ニュースレター(2018年10月26日)NYダウとS&P500種平均が年初からの上げ幅を失う中で金は3ヶ月ぶりの高さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1234.45ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.5%上げ、週の終値ベースでは7月16日以来の高さとなっています。また銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.68ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.5%上昇しています。
今週もサウジ記者殺害やイタリア予算を巡る懸念が残る中で、NYダウとS&P500種平均が年初からの上げ幅を失い市場のセンチメントが変化する中、金相場は3ヶ月ぶりの高さへと上昇することとなりました。
月曜日金相場はロンドン時間にトロイオンスあたり1229ドルへと一時上げたものの、1222ドルへと下げて終えていました。
これは、中国の金融当局トップが一斉に国内株式市場への支援を表明したことから、中国株式市場が2015年以来の一日の上げ幅を記録し、リスクオン基調となったことから、また先週の上げからも利益確定の売りが出ていたことからでした。
また、トルコのサウジ領事館で死亡したとされるサウジ記者については、サウジ外相が「殺人」と認めたものの「ムハマンド皇太子の関与はない」と述べたことが伝えられたのに対し、トランプ大統領がインタビューで真相を求めると述べていたことからも、サウジ側の説明の矛盾が明らかになる可能性への懸念も広がっていました。
そして、先週も欧州市場を揺るがしたイタリア情勢では、先週金曜日にムーディーズが同国の予算案への懸念からイタリア国債を格下げしたものの、見通しを安定的とジャンク債となることは免れたことから、同日はイタリア国債は多少落ち着きを取り戻し、ドイツ国債利回りとの差は金曜日の5年ぶりの幅から多少戻したものの、300bpを超えていました。
火曜日金相場は世界株式が下げる中、7月半ば以来の高値のトロイオンスあたり1239ドルへ一時上昇していました。
同日の世界同時株安では前日3年ぶりの一日の上げ幅を付けた中国株が景気の先行き懸念からCSI300指数が2.6%を超えて下げる等全般下げ、日経平均も2.03%下げていました。
そして、ロンドン昼過ぎに欧州委員会がイタリア予算の差し戻しをしたことが伝えられ、サウジ情勢もトルコ大統領が「計画的犯行」と議会で述べて緊迫する中、同日発表されたリッチモンド連銀製造業指数が予想を大きく下回ったことからも、欧米株価も下げることとなりました。
なお、イタリア政府は11月13日までに修正予算案を提出する義務があり、EUとイタリアの対立への懸念が広がる中、イタリアとドイツの国債利回りの差は本日再び300ベーシスポイントを超えていました。
水曜日金相場は、ドルインデックスが今年最高値を付ける中、ロンドン時間中は前日の7月半ば以来の高さから下げていましたが、トロイオンスあたり1235ドルまで上昇して終えていました。
ドルインデックスの上昇は、同日発表のユーロ圏のPMIが予想を下回ったことでユーロが弱含んだことからでした。しかし、同日アジア株は前日の下げから反発していたものの、米国株式は米半導体企業のテキサスインスツルメンツの第4半期の見通しが予想を下回ったことで大幅安となったことが引き金となり、NYダウとS&P500種平均が年初来の上げ幅を失って前年比マイナスとなったことが金相場を押上げ支えることとなりました。
なお、サウジ情勢はトランプ大統領が「(サウジ記者殺害は)史上最悪の隠ぺい工作」と述べる等先行き不透明感が残っていたことも金相場のプラスとなっていた模様です。
木曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1239ドルまで上げたものの、その後1231ドルまで戻していました。
上昇の要因は前日の米国株の大幅な下げ基調を受け継ぎ、同日日経平均も800円超の下げとなるなどリスクオフ基調となっていたことからでした。
しかし、その後米国が反発して始まり、マイクロソフトやツィッター等のテクノロジ―株が上昇していること等から、欧州株がプラスで終え、ドルインデックスも96を超えて今年最高値を付けたことから、金は押し下げられていました。
このドルインデックスの上昇は同日のECBの政策金利発表で、金利と政策の据え置きが発表されたことで、ユーロが弱含んだことが要因となりました。
そのために、ユーロ建て金相場は昨年6月末以来の高さへと上昇していました。
本日金曜日金相場は、市場注目の米第3四半期のGDPが発表されるまでに緩やかに下げてトロイオンスあたり1232ドルを一時付けていましたが、その後この数値は前年比3.5%と予想の3.3%を上回っていたものの、緩やかに上昇を始め、ロンドン時間午後に7月半ば以来の高値の1243ドルまで上昇し、午後4時半に1240ドル前後を推移しています。
これは、ドルインデックスが前日の年初来の最高値から緩やかに下げ、前日市場終了後に発表されたアマゾンとアルファベットの決算の内容が落胆するものであったことから、これらの株が大幅に下げてハイテク株を中心とした全体の売りに波及していることからのようです。
なお、本日のイタリアとドイツの国債利回りの差は316ベーシスポイントまで一時広がっていました。
その他の市場のニュ―ス
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金のETF最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は今週木曜日までで3.9トン増の749トンと8月末以来の水準へと増加していたこと。 -
水曜日トランプ大統領はパウエルFRB議長への批判をエスカレートし、パウエル議長は「利上げを楽しんでいるようだ」と指摘し、議長指名を「多分」後悔していると述べたことが伝えられていたこと。 -
先週発表された金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、世界同時株安後の先週火曜日に、14週連続でネットショートであったものの、そのポジションは63%減の116トンと今年7月24日以来の低さとなっていたこと。 -
コメックスの銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも先週火曜日に14週続けてネットショートで、そのポジションは17%減の5156トンとなっていたこと。史上最大のネットショートから4週連続の減少。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションも先週火曜日に25週連続でネットショートであったものの、56%減の4トンと、4月25日以来の低さへと減少していたこと。 -
先週土曜日にブレグジット案に対する是非を問う国民投票を求める60万人を超えるデモがロンドンで行われたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は重要イベント及び指標が軒並み発表されます。その中でも重要なのは、金曜日の米国の雇用統計ですが、その先行指標と見られている水曜日の全国雇用者数も重要となります。また、日銀の金融政策発表が水曜日、イングランド銀行の金融政策発表が木曜日に行われます。
その他にも月曜日の米国個人消費支出及び個人所得、火曜日のユーロ圏第3四半期GDP、消費者信頼感、米国ケース・シラー米住宅価格指数、水曜日の中国のPMI、ユーロ圏の失業率、消費者物価指数、木曜日の中国の製造用購買部担当者景気指数、英国PMI、米国PMIとISM製造業景況指数、金曜日のユーロ圏PMIと米国貿易収支となります。
ブリオンボールトニュース
英国の投資関連情報サイトのInternational Adviserの「ボラティリティーが戻り、金の優位性が測られる」という記事で、弊社のリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントと弊社データが取り上げられています。
この記事で、ブリオンボールトにおける金への需要が、過去52週間の6倍へと急増していることを紹介し、エィドリアンの「このような状況は、トランプ大統領が選出されて以来だ。そして、金購入は他の資産が良好でない際に魅力を増す。」というコメントを取り上げ、弊社リサーチが作成した金価格と米株価の比較チャートを掲載した上で、エイドリアンの「弊社顧客の需要は、金価格よりも米国株価に影響をされている」というコメントも紹介しています。
そして、先の状況はあるものの「短期間を見るのではなく、長期において他の資産の損失をカバーしてきた金の(保険的)役割に注目すべきだ。」と続け、過去50年間の5年の期間では、英国株価が下げた際に96%金価格は上昇していることに言及し、金をポートフォリオに加えるメリットについて説明し、検討すべきとしています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週も英国のEUからのブレグジット関連のニュースとヘンリー王子とメーガン妃のオセアニア訪問のニュースが日々取り上げられていますが、本日は英国企業の掃除機で有名なダイソンが、シンガポールに電気自動車の生産拠点を建設することが報じられたことが、ブレグジットにも絡んだ議論となっていましたので、そのニュースをお伝えしましょう。
まず、ダイソンという企業について簡単にお伝えします。
この会社は英国に本拠を構える電気機器メーカーで、紙パックを使わないサイクロン式掃除機を初めて開発・製造した会社として知られています。その後、ハンドドライヤーや扇風機なども新たなコンセプトで発表するなど、そのデザインの美しさや斬新なコンセプトで知られています。
そして、この創業者のジェームズ・ダイソン氏は英国のEU離脱を望むブレグジッターとしても著名なのです。彼は2016年の英国のEUからの離脱の是非を問う国民投票時にも「本当に成長し、躍動感のある市場は欧州の外にある」と離脱支持を訴える等、常にメディアでも離脱することの利点を説いてきていました。
そのために、今回ダイソン社がシンガポールに電気自動車の生産拠点を置くことに対し、残留派として知られているブレア政権などで労働党の報道担当補佐官を務めていたアリスター・キャンベル氏が「ダイソン氏は英国を信じていないからだ。」と彼を偽善者と呼び批判したことや、英経済誌のエコノミストのコラムニストも「ダイソン氏は英国の一般の人々の今後の職や生活をゲームの駒のように利用して自分はシンガポールへと出ていくのだ」と述べたことから物議をかもし出していたのでした。
これに対し英国の経済紙City AMのコラムニストは、ダイソン社はその研究開発部門は英国に残し、生産部門をアジアへ移すことからも、グローバリズムを信じる人で、世界の中の英国を信じる彼のこれまでの言動と全くぶれは無いと反論しています。
このことからもお分かりになるように、知識層の中でも英国のEU離脱を巡る議論は感情的になってしまい、英国としてどのような国を目指すのか等の根幹の議論が行われない場合も多く、英国を分断していることは否定できません。
今後残留派と離脱派が冷静に議論を行うことが可能となるのかは分かりませんが、英国のEU離脱は来年3月29日と迫っており、まずはEUとの合意の無いハードブレグジットを避けるべく、メイ政権にしっかりと国内国外の交渉のかじ取りをしてもらいたいものです。