ニュースレター(2018年6月1日)1294.31ドル:イタリア政局懸念で上昇したものの良好な米雇用統計で下落
週間市場ウォッチ
今週金曜日のロンドン時間3時の弊社チャート上のスポット価格はトロイオンスあたり1294.31ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格から0.7%下げています。
週明け月曜日は、米国と英国が祝日の中、トロイオンスあたり1300ドル前後の狭いレンジでの取引となっていました。
火曜日金相場は、イタリア政局への懸念からイタリア国債が急落し、ユーロが下げ、世界株価が下げ、安全資産への需要からもトロイオンスあたり1306ドルへと一時急上昇した後で多少押し戻されたものの、1302ドルで終えることとなりました。
イタリア政局は、新政権誕生間近と見られていたものの、大統領がポピュリズム政党の「5つ星運動」と極右政党の「同盟」がまとめたEU懐疑派の閣僚人事案を拒否し、前日元IMF交換のコッタレッリ氏を次期首相候補に指名し組閣を命じ、コッタレッリ氏が近く再選挙が実施されると明言したことから、懸念が一気に広がることとなりました。
そして、スペインでは与党が絡んだ汚職事件で野党が提出した不信任案が今週金曜日に採決される見通しであることから、早期の選挙となることの懸念も市場を動かしていました。
また、同日トランプ政権は中国の知的財産侵害に対する制裁関税の最終案を6月15日までに発表し「その後すぐに」発動すると明らかにしており、「関税を一時保留する」という方針から後退していた米中貿易摩擦の懸念が再燃することとなりました。
なお、先週木曜日にトランプ大統領によって取り消された米朝首脳会談は、その調整のために北朝鮮の金英哲党副委員長がニューヨークを近く訪れることが伝えられて、再び6月12日で調整のためと報じられていました。
水曜日金相場は、前日の南欧の政局懸念から急騰していたイタリア国債利回りも落ち着き、年初来の高値を付けていたドルインデックスも下げる中、トロイオンスあたり1303ドルで終えていました。
同日イタリア政局は、ポピュリズム政党の「5つ星運動」と極右政党の「同盟」が連立政権に向けて反EU色の強い経済財務相候補を差し替えたことが伝えられ、イタリアの暫定首相に指名された国際通貨基金(IMF)元高官のカルロ・コッタレッリ氏が連立政権が成立する可能性はあるとの見方を示したこと等からも、多少ながら落ち着きを取り戻し、前日急騰したイタリア国債10年物の利回りは24ベーシスポイント下げていました。
また、同日発表された今週金曜日発表の米雇用統計の先行指標と見られているADP全国雇用者数、米第1四半期GDP、米個人消費支出が全て予想を下回ったことも、ドルを弱含ませて金を押し上げることとなりました。
木曜日金相場は、トロイオンスあたり1306ドルまで一時上げた後、神経質な動きをしながら1300ドル前後を推移していました。
同日はロンドン時間昼過ぎにトランプ米政権がEUやカナダ、メキシコから輸入する鉄鋼とアルミニウムに追加関税を発動すると発表したことで、貿易摩擦への懸念で米長期金利が下げ、株価が下げ、金を押し上げたものの、イタリア政局への懸念からドルが強含んだことから金相場を押し下げていました。
また、翌日は米雇用統計を控えていることも、良い結果であればFRBによる利上げペース加速の観測を広げることとなり、金相場の頭が重い要因となっていた模様です。
本日金曜日は、前夜にイタリアのマッタレッラ大統領が、連立政権が推す大学教授のジュセッペ・コンテ氏を次期首相に任命し、同氏が提出した閣僚人事を承認したことが伝えられたことから、イタリア政局への懸念が後退したことで金相場はトロイオンスあたり1300ドルを割る下げで始まることとなりました。
また、その後スペインのラホイ首相の不信任決議案が可決されましたが、これに対する市場の反応は限定されてました。
その後、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は22.3万件と予想の18.8万件と前回の16.4万件を上回り、前回数値は15.9万件と下方修正されていました。また、失業率は3.8%と予想と前回の3.9%から18年ぶりの水準に改善していたことからも、この発表を受けて金相場はトロイオンスあたり1289ドルまで一時下げることとなりました。
なお、市場注目の平均時給は、前年比2.7%と予想と同レベルで前回の2.6%からは多少ながら改善していました。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週火曜日に一ヶ月ぶりに2.9トン増加したものの、昨日木曜日に4.4トン減少し847トンと今年3月末の水準までさげていたこと。 -
コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に18.51%減少し79トンと、2016年1月26日以来の低い水準へと下げていたこと。 -
コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日も4週連続でネットショートであったものの、そのネットショートポジションは、97%減少し67トンとなっていたこと。しかし、銀のセンチメントは4月25日にネットロングとなった以外は、今年2月13日から15週間ネットショート。
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プラチナの先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に7週間続けてネットショートとなっていたこと。またそのネットショートポジションは、31.40トンと現行のフォーマットでレポートが発表され始めた2006年6月以来最大の規模。 -
パラジウムの先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、引き続きネットロングで少ないながらも0.8%増加の27.41トンとなっていたこと。
ブリオンボールトニュース
今週は下記のメディアで弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュの分析が取り上げられました。
エィドリアンが現在の金相場と先行きについて解説しました。ここでエィドリアンは、夏前であること、中国とインドの金消費が伸びていないことから、より大きな市場を揺るがすイベントがないとレンジからは動かないとコメントしています。
それは、金ETFやコメックスの残高やネットポジションでも市場が弱気であることが見られているとし、今週のイタリア政局懸念からの金上昇時も弊社ではドイツの顧客は利益確定をしていたと述べ、より大きな金融市場を揺るがすショックが無い限りは金を押し上げないと述べています。
そして、イタリア政局はEU離脱が絡む金融市場を揺るがすショックになりうるものの、ドル高を引き起こすことから、金融危機が引き起こった初期のように金の頭は抑えられるだろうとしたものの、金相場の先行きは米経済データが伸び悩んでいることからも、FEDが利上げペースを上げることは難しいとし、年末までに1400ドルから1450を見ているアナリストも多いと締めくくっています。
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英国主要経済誌Corporate Adviserのオンラインサイト
ここでエィドリアンは、なぜ「確定拠出年金」が金を分散投資先として利用していないのかと問いかけ、その有効性について解説しています。
まず、実質金利が下げている際に金が上昇していることを英株価と比較して示し、過去40年の記録では金を英国株と英国債を60:40で保有しているポートフォリオに加えることで、その下げ幅を減少させ、上げ幅を増加させることができたことをデータで示し、金への投資も金鉱株やETFではなく現物を買うことで、金融システムの影響を受けないこと、そして収益においても効果が高まっていたというリサーチ結果を説明しています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2018年5月28日~6月1日) -
個人投資家の金投資傾向は価格上昇で下げ、弱気市場の低さへ(金投資家インデックス4月の数値について)
ロンドン便り
今週英国では昨年6月14日にロンドン西部に建つ高層住宅棟「グレンフィルタワー」が火災で全焼し71名が死亡した事件の公開調査が21日から行われていたために、このニュースが主要メディアで取り上げられていました。
今回の公開調査の最初の2週間(5月21日~6月1日)は、犠牲者の家族や友人による証言となっています。そのため、日々犠牲者の家族の方々の心が痛む証言の模様が放送されていました。
今後の予定としては、6月14日は様々な追悼のイベントがあるためにいったん休止し、6月21日から6週間にわたる消防の責任者の証言、9月には生存者の証言などが行われて、最初のフェーズとしてこの事件を11月の初めまで数か月かけて検証していくことになるとのことです。そして、第二のフェーズでは今後の計画などが話し合われるとのことで、この公開調査は2020年までの日程となるであろうと考えられているとのこと。
それは、既にこの公開調査のために33万冊以上の書類を受領していること、519人と28団体の計547の関係者を多くの弁護士が代理として関わっていることからとのことです。
グレンフィルタワー同様の304の高層住宅のうち多くは、いまだ火災が速いスピードで広がった原因と思われる外装が使われており、政府の防耐火試験を通っていないとのこと。そして、そのうちの158棟はかなり大きな欠陥があるものの、その改善が行われたの7棟のみで、104棟は改善がやっと最近始められたとのことです。
昨年6月14日早朝にニュースで伝えられていた火に包まれた高層住宅の悲惨な映像は多くの人々の記憶から消えることはないでしょう。そのため、その検証や改善計画が遅々として進まない事に不満を抱えている住民の方々の気持ちも痛いほど分かります。また、あまりにも欠陥住宅の規模が大きいために、速やかな動きが取れなくなっている行政側の事情も。
グレンフィルタワーの惨事は、他の欠陥を気が付かせるためのウェイカップ・コール(Wake up call)と言ってしまうにはあまりにも大きすぎましたが、この惨事を2度と繰り返さないように公開調査がしっかりと進められ、最善の方法で現存する高層住宅の防耐火の工事が一日も早く完了することを願っています。