ぶり低水準 リスクオン相場の中のリスクオフ」
この記事では、先月金投資家インデックスは価格が上昇する中で6か月ぶりに上昇していたこと、金価格と金投資家インデックスが共に上昇したのは2016年11月以来であること、また新規顧客数が政府機関一部閉鎖されていた米国と、「黄色ベスト運動」で反政権デモが続いていたフランスで急増していたことも紹介いただいています。
ゴールドニュース「 個人投資家は過去6か月で初めて金投資を増加させる」
金の情報を日本語で網羅するこのサイトでは、弊社の金投資家インデックスのプレスリリースを全文掲載していただいています。
お知らせ
弊社の日本における正規媒介代理店のブリオンジャパンが、12月から同社の事務手数料を1%へと値下げしています。
この事務手数料は、資金を同社の日本の送金用銀行口座から英国の弊社取引銀行の顧客口座へ送金する際の手数料として同社が設定していたものですが、今回の値下げにより、弊社サービスを日本からご利用になる手数料がより安くなりましたのでご検討ください。
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今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年2月4日~8日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年2月11日~15日)来週の予定をまとめています。 -
価格の上昇と共に金投資が進む
ロンドン便り
今週も欧州理事会議長のドナルド・トゥスク氏の「英国のEU離脱を安全に実現させる計画を描くこともせずに離脱支持を言いはやした人たちは、地獄に落ちても当然なのではないかと思う」というコメントがトップニュースで伝えられるなど、英国のEU離脱ニュースが相変わらず一面を飾っています。
しかし、本日は政治的な混乱を見せているベネズエラの金準備関連ニュースについて英国の金融街で購読されているCity AMが一面で伝えているのでこの一連のニュースを簡単にまとめてお伝えしましょう。
ベネズエラの経済は先月の物価上昇率が年率約268万%、前月比191%と、政情混乱からも急速に加速しています。
これは、独裁的な支配を続けるマドゥロ大統領に対し、現政権の正統性に疑問を投げ掛けて退陣圧力を強めるトランプ政権が1月に、米国とベネズエラの石油製品の輸出入を大幅に制限する経済制裁を発動したのに対し、マドゥロ政権は欧米諸国からの人道援助の物資受け入れを拒否しており、物不足が解消する気配はないこと等からです。
今週日本を含む英国等欧州各国は、米国が後ろ盾となる反体制派のグアイド国会議長を前提大統領を支持していますが、中国、ロシア、トルコ等はマドゥロ政権を支持しており、解決の見通しが立っていません。
そのような中、今年一月にはマドゥロ政権側がイングランド銀行に預けている金準備の12億ドル(約1300億円)相当の引き出しを求めていたものの、米国側による英国への働き掛けを踏まえ英中銀がこの要請に応じていないと伝えられていました。
そして、先の「その他のニュース」でも伝えていましたが、ベネズエラの金準備3トンがアブダビの投資会社のNoor Capitalへ売却された、また、噂では金20トンが国外へ持ち出されたとし、その輸送先はロシアとも伝えられていました。
本日は、英国の野党第一党の労働党のコービン首相の強力なサポーターである、元ロンドン市長のケン・リビングストン氏と労働党議員のクリス・ウィリアムソン氏がイングランド銀行で保管されているベネズエラの金準備の10億ポンド相当を返却すべきと訴えたことが、英有数の経済紙で伝えられていました。
なお、コービン党首は、マドゥロ大統領からベネズエラの偉大な友人と呼ばれるなど、これまでこの反米左翼政権をサポートしてきていますが、この件については、「(欧米の)内政干渉を非難する」とのみコメントしていますが、このスタンスは労働党内からも批判されているとのこと。
社会主義者としても知られているコービン党首は、過去にウゴ・チャベス元ベネズエラ大統領を称賛しており、その後継者であるマドゥロ大統領を長くサポートし、国際社会が選挙の正当性を否定し認めていないマドゥロ大統領が勝利した2017年の大統領選に関しても公式に非難することは避けています。
ベネズエラの金準備や政局にせよ、英国政府のスタンスとは異なる立場を取り続けるコービン党首率いる労働党のまとまりのなさは、必ずしもブレグジットを含む英国政局の助けになっておらず、今回もその状況を露見させてしまったようです。