ニュースレター(2014年9月5日)1266ドル ECB金融緩和のドル高による金価格の下げは、米雇用統計の悪化では押し戻されず
週間市場ウォッチ
先週金曜日のPM Fix金価格は、トロイオンスあたり1266ドルと、前週同価格から1.5%下げています。
週明け月曜日は、米国がレイバーデー(労働者の日)で祝日の中、狭いレンジでの取引となりました。
翌火曜日は、ドル高が進む中、金価格はトロイオンスあたり23ドルほど大きく下げ、今年6月以来の低い水準となりました。
ドル高が進んだ背景は、ユーロ圏の主要経済指標がデフレを示唆する中、今週の欧州中銀金融政策会合で何らかの緩和策が発表されるという観測が広がり、対するFRBは来月量的緩和を終了する予定であることから、今週の雇用統計で良好な数字が出た場合、近い将来の金利引き上げを行うのではないかとの観測が広がりつつあったため、それぞれの中銀が相対している経済状況とそれによる政策の違いなどからでした。
なお、テクニカル的には、低値のサポートなっていた1275ドルを割った後、米国ISM製造業景況指数が予想を上回ったことからも、さらなる下げが進むことになりました。
水曜日は、ロンドン時間午前中にロシアとウクライナの停戦が伝えられたことから、ユーロ株が上げ金価格は下げたものの、その後、その停戦内容が「停戦方法に合意」、そして「停戦合意はなかった」と訂正されたことから、ユーロ株が上げ幅を削り、ロンドン時間午後には金価格は戻すことになりました。この価格の動きも、翌日のECB金融政策委員会、金曜日の米雇用統計を控えていることからも、狭いレンジ内となりました。
木曜日は、市場注目のECB金融政策委員会が行われ、ユーロ圏の市場介入金利を史上最低の0.15%から0.05%へと更に引き下げることを決定し、その後行われたドラギECB総裁の記者会見では、資産担保証券(ABS)とカバードボンド(債権担保付き社債)を10月から買い入れを開始することが明らかとなりました。
また、翌日に控える米雇用統計の先行指標とされている、ADP全国雇用者数は、20.4万人と予想の22万人と前回21.8万人を下回り、前回数値も21.2万人と多少下方修正されました。
先のニュースを受けて、ユーロが下げ、ドルが上昇する中、ユーロ建て金価格はECBの発表後1.5%近く上げ、ドル建て金価格がニューヨーク時間にトロイオンスあたり10ドルほど下げる中、多少上げ幅を削ることとなりました。
本日金曜日は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数(NFP)は、14.2万人と前回20.9万人と予想22.5万人を大きく下回りました。そして、前回数値は21.2万人と3千人上方修正され、米国8月失業率は、予想通り6.1%と前回から0.1%下げ、 労働参加率は、前回62.9%から0.1%下げ62.8%と、過去26年間で最も低い水準になりました。
このニュースを受けて、金価格はトロイオンスあたり一時1272ドルへと上昇したものの、その後は緩やかに戻すこととなりました。
そして、ロンドン時間16時頃に、ウクライナとロシアの停戦合意が発表されましたが、これは価格に現段階では影響を与えていません。
他の市場のニュース
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先週末発表のコメックス金先物・オプションの投機筋の未決済の建玉が、2009年9月以来の過去5年間で最も低い水準へ下げたこと。 -
今週金ETF最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が9.28トン減の785.72トンとなったこと。これは、昨年冬にも達した、過去5年間で最も低い水準とのこと。
ブリオンボールトニュース
今週発表された、ブリオンボールトの金投資家インデックスの8月数値について、ブルーンバーグが取り上げています。このニュースは、日本語で金市場の情報を提供しているゴールドニュースサイトでも取り上げられています。
この記事では、8月に地政学リスクは高まる中、個人投資家のネットでの購入者数は売却数を上回ったものの、その水準は過去最も低かった2010年2月の48.8の次に低い今年6月の51.2に近い、51.7となったことが伝えられています。
今週のブリオンボールト市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュの「金投資傾向はポジティブであるものの低水準となる」
今週の主要経済指標の結果は、下記のリンクでご覧いただけます。
ロンドン便り
長い間お休みをしていましたロンドン便りですが、今週からまたお届けします。
お休みをさせていただいた間に大きく取り上げられていたのは、米国人記者が、イギリス訛りとみられるイスラム教スンニ派過激派組織の「イスラム国」によって殺害されたニュースです。
今年に入り、英国生まれのイスラム教徒がイラクやシリアへ聖戦に参加するために出国していることが主要メディアで伝えられていました。そして、このイスラム教徒が英国に戻ることによる、テロへの懸念も高まっていました。
そして先週、英国の国際テロに対する警戒水準を、英国政府は5段階の上から2番めの「シビア(深刻)」に引き上げ、議会では、中東の聖戦に参加したイスラム教徒のパスポートを没収、英国への再入国禁止、市民権の剥奪などが議論されています。
そして今週、米国人記者ジェームズ・フォーリー氏に続き、昨年から「イスラム国」に身柄を拘束されていたスティーブン・ソトロフ氏もまた英国人と見られる人物に殺害され、同時に今回は身柄を拘束されている英国人の殺害が予告されています。
そのような中、英国のイスラム教宗教権威の人々が、「イスラム国」によるこのような行為を避難する声明を発表しています。
2005年7月7日のイギリスにおけるロンドン同時爆破テロ以来、英国政府は、国内イスラム教穏健派と協力して、イスラム教過激派が若者をテロや聖戦へ駆り立てることを防ぐ方法を模索していますが、効果は未だでていないようです。移民を多く受け入れ、それぞれの文化を保つことを容認してきた英国政府にとって、英国で生まれ育った移民2世や3世が、テロの危機を高めている現在の状況は頭の痛いものです。
英国経済は今年に入り回復の兆しを見せていますが、英国内の貧富の差は拡大しています。そして、いわゆる「負け組」となってしまっている移民2世や3世は、イスラム教過激派に生きる拠り所を見つけているところもあるとのことです。
今後、英国社会にある構造的歪を正すという根本に取り組むことで、テロの脅威を軽減していくことができるのでしょうが、それはきっと通らざるを得ない道でありながらも、長い道のりであるのでしょう。